〈13〉ジーパ王国の玉座

 原種? 星型水晶? 勇者の力?

 ……どういうことだ?


「ボク……具体的に、って言ったよね?」

「うん」

「その三つの単語が、具体的なのか?」

「ううん、めちゃくちゃ抽象的だね」

「だよね? ってことは、今から具体的な説明をしてくれるのかな?」

「うーん……正直、めんどくさいなぁー」

「…………手を組むのやめようかな……」

「うそうそっ! 話すから! しーちゃんが腰抜かすくらい具体的に話すから!」


 腰抜かすほど具体的に話してくれるそうだ。

 ならば仕方がない。期待して耳を傾けよう。そう思い、耳に手をあてたボクを見て、ナデシコは立ち上がりながら、こんな提案をしてきた。


「いつまでもここにいたんじゃ、先には進めない。歩きながら、説明するよ」

「それもそうだな……よっ、と」


 ボクも、ぴょんっと立ち上がり。

 ナデシコと並んで歩き始める。

 そして、歩きながら耳を傾けた。ナデシコの、腰を抜かすほどの具体的な説明とやらに。


「しーちゃんには、【原種】っていう十二体の獣人の話を、したよね?」

「ああ、聞いたよ。確か、この世界にいきなり現れた、この世界で生まれていない――獣人のことだよな?」

「うん……まず、大前提として、その【原種】の獣人が、とてつもなく強い、っていうことを頭に入れておいて」

「……おう」


 とてつもなく強い、ねぇ……。

 正直、想像できないな。


「この世界は――【十字世界クロスワールド】と呼ばれているわ」

「クロスワールド?」


 前世の住んでた世界でいうところの、地球という意味とイコールなのだろうか?


「その語源は、宇宙から見た際、この星の大陸の形が、表から見ても裏から見ても、十字になっているからだそうよ」


 大陸が十字……。

 (+)こんな感じか?

 だから【十字世界クロスワールド】……なるほどね。


「で? 世界の名前と、ジーパ王国奪還作戦の何が関係しているんだ?」

「大切なのは……この【十字世界】には、があるということ」

「十二……?」


 王国の数と……【原種】の獣人の数が……ピッタリと合う。

 まさか……。


「そう、そのまさかよ。今、各王国の玉座には、それぞれ――――【原種】の獣人が座っている、という訳」

「つまり……このジーパ王国にも……」

「ええ……【原種】の獣人が一体いるわ……」


 するとここで――――


「ヒャッハァー!! お姫様と生き残りの人間はっけぇーん!! ぶっ殺して、役職アップだぜぇー!!」


 草むらから、馬顔の獣人が現れた。

 ボクは即座に【能力変神】を発動し、右前腕から先をライフルへと変身させ、銃口を向ける。


「えっ!? なんだそれ……」


 バンッ。


「がひゃあっ!」


 馬顔の獣人の脳天に一発、撃破。

 話を続けよう。


「ジーパ王国の玉座に座る【原種】は――――」


「見つけたわよん! 王女と人間! あなた達を倒すのは私達! 怪鳥四姉妹よん! みんな、やっておしまい!」

「クエーッ!!」

「カァカァー!!」

「チュンチュン!!」


 バンバンバンバンッ!!


「うぎゃっ!」

「クヒョッ!」

「カギャッ!」

「チュバッ!」


 怪鳥四姉妹とやらも、ライフル四発で撃破。

 話を続けよう。


「……話を続けるわ。ジーパ王国の玉座に座る【原種】は、ねず……」

「ガオーッ! オレは虎の新人る……げひゃあっ!」


 虎の獣人を素早く撃破。


「メェー! 私は羊の新じ……げひゃっ!!」

「ドララララっ! 我こそが獣人最きょ……ぐはぁ!!」

「ワンワン! ご主人様の命令に従い、貴様らを……くほっ!!」

「ウキャー!! ウキウキッ! ウキャー……ぶへっ!」

「ぴょんは兎の新人……ぴょおっ!!」

「シャーッ!! 蛇よん! 私の触手でズタズタに……あひゅっ!」


 バンバンバンバンバンッ!! と、羊、龍、犬、猿、兎、蛇の獣人をそれぞれ撃破。

 一体、空想上の動物が紛れ込んでいた気がするが気にしない。

 さて、そろそろ話を進めて……。


「チュチュチュ……まさか、これ程まで強い人間が、まだ、生き残っていたとはな……やはり人間のしつこさは天下一品……」


 今度は鼠の獣人だ。

 ハァ……お前らが邪魔するせいで話が進まねぇんだよ!!

 バンッ!

 避けられたが気にしない。


「さ、ナデシコ、さっさと話の続きを頼む。ジーパ王国の玉座に座る【原種】ってのは、一体……」

「ん? ひょっとして、我の話か?」

「しつこいな! 今、お前の話をしているんだから邪魔を…………え?」


 お前の……話……?

 てゆーかさっき…………。


 


「っ!?」


 ボクは、声のした方へ振り向いた。

 振り向いた、つまりボクは今……背後を取られていた、ということだ。

 いくら、ナデシコとの会話に気を取られていたとはいえ……あっさりと。

 まるで……それが、普通のことだと、ごくごく自然なことだと言わんばかりに――――


 ボクは、その存在に、容易く背後を取られてしまっていた。


 振り返った先にいたのは、先程、ボクが殺せなかった――――鼠顔の獣人。


 ここで、ボクはようやく気づいた。

 隣にいたナデシコの異変に……。


 呼吸を荒らげている。

 昨夜、六体の獣人に周囲を囲まれてさえ、毅然な態度で、動揺せず対処ができていたほどの彼女が……明らかに、動揺していた。


 その存在を前にして…………恐怖か? それとも、怒りなのだろうか?


 ナデシコは、息を荒らげ、顔を青くし、多量の汗を流し、身体を震わせている。

 そんな彼女の様子を見て、ボクは……説明されずとも理解した。


 鼠顔の獣人――――コイツこそが、ジーパ王国の玉座に座っているという……この世界を、獣人で溢れさせた、全ての元凶の一体――――


「お前が…………【原種オリジナル】って奴か……?」


 すると奴は……禍々しい威圧感を放ちながら、ニヤニヤとした目つきで、こちらを……ボク達を見定めるかのように見据えながら、頷きつつ、こう返答してきた。


「いかにも」


 この鼠顔の獣人が、【原種】であることが確定した瞬間だった。

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