第79話

「アルマさんはどうやってこの世界に来たんですか?」


 恥ずかしい昔話を色々と暴露され、話に花が咲いてきたところで、気になっている事に付いて聞いてみることにした。


「うーん、残念ながらアタシもよく分かってないのよね……。気付いたら帝都の噴水の前に立っててね?あの時はびっくりしたわ〜」


 オホホホッと高笑いしながら、俺用の服を物色してくれているアルマさん。あっ、やめて、女服を手に取って俺と交互に眺めるの。身の危険を感じるから、マジで。


「……この世界に来て何ヶ月位なんですか」


「二ヶ月……いや、一ヶ月半くらいかしら?」


「そんな短期間でこれほどに立派なお店を……マワル殿の御友人は敏腕なのですね……」


「あらぁっ!褒めても何も出ないわよ!ほら、これ持ってきなさい!」


 アルマさん、出てるよ。褒めたら凄く高そうなネックレスが出てきてハルの首にかかったよ今。


「うぇ!?い、いえ、拙者は……」


「……アルマさん、ハルが困ってるんでやめてあげてください」


「えー、すっごく似合ってるじゃない?」


「似合いますけど、困ってますから」


「______きゅぅ………」


 あっ、なんか知らんけどハルが爆発した。えっ、何?俺の発言がセクハラじみてたからか?おいおい、アルマさん「あんら〜」じゃないですよ。


 あんたが俺に話を振ってきた性で、俺がセクハラおじさんみたいになったじゃないですか。


「マワル君〜、私も似合ってますか〜?」


「______えぇ……何でそんな思春期中盤の高校生みたいな指輪とネックレス付けてるんですか?」


 フリーズして動かなくなったハルを置いて、シスターの方を見ると、ドクロドクロしたアクセサリを身につけたシスターが居た。


 いや、素材が良いんでこれはコレでありではあるが……シスター服にはミスマッチ過ぎるだろソレ。めっちゃ似合ってるけど。


「……アルマさん、コレに似合う服って_____」


「あるわよ!それはもうバッチリ!」


「アルマさん?ちょっと来ましょう」


 全くの隙がないアルマさんを店の角まで呼び出す。


(……お願いですから、この世界に変なファッション広めないで下さいよ!?あの人、うちの街の大事なシスターなんですよ!?)


(何言ってるのよ、廻ちゃん!私は修道女だろうが何だろうが積極的に流行りの服を着るべきと思っているタイプよ!?なんなら、神様に中指立てるデザインの服だって着るべきよ!)


(まだまだ神様が人に身近な世界でそんなことしてたらいつか火炙りにされますよ!?)


 この人は何でこう、ファッションのこととなると見境が無くなるのだろうか?寄りにもよって神様が割と積極的に干渉してくるタイプの世界で寄りにもよって中指立てるとか……TPOって知ってる?


(まだこの世界の人にこういうパンク系の服は早いですって!)


(何言ってるのよ、戦士だってビキニアーマー着るでしょう!?修道女がパンクな服着て何が悪いのよ!)


(何か同郷がそんな服装世界に流行らせるの、この世界に申し訳なくなるんだよ!後、この世界でビキニアーマーとか見たことありませんから!!!)


 そんな俺の言葉にショックを受けたような顔をしたアルマさん。なんでこの人、センスあるのにはっちゃけたりイカれてる服装が好きなんだ。


「なんですって!?この世界にビキニアーマーが無いなんて_______作るしかないわね」


「駄目に決まってんだろ!?同郷として恥ずかしいから止めてくださいよ!?それに、作ったとして誰が着るんですか!?」


「そりゃあ……アタシとマワルちゃんよ?」


「着ないよ!?絶対に着ないし、着させないですよ!?二人揃って公然わいせつ罪で捕まっちゃったら、俺はどんな顔して弟に詫びればいいのか分かりません!!!」


 流石に同郷が変態チックな服装を流行らせようとするのは止めなければならない。と言うか、店の影響力的に流行りそうなのが厄介すぎる。


「おーけー。パンクな服は俺が後で一人の時に着てあげますから。この世界に流行らせるのはアクセだけにしといて下さい」


「__もう、しょうがないわね!確かにこの純新無垢な世界がパンクな色で染まるにはちょっと早い気もするものね」


 流石、話のわかるアルマさんだ。会長なら絶対引かない上に、強行して痛い目見てる。シスターが何時もよりキラキラした目でパンクな服を見てるのでちょっと可哀想ではあるが……俺はパンクな服を着たシスターなんて孤児院の子供達に見せられない!!!後、シスターは清楚系な服が似合うと思います!


「__さて、それじゃあ試着ショーの開始よ!」


「えっ、今からですか」


「モロちんよ、廻ちゃん!」


「勿論って言え、このおっさんが!」


 俺がち〇こ出してるみたいに聞こえるんだよ。オヤジみたいな下ネタ吐くなよ、乙女とか言うならもっと慎み持てよ!今の時代、そう言うのに厳しいんだから!


「最初の一着はこれよ!」


 手渡された紙袋を受け取り、試着室に入る。いつの間に、俺の服を選んでい__てか、サイズピッタリだなおい!?


