第23話
……何だかよく分からない眠気に誘われてそのまま寝てしまったが、どうにも起きる気にならない。アレだよアレ、どうしても外せない用事があるのにも関わらず、気分が全く乗らなくて二度寝をかましてしまう。俺は今正しくそんな心理状態だ。
_____起きて下さい。
しかし、そんな俺の堕落したいと言う欲望とは裏腹に、頭にそんな声が響いてきた。何処かで聞いた事のある女性の声。……うわぁ……頭の中で誰かの声が響いてるとか……俺気持ち悪いなぁ。死にたい。
_____何でそんなにネガティブに!?あれれ……この魔法にそんな副作用あったかなぁ……。
……ほら、魔法とか言ってるよ。厨二病か俺は!異世界行ったはいいけど、俺にそんな大層な才能あるわけ無いんだし、使えるわけないだろうが!現実見ろ現実!
_____ネガティブなのか元気なのかどっちかにして下さい!____無理矢理起こすしかないですかね……えいっ!
「_____いったぁ!?」
腰の辺りにズドンッと響く衝撃が走る。余りの振動のデカさにバッと起き上がると、そこにはいつの日か見た真っ白の部屋が広がっていた。
「ここは……」
「_____はい、私の所持している空間ですね」
そう言って背後に立つのは俺を転生させた張本人であるゼロ様だった。え……?ってことは、俺死んだの?生憎だけど死んだ時の記憶が無いんだけど。
「あっ、別に死んだからここに来た訳じゃないですよ?身体はちゃんと向こうにあります。ちょっと厄介な事になってるので意識だけをコッチに呼び寄せちゃいました。一応、ルール違反ではあるのですが……マワルさんが見なかった事にしてくれれば、ギリギリアウト位までに軽減出来ます」
「どう頑張ってもアウトなんですね……」
まぁ、いまいち状況は読めないが、要約すると女神パワーで無理やりこっちに連れてこられたってことだろうか?身体は向こうにあるって言ってるけど、あっちの世界で魔物に襲われてたりしないのか?……いや、流石にそこら辺は考えてると思うけど。
「ちゃんと向こうの体には魔物避けの結界とか、他にも色々な結界を張ってあるので、寝てる間に魔物に襲われて体だけ死ぬってことは無いのでそこは安心して下さい」
俺の心の声を読んだのか、そんな風に説明してくれるゼロ様。アフターケアもバッチリとか完璧かよ。美人で仕事も出来るとか女神かよ。あっ、女神だったわ。かわいい、凄い、かっこいい。
「……あのそんなに褒めても何も出ませんよ?」
「対価を求めない心______ジャパニーズお・も・て・な・しです」
「……何か、テンションおかしくないですか?」
俺の心の声を読んでいるゼロ様が恥ずかしそうに頬を紅く染める。……それにしても、心の声を読むスキルってON/OFFが出来ないのか?……試してみるか。
___照れるゼロ様可愛い。照れてなくても可愛い。歩くだけでも可愛い。顔は言わずもがな、スラリとしたスタイルに、立ち振る舞いも綺麗。どう見ても完璧だ!結婚して下さい!
「……あ、あの恥ずかしいので止めて下さい。後、結婚は好きな人とするものなので私よ……」
「ゼロ様愛してるぅぅぅぅ!!!」
「____や、やめてください!?」
次いでに大声で愛を叫んでみたところ、大慌てで俺の口を塞ごうとしてきた。しかし、元より精神体だけの俺には神様だろうと触れられないらしい。
日本での生活を思い出す度、ゼロ様が至高の相手だって感じるもん。異世界に来てから変人と会う回数が控えめ……になってる気がしなくも無い気がしないけど、やっぱりぶっちぎりでゼロ様がマトモなのだ。まぁ、神様だから一番どうしようもない相手なんだけども。
「その……マワルさんは優しいですし、私よりももっと良い相手が見つかりますよ!」
「ありがとうございます」
言葉を選ぶようにしてゼロ様が慰めてくれる。でも、ゼロ様も優しいだけじゃ女性が寄ってこない事くらい分かってるだろう。……結局世の中、顔とお金だからな。
それに、俺はその二つを帳消し出来るほど性格良くない。いや、寧ろ結構ダメダメな自信がある。まぁ、俺はこんな自分が案外好きなので問題ないが。
「ところで俺を呼んだ理由って何ですか?」
「……そうですね。そろそろ本題に戻らないといけません。時間もあまりありませんし」
明らかに脱線していたので、本題に戻る様に促すとゼロ様が指をパチンッと鳴らした。すると、その合図と同時に白い机と椅子が目の前にポンッと現れる。
「どうぞ」
促されるままゼロ様の対面に座ると、一枚の紙をゼロ様が此方に手渡してきた。いきなり渡された紙に若干困惑しながらもそこに書かれている文字に目を通す。
「えーと、何々……?『魔物がつい最近になって活発化になってきた原因』?______確かに俺が来る前……ってか、俺が来る数日前まではもっと魔物の行動は落ち着いてたって聞きますが……もしかして、俺が原因だったりします?」
