第4話

 



 ______本当に何だあれ。


 てか、あの女の子速くない?後ろのダチョウも半端なく早いけど、ソレに対して余裕そうな表情でトップを独走するとか化け物だよね?見るからに変人っぽいし出来ることなら逃げたいんだけど……。


「……何か言ってるのよな」


 じいっと目を凝らすと、幼女が大声で何かを叫んでいる。いや、ダチョウの足音でなんにも聞こえないが。


 仕方ない。俺のこの何処ぞの民族もびっくりの視力で、幼女が何を言っているのかを読み取ってやろうじゃないか!


 ふむふむ_____


『ニ

ロ』



「_______じゃあ何でこっち連れてくんだよ」


 勝手に引き連れてきて置いて『逃げろ』とか無茶苦茶過ぎるだろ。見るからにピンチそうな顔で逃げて来てるのなら、多少は納得出来る。でも、お前、滅茶苦茶余裕綽々な顔で笑ってんじゃん。


 馬鹿なの?頭のネジが外れてるの?どう考えても、その鳥の突撃食らったら死ぬよ?もっと、『いのちだいじに』しようよ。


 ……いかんいかん。他人を貶す前に自分の命を大切にしよう。取り敢えずダッシュで何処かに身を隠そう。


 俺は何処かに隠れる所が無いかと思い、周囲を見渡す。どっかの茂みにでも_______いや、草原だから何もねぇじゃねぇか!


 ……おいおい、俺これ絶対逃げ切れないぞ?ステータスを得たと言っても、まだ産まれたての小鹿何ら変わらないんだ!戦闘力5の雑魚にすら絶対勝てないレベルだぞ!?


 俺の避難進捗とは裏腹に、大量の鳥と少女がこちらに向かって走ってきている。てか、あの女の子背後の鳥を何匹か縄で縛って背負ってるわ。もしかしなくてもアレが原因じゃね?


 距離が残り五十メートルを切った。


 ……あぁ……死んだわ。今度は鳥に轢かれて死ぬのか……なんか俺の死因、殆どが衝突事故何だけど。


 くそっ、こうなったらせめて俺のマサムネで一矢報いてやる!


「______来いや、アホ面がぁ!串焼きにしてやるぅぅぅぅ!!」


 勿論、焚き火にはマサムネごとぶち込んでやる!環境に優しいね!


 木の棒を振りかぶって、一番先頭の鳥を迎え討_______


「何馬鹿なことしてんだ」


 _____とうとした、次の瞬間、体がふわりと宙に浮く


「……は?」


 こんな声が出てしまったのも仕方がない。


 だって俺、自分より年下の女の子に片腕でお姫様抱っこされてるんだぞ。何で片腕かって?……もう片方には気絶か死んでるか分からないが、鳥が三羽紐で縛られて背負われているからだけど何か?……ワァ、良く見たら明らかにパワーがイカれてるや。


「オイ、聞いてんのか」


「はい、聞いてます」


 いや、全然聞いてなかったけど。こういう時は消えてなくても、聞いているみたいな雰囲気出した方が良いって爺ちゃんも言ってた。そのあと、婆ちゃんに説教食らってたけど。


「何でお前みたいな子供がこんな場所にいるんだ」


「変な格好って言うな!」


「_____ア?」


「すんません。変な格好です」


 何かこの子には逆らっちゃいけない気がした。見た目的に完全に年上の俺の事を子供とか言ってるし、こんなこと喋りながらもどんどん鳥から距離を開いてるし。


 ………うん、逆らったら殺されるね!


「その格好……成程、テメェ迷い人か。道理でアタシを知らねぇ訳だ」


「あっ、それです。はい、すんません」


「へぇ……」


 俺が幼女の言葉に同意すると、彼女の真紅の瞳がユラリと妖しく光ったような気がした。……うーむ、嫌な予感がするなぁ……。


「____取り敢えず、このまま街まで向かうが問題無いな?」


 あるよね?問題しかないよね?この状態で街に入るとかどんな羞恥プレイだよ。俺にそんな趣味はねぇ。


「えっと、出来れば街の周辺で降ろして……」


「無いよな」


「_______ふぇぇ……」


 有無を言わせない笑顔が怖い。あー、最悪だ……俺、異世界の街にお姫様抱っこされたまま向かうの?確実に噂されるよ


『ほら、あの男の子よ。自分より年下の女の子に守られながら街に来たんですって』


『ダッサいわね〜。男の意地ってものが無いのかしら?去勢でもした方がいいんじゃなくって?』


 ……てな具合に。 神崎 玉無し子ちゃんに改名する羽目になるかもしれない。


 いや、悪い方向にばかり思考を向けるな。きっと、そんな悪い方向にばかり話は進まない!……とも言いきれない!明らかに変な方向に転がるパターンだよコレ。


 ま、まぁ、落ち着けよ俺。もしかしたら、この出会いはいい方向に転がるかもしれないさ!少なくとも街には入れるだろうし、悪いことばかりじゃない、よね?


