第77話

「話を戻すんですけど、何で手袋とか服が必要なんですか〜?」


「……それは知りたいんですね」


「はい〜」


 テメェにはハルの秘密は教えんがテメェの秘密は教えろってか。ヤンキーすぎない?……シスターの武器は確かに鈍器だから、釘バットをメインウエポンとしてスポーンするヤンキーとは似通った部分はあるのかもしれない。


 ……戦闘時はヤンキーよりファンキーな戦い方するけど。なんなら、ヤンキーも裸足でお漏らししながら逃げる程度には、一切合切容赦ないけども。


「手袋と服が必要な理由はですね、結構簡単ですよ?折角だし、クイズでもしましょうか。じゃあ、分かった人は軽く手を挙げてください」


「はい〜!」


「……早いですね。じゃあ、シスター」


「服のセンスでバレるとかですかね〜」


「はーい、不正解。俺は結構服のタイプをバラけさせて選ぶので、そこからは見分けられません」


 余談だが同じような服を着ずに、色々な服を着るようになったのは天才作家(自称)にキャラのモデルとして服を沢山貰っていたからである。昔、それで会長と自称天才の厨二病がガチ喧嘩して結果として何故か俺がファッションショーを開かされる羽目になったのは記憶に新しい。


 高身長イケメンの我が親友を差し置いて、そんな事をさせられた俺は恥ずかしくて死にそうだったがな!


「今の服は長い事着てるから匂いが染み付いてるとかか?」


「うーん、確かにそれも少しはありますけど……それは香水を満遍なくかければ解決できますから。一番の理由としてはハズレですね。……でも、惜しいんで一MPマワルポイント差し上げましょう」


「……何か判定甘くないですか〜?」


「気のせいです」


 気の所為ですってシスター。俺が純粋にフロストの兄貴が好きだからサービスしたとか、そんなわけないじゃないですか。自制しなかったなら、三ポイントくらいあげてますよ。


 頬を膨らませながら、むーっ、と唸るシスターの可愛さに、一ポイント上げそうになったがぐっと堪えた。普段俺をからかう悪女っぷりを知ってるから、その程度では惑わされんぞ!!!


「______もしかして、手とか身体に傷があるとかでしょうか!?それで肌を見せるとバレるとか……」


「前半の部分は間違いだな。そして後半の部分もちょっと間違ってる」


「……ちょっと間違ってる?」


 結構近い答えが出たので、全部言ってしまうことに決める。……うん、ドン引きしないでね。お願いだから。なんなら俺は会長のその意味わかんない特技に一番恐怖してるんだから。こちとら、被害者だからね。


「別にあの人、傷とか分かりやすい傷とかなくても_________肌を見ただけで俺かどうか分かるんだ」


 場の空気が静まり返った。はっはっはっ、そりゃあ誰でもこうなるよな。


「……さ、流石に嘘だろ?」


「嘘じゃないですよ、フロストの兄貴」


 現実見ましょう。言った俺が一番見たくないけどな。けど、見なかったら見なかったでマッハを超えた豪速球が身体目掛けて飛んでくるから見ない訳には行かないんだ。


「ほ、本当に肌だけで見分けるのですか?」


「あぁ、手だろうが首だろうが足だろうが、あの人に肌を見せようものならバレる」


「だけで本当に見分けられるんですか〜?確かにマワル君の肌はスベスベしててキレイですけど〜」


「……シスター、何かこそばゆいんでやめて貰ってもいいですか?」


「ふふふ、駄目でーす〜」


 俺の手を握ってさすさすと擦りながら確認するように俺の手を弄ぶシスター。くぅ、この人最近俺をからかってくる頻度増えてない!?いや、心開いてくれてるってことなんだろうから嬉しいんだけどさ!?こういうのは童貞にはちょっと刺激が強すぎるというか……。


「____おっ、やっと見えたな」


 そんな俺に助け舟を出してくれたのは、我らがフロストの兄貴だった。大分距離あるのに、態々シスターの気を逸らしてくれるとかイケメンすぎるぜ!


「へ〜、あれが噂の『アルマ』ですか〜。おー、凄い人集りですね」


 俺の手をパッと離して、店の方をじっと見たシスターは何処か楽しそうだ。……もしかしたら、意外とこう言うオシャレな店で買い物するのが好きなのかもしれない。


 意外なシスターの一面を見つつも、そのまま店へと近づいて行く。_____そして、俺はそこで本来この場所にあるべきでは無いものを目にした。


「_______『ALMA』、だって?」


 そう、その店の看板に書いてあった文字は間違いなく、英語の筆記体だったのだ。


「どうしたのですか、マワル殿?」


「…………会長とかもう一人の勇者がデザインしたとかか?」


 悩んだ末に出た結論を直ぐに却下する。……うん、それは無いありえない。まず勇者ともあろう存在にそんな時間があるとは思えない上に、会長はデザインとかを面倒くさがるタイプだ。


 それに、この名前は会長が絶対に嫌がる名前だ。


 そのことから導かれる答えは_______


「俺の他にも迷い人がいる……」


「______はぁ!?マジで言ってんのか!?」


「……いや、だってこの文字俺らの世界の文字ですし。それに、この店の名前に聞き覚えがあると言いますか……」


 どう足掻いたって、この場所に俺の同郷が居るのは覆らない事実なのだ。なら、そこを踏まえた上で_______。


「_________アクションを取るかどうか決める……ってことかしら?」


「そうそう、もし会長達と面識があるのならアクションは………え?」


 俺の考えが俺では無い聞き覚えのある男の声で紡がれる。


 その声の主は底の高いヒールをコツコツと鳴らしながら、個性的だが彼だからこそ似合うド派手で真っ赤なキラキラとした服を纏い、店の中から堂々と


 男でありながら濃い化粧に、薄紫の口紅、そして目を引く後ろで一纏めにした長く美しい銀髪。濃い化粧を落とせば老若男女を骨抜きにするようなその顔立ち。


 一目見るだけで『コイツ、胡散臭いな』となるその見た目と雰囲気に当てられてしまえば、警戒心を解くのは中々難しいだろう。


 だが俺はこの人の声が聞こえた瞬間、これまで張り詰めていた気が一気に抜けてしまった。


 俺は確かにこの人を知っているからである。


「__久しぶりね、廻ちゃん」


「__何やってんすか、アルマさん」


 元の世界で結構な確率で力を貸して貰っていた喫茶「星の導」の店長こと星野 アルマがそこにいた。




 ……マジでなんで居んの?

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