第1話 暗雲

俺の名前はサトウ。

2225年生まれの18歳。

ニホンとアメリカの血を引く農民だ。

普段は父さんと母さんの農業の手伝いをしたり、ご近所のタナカさんにニホン語を教えて貰ったりしている。

ニホン語はこの国メシアじゃ使うことはそうそうないけど、俺の祖先が使っていた言葉と考えると、覚えたくなってきたんだ。

この国に学校は無い。

親が子に、生活に必要なメシア語と、足し算や引き算を教えるだけ。

この国には通貨はない。皆で取れた野菜や肉を分け合うからだ。

そして今日も家の手伝いを終え、家に帰ろうとしていた時のことだった。

近所の名前も知らない人達の会話が聞こえる。少し気になり物陰で盗み聞きすることにした。

少し嗄れた年配の女の声が複数聞こえる。

「あ!そういえば!聞いた?ご近所のジャクソンさんの息子さん、行方不明らしいのよ。」

その問いかけにもうひとりが反応する。

「えぇ聞いたわ。あの人が居ないと大量の野菜を運ぶ人が居なくて困るのよね。」

近所の力持ちのジャクソンさんの息子と言えば、サイトウさんだ!たしかに最近見かけてなかったが、何かあったのだろうか。

もう少し情報を得たくて、俺はその場に残った。会話はまだ続いている。

「怖いわねぇほんと。最近男の人みーんな行方不明になってる気がするわ。」

驚愕の情報だ。だが、言われて見れば納得である。最近、この街で成人の男を見掛ける機会が減った気がする。

「やっぱりハラダさんもそう思う?私もそう思ってたのよ〜!何か裏があったりして!」

裏があるなどとほざいているがこの国は裏も何も無い。国民全体で自給自足を行っているだけの国。裏があるわけないだろう。

やはり年配の人間は少し感性がズレているんだろう。そんなことを思いながら俺は家に帰った。

楽しみにしていたおやつのドライフルーツを食べ、風呂に入り、自分の部屋でニホン語の勉強をしていると、夕飯の用意が出来たらしい。

さぁ、食べに行こう。

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