「いえ、マワルさんは全然関係ありませんよ。マワルさんはその……タイミングがすごく悪かったと言うか、私の判断ミスというか____と、とにかく続きをどうぞ」
気まずそうに頬掻きながら続きを読む様に促してくるゼロ様に若干不信感を覚えつつ、続きの部分に目を通す。
「『魔物の活発化には魔王復活が深く関係していると報告します』。……魔王?」
明らかにラスボス感の漂う名前が出てきた所で、俺の頭が一瞬思考を停止する。……最上級の魔法とかポンポン打ってくるあれだろ?魔王って確か物語のラスボスとかを務めてるチート塗れのキャラだろ?勝てる気がしない。会った瞬間に塵にされそう。
「……まさか倒せなんて言いませんよね?」
「えっ、倒せるんですか?魔王って、地形変動させる魔法をポンポンと撃てる上にすごく特殊なスキル持ってたりして、
俺はその言葉にほっ、と胸を撫で下ろす。どうやらラノベでありがちな無茶振りはされないようだ。……そ、そうだよな!せっかく転生したのに早くも死にそうな頼み事をしてくるわけないよな。
「……あれ?じゃあ、何で俺を呼び出したんですか?魔王復活を伝えるためだけじゃないですよね」
「えぇ、此処にマワルさんを呼び出した理由はある頼み事があるからです」
「……頼み事?」
そこはかとなく厄介そうな雰囲気で放たれた言葉に思わず身構える。
「実は魔王軍の幹部の一人がマワルさんの居る森に攻め込んできています。現在はシスターとハルさんが何とか押さえ込んでいますが______長くは持ちません」
「あの二人と!?俺別れて数分も経ってないと思うんですけど!?」
俺の体のある場所が見つかれば間違いなく足手まといになる。そうなれば二人は更に苦戦を強いられてしまうだろう。命の危機とかになったら流石に見捨てるとは思うが、多少のピンチ位ならあの二人は他人を見捨てない気がするので凄く不安だ。
「体は絶対に誰からも見えないので安心して下さい。間違ってもマワルさんの体を人質に二人が不利になることはありません」
ゼロ様の言葉にほっ、と胸をなで下ろした俺は、そんな凄い隠蔽までして俺に頼みたいこととは何かと身構える。
「マワルさんに頼みたいこと、それは______あの二人の代わりに魔王の幹部を足止めすることです」
俺の予想通りそんなとんでもない事を言い出したゼロ様に俺は思わず絶句する。俺よりも遥かに強い二人が苦戦している相手をを俺一人で足止めするだって?普通に考えて不可能だ。そんなことは分かりきっている。
「無理です」
瞬殺されて地面に転がりそうな気しかしない。そもそも二人で足止め出来ているのなら、俺は二人の援護に向かった方が良いのではないだろうか?
「とにかく今は手が足りませんから、街から援軍を呼んでこなくては行けません。……そして、残念なお知らせがもう一つあります」
「……まだあるんですか?あの街って辺境なんじゃ無かったんですか?あんまり狙うメリットがないような……」
「彼処は比較的周辺のモンスターも弱いので、駆け出し冒険者の修行の場所として最も適しています。…魔王軍からすれば厄介な冒険者を生み出すあの街は早めに潰しておきたい場所なんです」
「……だから、シスターとかフロストの兄貴とか辺境に居るのがおかしい位のレベルの冒険者が居るんですね」
「はい。ギルドマスターも一応街の守護のために彼処に居ますね。因みにシスターは孤児院の為に彼処に居るだけです。……彼女の教会での立場上、大都市にあまり行きたくないと言うのもあると思いますが」
その口振りだとシスターが教会で結構重要な立ち位置に居るみたいに聞こえる。……戦闘時の狂人っぷりを考えなければそこそこマトモだから、重要な立ち位置に居たとしても別に不思議じゃないけど。
「二人が交戦している魔王軍幹部はそこまで近接戦闘が強い訳では無いので何方かが援軍を呼びに街まで走ってくれればその幹部は間違いなく撃退出来るはずです」
「それなら、俺が囮になる意味無くないですか?ぶっちゃけ、二人の内の一人がそのまま足止めの方が良い気がするんですけど」
……女性に命を賭けさせるとか我ながらクズな発想ではあるが、これが一番成功率が高いと思う。本音を言うと自分が死にたくないが為の言い訳でもあるが。
しかし、俺のそんな考えを否定する様に首を横に振ったゼロ様。……どうやら、そうもいかない理由があるらしい。
「それは出来ません。何故なら片方には洞窟に応援として行って貰わなければ行けませんから」
「……もしかして洞窟の方にも魔王軍の幹部が居るとか言いませんよね?」
口を噤んで沈黙するゼロ様。……どうも図星らしい。つまり、向こうにはオークキング+魔王軍幹部+オークの大軍が居るってことか。考えると地獄ではある。だが、それに一人の援軍を送った所で何か変わるのだろうか?……いや、洞窟班の方も元々倒す予定だった雑魚に強敵が増えただけだからこっちから一人強い人を援軍に送れば問題ない……のか?
