第76話
日が沈むまでに王都に辿り着けないと判断した俺たちは一日街道近くで野宿した後、ゆったりと王都へと向かった。
多少無理をしてでも三人を早く王都で休ませてあげたかったのだが、ハルに俺の事をおぶってもらうことになる上に、明らかに消耗している二人を更に消耗させるのは悪手だろうと判断したのである。
見るからに消耗していた二人には見張りをやらせず、俺とハルで交代しながら(終盤はほとんど二人で)担当したところ、二人とも万全とは行かないが、普通に戦闘が出来るくらいには回復したととのことだ。
「それにしてもここが王都ですか……」
予想はしてたけどめちゃくちゃデカい。人の多さとか賑わい方が半端じゃない。 流石は国の心臓部だ。
「普段からこんなに賑わってるんですか?」
「まぁ、王都だからな。……いや、訂正だ。見たところ普段より少しだけ人が多いかもな」
「間違いなく勇者様の影響でしょうね〜。各地で大活躍の勇者様御一行の顔を拝みたい人は多いでしょうから〜」
「あ、会いたくない……」
我ながら何とも最低なことを思っているなぁ、と思いつつも自然と口から言葉が漏れ出る。
「王都は広いですからきっと平気ですよ。それにこの人混みなら自分から接触しない限り勇者殿もマワル殿に気づかないのでは?」
「そ、そうだよな」
何故だか全然安心出来ないが、こんなに人が居るんだ。少しくらいは
「もう少し奥に行けば、
「シスターも王都に来たことあるんですか?」
「四年前に一年ほど住んでましたからね〜」
「へ〜、その時は何で王都に居たんですか?」
「冒険者ランクが簡単に上げられるからですね〜。色んな魔物をこう、えいっ!と〜」
うん、シスターその手の動きは「えいっ!」なんて可愛い動きじゃないよ。完全に『ブヂッ、ドゴッ、べキッ』とかそんな感じの動きです。こらこら、エアモンスターにキレッキレの膝蹴りを放たないで下さい。アンタ、見た目シスターなんだぞ。
「ハルは?」
「拙者も一度だけ来たことがあります。十年以上前ですので、その……あまり覚えていませんが……」
「十年前か。家族と一緒に来たのか?」
「はい、父様と一緒に。沢山お土産も買ってもらいました」
「へぇ……それは良い父親だな」
おい、聞いてるかマイファザー。普通の父親はこういう風に旅行に連れて行ってくれるもんなんだよ。パチンコ行きたいからって、未成年の弟と俺に金だけ渡して二人旅させようとすんな!このクソパチンカスが!
母親は連れて行ってくれなかったのかって?いや、連れてってはくれるんだけど、俺たち置いて迷子になるもん。俺達は普通に家に帰れるのに、いつの間にかあの人だけ県またいでるし。
迷子で県跨ぐとか、わざとなんじゃないかと思っていた時期が俺にもありました。……うん、わざとじゃないからなおさらタチが悪いんだよな。俺の弟良く真っ当に育ったな。
ゴミカス(父)、方向音痴トップティア(母)、ガチャカス(俺)。_______ろくでもねぇやつしかいないや!
そう考えたら俺のガチャ中毒は父親譲りなのかもしれない。……血繋がってないのに一番ダメな部分が似るとかどうなってんだ。
「どうだマワル。この中から偶然勇者に出会うとかそんな状況あり得ると思うか?」
「確かにこれだけ人が居れば、そう簡単に鉢会うなんてことは無いでしょうね〜」
シスター、それフラグっていうんですよ……っと、言いそうになったが、その台詞を口に出してしまえばマジモンのフラグになりかねないので類まれなる自制心を駆使してグッと堪えた。
うん、ポジティブに考えよう。寧ろ、この世界に会長が来ていると言う事実を先に知れたのは非常に僥倖と言えるだろう。何故なら、先んじて対策が取れるのだから。
「先ず、香水だな。後、仮面と新しい服と手袋」
「香水はまだ分かり……分かるのですが……服と手袋はどうして必要なのですか?」
「ちょっと迷ったな」
「あはは……マワル殿は確かに良い香りがしますが__」
「ハルちゃんはどうしてマワル君の匂いなんて知ってるんですかね〜?」
「_______あっ、えっ!?い、いや、その……」
「そりゃあ何回か背負って貰ってますし、匂いくらい香るんじゃないですか?これでも、俺の洗濯技術は最新型の洗濯機に負けませんからね」
「えー、本当にそれだけですかね〜?」
ニマニマとしながら赤くなったハルと俺を交互に見るシスター。どうやらシスターS成分が刺激されてしまったようだ。議題が俺の体臭でなければ俺も一緒に参加したのだが……これは俺もちょっと恥ずかしいので流すことにする。
「はぁ、それじゃあ何ですか?ハルが俺の匂いをド近距離で意識的に嗅いだとでも_____」
「________あうぅ……」
「……えっ、マジで?」
嗅いだの?何時、何処で?地球が……いや、この世界が何回回った日?
「ふふふっ、それじゃあハルちゃんを虐めるのはこれくらいにして買い物に行きましょうか」
「……やれやれ。お前は相変わらずだなぁ……」
満足そうなシスターが上機嫌で歩き始め、フロストの兄貴がそんなシスターをげんなりとした表情で見つめる。
「えっ、ちょっと!俺、このまま何時嗅がれたか分からないままモヤモヤしないと行けないんですか!?」
「はい〜」
「えぇ……」
にべもなくそう言い切ったシスターに絶句した俺は、歩きながら直接嗅いだ本人に聞くことにした。
「……ハルさんや、何時匂ったんだい」
「せ、拙者は何も知りません」
「いや、それは無理があるだろ」
貴方、今自分で自白したんだよ?こんな短時間で記憶消し飛ぶとかありえないんだよ?ほら、早く吐け。ハルなら別に怒んないから。可愛い女の子にいい匂いとか言われると嬉しいから、詳しい状況を教えてくれ。
「ほら、さっさと行きますよマワル君〜」
「______ぐえっ、ちょっ!?シスターが話広げたのにぃ!?」
紅い顔でそっぽを向いてい後ずさるハルに、ジリジリと近づいていると戻ってきたシスターに首根っこを掴まれてハルから引き離される。_____くそっ、モヤモヤするぅ!!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます