第78話
「ほんと久しぶりねぇ、廻ちゃん。元気にしてたかしら?」
「えっ、いや、そりゃあ元気にしてましたけど」
平然とこちらに挨拶してくるアルマさんに俺は動揺を隠せないでいた。
そりゃそうだろう?だって、俺は向こうでは死んでることになっているんだ。アルマさんがいつこの世界に来たのかは知らないが……この人は会長の血縁者であり、俺ともそれなりの仲だった。弟とも知り合いだし、俺の葬式にあの完璧とも言っていい俺の弟が会場に呼ばないわけが無い。
つまり、俺が死んだ事を知らないはずがないのだ。
「大丈夫よ、そこら辺はちゃーんと知ってるわ」
「……相変わらず、人の心を読むのが上手いですね」
「どうせそこのお仲間ちゃん達にも隠してるんでしょ?安心しなさい、そこら辺の事情を詳しく話しちゃうと面倒な事になるでしょうし……黙っておいてア・ゲ・ル」
「__マジでアルマさんって何者なんですか?この世界に来てから、アルマさんが異世界人説が結構濃厚なんですけど」
的確にこちらの事情を把握しているのか、そんな事を俺の耳元で囁いたアルマさんに、最近ちょっと考えていた説の真偽を確かめてみる。……すると、俺のその説を聞いたアルマさんが口を大きく空けて大笑いした。……ホント、何時見ても悪役みたいな顔をして笑う人である。
「オーッホッホッホ!!!残念!私は地球生まれ地球育ちの日本人よ?読心術や場の把握は__乙女の秘密ってところね?」
「……はいはい、そうですか。全く、相も変わらず怪しさ満点ですね」
「あら、ミステリアスな女は嫌い?」
「ミステリアスな女じゃなくて謎だらけのオカマの間違いでしょうに」
「あらあら、相変わらず手厳しいわね」
これ以上何を聞いたとしても上手くはぐらかされる気がした俺は諦めたように溜息を吐くと、状況が分かっていない後ろの三人に声をかける。
「……安心して下さい。アルマさんは胡散臭いけど良い人ですよ」
「ちょっとー!廻ちゃん失礼じゃなーい?」
「いや、だって胡散臭いんですもん。俺だって小学校からの付き合いじゃなかったら、距離置いてますよ?なんすかそのド派手で胡散臭い格好」
「______だから、良い男が寄ってこないのかしら!?」
「いや、それは別問題ですね」
ハッと全てを察したような顔でわなわなと震えたアルマさんに俺は即答で否定した。普通、アンタみたいなヤバそうな人に良い男はよっていかないと思う。……だって、良い男だもん。
「まっ、こんなところで立ち話も何ね。__よーし!今日は貸切にして久しぶりにお話でもしましょうか!」
「お客さんは良いんですか?」
「平気よ、一日店閉じた位で客足は途絶えないわ。_____私、これでも帝都で名を馳せたデザイナーよ?」
軽いな、おい。いや、こんな立派な店構えてこれだけの客を集めているのだから、この人のそれは虚栄でも何でもないのも事実である。口振り的に二店舗目っぽいし。
「__三人も一緒に話していきます?」
「今なら、昔の廻ちゃんの可愛い逸話が着いてくるわよ?」
「えっ、辞めてくださ__」
そんな釣り餌を出してくるとは思わなかった。……いや、それは果たして釣り餌になるの____
「私は昔のマワル君の話聞いてみたいです〜」
「……せ、拙者もちょっと昔のマワル殿の話聞きたいです」
______なったみたいです。シスターは俺をからかうネタを常に求めてる気がしなくもないから分からんでもないが、ハルは何故に……?
「……あー、悪ぃが俺はパスだ。この場所に此奴らがいれば護衛の必要もねぇだろうしな。問題ねぇか?……後、何かあの男の目が怖ぇしな。ありゃあ竜が獲物を狩る時の目だぜ」
俺にだけ聞こえる声量でそう言ったフロストの兄貴から視線を外し、アルマさんを見る。______そこには獰猛な獣がいた。……うわぁ、ロックオンされてらぁ。まぁ、フロストの兄貴格好いいもんなぁ。
「問題無いですよ。夕飯時に宿屋に集合で良いですか?」
「あぁ」
「あら、残念」
「……」
フロストの兄貴が別の方向に向かって歩き出すのを見るに、アルマさんが舌なめずりをしながらそう言った。……いや、こえーよ。流石の俺も言葉に詰まっちゃったよ。
「さて、それじゃあお休みの話を従業員の皆にお話してくるから、ちょっと待ってて頂戴ね?廻ちゃんの事だから目的の物は服と手袋に……あと仮面かしら?天音の観察眼は凄いものねー」
本当に何処まで把握してるんだろうかこの人は。そこまで把握されてると、最早怖い通り過ぎて感心しちゃう。
「……あっ、そう言えばもう一人の勇者って誰か知ってます?」
「煉司ちゃんよ」
「__マジかよ」
俺はマジで何回この台詞を言えばいいんだろうか?……なぁ、答えてくれよマイベストフレンド。
俺は天を仰ぎながら、この世界に会長と一緒に来ているらしい親友に心の中で問いかけたのだった。
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