〈14〉煮え切らない発言
【原種】の獣人――
この世界に突如現れ、方法は不明だが、数多の獣人を生み出した、全ての元凶。
他の獣人達は、元々この世界で、普通の動物だったものが変化(もしくは進化?)した生物であるのに対し、【原種】は、獣人としての姿のまま、この世界に現れたそうだ。
したがって、この世界で生まれた獣人達は全て、彼らのコピー。
だから、彼らは【原種】と呼ばれるのだ。
【
鼠顔の獣人――【原種】の獣人は、言う。
「チュチュチュ……そう身構えるな……人間。我は別に、今どうこうしたいと思って、この森に来たわけではない」
ここって森だったんだ……。
いや、注目するのはそこではなく、奴が『人間』と述べた際の視線の方向である。
明らかに、その言葉は、ナデシコに対してのみ向けられていた。
本当に人間である――ナデシコにだけ。
もしやコイツ……。
「で……。気になるのが、そっちのオスだ。人間のような姿はしているが……貴様――――何者だ?」
「っ!」
やっぱり、気づいていたか。
ボクが人間ではない……ということに。
鼠の獣人【原種】は、強く握られた右手をひろげ、握っていた物をボク達に見せつけるかのように、言葉を続けた。
握られていた物は、弾丸だった。
「おかしな武器を使う」
これには、流石のボクも驚かざるを得なかった。
先刻のボクの銃撃を、躱すだけでなく、手で受け止めていたとは……。
なるほど……【原種】の獣人は、とんでもなく強い――か……少し、過小評価し過ぎていたようだ。
【
「先程まで、
「……正解」
ここまでバレてちゃ、隠す意味もないので、ボクは素直に答えることにした。
「ボクの名前は、霜月太郎――――人間型兵器として造られた、アンドロイドだよ」
「あんどろいど? よく分からんが強そうだな」
よく分かってない奴に、強そうだと認定された。
喜んでいいのだろうか?
「この世界に、まだ貴様のような、強き種族が生き残っておったとは…………面白い。やはり世界は広いな」
「種族……?」
あれ? ひょっとして、アンドロイドのことを、動物とかと勘違いしてる?
猫と虎、ライオンとか、魚の鯵とか秋刀魚とか、鮭とかみたいに、人間の亜種……的な感じで。
うーん……それは何か嫌だなぁ。
とまぁ……それはさておき。
「ナデシコ……お前、間違っても突っ込むなよ?」
隣の彼女が、今にも飛びかかりそうな剣幕で睨みつけていたので、釘をさしておいた。
少し会話を交わしていた内に、恐怖の感情は失せ、怒りの感情だけが残されたようだ。
ナデシコは……。
「分かってる……」
と、小さく返答した。
おいおい……本当に分かってるんだろうな?
するとここで、鼠顔の獣人【原種】が、口を開いた。
「チュむ……第二王女が逃げたと聞き、始末せよと部下を送り出したものの、誰一人として帰ってこぬがゆえ、我一人、直々にこの森に足を運んだ訳だが……なるほど……こういうことだったか。チュむ……」
何やら、鼠顔の獣人【原種】は思案しているようだ。
「我一人……欠けても、何も問題はないか」
「はぁ?」
我一人欠けてもって……お前、王だろ?
欠けたらまずいだろ……どう考えても。
それとも、代わりなら、他の【原種】が何とかしてくれるという意味だろうか?
そんなボクの疑問を……。
「否、そのままの意味である。我一人欠けても――なんら問題はない」
と、真っ向から蹴散らしてきた。
その瞬間――――空気がピリついた。
鼠顔の獣人【原種】から、凄まじいほどの殺気が溢れ出たのである。
おいおい……こんな殺気……
だが……まぁ――――
「戦争か? 戦争ならば、受けてたとう」
負ける気はしない。
ぶつかり合う、ボクの殺気と鼠顔の獣人【原種】の殺気。
交わり合う、ボクの視線と鼠顔の獣人【原種】の視線。
ボクはその視線を一瞬だけ切り、ナデシコへと向けた。
アイコンタクトというやつだ。
伝わるか心配だったが、どうやら通じたようで。
ボクは即座にナデシコを抱え、近くの一番高い木の上へとジャンプし、彼女を避難させた。
高い木の上だ、先程の鳥の獣人に襲われる危険性はあるが、少なくとも今は……地上にいるよりも安全だろう。
「念の為、葉の影に隠れていてくれ。鳥の獣人に見つかる危険性もあるから」
「うん、分かった……。ねぇ、しーちゃん……」
「何だ?」
「戦うんだね? 奴と……」
「ああ…………アイツを倒せば、全て終わるんだろう?」
「うん…………多分」
多分……? 煮え切らない発言だな。
アイツがこの国の頭なんだから、倒せば終わりだろうに……。
「これから奴と戦う、しーちゃんにアドバイス……」
「要らないよ、アドバイスなんて。もう行くぞ」
「ダメ、聞いて」
「んだよ……」
「良い? 【原種】は…………異能を使うよ。それこそ、しーちゃんの変身みたいな」
「……異能?」
「うん……それで、奴の異能っていうのはね………………」
………………なるほど。
そういうことか。
奴とナデシコの言葉の意味が、全部繋がった。
と、なると……この戦いの意味は――――
「……情報をありがとう、ナデシコ。いってくるよ」
「うん、いってらっしゃい。……死なないでね……」
「当たり前だ」
ボクは木の上から飛び降りる、そして地面に着地。
「待たせたな」
「チュむ……素晴らしい跳躍力だ。我の仲間の兎でも、そこまでは跳べんぞ?」
「それは……【お前と同類】で、あってもか?」
「チュチュチュ、それはノーコメントだ」
「……だろうな……まぁ、つべこべ言うのは、これくらいにして……しようぜ――――腕試し」
「チュチュチュ……望むところだ」
そう……この一戦は決して、この国の行方を左右するような戦いではない。
得た情報から導き出した結論として、ボクはこの一戦を……『腕試し』と認識した。
要するに、練習試合みたいなものだ。
そしてそれは恐らく――――向こうも同様だろう。
「では……まいるぞ? 興味深い人間の亜種よ……」
「ああ……」
人間の亜種――その呼び方は、はなはだ心外だが……。ここは、あえてつっこまない。
そんな余裕は、なさそうだからだ。
「【十二神獣】が一人――キング・マウス! いざ参る!!」
こうして。
ボクと、鼠顔の獣人【原種】――もとい、キング・マウスとの、腕試しと呼べる戦いが、始まった。
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