第8話
______頭が痛い。
「_____ゥェェ……」
俺は味わったことのない吐き気と頭痛と共に、異世界に来てから初めての朝の目覚めを迎える。右手で顔を覆いながら目を開けると、初めて見る天井が視界に入る。
……あぁ、俺やっぱり異世界に来たんだなぁ……。
そんな感傷に浸りつつ、ベッドから這いずり出た俺は数秒後にのろのろと体を起こす。服を着ながら時計を見ると時計の針がこの世界における五時半を示していた。頭の中で勝手に翻訳してくれるのは凄く助かる。
俺から文字を書くことが出来ないのは不便ではあるものの、そこまでスキルに頼りっぱなしになる訳にも行かない。こっちの生活に慣れ始めたら、文字の勉強もした方が良いだろうな。
因みに、俺の頭痛の原因は恐らく飲酒だ。この世界では、十五歳から飲酒が認められているらしいが、一応自重しておこうと思っていた。
しかし、間違えて運ばれてきたらしい酒を一口飲んでしまった。
……何か、不思議な味と共に意識が沈んだ事だけ覚えている。……あのジョッキ以降の記憶が無いが、誰かに失礼なこととかしてないだろうか?
……まぁ、これから飲むことは殆ど無いだろうし、あまり気にしすぎるのもアレか。……いや、運んできてくれた人(恐らくリアさん)にはお礼を言っておくべきか。
制服に着替え、切り替えるように頬をペチペチと叩く。お酒のお陰で、眠気は無いが、頭が尋常じゃないくらい痛い。
「____マワルくーん。起きてますかー?」
「あっ、はい。起きてます」
リアさんを待たせる訳には行かないので、急いで扉を開ける。
「おはようございます」
「おはようございま……顔色が良く無いですけど大丈夫ですか?」
「大丈夫です。多分ですけど、昨日初めてお酒を飲んだので……」
「あー、成程……。こう_____『ゴクッ_____グシャァッ!』みたいな感じで寝ちゃいましたもんね。首とか痛めてませんか?」
……アルコール耐性無さすぎない?そこまで弱いと、自分で自分が心配になってくる。
首とか体を一通り動かしてみるが、特に何処かが痛むとかは無い。
「うーん……頭以外に痛いところは特に無いですね」
「そうですか、なら良かったです」
頭痛も水を飲めば多少はマシになるはずだし、仕事に支障は来さないだろう。
酔った時は水を飲めば大丈夫って、爺ちゃんも行ってたしな。でも、俺の爺ちゃんの場合は酒を飲んで酔っているところをそもそも見たことがない気がするが。
「それなら水飲んだ後、このまま仕事教え始めちゃいますね?」
「大丈夫です」
俺は即答で返事をすると、リアさんの後に続き一階に向かい、水を貰う。少しだけ気分が楽になった。
「_______ふぅ、もう大丈夫です。……あっ、というか、部屋まで運んでくれてありがとうございました。後、初っ端から迷惑かけてすみません……」
「大丈夫ですよ、そのくらい。それに、私だけで部屋に運んだ訳じゃなくて、ハルちゃんも手伝ってくれましたから」
そうなのか……。初対面の俺を部屋まで運んでくれるとか優しさに溢れすぎてない?また今度会ったら、あの給仕の人にもお礼をしなければなるまい。
「________それじゃあ、そろそろお仕事の説明を始めましょうか」
「はい!よろしくお願いします!」
多少は思考がマシになった俺は、今の俺に出来る精一杯の力で返事をする。俺の返事を聞いたリアさんは何処か嬉しそうに頷いた。
「まず初めにやる仕事は依頼の整理です。それぞれの仕事にランクを割り振っ______あっ、そう言えば冒険者さんのランクについて説明してませんでしたね」
「ランク?」
「はい。実はギルドではステータスに習って、冒険者達のランク付けを行なっているんです」
リアさんによれば、ランクは全部で八つあり、低い方から順にE、D、C、B、A、S、SS、SSSで分けられているらしい。
Eランクは新米中の新米で薬草採取やどぶさらいなどが主に受ける依頼。其処から討伐依頼や護衛依頼をこなして行きランクを上げていくらしい。Dは初心者脱却、Cは中堅と言ってもいいランクなのだとか。
Bランクにもなれば周りから一目を置かれるようになり、Aランクになれれば、周りから羨望の眼差しを向けられるらしい。
SランクやSS、SSSランクは、魔王や勇者などといった特殊な存在が当てはまるランクで、今ギルドに所属する冒険者には三人しかSランクはいないらしい。
因みにそれより上は居ないのだとか。SSランクやSSSランクは大昔に世界を救った伝説の勇者等位置するランクで、強さ的にはSランクと対して変わらないとの事だ。
これでも、私はBランクなんですよ!とリアさんが胸を張っていた。その細い体の何処にそんなパワーがあるというだろうか?……怒らせたらくびり殺される未来が見えるので、これからは床に頭を擦り付けながら教えを乞うことにしよう。
