第17話
現在、仕事を終えた俺とハルは街の外れにある孤児院へと向かっていた。序に今日の孤児院の晩御飯を作る為に必要な食材を市場で買い足す。肉系や調味料はガチャから沢山出てくれるのだが、野菜などはガチャから一切出てこない為、こうして色々と買い足さなければ栄養バランスがおかしなことになってしまう。
「そんなに買って大丈夫なのですか?良ければお持ちしますが……」
「大丈夫、故郷でも買い物位してたからな。このくらいの荷物どうってこと無______いや、嘘ついた。じゃがいもと人参の重みで指潰れそう……!」
「無理はせずに拙者にお任せてください。いつもお世話になっておりますし、荷物持ち程度お易い御用です!」
「いや、大丈夫だ。……大丈夫だから離せ」
すっと買い物カゴの持ち手を掴んだハルに断りの言葉を入れ、ハルから荷物を遠ざけようとするも、俺より遥かに強い力で押さえ付けられカゴがピクリとも動かない。
「……悪いが、俺にも男のプライドってもんがあるんだ。幾らステータスがお前より弱くたって、女に荷物待ちなんて絶対させるか!」
「へ、変な意地を張らないで下さい!見るからに腕がぷるぷる震えてますから!」
「……いや、これ武者震いだから。今から度肝を抜く料理を作ってやるという決意の現れだから」
意地を張る俺と、ハラハラとした様子でこちらを心配そうに見ているハル。クソッ、レベルの恩恵でちょっとステータスが上がったからって調子に乗るんじゃなかった……!あと、良く考えたら今日カレー作るつもりなのに、こんなに野菜要らねぇじゃん!見た事ない野菜の数々にテンション上がっちゃうとか俺は子供か。
俺はため息を吐きつつ買い物カゴに手を突っ込むと、今日は使わない異世界特産の野菜を【アイテムボックス】にしまい込む。勿論、ハルにはバレない程度にだが。
ギルドマスターやリアさんにこのスキルを見せたところ、大慌てで隠しておけと念を押されたので、あの二人と服屋のおばあさん以外は俺がこのスキルを持っていると言うことは知られていない。
何でも、このスキルがあるだけで色んなやつに拉致される可能性があるらしい。確かに凄いスキルだとは思うがラノベでよく見る単語過ぎて、そこまでレアじゃないんじゃないかと思ってたんだが……拉致されるレベルで貴重とか怖すぎる。拉致は会長に何度かされたのでもう懲り懲りだ。
「ところで、マワル殿の故郷ではどんな食べ物が食べられていたのですか?」
懐かしくも嫌な記憶に何とも言えない感情の揺らぎを感じていると、ハルがふと質問をしてくる。
「和食やら中華やら洋食やら色々あるな……。俺の故郷でメインに食べられてたのは和食と洋食のどっちかだと思う」
因みに俺は師匠が結構色んな国の料理を本格的に作れる人だったので、結構なレパートリーを誇っている。この世界じゃ材料が少な過ぎて、四分の三が死滅しているものの、いつか代用出来るものが手に入った時に腕が落とすわけにはいかない。
「『ワショク』……。『ジャパニーズスーシーチョベリグー』と言うやつでしょうか?」
な、なんか違う。い、いや、一応寿司は日本の文化だし違わないのか?と言うか、チョベリグとかいつの言葉だよ。とんだ死語じゃねぇか。
「寿司では無いけど、今日は孤児院で俺の故郷の料理作るつもりだし、食べて帰ったら良いんじゃないか?勿論、ハルが食べたかったらのは話だが……」
「ぶ、部外者の拙者がご相伴に頂いても宜しいのですか?」
「良いんじゃないか?寧ろ子供たちとかは冒険者と飯食えるって喜ぶと思うぞ」
折角の料理だ、大勢で囲んで食べた方がきっと美味しいだろう。シスターとか子供たちも喜びそうだし、来てくれた方が俺としては嬉しい。
「で、ではお言葉に甘えてご相伴に預かろうと思います」
ちょっと遠慮しがちではあるものの、珍しい料理には興味があるのかそういったハル。
「お手伝い等は必要ないのですか?子供とはいえ十数人分の料理などとても大変では……」
確かに料理人でもない俺はそこまで大人数の料理を作ったことがないように見えるかもしれない。でも、生憎ながら俺には小柄で滅茶苦茶細い癖にやたらと食う食いしん坊な幼馴染が居た。
