第24話

 

 俺はゼロ様からの助言に従い、貯めておいたポイントを全て使い、お目当ての物が出るまでにガチャを回した。ガチャをしている最中は正直気が気でなかったが、何とか目当てのものを入手する事が出来て良かった。


「で、ハル達は何処にいるんだ?」


 ガチャを終えた俺はハル達と合流するため森の中を走り回っていたのだが、全然見つからない。……そう言えば、何処にいるとか教えて貰ってなかったな。


 俺ってそこまで身体能力高くないから、このだだっ広い森の中から二人を探すなんて不可能だろ。木の棒を倒して倒れた方向にでも向かってみるか?運任せにも程があるけど、正直それくらいしか方法が……。


「あー、もう何______は?」


 天を仰いだその瞬間、直上を俺より大きい大岩が通過する。人を一人容易く潰せてしまいそうな大岩は俺の数メートル後ろの地面に勢いよく落ちたあと、勢いを落としながら木々を薙ぎ倒したのだった。もう少し後ろに居たなら間違いなく潰されてぺちゃんこになっていただろう。


 俺はあまりの出来事に速攻で心が折れそうになったが、何とか心を強く持つと、大岩が飛んできた方向に向かって走り出す。大岩が飛んできた方向に向かっていくにつれて、金属同士がぶつかり合う音や、石が砕けるような音が近づいてきた。


 音の原因の場所まで走ると、少し足元がごちゃごちゃとした遺跡の様な場所に辿り着いた。俺は足音を立てないように慎重に歩きながら、音の原因を物陰から除くとハルとシスターの姿が見える。


 幸いにも二人とも軽い切り傷などは負っているが、生死に関わるような怪我はしていないようだった。ま、まぁ二人とも強いから、心配なんてこれっぽっちもしてなかったんだけどね!


 少しだけ疲労の色が見える二人の足元には大量のオークの死体が転がっており、正面には扇情的な黒のドレスを身にまとった女性が銀に輝くナイフをクルクルと片手で回していた。


「____これが、魔王軍幹部っ……」


 額の汗を拭いながらそう言ったハルは杖代わりにしていた剣を地面から引き抜くと、楽しそうにナイフをいじくり回す女性に向けて剣を向ける。


「何のスキルか知りませんけど、私達の攻撃が一切効いていないのも厄介ですね〜。障壁なら力づくでも割れるはずなんですけど、そんな気配もありませんし」


 メイスに付いた血を振って払ったシスターは、いつも通りの口調で目の前の魔王軍幹部をじっと見つめる。


「あら、一応効いてはいるわ、よ?攻撃される度に治している、だけ」


 そう言った魔王軍の幹部とやらは自分の腕にスパッと傷を付けると、二人に向かって見せるように腕を突き出した。……確かに傷が出来たはずなのに、血が流れ出る前に再生されている。


「アンデッドの類……ではないですよね〜」


「試しに浄化の魔法でもかけてみたらいいんじゃないかし、ら?」


「そこまで『生の力』に溢れたアンデッドなんて存在しませんからね〜。おおかた呪いの類でしょう〜?」


「くふふっ、どうかしら、ね」


 楽しそうに笑いながらいきなりシスターに斬り掛かる女幹部。しかし、その斬撃は横にいたハルに防がれる。ソシテ、ハルが止めると分かっていたのか既に攻撃の体制に移っていたシスターが女幹部の頭に目掛けてその頑強そうなメイスを叩き込む。


 ゴンっと、鈍い音と共に女幹部の頭から血が流れ大きく吹き飛ぶが、立ち上がる頃にはもう既に傷は無い。


「厄介、ね。間者からは貴方と『大英雄 イリス』と『氷結の牙』以外に強敵は居ないと聞いていたの、だけれど」


「はっ、それは其方の間者が間抜けだったと言うだけでしょう。そんな技術的に拙い人間しか送り込めないとは、そちらは随分と人手不足の様ですね」


「安い挑発、ね。それにしても、貴方何処かで見た覚えがある様な気がするの、だけど」


「生憎、拙者には魔族の知り合いなど存在しない。分かったのなら、その首を置いてさっさと消えろ」


 悩む様に人差し指で顎に触れた女幹部の疑問を一瞬で切って捨てたハルは、シスターより一歩前に出て刀を構え直す。いくら考えても疑問は解決しなかったのか、女幹部は一つ溜息を吐くと応戦するように、腰からもう一本の禍々しいナイフを抜き取った。


