第11話

「では、行ってきま〜す」


「「「いってらっしゃーい!」」」


 手を振って、シスターを送り出す子供たち。……あんなにやばくても子供たちからは好かれてはいるっぽい。さっきの場面から察するに、ドン引きされている感じもしない事もないけど。


「兄ちゃん!兄ちゃんって冒険者なのか!?」


 シスターが見えなくなった頃、俺の一番近くにいた男の子が目をキラキラさせながら聞いてきた。赤みがかった髪を短く切り揃えた、活発そうな男の子だ。


「冒険者では無いかな。レベルも一だし」


「レベル一!?兄ちゃん貴族様なのか!?」


「貴族?いや、全然違うけど」


 俺の両親共々平凡な一般家庭……とは言い難いが、高貴なる血筋とかでは無いはずだ。なんたって父さんは絶望的なほどに品がないし。ありえないことを言い出した少年の言葉を即座に否定した俺は、子供たちを引連れて孤児院の中へと戻る。


「ところで、何で貴族様だと思ったの?オーラ出てる?」


「ううん、出てねぇー。でも、家で大事にされてる貴族様以外、迷い込んできたスライムとか倒すだろ?」


 貴族みたいな箱入り以外は基本的に自分の身は自分で守らなきゃ行けないもんな。平民は護衛なんて雇えないし、少しくらいレベルを上げるのは備えとして最も簡易で手っ取り早いか。つまり、昨日魔物に襲われた(モンスタートレインされた)俺は、裸で南極に挑んでた感じか。よく生きてたな俺。


「へぇ〜……因みに皆のレベルは?」


「俺は六!」


「私は七」


「九」


「さーん!」


 成程、俺は五歳くらいの子供よりレベルが低いのか。そして、何気に十の大台に届きそうな子がいる事にびっくりするわ。


「レベル十まで行くとステータスが上がりにくなるんだぜ!因みにシスターはレベル四十越えなんだ!」


 流石はBランク冒険者だ。背伸びしようが、片腕ちぎって投げようがランクの片隅にすら手が届かないレベルの高みにいる。誰か梯子持ってきて。


「俺はちょっと生まれが特殊でさ。今まで魔物なんて滅多に居ない場所で生きてきて、つい最近この街に来たんだ。その性で色々常識とか知らないから、皆が教えてくれると嬉しい」


「任せろ兄ちゃん!」


「「まかせろにーちゃ!」」


 ドンッと胸を叩いた赤毛の子を真似して、黒髪の双子っぽい二人が舌足らずながらも元気よくそう言った。……和むわ〜。


 それにしても、俺常識知らずだとか言っていいんだろうか?一応此処に監督役として呼ばれている様な……バレたら終わりじゃね?


 ま、まぁ、バレなきゃ犯罪じゃないし良いか!言っちまったもんは仕方ねぇ!


 半ば投げやりになった俺は、他の子達から質問攻めにされながら子供部屋へと連れて行かれた。因みにだが、一番返答に困ったのは『何処から来たのか』である。……取り敢えず、遠い所って答えておきました。


 子供達の勉強の課題はそれぞれで、文字の読み書きの練習をしている子もいれば、足し算や引き算など、単純な計算を練習している子もいる。これなら、俺でも問題なく教える事が出来る範囲だ。……異世界史とか魔術の原理的な何かが出てきたら詰みだったな。


 不思議パワーで何故か文字も書けるのがちょっと怖いが慣れるしかないだろう。その内、嫌でも体が覚えてくるだろうし今は我慢だ。この歳になって新しい言語を学習する手間を考えれば、そんなに大した苦労でもない。


「……わかんねぇ」


 先程の赤毛の男の子が計算の課題に頭を抱えていたので、丁寧に教える。まぁ、一応義務教育を終えている身なのでこの程度なら教えられる。


 それでも尚頭を悩ませていた少年ではあったが、先程とは違い完全に手が止まるということはなくなったようだ。


 その後は最年少組に絵本を読んであげたり、脅威のバランス感覚で成り立つ芸術的な積み木を見せて上げた。思いのほか好評で、年長組の手すらも止めてしまったのは問題かもしれない。


「……あれ?一人足りない?」


 その後も射会に出て全く役に立つことがない一発芸を色々と披露していたところ、子供が一人足りない事に気付く。


 一応、居なくなった子の顔は思い出せる。何故なら、居なくなった子はずっと無表情で最初の質問責めの時にも、ぼーっとしていた印象が強く残っているからだ。


「あー、シルだと思う。あの子、私達の中で誰よりも頭良いし、課題終わらせて書庫にでも行ったんじゃ無いかな?」


 孤児院の中で一番の年長者のリンと言う少女が俺の疑問に対してそう答えた。因みにだが、赤毛の少年はリクと言ってリンの弟らしい。……とは言っても、双子なので、年の差は全くないと言ってもいい。何方ももう少しで十歳になるらしい。