いつも厨二病な台詞を吐いてばかりの性でろくに友達も居らず、両親も不在のそいつの食事を管理していたのは他でもない俺だったのだ。一人で五人分食うソイツと何故かいつの間にやらリビングに居座る会長、そして偶に帰ってきてはバカ食いする父親も居たし、十数人前など俺にとっては朝飯前だ。
「一応向こうではずっと料理を作ってたからな。これでも料理スキルのレベルは最大なんだ。まぁ、料理スキルが最大レベルだからなんだって話かも知れないけど」
「……。_____さ、最大ですか!?」
「うぉっ、いきなり大声出すなよ」
……待てよ?よく考えれば、スキルレベル最大ってそう言えば相当珍しいんじゃ_______。
「………おっ、もうちょいで孤児院に着くな」
「ちょ、ちょっと待ってください!最大、最大って言いましたか!?無理矢理話を逸らそうとしても駄目です!拙者の目を見てください!」
「ほら、もうすぐ孤児院着くんだし大人しくしてろよ。第一印象が大事だからな」
「衝撃的な事実を唐突に漏らされた拙者の気持ちにもなってください!い、一部のスキルを除いて、スキルレベルが最大に上がることなど殆どありませんよ!?そ、それも『料理』スキルのレベルが最大なんて、聞いたこともありません!!」
「じょ、冗談だよ……オレノリョウリスキルハ5レベルダヨ」
「……それでも、王都の人気店のシェフ並のレベルなのですが」
知らねーよそんな事は!おい、誰か俺にこの世界の細かい常識教えてくれ。このままじゃ、また口を滑らせて変なことを言ってしまう。
孤児院につくまで別の話を振ることで何とか誤魔化し、有耶無耶にすることに成功はしたが、後で確実に追求されそうだ。
「こんにちは〜。マワル君が今日も来てくれて助かりま_____あれ?後ろの子は初めて見る顔ですね〜?」
孤児院に着くと、シスターが外で俺を待ってくれていた。……待ってても暑いだろうし、出迎える必要は無いと言っているのだが、何故か最近はずっと出迎えてくれる。ほんと、ファーストコンタクトで俺に恐怖を与えてなかったら、俺も素直に美人の出迎えを喜べたんだけどな。二週間たった今でも、逆鱗に触れないように細心の注意を払っている。
「こんにちは、シスター。コイツは俺の知り合いの冒険者のハルです。シスターに話があるらしいので連れて来ました」
「私に話したい事ですか〜?私、他の冒険者さんから怖がられてるので、そんなのが来るのは以外です〜」
荒くれ者が多い冒険者にビビられる冒険者ってなんだよ。と言うか、ビビられてる原因は毎度毎度血塗れで報告に来たり、討伐した魔物の首を鷲掴みながら持ってくるからだよ。俺がチビるからやめて欲しい。
「怖がられてるのが分かってるなら直してください。あっ、そう言えばシスターに苦情が来てましたよ。『オークの首を持って街中を歩かないでください』らしいです」
「耳をゆっくり剥ぐ時間が無かったので頭ごと持って帰ってきただけですよ〜」
「それが駄目なんだよ!アンタ子供泣かす気か!?せめて袋に入れるなり、周りから隠す努力をして下さい!」
笑顔でサイコな事を言ったシスターに頭を抱える。最近知り合ったBランクのパーティーを見習って欲しい。
マジで苦情とか全然来ないからな?因みに苦情が来る大抵の原因はギルドマスターとシスターです。シスターはともかくギルドマスターはトップとしてもう少し、世間体と言うものを気にして欲しい。この前なんかまだ血が滴ってる四メートルはあるデカイイノシシを、ギルドまで引き摺って来たからな。
俺は弱過ぎて何も感じなかったが、危機感をちゃんと持ってる冒険者の皆さんが総員警戒態勢を取るレベルの相手らしい。
「あの日は早く此処に帰ってきて、マワル君の作ってくれたご飯を食べたかったから仕方がないんです〜」
「俺のせい!?挙句の果てに、最近シスター宛の苦情を一身に受けてる俺のせいですか!?」
俺が悪いみたいに言っているが、俺は全くの無関係……とは言えないが、原因では絶対にない。料理レベルが高いせいで中毒効果とか付与されてない?ないよね?ないですよね?ないと言ってくれ。
「とにかくですね……他の住民に迷惑をかける様な行為は_______」
「「マワル兄だぁ!!!」」
「_______おごっ!?」
シスターに説教をしている俺を孤児院の子どもたちが見つけ、一斉にタックルして来る。因みに俺は貧弱だからめちゃくちゃ痛いぞ!