「あまりこの子を血で濡らしたくは無いんだけれど、貴方達みたいな御馳走相手に本気で挑まないのは勿体ないわよ、ね?」


 ……見ただけで分かる。あのナイフはヤバい。一体何がヤバいのかは詳しいことは分からないが、俺の新たなスキルである【危機感知】があのナイフが目に入った瞬間、けたたましい程のサイレンを鳴らす。ハルやシスターも先程とは違う女幹部の殺気の強さに先程よりも一層集中を高める。


 そして、僅かな静寂の後、は消えた。


 ……いや、正確には消えたでは無い。俺の目にはその決定的な瞬間は見えなかったが、幹部の女は一瞬にして二人の間に割って入る様に突如として現れたのだった。


「_____なっ!?」


「___ッ!」


 その攻撃に反応し回避が間に合ったのはシスターのみで、ハルは女幹部に目にも止まらぬ速度で攻撃を入れられ、勢いそのまま俺の隠れている茂みの数メートル先に生えている木に吹き飛んできた。


 思わず茂みから出そうになったが、自分のやるべき事を思い出し何とか踏みとどまる。


 今、茂みから出て行ってしまえば【潜伏】スキルの効果は切れ、俺は女幹部に一瞬で殺されてしまう。そうなれば、ゼロ様が授けてくれた策は無意味になり、街がボロボロになる結末に直行だ。


 _____今は耐えろ。アイツが絶対に避けられない場所に近づいて来るまでは。


 そう自分に言い聞かせ、歯を食いしばる。


「あら、あの一撃でも死なないの、ね。随分しぶとい、わね」


「_____ゲホッ、ゲホッ……」


 俺から約数メートル離れた場所にいるハルが、血を吐き、咳き込みながら蹲る。死んではいないが重傷であることは間違いない。女幹部はそんなハルを不思議そうな顔で見つめると、後ろにいるシスターの事など気にもせずに、蹲るハルのにトドメを刺すためにゆらゆらと近づいて行く。


「行かせませ____」


「邪魔、よ」


 シスターが後ろから攻撃を仕掛ける為、一歩踏み出したが女幹部がシスターを妖しく輝く紫色の瞳で一睨みする


「_____身体が!?」


「取っておきの隠し玉、よ?貴方はそこでこの子が殺されるのを眺めていな、さい。大丈夫、貴方も直ぐに後を追わせてあげる、わ」


 完全に不意を付かれたシスターは、懸命に身体を動かそうとするが、何か目視出来ないなにかに阻まれているのか、ピクリとも身体を動かせずにいる。


「私の疑問も貴方の首を持って帰れば済む話だし、さっさと終わらせま、しょう。大丈夫、痛くないように優しく殺してあげる、わ」


 そう言って今にもナイフを振りおろそうとハルの眼前まで女幹部が近付く。


 ____今がチャンスだ。


「____おらぁっ!!!」


 女幹部が明らかに油断したその瞬間、俺は茂みから飛び出し、特徴的な装飾のされた銀のボールを女幹部に向かって投げつける。


 完全なる不意打ちが成功した_____が女幹部は難なく、俺の【投擲】した物を受け止めた。うーん、ノールックキャッチは聞いてないぞ。


「へぇ……。私に気付かれずに隠れるなんて、随分と【潜伏】スキルのレベルが高いの、ね。でも、悲しいことに貴方のステータスじゃ、私に攻撃するのは不可能、よ」


「……参った参った。確かに完全に死角から投げたのにキャッチされるとか勝ち目ねぇや。どうぞ、煮るなり焼くなり好きにしてくれ」


「随分と潔___」


「_____なんて言うわけないだろ馬鹿が!」


 俺のその言葉に一瞬困惑した表情を浮かべた女幹部だったが、何かに気づいたのか慌てて自分が受け止めてしまったものを手放そうとした______が、僅かに遅い。女幹部がが手を離す前に、銀の球体は青い輝きを発しながら、女幹部を閉じ込めるようにして大きな銀の球体の結界を張った。


