〈18〉その星型水晶の中に

 ナデシコは、さらさらと語りはじめた。

 原種・星型水晶・勇者の力――という、三つの単語についての説明を。


「原種については……もう、語るまでもないよね?」

「ああ……」


 実際に戦って、その厄介さは理解できたからな。ただの分身ではあったものの……物差しとしては充分だった。

 ボクが聞きたいのは、残りの二つ。

 星型水晶ってやつと、勇者の力の意味だ。


「星型水晶って、いうのはね? キング・マウスが、私の勇者の力の大半を奪っていったときに、出現した、星型の水晶のことよ。大きさは、このくらい」


 ナデシコは、そう説明をしながら、手で大きさを分かってもらおうとジェスチャーをした。

 そのジェスチャーをみる感じ、大きさ的には、前の世界でいうところのバスケットボールぐらいだろうか?

 何にせよ、バスケットボールくらいの大きさの星型の水晶があって、それは、ナデシコの勇者の力を奪ったときに出現したと…………ふむ。


「つまり、その星型水晶の中に、お前の勇者の力が封印されてるってことか?」

「うん、恐らくは……多分、そうだと思う……」

「それを壊せば、お前に勇者の力が戻ってくるってことで良いのか?」

「それは、間違いなく、そうだと思う……けどね? しーちゃん、この話で、重要なのはそこじゃないの」

「ん? そこじゃない?」


 どういうことだ?


「あのね…………キング・マウスは、私の勇者の力を奪って、星型水晶に封印した際に、こう言ったの…………『チュチュチュ、これで、この世界の勇者の力は我のものだ』って……」


 少しキング・マウスのモノマネを交えつつ、ナデシコは説明を続けてくれた。

 そのモノマネが少し似ていて、クスッとなってしまったが、重要なのはそこではない……。


「我のもの? キング・マウスがそう言ったのか?」

「うん……確かに、間違いなく、そう言った」

「……その言葉を、ストレートに受け取ると……その言葉の意味って……」

「うん……恐らく、キング・マウスは――――私から奪った、勇者の力を扱えるんだと思う」

「なるほど……」


 確かにそれは厄介だ。

 ナデシコが持っていた勇者の力――その全貌はまだ分からない。

 だが、ただの分身にさえ、ボクは苦戦を強いられた。

 あの身体能力は脅威だ。

 それだけでなく、奴にはまだ、自らの異能――【分身操作インフィニティマウス】というメインウエポンを残しており。

 さらにその上で、勇者の力を切り札として持っている……ということか……。


「……厄介だな……」

「でしょ?」

「ああ……で? 勇者の力っていうのは、どんな能力なんだ? 元々、お前の能力だった訳だから、その辺は詳しいんだろ? 教えてくれ」

「うん、詳しいよ。えっへん」

「胸張るなよ、奪われたくせに」

「うっ!」


 グサッと、どこからか音が聞こえた。

 幻聴かもしれないが。


「うぅ……そんなこと言わなくていいじゃん……私だって、奪われたくて奪われたわけじゃないのにぃ……うぅ……」


 あ、へこんだ。

 ナデシコが、がくんっと俯き涙を流しながらへこんだ。


「仕方ないじゃん……ちょっと昼間に稽古サボってお昼寝しすぎて、夜眠れなくて、暇つぶしに浴場でシャワーしてたら、獣人が沢山現れちゃってさ……こっちはすっぽんぽんなのに、ズケズケ侵略してきて……恥ずかしいから、対応も後手後手になっちゃうよ……獣人って存在がいきなり襲いかかってきただけでも、こっちはパニック状態だったのに……何もシャワー中のタイミングで襲ってこなくてもいいじゃないのさ……グチグチグチグチ……」


 めっちゃグチグチ愚痴ってる……。

 え? こわ……。つーか……。


「しゃ、シャワー中に獣人侵攻が始まったのか……」

「うん……しかも、奴らが入ってきたときは、髪洗ってる最中だったから、シャンプーが目に入って痛かった」

「うわぁ……それはもう、最悪のタイミングだったな……」


 気の毒に……。


「だから……捉えられたときの私は全裸だった訳で……お母様やお姉様、お城の人達に『え? 何でナデシコは全裸なの?』って、疑問の目を向けられた……私の気持ち、分かってくれる?」

「お、おぉ……」

「獣人どもに、私が唯一懇願したのが……『お願い、服を着させて』だった事実は……多分、一生忘れることができないでしょうね……」

「………………」


 な、何とも言えない……!

 何のフォローの声も出てこない。

 国を落とされた、という真面目で悲嘆なエピソードが、急にコメディチックになってしまった感が否めない……。

 国を落とされた理由が、『勇者がそのとき、たまたまシャワーを浴びていて全裸だったから』なんて嫌すぎる。

 ど、どうする? こんな不憫な彼女を前に、ボクは一体何をすればいい!? 何を言ってあげれば……! はっ! 違う、ここでボクがすべきことは、慰め言葉をかけることではない!


 話を逸らすことだ。


「え、えーっと……ナデシコさん? もう、君の後悔はよーく分かったから……その……君が持っていたという、もの凄い勇者の力ってやつのこと、教えてくれるか……?」

「よくぞ聞いてくれましたっ!」

「うぉっ!!」


 きゅ、急に元気になったぞ!?

 さっきまで沈んでいたナデシコの目が突然見開かれ、キラキラと輝きはじめた。

 テンションの上がり下がりが急だから恐すぎる。


 まぁ……なにはともあれ、元気になってくれたから良かった……の、かもしれない。


「さぁ! それではお話させていただきましょう! 私が持っていた、すごーい勇者の力を!」


 その凄い力を持ってして、なぜ能力を奪われたのかなー? などと、からかってやりたい気持ちになったが、さすがにそれは控えた。

 さっきみたいに落ち込まれたら面倒だし、話が進まない。


 ナデシコはノリノリで話しはじめた。

 自らの能力――――勇者の力について。


「ちなみに、しーちゃん。私の勇者の力のこと、イコール、私がいきなり城を攻め込もうって言った理由でもあるから、それを理解した上で、話を聞いてちょうだいね!」

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