第26話
拳銃を使って女幹部を落とし穴にもう一度落とした後、俺は迫ってくる女幹部から逃げ切る為に森を上手く使いながら逃げ回る。
先程までは分かりやすく足跡を残しておいたが、今は出来るだけ足跡を消しつつ、定期的に【潜伏】によって気配を消して逃げている。
この状態でも【潜伏】を解けば、【逃走】スキルが機能するあたり、目視による追跡という説は無くなった。
やはりというか、当然と言うか、何らかの索敵系のスキルを持っていると言う事だろう。……常に位置バレしてる鬼ごっことか不利過ぎない?
「______捕まえた」
「______ちぃっ!?」
突然俺の真横に現れた女幹部に慌てて腰の拳銃を引き抜いたが、俺が銃口を向けるより早く、奴は俺を蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされた俺は勢いよく地面を転がると、そのまま一番近くに生えている木にぶつかって止まる。
偶然腕でガードは出来たが、骨が折れる音が耳に残響として残っている。痛い、泣きそう、マジで帰りたい!
しかし、まだまだ時間稼ぎには足りない為、こんな所で悠長に転がっている暇は無い。俺に出来ることと言えば、言葉と狡辛い手を使ってコイツを一分一秒でも長く此処に釘付けにしておくこと。
「全然捕まえてねぇじゃん!てか、殺す気か!」
腕の痛みを堪えつつ、勢いよく起き上がった俺は、鬼側からのタッチに抗議する。
「優しくタッチしてもどうせ逃げられる、でしょう?……あと、手加減は凄くしたからそれで折れるとは思わなかった、わ」
「何だぁ!俺が弱すぎるのが悪いってかぁ!ほっとけ、バーカ!」
俺は折れてしまった腕の逆側の中指を立てながら、先程の瞬間移動に近い女幹部の移動の原理について考える。
足音もしてないし、先程のハル達への攻撃時の移動方法に似ている。瞬間移動系のスキルか魔法なのは間違いないが……だが、それなら何故その能力を今の今まで使わなかったのかと言う疑問が生まれて来る。
純粋に鬼ごっこを楽しむために、使っていなかったのだと言う可能性も高いが、それなら何故今になって使う様になったのか。
「____うるさい、わね」
「______は?」
女幹部が先程までと違い、何故こんなに急いで俺を捕まえようとしているのかを考えていると、突然女幹部が苛立ったように舌打ちをし、目元を覆ってそう言った。
……もしかして、誰かと連絡でも取り合っているのだろうか?何のために?別働隊との連絡か?散々自由行動しておいて、今更そんな物を気にする必要がある?
他の魔族が戦闘中にも関わらず、自由行動をしているコイツに指示を出さなければならない理由。恐らく、何者にも変え難い『瞬間移動』という能力を持ったこの女への命令。
______そんなの、撤退か増援かしかないだろ。
それなら、あと少し、ほんの少しだけ粘れば俺にチャンスが回ってくる……筈だ。
「なぁ、お前さっきまで『瞬間移動』する能力なんて使ってなかったのに、何で今になって決着を焦ってるんだ?」
「……何のこと、かしら?」
「しらばっくれても無駄だ。幾らお前の身体能力が高いとは言っても、さっきの移動はおかしいんだよ。腕が折れるレベルの攻撃に【危機感知】の警報が鳴ってないなんて意味不明だろ。あと、死ぬ程目がいい筈のハルが追えてないのもおかしい」
彼奴は数百メートル先にある木から飛び立った鳥の種類をピタリと当てるレベルで目が良かった。その時はなんとはなしに言っていたから、もしかすると、もっと先の物まで見える可能性が高い。
「へぇ……」
女幹部の反応から俺の推測は正しいのだと言うことを察しつつ、更に俺は言葉をつづける。
「話を戻すぞ?何でお前がいきなりスキルを使ってまで追い詰めようとしているのか……タイムリミットが近づいてきて焦ってんだろ」
「貴方が街に援軍を呼びに行かせたのだから時間が無いのは当然だと思うけれど?」
「おいおい、援軍と遊ぶ為に俺との遊びで手加減してたのに、そんな心にもないこと言っちゃうんだぁ!」