「おいっ、ハル大丈夫か!?」


 俺は女幹部が閉じ込められたのには目もくれず、素早くハルの元へと駆け寄り、アイテムボックスから取り出した上級回復薬ハイポーションを飲ませる。


「_____ケホッケホッ!……マワル殿、ですか……」


 淡い緑の輝きがハルを包み、意識を失いかけていたハルの瞼が開く


「……あんまり喋んな。俺の持ってる中で一番上等な回復薬ヤツを飲ませたけど、完璧に治ったわけじゃない」


「いえ、もう大丈___ひゃっ」


 息絶え絶えにそう言ったハルをお姫様抱っこの形で持ち上げると、シスターの近くに下ろす。何だか、ハルが赤い顔で口をパクパクさせているが、放っておく。緊急事態だし、時間もないから只今文句は一切受け付けておりません。


 ハルを降ろした俺は、腰から一本の無色透明な液体が入った瓶を取り出すと、相変わらず固まったシスターにその一本しかない貴重な薬を掛ける


「ありがとうございます〜」


 拘束が解けたシスターはいつも通り、ほわほわした口調でお礼を言ってくる。


「……何か、緊張感ないですね」


「えぇ〜。途中でマワル君が来ていたのは気づいてましたからね〜」


 ……つまり、あの慌てたような言動は気付いていた上で演技をだと。純粋にその精神力が凄いし、俺への信頼度が半端ない気がする。


「マワル君は弱っちいですからね、無策で来るようなお馬鹿さんじゃないと踏んだんですよ〜。」


「………弱っちいって言わないでください」


 事実だけど、普通に傷付く。


「マワル殿、アレは……?」


 少し調子が戻ってきたのか起き上がったハルが、恐らく女幹部が中に入っているであろう、人間一人分程の大きの銀の球体を指さす。


「あれか……使い切りの超貴重品シークレットアイテムだよ」


【女神ガチャ】レベル一のシークレット枠として用意されていた、とんでもない効果を持つ魔道具。本来、緊急時に自分一人の身を守る為のアイテムで、使えば『五分間如何なる攻撃も効果をなさない外界と完全に切除された結界を張る』というものだ。


 どんな攻撃も効かない反面、中からも出れないと言う使い所に困るアイテムだが、ここまで有効に使える機会などそうそうないだろう。


「……取り敢えず、時間も無いし今起こってる事を説明します」


 アイテムの制限時間は五分で、ダラダラと喋っている時間はない。急ぎ足で現状の状況と、作戦を伝えなければならない。


「今、ハルとシスターも受けていた通り、現在、俺たちは魔王軍による襲撃を受けています。目的はオークキングのサポートを行い、街を蹂躙すること。現在王都も攻めているらしいので、こっちは幹部二人と少なめですが、正直結構やばいです」


 もう一人の幹部が向かっている場所はフロストの兄貴や他の冒険者もいる洞窟。フロストの兄貴達は何とか他のオークも合わせ、ギリギリで捌いているそうだが限界は近い。


「これを打開する条件は三つ。一つ目は、誰か一人が街に行って増援を呼んでくること。二つ目は洞窟にもう一人が増援として向かう事。そして最後が____アイツをそれまでの間抑えておくというものです」


 あの女幹部の性格上、抑えると言うと少しニュアンスが違う気がするが、それはこの際どうでもいい。


「役割はどうするんですか〜?」


「それはもう決めてます。まず、シスターには洞窟の増援に向かってもらいます」


 現在、この場で最もオーク達への増援として価値があるのは間違いなく、シスターだ。多少の疲労はあるとは言えど、シスターなら間違いなく洞窟の状況を打開できる。……それに、一応オーク相手に役に立つであろうアイテムも事前に作っているし


「これは何ですか〜?」


「オーク撃退用の秘密道具です。場を掻き乱す時にでも使って下さい」


「了解で〜す」


 ほわほわした口調でそう言ったシスターに一抹の不安を覚えながらも俺は腰にかけたポーチから幾つかの赤土色の玉を手渡す。シスターはそれをいそいそと自分のポーチへと仕舞うと、すすっと一歩下がった。


