第67話
ギルドマスターと口喧嘩をした。
結局腹パンくらって黙らされた。
この化け物は手を出したら負けだと言うことを先生に教わらなかったのだろうか。
「……で?俺の怪我を無理やり治した理由を教えて貰っても良いですか?」
目の端に溜まった涙を拭った俺は、まだ少し痛む腹をさすりながら、先程から気になっていたことを聞くことにした。
デメリットとか全部フル無視のこんな強硬手段で、俺の怪我を無理やり治したのには、必ず理由がある。
この人は変人だし理不尽の塊みたいな存在だが
他の人が出来る仕事は他人に丸投げして放置しがちではある性で他の人は(主にリアさん)ハードワークを強いられるが、それだけの功績は挙げているのを俺は見ている。俺をエルザから助けた時も、異様にタイミング良かったしな。
つまり、あの時は「あれくらいなら耐えるだろう」と信頼されていたという訳だが……正直もっと早く助けて欲しかった。
「お前には王都に行ってもらう」
「王都?あれ、ギルドマスター、つい最近王都行ってませんでしたっけ?」
俺の記憶が正しければ丁度二週間前、あのゴーストとの戦いの少し前に王都に出向いていた筈だ。こんな短いスパンで行くものなのだろうか。
「前のは別件だ」
「別件?」
「つい先日の魔王復活に伴って、この国で勇者が召喚されたのは知ってるな?」
「それは、まぁ……。王都から帰ってきた冒険者さん達もずっと噂してますしね」
正確にはもっと前から知っていたが、そんな事を一々細かく言う必要も無いだろう。まぁ、ゼロ様に教えられたのは勇者が召喚されたことだけなので、細かいところまで知らなかったし。
因みに噂によると美男美女らしい。召喚されて僅か一ヶ月程度なのに、冒険者ランクAにまで到達した、正真正銘の怪物なのだとか。……同じく異世界から来た者の筈なのに既に圧倒的大差で色々負けている。
そんな話を聞いた俺は、スっとその事実を意識から遠ざけて気にしないようにしていた。気にしたら負けだ。……気にしなくても負けてるけど。
「前回は勇者共の実力を測る為に呼び出されてたんだよ。王都でちんたらしてる冒険者共じゃ役不足だったんでな」
「この国の王都ってAランク冒険者とかが結構居るんじゃなかったんですか?」
「パーティーで査定受けてる奴らが殆どなんだよ。一人でAランクに上がれる奴らはこの国の王都になんざ長居しねぇ」
「へぇー」
近くにある山や森にはそこそこ(俺からしたら格上)の魔物しかいないらしく、そこまで稼げる訳では無いらしい。
「あれ?王都って冒険者の数が一番多いんじゃなかったんですか?稼げないなら何でそんなに……」
「魔族が攻めてくるからだよ。普通に魔物を狩るより、たった一回戦争で成果をあげる方が何倍も稼げるって訳だ。こっちの大陸に棲息してない魔物とか」
「……なるほど」
チラリと脳裏に浮かぶのは俺の事を死体にして飾るとか言ってたド変態。……あの鬼ごっこは今でも偶に夢に見るくらいには怖かった。
「今回はギルドマスターは行かないんですか?」
「あぁ。ちょっとばかしコッチで調べなきゃいけないことが出来てな。王都に行ってる暇なんざねぇんだ。……お前に頼みたい用事ってのは、数日程度じゃ終わっちゃくれねぇからな」
「えっ、そんなギルド空けちゃって大丈夫なんですか?」
「このギルドの人員がお前だけなら、他の方法を考えてた。_______だが、今はお前の従魔がいる」
……従魔?俺にそんなのいたっけ?
「___マワル君、ロボ助君の事ですよ」
「あぁ、なるほど」
俺たちの話をじっと後ろで聞いていたリアさんが、教えてくれる。
確かにロボットを知らない人から見れば、ロボ助は魔物みたいに見えるのか。……見えるかなぁ?魔物に見えるかと言われれば、ほぼ確実にノーではある。ロボットをゴブリンとかスライムと同列に語らないで欲しい。
「確かにロボ助が居れば、仕事は問題は無いと思いますけど、俺一人で王都とか行け無いですって。最近やっとこの辺りの土地勘覚えてきたばっかりなんですよ?」
一番心配なのは、王都に辿り着けるかどうかなのだ。王都に着きさえすれば人を頼って何とかなるとは思うが、その道中で道に迷ったり魔物とかに襲われても俺は太刀打ちが出来ない。逃げ足には自信があるが、包囲とかされたらどうしようもないしな
「安心しろ、護衛兼案内係も付ける。勿論、全費用ギルド持ちでな」
「マジですか」
「あぁ、既に護衛役には話を通してあるし、馬車も取ってある。極論を言っちまえば、馬車に乗りさえすれば、後は寝てればいいのさ」
「えぇっと、それなら尚更俺が行かなくても良いんじゃないですか?」
「この世界の勉強も兼ねてんだよ。お前はまだまだ世間知らずだし、届け物が終わったら、向こうのギルドで『冒険者』として色々学んでこい」
なるほど、どうせならってヤツか。実に効率的で、ギルドマスターらしい。
「王都までって運が悪ければ、結構ヤバい魔物も出ますよね?俺みたいな足手まといが居てもどうにかなる人ってこの街にそこまで居ませんよね?」
そこまでの実力者はこの街に六人くらいしか居ないだろう。……まぁ、その内の二人はギルド職員のギルドマスターとリアさんなので除外だけど。
「誰なんですか?」
「それは当日のお楽しみだ」
「えぇ……」
折角なので挨拶をしに行こうと思っていたのだが、どうやら当日までは教えてくれないらしい。……てか、予想してる人達と違って、全く知らない人が来たら気まずくなりそう。
「出発は明日の昼だ」
「_____明日の昼!?急すぎませんか!?食料とか色々準備_____」
「殆ど用意してるから後で【アイテムボックス】にぶち込んどけ」
どうやら既に俺を送り出す準備は出来ているらしい。いや、替えの服とかはギルドの制服以外全部【アイテムボックス】に入れてるからそんなに問題は無いんだけど、急すぎて全然心の準備が出来てない。
そんな事を言っても行かされることには変わりはないし、別に断るつもりも無いんだけど。だが、初めての旅には心の準備期間が必須だろう。
「そんじゃあ、荷物仕舞ったら他に必要なもの用意してこい」
そんな俺の心の内には微塵も興味が無いのか、ギルドマスターが机にあった皮袋を此方に投げつけてくる。
「__金貨じゃないですかっ!?……し、しかもこの量っ……!?」
これだけあれば、夢のマイホームにグッと近づける……というか、余裕で手が届くだろう。こんな大量の金貨を軽々しく投げないで欲しい。金銭感覚壊れてるよ。ちょっとでもいいから、コレを__
「残ったらやるからさっさと行ってこい」
「イエス、マム」
__俺は元気よく返事すると金貨袋を抱えながら、勢いよく外に飛び出たのだった。
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