因みにギルドマスターはSランクだってよ。……『大きい』は『強い』という俺の認識は早めにシュレッダーにかけておこう。
因みに俺は昨日登録したばかりなので、Eランクのままだ。別にEランクのままでも問題はないらしいが、冒険者達に舐められないために、多少のランク上げはしておいた方が得策らしい。
ほとんどの冒険者はギルドを敵に回せばどうなるか分かっているため、迂闊な行動はとらないが、偶に馬鹿をやらかす奴が居るのだとか。
最終的には俺もCランクにはなりたい。痛いのや死ぬのは嫌なので、安全な依頼だけでランクを上げることが前提だが。
ランクの説明が終わった後、依頼の確認と説明を軽く受け、二人で一緒に依頼の振り分けをした。依頼の振り分けが終わった後、リアさんが
「二人でやるとこんなに早いんですね……」
と死んだ目をしながら言っていた。悲壮感が半端なくてどう声をかければいいのか分からなくなったレベルには目が死にまくっていた。
「次は魔道具の点検と報酬の確認です。……と言っても、報酬の確認は昨日の内に終わらせていますし、魔道具の点検は私にしか出来ないので、マワル君はこの時は休憩ですね」
「……早いですね、休憩」
「まぁ、此処は比較的田舎なので、朝の仕事は少ないんですよ」
そんなことを言いつつ、手際よく鑑定の魔道具(顕微鏡?型)の点検をリアさんが行なっている。チャキチャキと横の歯車を弄ったり、覗いたりして____
「_____はい、終わりです」
「早っ!?」
_______僅か十数秒で点検が終わった。
「慣れれば誰でもこれくらいできますよ」
リアさんが苦笑しつつ、そう言ったので試しに調整の仕方を教えて貰って挑戦した。……十分位かかったけど、多分それが普通だと思うレベルだった。微調整が大変すぎる。……なんでこれが十数秒で出来るんだ……?コレが、異世界か。
「______あっ、もうそろそろ依頼をボードに貼らないといけませんね」
その後も仕事を教えて貰っていると、リアさんが先程振り分けた依頼が書かれた紙の半分を俺に手渡してきた。
俺は紙が飛んで行かないように上下で挟むようにしてそれを持ちながら、周りを見てみる。すると、周りには結構な数の冒険者たちが酒場のテーブルに腰を下ろしており、今か今かと依頼が貼り出されるのを待っていた。
「冒険者って、随分と朝早くから依頼を受けに来るんですね」
現在の時刻は大体午前七時。一般人が朝御飯を食べている時間帯。
「そりゃあ、依頼は早い者勝ちですからね。殆どの人は早めに来て、割りのいい依頼を取って行きますよ。逆に魔物の素材を売る冒険者さんは、好きな時間に狩って、換金しに来ます」
ふむ、冒険者にも色々な仕事のスタイルがあるんだな。何も依頼を受けてそれをこなすだけが冒険者では無いということだ。……まぁ、ギルドとしてはなるだけ依頼を受けてくれた方が、ランク査定がし易いので助かるらしいけど。
「さぁ、パパッと依頼を張っちゃいましょうか!」
「了解です!」
俺はリアさんと共に受け取った紙をクエストボードに貼る作業へと移行した。
黙々と依頼を貼り続けると、その隣でリアさんが俺の何倍もの手際の良さで綺麗に依頼を張っていく。俺も極めればあの動きが可能なのかもしれないが、あまりにも効率を重視したその姿は、最早機械じみている。
俺に出来ることと言えば、反復横跳びの要領で依頼をペタペタと貼っていくこ______うん、効率悪いわコレ。しかも、意外と疲れる。
そしてリアさんが貼り終わってから二分後、俺も依頼を貼り終える。それを合図として、リアさんが大声で冒険者に向けて声を掛けた。。
「皆さーん、依頼の張り出し完了しましたよー!」
『『ッッ!!!』』
「______へ?」
その瞬間、空気が変わった。酒場で駄弁っていた冒険者たちが一斉に立ち上がり、クエストボード周辺に津波の様に押し寄せてくる。
例えるなら、購買のパンの争奪戦だろうか?……いや、身体能力が桁違いだから、ゴリラの行進の方が近いかもしれない。残念ながら、ゴリラの行進を見たことは無いが、そうとしか例えようがない。
クエストボードをぼんやりと眺めていただけなのに、柄の悪そうな冒険者達が一斉に押し寄せてくるとどうなると思う?
「ちょっ、まっ______ぐへぇっ!?」
……轢かれるよね、普通に。前世のトラウマ抉るのやめてもらっていい?
ボロボロの体でひぃこら言いながら、人混みから抜け出した俺は、カウンターを支えにしてプルプルと震えながら立ち上がる。へへっ、膝が笑ってやがる……。
「……ご、ごめんなさい。注意するのを忘れちゃってました」
「だ、大丈夫です。ちょっと走馬灯が見えただけですから」
振り返るべき記憶は一日分しかないけどね!暇だから辞世の句詠んでくるわ!
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