第66話

 ギルドマスターに蹴り飛ばされ、全治二ヶ月へと進化してから二週間後。


「呼びましたか、ギルドマスター」


 俺は松葉杖をつきながらギルドマスターの部屋へと呼び出しを受けていた。


「おう、やっと来たか」


「久しぶりに会う俺への台詞がそれで良いんですかこの野郎」


「……?何言ってんだ?」


 本気で分からないみたいな顔をするんじゃありません。アンタ、見た目が幼女みたいだからって、すっとぼけりゃ許されると思ってんじゃないだろうな?


 ……ぶっ飛ばすぞ!?代償として命失うと思うけど、ぶっ飛ばすぞ!?


「アンタの性で二週間も病院のベッドに磔になったんだま!!!確かに言うこと聞かずに仕事しようとした俺が悪いかもしれないけど、怪我人を蹴るな、怪我人を!」


「その件か_____ムシャクシャしてやった。反省はしてる、謝罪はしない」


「おい、反省してないだろアンタ」


 普通、人の怪我を悪化させたら罪悪感から謝罪が自然と口から出るはずだ。それなのに、声高らかに謝罪はしないとか……人としてどうなんだソレは。


「何度も言わすな、反省はしてるっつってんだろ。その証拠としてほれ」


「__おっ、ととっ!?……何ですかコレ」


 突然投げ渡されたのは、小指程の小さなガラス瓶だった。中には何やら赤色の液体が入っており、目を凝らさなければ分からない程度の発光を繰り返している。凄い高級そうな瓶に入ってるけど、正直感想を言うとすれば非常に不気味である。


 チラリと瓶とギルドマスターを交互に見ると、ギルドマスターが獰猛なと笑顔になる。わぁ、こっちの方が不気味な光景だぁ……。


「飲め」


「……コレを?」


「あぁ、そうだ」


「……誰が?」


「お前以外に誰がいるんだ?」


 ……これって、どう見ても直飲みする系の奴じゃないと思うんだけど。絶対、何かの錬金術とかで使われる素材とかだろ。


「大丈夫だ、死にやしねぇよ」


「死ななかったらなんでもいい訳じゃないですからね?えっ、本当に飲まなきゃダメですかコレ……」


 俺がコレを飲まされるのはどうせ決定事項だろし、飲んだ瞬間吐けば何とかなるか______


「吐いたりしようものなら、その瞬間ぶん殴る」


 ……。……知ってた!逃げ道なんて残されてるわけがないよね!


 飲まなきゃ殺されるのなら、飲む以外の選択肢など残されてはいない。覚悟を決めて飲むしかないだろう。




「__ッ!?」


 ガラス瓶の蓋を開けると、嗅いだことの無い臭いが鼻を突き抜ける。臭くもないし、良い匂いでもない。。胸の奥がムカムカするというか……本能的に瓶を捨てたくなる。


 もちろんそんな事をしようものなら、後日、動かなくなった俺が粗大ゴミとして捨てられてしまうのだろう。


 流石に二度目の人生をそんなに簡単にゴミ箱にダンクシュートさせるわけにはいかない。


「_______えぇい、ゼロ様俺にパワーを!!!」


 意を決してその液体を口に流し込んだ俺は、舌でそれを味わうことなど一切せず、そのまま胃へと流し込むつもりで飲み込んだ。


「……あれ?なんにもな_________ィッ!?」


「おっ、始まったか」


 身構えていたのに何も起きなくて、油断していた俺の体にとんでもない激痛が走り、俺は松葉杖を放り投げ、ろくに受け身も取れず地面を転がる。


 まるで、俺の体を内側からが突き破って出てこようとしているみたいな痛みだ。


「_______ウァッ、ツウッ______!!!」


 体が熱い。ちょっとでも気を抜けば灰になってしまう。そんなありえないはずの光景が俺の脳裏にいとも簡単に浮かんでくる。


 脳に電流が走る。意識が飛びかける。頭が割れそうになる。視界が真っ白になる。身体中が針を深深と刺されているみたいに痛む。


「______踏ん張れよ?まぁ、テメェは負けず嫌いだからそんな事言わなくても、自力で踏ん張るだろうがな」


 そんな中、俺の事を笑って信じる理不尽上司の声が聞こえる。


「______アンタ、覚えてろ、よっ!!?」


 こんな理不尽な上司からの命令で死ぬなんて、死んでもごめんだ!どうせ死ぬなら胸の大きなマトモな女性からの命令で死にたい!それか、ガチャで大勝利して脳汁ドバドバ状態出死にたい。


 おぉ、何か知らんが体はすげぇ痛いのに全身に力が漲って______。


「______ぬァァァァ!!!」


 胸の中から混み上がってくる熱い何かに背を押されるように、勢いよく立ち上がる。息を切らしながら、地面に膝を着くと、机の上に座って笑っていたギルドマスターと自然と目が合う。


「_____はぁっ、はぁっ!……なんですかっ

、コレっ!?」


「ドラゴンの鮮血だ。それも下位レッサーなんかじゃない上位の中でも更に貴重とされる古代種のな」


 アンタ、そんなとんでもないもん飲ませやがったのか。


「ちょっとでも心が折れりゃ、そのまま竜の呪いに侵蝕されて破壊衝動に支配されるって代物だが……折れずに自分を保てたのなら_______凡ゆる病を打ち消す」


「……?______うわっ、ホントだ!?骨折とか全部治ってる!?」


 まさか、怪我をさせたのが申し訳なくて俺の為にわざわざ取ってきたのだろうか?怪我をさせたのもわざとじゃないっぽいし、許してあげなくもないんだからね!


「取ってきたんですか?」


「まぁな。どっちにしろ、お前の怪我はコレで無理やり治すつもりだった……だから、別に怪我させても治るから良いんじゃねぇかと」


「_そうはならねぇよ!」


 後で治るからって怪我させていいわけねぇだろうが!この人やっぱりイカれてる!?


「治ったから良いじゃねぇか」

 

「良くないよ!?その理論だとわざと腕折ってもヒールかけたら許されるじゃん!アンタはもう少し他人の痛みを知れ!」


「うるせぇ!女々しいぞ男のくせによォ!」


 俺たちの言い合いを聞いたリアさんが怯えながら部屋に入ってきたので、詳しく説明したところ、俺とギルドマスターを交互に見てドン引きしていた。……ギルドマスターにドン引きするのは分かるけど、何で俺をそんな目で見るの?


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