第16話

 異世界に来て、二週間が過ぎた。


 そろそろこちらの生活にも順応し始めてきて、仕事でのミスも少しずつではあるものの、順調に減ってきている。三日に一度、孤児院のお手伝いに行ったり、街のごみ拾いをしているので、街の住人達と仲良くなってきた。


 こちらの暮らしに順応すればする程、改めてこの世界が異世界なんだと改めて感じる。知ってるか、異世界だと伝書鳩じゃなくて、ドラゴンモドキって言う蝶を使うんだぞ。何でも、ドラゴンそっくりな匂いを纏った鱗粉を撒き散らして、他の魔物に襲われないように進化した蝶らしい。


 後、こいつら普通に強いからそこらの魔物が襲っても返り討ちにされる。因みに俺なんか羽でビンタされて絶命すると思う。温厚な性格で人間に懐きやすいらしいからよっぽどの事しない限り平気らしいけど。

 

「午後の仕事は受付と孤児院の手伝いか……気合い入れとこ」


 最近になって新しい冒険者が増え、前回よりもさらに忙しくなったものの、冒険者の人達が俺の事をやけに気遣ってくれるので精神的にも給与的にもとても恵まれた職場と言える。


 不満点と言えば、嵐のように帰ってきた挙句、俺に無理やり魔物を解体させたり、首根っこ引っ張って色んな所に連れ回すギルドマスターが居ることくらいだ。……いや、解体の仕方とか分かるようになってやれる仕事の幅は増えたけどさぁ!あの日から三日間肉食えなかったんだぞ俺。


 因みに現在はお昼休みなので、食堂のテーブルでパンを食べながら自分のステータスボードを見ているところである。




 神崎 廻


 職業 探索者


 レベル 四


 筋力 E-

 耐久 F-

 敏捷 D+

 魔力 F-

 運  E+(変動あり)


 《スキル》

『言語理解』 レベルMax

  『料理』 レベルMAX

  『鑑定』 レベルMax

『アイテムボックス』 レベルMax

『女神ガチャ』 レベル一

『逃げ足補正』        レベル一

『敵感知』          レベル一

『投擲』           レベル一





 依頼の合間に道端に居るスライムやゴブリンを何体か倒した(ハルの補助ありではあるが)ため、レベルも少しだけ上がった。ガチャから俺にはうってつけのスキルも出て来たし、俺のガチャ生は順調と言えば順調だ。


 因みにあんまり使いこなせてないから俺の実力は最初の頃と何ら変わりはしない。……まぁ、そんな簡単に強くなれたらそれこそチートなので、丁度いい安牌だけど。


 この一ヶ月の内にガチャポイントがどんな善行によって増えるのかも試してみたのだが……今もまだ謎が多い


 まず、ポイントが増える一つ目の方法。これが一番手っ取り早くポイントが貯まる方法だ。それは『魔物を倒す事』。あっ、無害な魔物を倒してもあんまり意味は無いぞ。ギルドに依頼が来るような、人に害を成す魔物のみポイントが増える感じだ。『召喚士』という魔物を召喚する魔法使いが召喚した魔物を倒しても意味は無いということらしい。


 外の森に群生しているスライムを倒してもポイントは一ミリも増えなかったが、討伐依頼が出ている大量のスライムを倒した時にはポイントが着いた。


 恐らく、この判定の違いは対象の『脅威度』によるものだと思う。


 試しに先日、ハルと一緒にオークの討伐に連れて行って貰ったのだが、武器を持っている個体と持っていない個体では得るポイントが違った。どちらの討伐もあくまで補助に徹していたので、貢献度による差異は無いだろう。


 まぁこの方法はあまり俺は使わないので、そこまで詳しく検証する必要も無いだろう。


 第二は炊き出しなどの慈善事業だ。貧民街等でこれを行うと、魔物を討伐をした時と同じくらいポイントが貯まる。この方法の欠点は食料を用意するお金が大量に必要になる、という点だ。俺の場合は結構な頻度でガチャから食料が出るため、そこまで問題にはならない。外に出るのが怖いため、俺が最も使用している手がこの手である。最近はシスターと一緒になって三日に一回ほどの頻度で炊き出しの手伝いをしている。


 炊き出しをやるだけで十連分のポイントが一気に貯まるので、これからも炊き出しの手伝いを続けようと思う。そうしないと、食材が減らないしね。


 余談ではあるが、十連に必要なポイントは三千ポイントで、ランクアップに必要なポイントは十五万ポイント。途方も無い量のように思えるが、仕事の一環で魔物討伐の手伝いにも行ってるので残り十二万程でランクアップに必要なポイントが貯まる。先は長いが、これもまたガチャ道には付き物だ。


 ランクアップするとラインナップがリセットされるかもしれないので、ランクアップするとは限らないが、ポイントは貯めておいて損はないだろう。


 正直言うと、『拳銃(ゴム弾)』を手に入れて、一儲けしたい気持ちはある。でも、俺の手で殺人兵器をこの世に広めるのはちょっと……自分で使う分には良いけどね。もし、俺の所為でこの世界に銃が流通して戦争が起きても、責任取れないし。責任取れないことはしない、これ大事。


 異世界で好き勝手に地球の技術広める奴のメンタルが知れない。……俺だったらその所為で戦争が起きるかもって考えると、速攻でヘタレるよ。普通に拉致監禁されそうだしな。


「異世界って意外と過酷だなぁ……」


 そんな事をボソリと言って、少し硬いパンを再びモソモソと咀嚼する。ラノベやアニメで見たみたいにもっとのほほんとしていれば嬉しかったのだが。


 まっ、無双を遠慮してガチャを取ったんだし、多少過酷でも頑張って生きなきゃな!それに、今の俺には調査の護衛役としてハルがついているからな!本当、化物みたいに強いんだぞ!


