三章 再会
○○の器の中で
深い深い、闇の中。何も見えない上に、殆ど音らしい音すら聞こえない、真っ暗な場所でふと覚醒する。
ここが何処かは分からない。だが、ここは自分に取って、なくてはならない場所なのだということが分かる。本来なら、こんな闇の中に入れば、気が狂ってもおかしくは無いのに、依然として心は穏やかなままであり、凄く落ち着く。
『おや、珍しいのぅ。ぬし様からコチラに来るとは』
「お前は……?」
『ありゃ、本来の手順とは違う形で来てしもうたか。であれば、ワシ様らのことが分からんのは仕方ないのぅ』
暗いモヤが掛かっていて、良く見えないが、美しく、そして目が眩む程に眩しい何かが、フラフラと揺れる俺の肩を支え、ゆっくりと横に寝かしてくれる。感触は無いが、声の聞こえ方的に、膝枕をされている気がする。
「……ごめん、ありがとな」
『よいよい、気にするな。ワシ様らはぬし様の中に住まわせて貰っているに過ぎぬ。寧ろ儂らが礼を言いたいくらいじゃ。のう、坊』
『……』
チキチキと、虫の鳴き声の様なものが聞こえてくる。その音のした方へと振り向くと、そこには、人型の何かが座って何かを食べている。目を凝らしてみると、キレイによそわれたカレーが見える。
__蟲だ、と妙な確信があった。全体像は黒いモヤのせいで分からないが、俺はこの二人を知っている。
「美味しい?」
『マワル、ツクル、ゴハン。オイシイ』
「そう?」
『ウン』
脳に響く少し不気味な声。何故か、すごく安心する声だ。
『このまま寝てしまえば、直ぐにでも向こうで起きれるじゃろう。余り、妙な渡りで疲れを引きずってもアレじゃ。今日のところは早く帰った方が良いな』
「……ここの記憶は?」
『消えるじゃろうがわし様が圧縮しておくとも。ここに来れば、おのずと思い出せよう』
「そっか、なら、いいか…な……」
意識が段々と微睡みの中へと沈んで行く。心地の良い子守唄とカレーを咀嚼する音だけが響いている。そんな不思議の空間の中、俺の意識は完全に途絶えた。
『……ふむ、どうやらキチンと元の場所に戻ったようじゃ』
『マワルクルシンデナイ??』
『あぁ。こっちに来た成果かは知らんが、寧ろ何時もより深い眠りに付いておるわ』
『ヨカッタ』
最近は元の世界に残して来た友人や家族の事を思ってか、あまり深く眠れて居らず、蟲はずっとソレを心配していた。だから、不完全とはいえ、こちらに来て嫌な感情を此方に落として行ってくれたのが嬉しいのだろう。
『カタヅケタラ、タベルネ』
『うむ、頼んだぞ』
カレー皿をパタパタと片付けに行った蟲を見送りながら、龍は先程から感じている違和感に付いて考えを深める。
『何時でもフリーパスで来れるぬし様があんな風に入ってくるとはな……。少し先の未来で何かが起きるのかもしれん』
おそらく、一番表層に在中している、一番の過保護が眠る彼を無理矢理此方に送り込んできた。
悩みを抱えると決めていた、廻の意向を無視してまでこちらに送り込んだ。本来であればありえない事だ。あの過保護な男は誰よりも彼に甘いが故、彼の選択を何よりも尊重する。そんな彼が許可を取らずに、無理矢理心を落ち着けようとするなど、そもそもが異常事態だ。
きっと、大きな何かが間近まで迫ってきているという事だろう。
だが、だからといって成すべきことは変わらない。___何があろうと、誰が死のうとこの少年だけは護る、それだけなのだ。
それこそが、彼に救われた我々に取って一番大切な事なのだから。
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