「そんでハルの役目だけど……」


「囮ですね!お任せ下さ___」


「_____いや、街へ増援を呼びに行ってもらう」


「____へ?」


 俺は意気揚々と囮を名乗り出たハルを一蹴すると、ハルに与える役目を告げる。呆気に取られるハルと驚いた様に目を見開くシスターに苦笑しつつも、俺は理由を続ける。


「理由としては単純に足の速さ、だな。俺は逃げてる時にしか補正つかないし、誰も死なないことを目標にするんだったら、多分これが最善策だ」


「しかし、マワル殿では彼女を抑えることなど……」


「確かに厳しい……てか、無理だろうな。でも、それは武器が壊れてるお前もだろ」


 納得のいっていないハルの手元にある折れた刀をを指差すと、ハルは驚いた様に自分の手元に目線をやった。先程まで原型は保っていたのだが、ハルの特殊な体質のせいなのか、ボロボロと崩れ始めいる。


「で、ですが!」


「安心しろって。一応、秘策もあるし」


 尚も引き下がろうとしないハルを安心させるようにそう言ったが、ハルはブンブンと首を振るだけで、中々引き下がってくれない。……しょうがないので本音を吐露する。


「……ぶっちゃけ、話してる間に速く街へ言ってもらった方が俺の助かる確率は高いからな!________分かったら速く行け!!!」


「____っ。……分かり、ました」


 有無を言わさない声量と強めの口調で言うと、ハルは何かを堪えるように歯を食いしばると、駆け足で街へと向かって走り出した。……俺がこの後も生きていたのなら後で謝るとしよう。


「マワル君は照れ屋さんですね〜。素直に死んで欲しくないって、言えばいいのに〜」


「……そんなの当たり前ですよ。俺は誰にだって死んで欲しくありません。リアさんにだって、孤児院の皆にだって、シスターにだって、勿論、ハルにだって死んで欲しくない。」


 ……俺は弱い。きっと俺がこう思っていても、皆を守れない時は来てしまう。なんなら寧ろ、俺は皆に守られる側に居る。いや、居てしまっている。男としては情けない限りだが、そこはまぁ適材適所だ。


 まぁ、だから____『今』は俺が助ける時だ。


「この役目は俺にしか出来ないことです。だから_____やります」


「_____そうですか〜。なら、一つだけ約束して下さい」


 覚悟を決めた俺を見たシスターは、一本指を立てるとずいっと俺に近づいて来る。俺はその勢いに若干気圧されながらも、シスターの言葉の続きを待つ。


「____帰ってきたら、私に『かれー』の作り方を教えて下さいね〜」


 ……真剣なトーンで言うから何を言うかと思ったが、シスターはシスターだったようだ。まぁ、そんなシスターだから、子供達に人気なんだろうが。


「そんな事でいいなら喜んで。俺としてもバンバン地球料理は広めていきたいので」


「約束ですよ〜!では、また後で〜!」


 最後の方に本音を混ぜつつ、シスターを見送った俺はクルリと後ろを振り返る。_____正念場はここからだ。女幹部がゼロ様の推測通りの奴ならば間違いなく、乗ってくるだろうが、もし違えば……全てが終わる。その時は足に噛み付いてでも時間稼ぎをしてやる。


 背中に冷たいものが流れ、心臓が激しく鼓動する。俺は何とか深呼吸を繰り返し、早鐘を打つ鼓動を押さえつけた。……これから虚勢を張ると言うのに、こんな状態では彼女を話に乗せることすら出来ない。


 落ち着かない俺はやるべき事の再確認とばかりに先程のゼロ様とのやり取りを思い出し始めた。











「……鬼ごっこですか」


「まぁ、優しくいえばそうですね。捕まれば間違いなく殺されちゃう辺り、そんなに優しくありませんけど」


 怖い事を言うゼロ様に俺はブルりと背筋を震わせながら、その作戦を聞いた上で浮かび上がった疑問について尋ねる。


「その女幹部とやらは本当にそれに乗ってくるんですか?」


「えぇ、彼女は私が調べたところ、根っからのサディストですから。マワルさんみたいなタイプからの誘いを断らないわけありません」


「……弱そうだから、虐め甲斐があると」


「そ、そこまでは言ってませんけど」


 ……露骨に目を逸らすのは最早言っているのと同じですゼロ様。まぁ、確かにそう言った性質の女性に良く追いかけ回されていた俺からすれば、確かに理解は出来る。


「乗ってきたとして、逃げ切れる気がしないんですけど。……『逃げ足補正』のスキルにも限度はあるでしょうし」


「そこはアイテムを駆使して逃げてもらうつもりです。後、『逃げ足補正』のスキルは最大レベルまで上げると、『逃走』スキルに変わりますし、マワルさんのステータスでも十分に逃げれる様になります______多分」


