〈17〉【能力変神《スキルメタモルフォーゼ》】

 キング・マウスのを撃破したところで、ネタばらしをしておこう。


 【原種】の一体……鼠の王、キング・マウスの異能は――【分身操作インフィニティマウス】という、分身能力だ。

 先ほどボクと戦った奴は、その分身の一体にしか過ぎないらしい。


 すなわち奴は、最初から本気を出せる状況ではなかった、ということだ。


 はなから、異能のほんの一部を発動させたもので、ボク達にちょっかいをかけてきただけなのだから。

 ナデシコいわく、分身して現れた身体で、再度分身することはできないとのこと。

 要するに、ボクと戦ったキング・マウスは、異能を発動することができなかったのだ。

 シンプルな肉弾戦で戦うことしかできなかった。

 となれば、ボクが負ける訳がない。

 あの素早さには脱帽したが、それが負けに直結するほどではなかった。


 そんな訳で、ひとまず危機は去った。

 木の上のナデシコを迎えに行こう。

 ボクは大ジャンプをし、木の上へと飛び乗る。おお、いたいた。

 そこには、口をあんぐりと開け、ぽかんとしているナデシコの姿があった。


「どうしたんだ? そんな面白い顔して」

「い……いや……さっきまでの戦いを見てたら、驚きすぎて、顎が外れちゃったの……」

「なんじゃそりゃ」

「ごめん……治してくれる?」

「ほいよ」

「痛っ! ……あ、治ってる」


 外れた顎を治し、彼女の顔が正常に戻る。


「とりあえず下降りるぞ、ここだと鳥の獣人に見つかる可能性があって、そうなるとめんどくさいから」

「うん」


 ナデシコを抱え、地面へと降りる。

 大地に両足をつけて、早々に彼女は声を落とした。


「しーちゃんって……本当に、凄く強いんだね……びっくりしたよ……」

「んだよ、信用してなかったのか」

「いや、疑ってた訳じゃないんだけど……想像以上というかなんというか……」

「良い誤算だっただろ?」

「う、うん……。てゆーか、一つ聞いていい?」

「なんだよ、お前も質問かよ」

「うん。えっとね? しーちゃんの能力って、一体どんな能力なの? 私はてっきり、手の形を刃物とか、色んな武器に変化させる力だとばかり、思っていたんだけど……あのツルを操ってるのを見て、『あ、こりゃ私、見当違いな予想を立ててたな』と思ったんだけど……アレは一体……」


 なるほど、ボクの固有能力――【能力変神スキルメタモルフォーゼ】についての質問か。

 まぁ、当然の質問だな。

 むしろ、今聞かれるのが遅いくらいの質問だ。もっと早くに聞かれても、おかしくなかった。

 ナデシコ相手に隠しておく理由もないので、正直に答えることにしよう。


「ボクの力は、【他人の能力をコピーする能力】だ。劣化の劣化程度のね」

「ほえー……なにそれ、色んな能力を使えるってこと? 最強じゃん」

「………………」


 最強……か……。


「まぁ……まだまだ不完全だけどな。と比べると……まだまだ全然、足もとにも及ばない。偽物の集合体だ」

「本物……ふぅーん…………ちなみに、その能力って、誰からコピーしたものなの? 敵?」

「…………ボクのコピーした相手は全員――――ボクの兄弟姉妹きょうだいからだ」


 するとナデシコは、目をキラキラとさせて「へぇー!」と、興味深そうに頷いた。


「しーちゃんにも兄弟がいるんだ! お兄ちゃん? お姉ちゃん? それとも弟くん? はたまた妹ちゃん?」

「……弟はいないけど、妹と兄と姉はいる」

「へぇー! 大家族なんだ! 全員で何人兄弟姉妹なの?」

兄弟姉妹」

「じゅ……十二!? そ、そんなに!?」

「ああ……殆どが姉さんと兄さん達で、ボクの下には、妹が一体いるだけだ」

「ほえー! ってことは……単純に考えると、しーちゃんは、『十一番目の子』ってことかぁー。へぇー……あ、話逸れちゃったね! 戻そっか! えーっと……あれ? 何の話してたんだっけ?」

「…………ボクの能力についての話だろ?」

「あ、そだそだ。ってことはさ、しーちゃんの家族の皆も――――強いの?」


 …………家族……。

 その言葉で思い出されるのは……とある、白衣を着た女性のこと。

 まるで、母親のようだった……彼女のこと。


『シュミレーション戦闘で最下位だった?』

『うん……末っ子の、シワちゃんにも、負けちゃった……』

『あらあら……ほらほら、泣かないの。大丈夫。シモくんは、絶対に強くなれるから』

『ホント……?』

『うん、本当に。私が保証するわ』

『……■■の保証なんて、あてにならないよ……』

『うわぁ……傷付くわ、そのいい草。でもさ、知ってるでしょ? 現、シュミレーション戦闘No.1のカンくんが、昨年まで、断トツの最下位で、落ちこぼれ、出来損ないって呼ばれてたのを……シモくんは、知ってるよね?』

『……うん……知ってる』

『だったらさ、最下位っていうどん底にいたら、後は伸び代しかないっていうことも分かるよね?』

『のびしろ……?』

『うん、伸び代。だからめげずに頑張ろう? 私も精一杯、シモくんを応戦するからさ!』

『…………うん』


 …………伸び代……か……。


「……しーちゃん?」


 はっ! とした。

 いかんいかん、ボクとしたことが、ボーっとしてしまっていた。

 思い出したくない過去を、思い出してしまっていた。

 あの言葉を……そして、あの笑顔を、思い出してしまっていた。


「どうしたの? しーちゃん。急に、思いつめたような顔をして……」

「ごめん、ちょっと昔を思い出してて、ボーっとしてしまった」

「ひょっとして、私、何か思いつめちゃうようなこと、言っちゃってた?」


 そんなふうに、心配そうに、ボクの顔を覗き込んでくるナデシコ。

 いかん、要らぬ心配をかけてしまったか。

 それになにより、顔が近い!


「大丈夫?」

「だ、大丈夫大丈夫! もう、シャキッとしたから!」

「頭……」

「へ?」

「頭大丈夫? しーちゃん……」

「その心配のされ方はちょっと腹立つな!」

「怒ってる……やっぱり、頭に異常があるんだ」

「おい……お前、わざと言ってるだろ?」

「えへへ、あ、バレた?」

「まったく……」


 この女は……。


「…………まとめると、ボクの能力は、【他のアンドロイドの能力の下位互換を使用できる能力】だ。威力には乏しいが、さっきみたいな搦手や応用力においては、ボクの右に出るものはいないと自負している」

「おっ!」


 お?


「やっと、しーちゃんの顔に、自信の色が戻ってきたねぇ! うんうん、やっぱりしーちゃんはそうでなくっちゃ!」


 …………自信の色……か。


「バーカ。最初から自信なんて失ってねぇよ。バーカ」

「むぅ! バカって言ったなぁ! バカって言った方がバカなんだぞー!」

「何度でも言ってやるよ。バーカバーカ」

「なにさ! しーちゃんのバカっ!」


 さて、閑話休題だ。

 キング・マウスの分身といった邪魔者も去った。

 これで少しは、向こうのこちらに対する警戒度も上がったことだろう……。

 今なら、ほぼ間違いなく、腰を据えて話をすることができる。


「今度はこちらが聞かせてもらうぞ? ナデシコ」

「…………なにを?」


 ……コイツは……本気のきょとん顔を見せるなよ。


「原種、星型水晶、勇者の力――そしてお前が、いきなり城を攻めるべきといった、その根拠についての説明を要求する」

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