原種と星型水晶と勇者の力

〈12〉そろそろ本題に

 ボクは、最強のアンドロイドだ。

 最も強いアンドロイドと書いて、最強のアンドロイドである。


 これは言葉通りの意味で、ボク……否、ボク達アンドロイドにとっては、戦闘という側面から見ると、敵がいなかった。

 過去の世界――以前、ボクが生きていた地球という星では、例え世界中の国々の軍隊を全て相手にしても、ボク達の前では、戦闘にすらなり得なかった。


 数千もの戦闘機、戦車、ミサイル、銃、爆弾、化学兵器、そして核……それら全てを結集し、ボクらに挑んできても、勝負にすらなり得なかった。


 世界中の軍隊が、ボク、一人にすら劣っていた。


 率直に言おう、あれは決して戦争ではない。

 ボクらによる、全国家に対する弱い者いじめだった。


 さて、ここまで、ボク強いを語ってきた訳だが……結局のところ、何が言いたいのかというと……ボクは、否、ボク達アンドロイドは、これまでの人生で、否、これまでのアンドロイド生で、苦戦というものをしたことがないのである。

 自分より互角……それ以上の敵との戦闘経験がないのだ。

 アンドロイド同士で戦えば、その経験はできたのかもしれないが、それはご法度とされていたので、その経験を取得することはできなかった。

 何で、ご法度なのかって? そんなの、ボク達アンドロイド同士が全力でぶつかり合ったら、地球がもたないからに決まっているだろう。

 まぁ……結局のところ、地球を滅ぼしてしまった訳なのだけれども……。

 話を戻そう。


 だからこそ、ボクは……そしてボクらは、興味を持たざるを得ないのだ。


 自分達と、互角に戦える存在に。

 はたまた――――


 自分達アンドロイドより――強い存在に。


 興味を持ってしまう。

 この世界でなら、出会えるのだろうか?


 いわゆる――――そんな、強敵とも呼べる、存在に……。




「そういえばナデシコ、そもそも獣人による、この世界の侵略は、『原種』とかいう十二体の獣人の出現から始まったんだよな?」

「…………」

「ナデシコ?」

「スピー……スピー……」

「………………」


 返事がない、ただの屍のようだった――――ではなく、眠っていた。

 ナデシコはがっつり寝息を立てていた。


 ボクが、ジーパ王国奪還同盟と組むことを宣言した、あの直後、抱きついてきたナデシコは、まるでこと切れたのかと錯覚してしまうほど、眠りについてしまった。

 慌てましたよ……ええ、慌てましたとも。

 いくらボクがアンドロイドとはいえ、容姿端麗な美少女が、自分に抱きついたまま寝たんだよ? そんなの、慌てるに決まってるじゃないか。

 数日間、この森……林か? それとも山? ともかく、この緑溢れる自然の中を走り回っていながらも、良い匂いがしたし、寝顔が可愛いし……いやぁ、いろんな所が反応しましたとも。

 特に股か……。


「言わせないから!」

「うおっ! びっくりした!」

「……スピー……スピー……言わせないからぁ……むにゃむにゃ……」


 …………どうやら寝言のようだった。

 一体どんな夢を見ているのだろうか?


 それにしても……。


「勇者の生まれ変わり、ねぇ……」


 あの回復力は……異常だよなぁ? 自己再生系の能力なのだろうか?

 彼女の戦闘を見る限り、どう考えても、戦闘向きな能力ではないよなぁ……。

 確かに、剣術や武術の心得はあるみたいだったけど、それが世界を救う勇者と語れるかといえば……とてもそうは思えない。


 そういえば、勇者の力の半分っていってたっけ?

 勇者の力っていうのは、攻撃的な能力と補助的な能力に分かれている……とかだろうか?

 攻撃的な能力の方は、また別の人物が受け継いでるとか?

 ふむ……こういう考察も面白いな。

 その辺も、彼女が起きたら聞いてみることにしよう。


 彼女が……。


「……よくよく考えてみると、この子、この国の王女だったんだよな? それなのに、この森? 林? 山? よく分からない自然の中で、数日間、獣人に追われながら生活してたんだもんな……水分は確か……雨水を飲んでたとか言ってたっけ?」


 今、こうして生きているのが奇跡じゃないか……。

 本当にコイツは……。


「面白い、人間だよ」

「そうなのよ、私、面白い人間なのよ」

「うわっ、ビックリした!」


 起きていた。

 恥ずかしい独り言を聞かれてしまった。

 にひひっ、と彼女は笑って、勢い良く上半身を持ち上げた。


「あー! よく寝たぁー! 久々に快眠できたし、頭スッキリで最高!」

「ん、そりゃ、何より」

「しーちゃんが見守ってくれてたからだよ。ありがとね」

「ん、どういたしまして」


 そりゃそうか……獣人達に追われながらの生活じゃ、まともに寝れることなんてなかったはずだ。

 いつ敵が襲ってくるのか分からないっていうんだから……。

 おちおち眠ることすら許されなかった訳だ。

 そりゃ、安心のできる状況下でなら、爆睡もするか……。


「ま、膝枕をしてくれなかったことは、マイナス点だけどねぇー」

「随分とこだわるな……膝枕に」

「え!? 膝枕してくれるの? やったぁーーって、痛いっ!」


 懲りずに、またボクの膝を枕にしようとしてきたので、痛い目にあってもらった。

 勢いよく、地面に頭をぶつけたナデシコの口が3になる。

 「ぶぅー」とか言って拗ねている。

 ま、それくらいの打撲なら、彼女の勇者の力とやらで、すぐに回復することだろう。


 さて……ナデシコが目を覚ましたところで、そろそろ本題に入ろうか。


「しっかりと睡眠をとって、頭がシャキッと働くようになっただろ? そろそろ、この状況を動かそうぜ」

「…………うーん。それもそうだね」


 よっこいしょ、とナデシコは再び上半身を持ち上げた。

 少し、真剣な表情になっている。


「本来なら、こういう時は、いきなり本丸のお城を攻めるんじゃなくて、周囲の街とかの解放を少しずつ進めていくのがベストなのだろうけど……このジーパ王国を奪還するにあたって、それは間違いなく、悪手になると思うんだよねぇ……」

「悪手? なぜだ?」

「んー……なぜかと言うとぉ、コレはまだ不確定要素ではあるんだけどね? その要素が、もしもドンピシャだった場合……まずいことになるから……」


 ……まずいこと?


「それはボクが、協力しなかったら、の話だろ?」

「ううん、しーちゃんがいるからこそ、『まずいこと』程度で済むんだよ」

「ほぉ……?」


 随分と見くびられているなぁ……ボク。

 少しムッとしてしまったが、大人なボクは、微塵も顔に出すことなく、ナデシコの話の続きを聞くことにした。


「ありゃ? ひょっとしてしーちゃん、怒ってる? めちゃくちゃ顔に出てるよ?」


 めちゃくちゃ顔に出ているみたいだった。

 どうやら、ボクはまだまだ子供のようだった。


「今の話はさ、しーちゃんが、とっても強いって認めているからこその、私の見立て――――なんだよ?」

「はいはい……そんなフォローは良いから……。で? その不確定要素とやらと、まずいことっていうのは何なの? 具体的に頼む」


 今、ボクが一番欲しいものは情報なのだから。

 最強のアンドロイドであるボクが、このジーパ王国奪還作戦を失敗する訳がないけれど……情報を仕入れておくことは、より成功率を高めておくという意味で、大切なことだ。

 さぁ、話せナデシコ。

 その不確定要素とは何だ?


「原種と、星型水晶と、そして…………勇者の力」


 …………はい?

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