こいつの様な戦闘狂が援軍を呼ばれたからと言って直ぐに逃げる訳がない。寧ろ援軍目当てでこの場に残るつもり満々だったんだろう。だからこそ、そのお楽しみを奪われそうになってこんなに苛立っているのだろう。
「さて、時間ないんならさっさと帰ってくれ。俺はお前に構ってる暇なんざないからな」
「あら、貴方の妄想が当たりだなんて私は言ってない、わよ?それに、もしも貴方の予想通りだったとして、私が急に焦り始めた理由が____」
「勇者だろ」
女幹部は大きく目を見開き、暫く固まった後
「_____へぇ」
と呟いた。
コイツは俺の狩りをゆっくり楽しんだ後、俺を助けに来た援軍と戦い、自分の欲を満たすつもりだったのだろう。
しかし、魔王軍と言う『組織』に所属しているとなるとそうも行かないらしい。
「お前らがこの国を『今』攻めて来てる理由は近々行われる予定だった勇者召喚の儀式を中止、又は召喚する前に再起不能まで追い込むため……だって知人から聞いた」
「……随分と情報通な知り合いがいるのね。それはこっちの陣営にいる者にしか分からない情報な筈なのだけど」
「別に誰がバラしたかなんてどうでもいいだろう。______もしかして、王城を攻めてる幹部が負けちゃったか?」
「貴方、一体何処まで……」
何が起きてるかは詳しいことは分からないが、コチラにとって好都合なことが起きているのは事実だ。なら、後はハッタリでもかますだけだ。
「その通信先は魔王様かな?」
「……随分と察しがいいのね」
「あっさり白状してくれて嬉しいよ」
此処にいるのがもう少し任務を優先する幹部なら、最後までシラを切っただろう。しかし、目の前の女は俺の予想が当たっている事に驚き、そして楽しそうに笑うと、予想に過ぎなかった俺の発言を自ら肯定する。そもそも彼女に隠す気など無く、彼女にとって自分の快楽を満たす事以外は悉くてどうでも良いのだろう。
「貴方やっぱり殺すには惜しいわ。……彼奴らの指示なんて無視して連れて帰ろうかしら」
「それで二人一緒に仲良く死刑ってか?残念だけど俺はまだ死にたくないからな」
死ぬのなんか一度で充分だ、と一人心の中で思う。いや、そもそも二度目がある事が奇跡なのだ。俺は運が良かっただけで、次はきっと無い。……何度も言うが俺は死ぬのが怖い。一度死んだからといって、慣れるものでも慣れていいものでもない。それは俺が死んで得た考えでもある。
「ふふっ、良い眼、ね?貴方となら魔王軍を裏切って一緒に逃避行するのも良い、わ」
「心底心揺れるお誘いだが、飼い慣らされるのは嫌いなんだ。それにまだ恩を返せてないのに、ギルド職員を辞めるなんてお断りだ、バーカ」
「あら、残念。こんな美人の誘いを断るなんて、ね」
「いくら美人でも性格に難のありそうな奴の誘いはこれまで何度もあったよ。全部断ったけどな。……てか、何でお前らみたいな奴って自分のこと自分で美人って言っちゃうの?恥ずかしくないの?」
「事実なんだも、の」
「……けっ、これだから自分の容姿に自信のある奴は……」
俺の皮肉をヒラリと返した女幹部に悪態をつくと、使い物にならない右腕をダラリと脱力させながら、逆側の腕と木を上手く使って立ち上がる。……もう充分に時間は稼いだ。後は盛大に花火を見せるだけだ。
俺はポーチからスイッチを取り出すと、見せつけるようにして前に出す。
「……あら、まだ何かあるの?」
「正真正銘のラストの仕掛けだよ。正直なところ使ったら俺も危ないし使いたくないんだけど……自分の運を信じて使う」
「________へぇ、そんなに凄い攻撃がまだ出来るの、ね?……本当に殺すのが惜しい、わ」
「こっちも出来れば、ここまで話した相手を殺したくはないんだが……そっちはそうも行かないんだろ。まぁ、頑張って生き残ってくれ」
そう言った俺は躊躇いなく、スイッチを押す。すると次の瞬間。
「_______ッッ!?」
「え、ちょっと待って思ったより威力強っ_______」
______地面が大爆発した。
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