 ……スキルって偉大だなぁ、と半ば現実逃避しながら、案外ガバガバなゼロ様の作戦を聞き続けた。














 ______ガバガバだ。その事実を思い出すと、自分が結構なピンチに居るのだと再認識し、何だかおかしくなって笑えてくる。


 _______会長もこんな時なら笑うに違いない。


 ……。……なしなし、今のなし。ピンチの時に会長の顔思い出すとかそれじゃあまるで……。うん、思い出すと、ちょっと懐かしくて泣きたくなるから、今は我慢しよう。


「ふぅー……」


 手はあるが、全てがハマるとは限らない。もしかしたら全部回避されるなり、破壊されるなりするかもしれない。


 ……覚悟を決めたと言っても、いざ今からやるとなるとしり込みはするものだ。


 そんな俺の心を嘲笑うように、魔道具の効果は切れ、パキパキとひび割れていく。すると、中から女幹部が不気味な笑みを浮かべながら出てきた


「_____私があの魔道具を止める事まで考えていたの、かしら。だとしたら、貴方は相当頭が回るみたい、ね」


「元々、俺のステータスじゃ不意打ちでオーク一匹仕留められる位だからな。それくらいで考えてんのが妥当だ」


「でも、不思議、ね。そこまで考えれる貴方なら、一人で残ってる貴方を私が殺すことくらい分かるでしょう、に。私、これでも心躍る闘いを邪魔されて結構怒ってる、のよ?」


「そりゃあ、悪かった。____だが、それなら俺だって友人を殺されそうになって、腸煮えくり返りそうだよ」


 俺の言葉を聞いて楽しそうに笑う彼女は、ナイフをクルクルと回しながら質問をしてくる。


「……なら、貴方は私を殺すの、かしら?いいわ、あの二人程のご馳走ではないけれど、貴方は長持ちしそうな感じ、だもの」


「生憎蹂躙されるつもりは無い。だけど、普通に闘ったら俺が一方的に瞬殺されて終わり……。だから_____そこで提案だ」


 ナイフをかまえ、走り出そうとした彼女を静止するように手を前に出す。


「私が圧倒的に有利なこの状況で、私が貴方の提案を飲むと思っているの、かしら?」


「まぁ、最後まで聞けよ。意外とアンタの性格なら気に入るかもしれないぞ?……手短に話すと、アンタには俺とゲームをしてもらう」


「ゲー、ム?」


「ルールは単純な鬼ごっこだが、武器アリ罠アリの殺し合い。鬼はアンタで逃げるのは俺。___サディストのアンタはこう言う遊び大好きだろ?」


「……私に得がない、わね。貴方の手足を切り刻んで、動けなくして弄んでも私の快楽は満たされる、わ」


 確かにそうだ。____だが、なら何故今すぐそれをしない?……俺は一度、その答えを似たような趣味を持つ人に聞いた事がある。


「_______こう言うのは『好みのシチュエーションがある』んだろ?本気で逃げられる方がアンタを唆る_____って言うのは何となく察しが着いてるし」


 たとえ、前者の方が合理的であっても、自分の欲を優先するのがこう言うタイプだ。コイツらは手間がかかったとしても、自分の好みのシチュエーションを作りたがるものだ。


 そして、当の俺はと言えば、ゼロ様からコイツの趣味を聞き、策に絶対に乗ってくると聞いた時、納得出来た。……だって同じようなやつが日本にも沢山いたから。


「ふふっ、貴方随分と面白いわ、ね?_____良いわ、もし私が貴方を捕まえたら一生飼い慣らして、あげる」


 ……何だか気に入られてしまったようで、捕まれば一生飼い慣らされるらしい。………余計に逃げなければ行けない理由が出来た。


「じゃあ、三十秒待ってあげる、わ。……。よーい____スタート」


 女幹部は手をパンっと叩くと、数を一から数え始める。


 ________そして、命を賭けた鬼ごっこが始まる。



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