「因みに俺はその魔王軍幹部から逃げ切れますか?」
俺が一番気になる疑問をゼロ様にぶつける。
「……正直、分かりません。一定時間『逃げる』事は可能でしょうけど、逃げ切る事が出来るかと言われれば、素直に頷けなくなります。私の立てた最善の作戦でもマワルさんが助かるかどうかははっきりと分かりません」
目の前にいる存在は仮にも……いや、神様だ。その存在がそう言うのであれば本当にギリギリなのだろう。
「……」
俺は青い空など無い、白い空間で目を瞑って天を仰いで、両拳を力一杯握る。
____死にたくない。
一回死んだからと言って、死に対しての恐怖が無くなる訳では無い。……寧ろ、次はやり直しなんて無いと分かっているから余計に怖い。
……前の『死』は手違いだった。だが、今回死んだとしても手違いとはならないだろう。だから、死んだらそこで終わり。俺と言う存在は漂白され、輪廻に戻される。俺が俺で無くなるのは凄く怖い。
「……因みに俺が断ったらどうなりますか?」
「そうですね……。全壊……とまでは行かなくとも街は半壊するんじゃ無いでしょうか。魔王軍の幹部は手が空けば【
ゼロ様がなるべく機械的に感情を入れずに喋ってくれているのが分かる。……俺に選択を委ねてくれているのだろう。逃げても良いんだと暗に言ってくれている。
……きっと此処で逃げるのは簡単だ。魔物と戦ってたとでも言って戻れば特にお咎めなしで生き残れるだろう。誰も神様と話してたなんて言っても信じてくれないだろうし、言わなきゃバレないだろうから、きっと何の罪にも問われない。
……良く考えれば知り合って、一ヶ月も経っていない人達のために命を張る必要なんて無い。……誰だって自分の命が一番大事だ。死ぬ事が怖いなんて当たり前の事でそれを責められる謂れなんてない。
……いっそ、森にでも逃げて良さげな洞窟にでも住んでやろうか?食料はガチャがあれば問題ないし、何とか暮らしていけるだろう。
「はぁ……」
そんなありもしない未来を想像すると思わずため息が出る。一人で洞窟暮らしとか頭が狂っていく気がする。ずっと一人で平気な程強靭なメンタルは無い。
いっそ違う町まで行って冒険者として暮らそうか?ハルやシスターも生き残っていたらの話だが、一緒にきてくれたりしないだろうか。
……うん、想像してみると案外悪くない。ハチャメチャではあるが、きっと楽しく生きれる。依頼をこなしてきたお陰でそこそこのお金はあるし、出立金程度にはなるはず______
「____あぁ、面倒臭ぇ!!!」
頭の中がごちゃごちゃになって思わず声を荒らげる。
……自分でも何故逃げないのか意味が分からない。自分の命より大切な物なんて無い筈だ。なのに、どうして_____自分は逃げないのか。
「本当に面倒だなぁ……」
……逃げようとしない理由なんて本当は分かっている。だから、これは覚悟が決まらなくて女々しくウジウジしてるだけ。最高に格好悪い。女性ですら命を賭けていると言うのに、一人だけ覚悟が決まらないまま此処に来た弊害だ。
「別に行かなくても良いんですよ?別に彼処以外にも良い街はありますし」
「……意地悪ですね。俺が知り合いを見捨ててのうのうと暮らせる程メンタル強くないって分かってるでしょうに」
「ふふっ、知ってます」
茶目っ気たっぷりに笑みを浮かべてそう笑った目の前の神様に釣られて思わず笑みが零れる。笑いが収まった頃にポツリと呟く。
「……ゼロ様、俺死ぬのが怖いです」
「えぇ、知ってます。私だって死なれるのは嫌ですよ」
「……痛いのも嫌だし、魔王軍の幹部とやらに追いかけられるとか言う事故で何人か死んでるジェットコースター顔負けのアトラクションなんてやりたくもないです」
「私だって怖い人に追いかけられるのは嫌です。でも______」
俺は、そこで大きく息を吸う。自分がどうして逃げないのか____
「_____知り合いに死なれるのはもっと嫌です」
「えぇ、知ってます」
吐き出す様にそう言った俺の言葉に唯頷くゼロ様。……きっと、彼女は本当に知っていたのだろう。なんて言ったて心が読めるんだから。
俺がヘタレでビビりで意気地無しなのも。
俺が他人を見捨てて生られるほど、鋼メンタルじゃないのも。
たった今覚悟を決めた事も。
_____きっと彼女は知っている。
気合いを入れるように両頬をパンッと叩く。……。……痛い。慣れないことはやるべきじゃないな。……気を取り直すようにグッと背伸びをする。……覚悟は十分、気合いも十分。
怖気付いていても、許される時間はもう終わった。今度は俺が______助ける番だ。
「さぁ_____いっちょやりますか」
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