 俺は自分を励ましつつ、お姫様抱っこをされながら街の門の前まで連行された。うわぁ、門デッカァ……。


「_____おい、止まれ!」


 俺をお姫様抱っこしたまま女の子が門を通ろうとするが、案の定止められた。……降ろしやがれください。


「アタシだ」


「イリス様っ!?何故門の外から……」


 様付けだと!?やっぱり、この人偉い人なのか。……危ねぇ、罵詈雑言吐くの止めといと良かった。俺の自制心があと少し低ければ、打首になってたかもしれない。


「チキチキ鳥を狩ってたんだよ。最近数が増えすぎてるって報告を受けたもんでな。B級の奴等は殆ど依頼に外に出てて、人出も足りねぇ。だから、私が直接行って来たってわけだ。」


 この鳥チキチキ鳥っていうのか……なんて言えば良いんだろう?何か胸のあたりがモヤモヤする。チキンだからチキチキなのだろうか?それとも他に由来があるのだろうか?気になる。少なくとも、走りながらチキチキと言って無かったので、鳴き声説は無いだろう。


「リアさんが先程から貴方の事を探していましたよ。また何の相談もせずに出かけたのでしょう」


 兜の中から大きな溜め息が聞こえる。……何かこの人、親近感湧くな。


「そんな事よりこいつを街に入れてもいいか?」


「話を逸さないで……。……何でそんな抱き方してるんですか?」


「フィットしたんだ。何か知らんがな」


 いや、その程度の理由なら降ろせよ。


 降ろして貰うには今しか無い。かと言ってこの人に直接降ろしてくださいって言っても無意味な気がする。……ならば!


「……そろそろ街の中ですし、降ろしてあげては?」


 やったぞ!俺の助けてくださいって目が伝わったみたいだ!流石、フルアーマーのカッコイイ騎士さんだ!民のピンチを瞬時に理解してくれるとは、中々やりおる。


「……は?ギルドまでこのまま行くんだが?」


 おい、何言ってんだこのガキ。


「それは流石にか……」


「ア”?」


 _______瞬間、空気がビリビリと震える。


 戦闘力雑魚の俺でも分かる。______圧倒的強者による、威圧。普通の人間なら、その威圧だけで意識を刈り取られるだろう。


 _____危ねぇ、チビるとこだったぜ……。流石に幼女の腕の中でおもらしするのは事案だからな。例え、日本の法律が適用されないとしても、一発アウトだろう。どの視点から見てもな。


「______良いよな?」


 暫くの静寂の後、門番さんの肩を叩きながら幼女が言った。


「すまん、少年。この人はこうなったら誰の言葉であろうと、絶対に聞かないんだ……。君には申し訳ないが耐えてくれ……」


「いや、立ち向かってくれただけでホント……」


 門番さんは兜のせいで顔は見えないが、心底悔しそうにしている。やっぱ同じ男同士、プライドを理解出来るのだろう。兜で見えないけど、声とか立ち振る舞いからして、絶対イケメンなんだろうなぁ、この人。羨ましいぜ。


 幼女は俺を抱えたまま、街の中に入る。入り口のためか、幸いにも人はいなかった。


 街の中は中世風の雰囲気が感じられる、レンガの街並みだった。中世と言えないような設備なども見えたが、異世界だしな。普段ならこの心躍る光景に、はしゃぎ回るところなのだが、残念ながら今はそんなことは出来ない。だって、抱き抱えられてるからね!


 ……てか、この人本当にこのまま歩いて行くつもりだろうか?


 ……。……。


 行くつもりだ。人通りの多い所に行く前に降りないと!くっ、やむを得ないか!?此処は紳士的では無いが、不意打ちをしてでも力尽くで降りるし______


「______そう言えば名前聞いてなかったな。おいガキ。名前は何だ?」


「ガキじゃないったぁ!!?_____何でデコピン!?頭吹っ飛ぶかと思ったんですけどぉ!?」


「良いから質問に答えろ。次は砕くぞ」


 何を!?頭蓋をですか!?異世界こわいよ!バイオレンスだよ!解決方法がことごとく脳筋だよ!


「か、神崎 廻です」


 流石に頭蓋を砕かれて生きれる気がしないので、大人しく自己紹介をする。


「ふむ、カンザキ マワルか。如何にも異世界人だな。さっき門番も言ってたと思うが私の名前はイリスだ。よろしくな」


「そんな握手を求めてる感を出さないでもらって良いですか?」


 そんな優しげな表情で言うもんじゃない。今の俺の状況、ものすごくシュールだぞー?


 右に怪物、その後ろ側に巨大鳥だもの。


「まぁ、そんな事はどうでも良い。さっさとギルドまで行くか!」


「ちょっ、本当に降ろして下さい______ぐぁ、ぁぁぁっ!!?」


 何故に鳥三匹を余裕で持ち上げながらアイアンクローが来るのだろうか?ひょっとしてもしなくても怪物なんじゃないだろうか?いや、あの速度で走ってる時点で怪物だって言ってんだろ。いい加減にしろ!


 ……まぁ、そんなこんなで俺はお姫様抱っこの状態で冒険者ギルドに運ばれたのだった。


 もう、お婿に行けない。

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