普通の冒険者なら痛がらないんだろうけど……こちらとら、子供並に貧弱と言われた男なのだ!レベルを考えれば戦闘力が子供以下なので、子供の全力タックルを喰らえば骨が折るかもしれない。……自分で言ってて悲しくなってきた。
「マワル兄ー!今日は鬼ごっこして遊ぼうぜ!」
「だめー!マワル兄は私達とおままごとするのー!」
男子組と女子組で俺の手を左右に引っ張る子供たち。ここまで好かれるのは非常に嬉しい限りなのだが、それはそれとして力強くない?い、いや、別に痛いわけじゃないけど?は?子供に負ける貧弱さなわけないだろ?
「分かった、分かった。二つともやってあげるから、一先ず先に勉強するぞ」
「えー、面倒くさい……」
痛みを我慢しながら子供達を勉強部屋に連れていこうとすると、勉強嫌いのリクがそんなことを言う。
「今日は俺の故郷のご飯作ってあげるから頑張れ。早く解けた子はボーナスもあるからな」
「ほんとっ!?」
嬉しそうに笑顔を浮かべる子供達。その後ろで年長組である、リクとシルが静かに燃えているのを見て、リンが苦笑いしていた。……いやいや、そこは年少組に譲ってあげようね、年長組よ。
「マワル君〜。ずるいです〜!私も勉強するので、ボーナス下さい〜」
頬を膨らませて講義してくるシスター。段々と遠慮がなくなってきている気がする。……下手に遠慮されるより、嬉しいっちゃ嬉しいし、見た目美人だからすっごい嬉しいんだけど……まだ何考えてるか分からない時の方が多くてちょっと怖いんだよな。
まぁ、それはそれとしても普通に良い人だから俺は嫌いじゃないけど。
「シスターはハルの願いを聞いてくれるのなら、子供達とは別の形でボーナスあげますよ」
「やった〜!……ところで、私まだハルちゃんのお願い聞いてないんですけど〜?」
子供みたいに喜ぶシスターを見て、この人本当にこれで大丈夫なんだろうかと思ったが、口には出さない。……出したら駄目な気がする。前の地面みたいにはなりたくないからな。
「子供達を勉強部屋に連れて行くので、二人は下の部屋でゆっくり話して下さい」
俺は足に抱きつく子供達を移動する様に促すと、階段を上る。そして、すれ違いざまにハルに一言。
「後は頑張れ」
「……何から何までありがとうございます。後は自分で話をつけてきます!」
畏まって俺に礼を言うハルに俺は少しばかりの罪悪感を覚えながら苦笑いする。多分だけどハルはシスターと話をつけるのを頑張るつもりなんだろう。……でも、違うんだよ。
……頑張れって、そういう意味じゃないんだ。頑張らなきゃ行けないのは戦闘面なんだよ。
シスターの戦闘スタイルについて、俺はそんなに詳しく知らないけどさ。帰ってくる何時もの姿を見て一つだけ分かってることがある。
多分その人結構無茶な特攻してると思うから、ヒットアンドアウェイを基本スタイルにしてるお前からしたら、死ぬほどキツイぞ。
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