 ……まぁ、度々刀を折ってはいるが、信用できる護衛なのは確かだ。刀が折れる原因は本人のスキルが自分の意思でオン、オフに出来ないらしく、力が制御出来ていないかららしい。もはやスキルと言うよりは特殊体質と言っほうが正しいらしいが、とにかく、そのスキルの性で武器の耐久値とんでもない速度でガリガリ摩耗するらしい。


 スキル名としてはは【身体強化】と普通の名前なのだが効果だけがおかしいのだとか。この力のデメリットとしては、魔力を大量に喰うことと、武器の耐久力をガンガン減らしてしまうということらしい。


 前半の問題はそもそも持ち前の魔力が相当多いと言う理由で解決できるらしいが、武器の耐久力についてはどうにもならないらしく、依頼の報酬金があったとしても、修理に使うお金のせいで殆どプラマイゼロになり常に金欠らしい。


 メリットとしてはベテランのBランクにも匹敵する力を手に入れられると言う点。元々の実力がCランク上位なので、もう少しレベルが上がればAランクも夢じゃないらしい。因みに彼女のレベルは未だに二十前半なので、まだまだ伸びしろがあるとの事。将来有望な化け物である。


 俺?伸びしろなんてないぞ?まぁ、正直に言うと戦闘する前にまず逃げるし、成長なんてするわけがない。実際問題、一度ハルに助けて貰いながらオークを倒した際も、普通に嘔吐したし。生き物を殺すってのはあんまり気持ちの良いものじゃない。この世界でそんな甘ったれたことを言ってる場合じゃないのは分かるんだが、根が現代人なもんで。


「それにしてもパン硬かね」


 出切ればパンとかも作りたいな。兵器とか広めるのはあんまり気が進まないけど、パンくらいなら広めていいんじゃないだろうか?アンパンとか、カレーパンとか…ドーナツも作りたい。


 我が愛しの弟が美味しそうにモキュモキュと自作ドーナツ食べてくれた時のことを思い出して、思わず頬が緩む。両親は割とどうでも良いが弟にはちゃんと別れの挨拶言っておきたかったなぁ……。そんな事をしみじみと思ったが、あんまり長く感傷に浸っていると、リアさんのご飯の時間が減るので早々と考えを断ち切ると黙々と硬いパンを口に小分けに千切って放り込む。


 流石にこのままずっとフランスパンの大幅劣化版を食べ続けるのは精神的にも辛いし、仕事に慣れてきたら本腰入れて試作してみるのも良いかもしれない。


「まず家を借りたりしなきゃいけないけど」


 いずれは出ていくつもりではいるが、出ていく時については明確に決めていなかった。一応、今後の活動の指針にもなるし……一年以内には家借りれる位まで頑張ってお金貯めたい。


 この町は辺境にあるので、少し小さい一軒家なら俺の半年分のお給金を全て注ぎ込んだら普通に買える。……買えるが、パンを作るとなると手狭になる可能性が大きい。だから、大きい家を借りるしかないのだが、それだと金が圧倒的に足りない。


 それに俺は意外と住心地の良いこの街に永住するつもりでいるで、どうせなら借家じゃ無くて家をちゃんと買いたい。……でも、金がなぁ……。


 一人でお金の計算をして、蹲ってウンウンと唸っていると、頭上から声をかけられる。


「どうしましたかマワル殿?」


「ハルか……」


「眉間にすごいシワが寄っていましたが……悩み事ですか?」


 いつの間にやら前に目の前に来ていたハルが、手で眉間にシワを作り、俺がどんな顔をしていたかを給仕姿で実演してくれる。見た目も相まって仕草の一つ一つがとても可愛らしく感じるのだが、頭に乗せてる大量の皿のせいで台無しだ。


 本人の身長位はある皿の塔は、全くぐらつく事なくハルの頭の上に乗っている。意味不明過ぎて怖い。


「……それ、どうなってんだ?普通倒れるだろ」


「修行中の身なれどこの程度のことなら心配ありません!この倍くらいまでなら余裕で行けますよ!」


 自信満々にそう言った彼女は、凄いドヤ顔で胸を張る。……平均より少し上程度にある胸に自然と視線が行ってしまったが、俺は紳士なのでそっと目を逸らした。ガン見とかしてないよ?ホントだよ?