「しかも、俺の高校のじゃないし……」


「う〜ん、やっぱ男の子のブレザーは良いわねぇ」


 いや、アンタの趣味かい!いや、まぁタダでくれるらしいし、貰うけど……着る機会は無さそうだ。


「マワル殿、そ、その……格好良いです!」


「マワル君、可愛いですよ!」


「えぇ……」


 俺は基本的に楽な服装が好きなタイプなので制服とか礼服とかカッチリとした服装が好きでは無い。いや、制服がカッチリしているかと言えば、人によるかもしれないが、堅苦しく感じてある程度着崩してた。


「お次はこれよ!」


 流石に一回目遊んだんだから二回目は普通の格好だろう。そんなちょっとした期待を胸にもう一度更衣室に入る。


 ……。……。


「ふざけてんのか」


 ……と思っていた時期もありました。


 俺の現在の服装はアロハシャツに短パン、そしてサングラスとどう見ても南国にバカンスに来ている人だった。丁寧に花の首飾りと冠まで作りやがって!その労力はどこから来てるんだよ!


「あら〜!いい感じに頭溶けてそうね!」


「人の頭を溶かさないでくれません?……えっ、こんなのまで作ってんの?」


「それは廻ちゃんのための特注品よ!あらやだ、アタシって良い女!?」


「年下の男に趣味全開の格好させる悪い大人じゃないですかね」


 俺は相も変わらず高笑いするアルマさんを見て、手遅れ感を感じつつ、一応二人に感想を求める。


「……に、似合ってます、マワル殿」


「……ちょっと笑ってるよな?」


「い、いえ、そのようなことは……」


 プルプルと震えながら露骨に顔を逸らしたハルに、ズンっと詰め寄る。あっ、ちょっと吹き出したぞコイツ。いえーい、俺の勝ちー。……いや、虚しいわ!


「ひゅー、マワル君なんだか貴族のボンボンみたいですよ〜!」


「………」


 よし、シスターには後で死ぬほど可愛い服でも着てもらおう。俺は煽られっぱなしは死ぬほど嫌いなタチなんでなぁ!


「次はこれよ!」


 まだあんのかよ!と思ったが、特に何も言わないでおいた。うん、紙袋の中身が金色だし、嫌な予感しかしない。


試着室にて動きやすいアロハシャツと短パンを脱ぎ、その全身タイツの様な服を着た俺は一言。


「______コスプレじゃねぇか!!!」


 そう、俺が着せられたのは某戦隊のコスプレ全身タイツだった。


「しかも、何で金色!?普通、赤とかでしょ!」


「廻ちゃん金色好きだから喜ぶと思ったんだけど……」


「限度があるわ!?こんなの来てたら会長への対策にはなっても、周りの視線が痛いでしょうが!!!」


 長身の化粧が濃いオカマにがなり立てる金色の全身タイツがそこにはいた。うん、変態だね!


「せめて、もうちょいマトモな服を_______」


 __そこまで言ったところで、俺の危機感知センサーがピンピンと音を鳴らし始める。


 ……あぁ、この感覚を俺はよく知っている。


「__アルマさん、香水!!!」


「__えぇ!」


 どうやら、アルマさんもこの嫌な感覚を察知したみたいだ。流石、割とシャレにならないレベルで会長に迷惑かけられてる被害者なだけあるぜ!


 ハルは俺たちのそんな様子にオロオロしており、シスターは相も変わらず何が楽しいのかニコニコしていた。


「__廻ちゃん、受け取りなさい!!!」


「__ありがとうございます!」


 ガサガサと何時もより焦ったように棚を漁ったアルマさんから透明の小さな瓶を投げつけられる。きっと、スプレーのように吹き付けるタイプなのだろう。


「廻ちゃん______かけなさい!」


「_______えぇ、最初からそのつもりです」


 力ずくでスプレーのような形状の先を引っこ抜いた俺は_______頭から香水をぶっかけたのだった。


「マワル殿!?」


「_____ハル、その名前を呼ぶな。シスターもですよ。今から俺の名前は『ルマ』です」


「……廻ちゃん。__


 俺とアルマさんの真剣そうな表情にハルが息を飲んで扉を凝視している。シスターは俺の格好を見て、クスクスと笑っていた。………フリフリの服着せてやるから、覚えてろよぉ!!!


「__来るっ………!」


 そして、次の瞬間__扉が吹き飛んだ。そして、その扉の向こうから、死ぬ程見覚えのある黒髪をたなびかせた女が入ってくる。夢に見てしまうくらい見せられた顔だ。忘れるわけが無いし、忘れたくても忘れられない(色んな意味で)。


 やけに凛々しいその顔も、堂々とした立ち振る舞いも、ドン引きするような破天荒さも、随分と久しぶりな気がした。……変わっててくれって、お願いだから。


「________うーん、ここら辺で懐かしい香りがしたんだけどなぁ……」


 扉を蹴破ったことなど毛程も気にしていない彼女……会長こと最上 天音は不思議そうに首を傾げてそう言った。

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