 初見じゃ姉弟だとは思わなかったのだが、よくよく見ると目元とかが似ている。なんか双子が二人も居るって珍しいな。


 俺の役目は皆の面倒を見ることだから、部屋に確認しに行かないと駄目だよな。と言うか、ちゃんと確認しとけよ俺。攫われたりしてたら大変だぞ


 高校生でも、同級生に攫われるのだから、小さい子供が攫われても不思議じゃない。同級生に攫われるってシチュエーション改めて考えると頭おかしくない?


「じゃあ、書庫に案内してくれるか?」


「えー?あいつ書庫から動かねぇと思うぜー?」


「……そうなったら皆で読書大会だな」


「私が行くから大丈夫よ」


 あからさまに嫌な顔をするリク苦笑しつつ、リンに連れられ一階にある書庫へと向かう。案内してくれたリン以外の子供達には部屋で課題を続けてもらっている。


「此処が書庫。大きいでしょ?」


「……何かここだけ異様に大きくない?」


「シスターが本好きだからね。多分、部屋の大きさはシスターの自室の五倍はあるんじゃない?」


 ……孤児院が異様にでかい訳だ。もしかしたらあの人、結構偉い人なのかもしれない。それとも唯腕っぷしが良くてそれで稼いでいるだけなのか……腕っ節の方だとしたらちょっと怖いし気にしないようにしよう。


 権力持ってる変人か筋肉持ってる変人かの違いだからな。どっちにしろ絵面が最悪だし、どう足掻いてもアブノーマルな方にしか行かない。


「……マワル?どうかしたの?」


「______あぁ、ごめんごめん。さっさと入ろうか」


 可愛らしい仕草で顔を傾げてそう聞いてくるリンに俺は少しだけ心を癒されつつ、扉の前に立った。いや〜、穢れのない子供たちは良いですな。


 ………あっ、別にロリコンじゃないぞ?俺は年上が好きで、そして何より胸が大きい人が大好きだからな。変人?チェンジで。


「シルー、入るよー?」


 書庫の奥の方にある扉をリンがノックして開ける。返事を待ったほうが良いのでは無いかと思ったが、返事を待ってたら一生部屋に入れないらしい。


 リンの後に続き、部屋に入ると、そこに居たのは所々に緑がかった髪の色をした白髪の女の子が居た。年齢的に言えば、リン達と然程変わらないのではないだろうか?


 俺は昨日街今日と見た中でも断トツに変わった髪色をしていると思うが、この世界ではそうでもないかもしれない。真っ赤な髪色してる人とか居たしな。


 少女は部屋に入ってきた俺たちにゆらり、と一度視線を向けた後、直ぐに興味を失ったとばかりに視線を自分の手元にある本に落とした。


「もう、居るんだったら返事くらいしてよ〜」


「……面倒臭い」


 そう言ってシルと呼ばれた少女は本から目線を離さずに、ぶっきらぼうにそう答えた。


「面倒臭い、じゃないの!ほら、マワルも困るから一緒に上行くよ!」


「えー」


 動くのが億劫なのか、本を抱きしめながら渋るシルを、リンが物理的に引っ張って行く。……リクが先程のリンの一言で引き下がった意味が分かった。多分だけど、リンでなければこの子を連れ来るのは不可能なのだろう。


 年齢的にも近いだろうし、何か通じるところがあるのかもしれない。……やばい、友達と言ったらどうしても、元の世界にいるであろう、マイフレンドが頭をよぎってしまう。


 俺が居なくなったせいで、会長に絡まれてませんように……いや、無理だな。多分会長のメンタルが参ってる可能性が高いから、どうにかしてメンタルケアしてもらわないと困る。頼んだぞ、世界一のイケメンタルと名高い俺のベストフレンド。


「女の子の逆恨みでアイツが刺されませんように……ん?」


 もう二度と会えないであろう親友の無事を願っていると、俺の服がちょいちょいと引っ張られた。目を開けて其方を見ると、リンに解放されたらしいシルが大事そうに本を抱えながら立っていた。


「……本持って行っても良い?」


「シスターがこの部屋から持ち出して良いって言ってるなら別に良いよ」


 俺のその言葉にシルは少しだけ嬉しそうにすると本を持ってトタトタと勉強部屋へと戻って行った。


「あっ、シル、待ってー!」


 呼びに来た筈なのに逆に書庫に置いて行かれた俺とリンは、先程からは想像出来ないほど機敏に勉強部屋へと戻るシルを早足で追いかけた。

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