 やがて、食器を厨房へと運び終わったハルが給餌姿から着替えて、パンを食べている俺の席へと戻ってきた。お昼休憩とのことだ。彼女がバイトをしている日はこうして、一緒にお昼を食べるのももはや習慣に近いものになってきている。


「それで、どうしてあんなに険しい顔をしていたのですか?」


「別に大したことじゃない。これからの事を考えると色々入用だし、楽して大金が欲しいなぁって……」


「楽して大金ですか……そんな方法があるなら拙者に教えて欲しいくらいです」


 俺はモンスターの討伐依頼とかで臨時収入が入ってくるが、特に買うものもないため基本的にお金が余っている。しかし、ハルの場合は討伐依頼の報酬など全て宿代や武器の修繕台として消えるらしく、懐事情は俺より厳しいらしい。


 ……何だか申し訳ない事を聞いた気分になる。


「なんか、ごめん」


「謝られると、より一層惨めな気分になるのでやめてください!憐れむくらいなら、マワル殿からリア殿に頼んで報酬の良い依頼を拙者に回してください!最近、ドッと新規冒険者の方が増えたせいで、さらに切羽詰って来ているのです!」


 こんな高頻度でバイトしてる奴が切羽詰ってないわけないよな。ハルはこの世界に来て初め出来た同世代の友人だし、俺としても助けになってやりたいのは山々何だが……。


「報酬の良い討伐依頼って基本的に二人以上でしか受けられないだよ。それに、高ランクの討伐依頼を受ける人たちってずっと固定のパーティー組んでる人達が多いし……どうしても報酬の良い依頼を受けたいんなら、ソロでやってるBランクとかCランク上位にパーティー組んでくれるように頼んだらどうだ?」


「今どきソロで冒険者やってる人なんて変わり者しか居ないのです!」


「それだとお前も変わり者だぞ」


 依頼しつつ給仕のバイトもしてるし十分変わり者か。本来ならそこまでして冒険者を続ける意味は無いと思うし。だって、この働きぶりなら冒険者やるより普通に飲食店で働いた方が効率良さそうもん。


 それでも冒険者を続けるのには理由があるのだろうが……生憎とそれを遠慮なしに聞けるほど図太くはない。


「あっ、それよりマワル殿はこの後どの様な予定がありますか?」


「今日は取り敢えずリアさんが昼食を食べ終わるまで受付しとく。その後に孤児院行って子供達の世話だな」


「今日も孤児院からの依頼を受けるのですか?」


「今日の朝にシスターが来てな……今日は異常発生し続けている、オークを肉塊にしに行くらしい」


 本人曰く、オークは殴り心地が良いらしい。ギルドで見た感じだと前衛は比較的ゴツイ人がやるのが普通なんだけどね。あんなに軽装備の上に細いのに回復役ヒーラーじゃないとか、やっぱりおかしくない?……どう考えても、普通じゃ……良く考えたら目の前のヤツも軽装備で細かったわ。本当、何処に魔物を真っ二つにする力とかあるんだろうか?ステータスしゅごい。


「孤児院のシスター殿……確かBランクのソロでしたか?……一回だけでもパーティーを組んでくれないか懇願してみるべきでしょうか?」


「……どうだろうな。普段はおっとりしてて優しいけど、戦闘時の時のことまで俺は知らない。まぁ、同じソロ同士一度組んでみるのは良策だとは思うけど……」


 ……でもなぁ。あの人、明らかに変人オーラ出てるし、会わせるのにちょっと抵抗がある。普段はおっとりしてて優しい良い人なんだよ?クエスト終わった時とか、凄い格好で孤児院に帰ってくるし、一抹の不安はある。


「でも正直言うと、お前と組んでくれそうなBランク冒険者なんてシスター位しかいない気もするんだよな……。直ぐに武器破壊する辺り、ぶっちゃけ言うと只の地雷だし」


「『じらい』とやらは分かりませんが、馬鹿にされている事だけは分かります」


「……馬鹿にしてないよ。本当の事を言ってるだけだよ」


 確かに悪意八割で言った台詞だったが、地雷の意味合いがバレるとは思わなかった。Cランク冒険者の野生の勘恐るべし。


「一度会って話してみないことには分からないだろうし、今日の依頼に一緒にきたらどうだ?別に俺は金に困ってないし、孤児院の報酬は全部譲れるぞ?」


「いえ、紹介してもらう側ですし報酬は結構です」


 頭が硬いと言うか、何というか……手持ちの金が俺より少ないのに良くこんな台詞が言えるモノだ……逆に感心する。


「子供達の世話も手伝って貰う予定だし、報酬は受け取ってくれ______っと話し込みすぎたな……そろそろ戻らないとリアさんが昼食の時間無くなりそうだし、受付に戻るわ」


 壁にかけてあるやけに柄が豪華な時計の針を見ると、結構な時間が経っていることに気が付いた。急いで残り二、三口分程度のパンを口に放り込むと、荷物をパパっと片付けて席を立ち上がる。


「依頼行くときこっち来るから、準備して待っといてくれ」


「承知しました。お仕事頑張ってきてくださいね!」


「おう、そっちこそ頑張れよ」


 そう言ってお互い軽く挨拶を交わすと手早く別れ、それぞれの仕事へと戻って行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る