第18話不死身の勇者ろうらく作戦(2)

 「誰だ!!」


声のした方へオーマが叫ぶと、森の木の陰からフードを被った人物が足音を立てて、二人に姿を見せる。

そして、続けざまに同じ様にフードを被った者達が無音で現れ、あっという間に二人の周囲を囲んでみせた。

 その動きに反応して、ジェネリーはとっさに剣の鞘に手をかけ、その者達を睨みつける。


(20!?いや、30人は居る!?暗くてよく見えない!だが全員手練れだ!)


 まだ地面に枯葉を残している森の中、音も立てずに自分達を包囲したことで、そう判断する。

待ち伏せ____しかも、さっきの声の掛け方からして、標的は自分だと理解し緊張が走る。

恐怖もしそうになったが、オーマが落ち着いた態度でいるのが頼もしく、恐怖には呑まれずに済んだ。

 周囲を見渡して、逃げ場が無いと感じたのかオーマは馬から降りる。

それを見て、ジェネリーも馬から降り、そして緊張を振り払うように声を出した。


「誰だ貴様!私に何か用か!」

「つれないなぁ、ジェネリー嬢。一度は共に戦おうとした仲じゃないか。すっかり帝国の犬になったか?」


 そう言って男はフードを取り、素顔を見せた。


「ザ、ザイール卿!?何故貴方がここに!?」

「決まっているだろう?・・裏切り者の粛清だ!!」

「裏切り者・・・私が?」

「そうだ!祖国を捨て、騎士の誇りを捨て、帝国の犬になった裏切り者め!!」

「ち、ちが___」

「あ~、長かったぞ。シルバーシュが帝国に下ってから今日まで、どれほど屈辱的だったか・・・それもようやく報われる」

「待って下さい!ザイール卿!私は祖国を捨てる気なんて___」

「だまれ!!言い訳は見苦しいぞ!ジェネリー・イヴ・ミシテイス!帝国軍に入って、あまつさえ男に入れ込むとは!我ら同胞の苦しみを味わって死ね!!」

「!?」

「待った!!」


ザイールが攻撃命令を出そうとした瞬間に、オーマが割って入った。


(そんな会話だけで始めてもらっちゃ困るんだよ)


 オーマは数歩前に出て、ジェネリーをザイールから庇うような位置に立つ。


「・・・なんだ?邪魔するな。“ドブネズミ”」

「すでにお見知りいただき光栄だ、ザイール卿。自己紹介の手間が省ける。貴方の怒りはよく分かった。それで一つ疑問なのだが、何故ジェネリーを殺す?何が報われるんだ?」

「帝国軍人の貴様なら知っていよう。我らは苦渋の時間を過ごす羽目になったのだ。そこの女が国を売ったせいでな!」

「シルバーシュを売ったのは彼女じゃない。彼女の父親だ。彼女を狙うのは筋違いでは?」

「だまれ!!貴様には関係ない!」

「巻き込んでおいて、それは無いだろう?それとも、この場から無事に返してもらえるのか?そんな訳ないよな?まあ、集団で無関係の人間に報復するような奴らから、彼女を置いて立ち去る気も無いが」

「フン!貴様の様に誇りを持たんドブネズミに、騎士の誇りを傷つけられた我らの苦しみは分かるまい!ミシテイス家は皆殺しだ!!」

「騎士の誇り?復讐も暗殺も、誇りを持つ人間がすることだとは思わん。それに、帝国に来てからの彼女のことを責めているが、お前はどうなんだ?祖国だの騎士だの謳っているお前自身は何をしていた?お前ほどの人物なら、祖国解放のため旗揚げだってできただろ?」

「ふん!今更旗揚げして、なんの意味がある?最早、シルバーシュは取り戻せん」

「え?」

「諦めたのか?だとしら、尚更彼女を責めるのはお門違いだ。彼女はまだ諦めてはいない」

「そ、そうです、ザイール卿!私は帝国で名を上げて、いつの日かシルバーシュ領主になって、今度こそ民を守れる騎士になるのです!ですから__」

「そんなことはどうでもいい!!」

「は?」

「そんなことしても、私が貴族として返り咲くことはできんではないかっ!」

「ほー。結局、自分の地位が失われたことに対する怨みか」

「文句あるか!帝国の傘下に入って、我らを無視した愚民の事など知ったことか!」


(いやいや、むしろ好都合)


 オーマは内心呆れつつも、ほくそ笑む。

ジェネリーのシルバーシュに対する想いを断ち切らせる(直前でやり方を変えたが)そのため、ザイールだけは入れ代らずに置いた。

 サンダーラッツの魔法技術では、声マネや顔マネはできない。

帝国の隠密部隊に頼むという案も出たが、後の反乱のことを考えると一緒に行動したくない。

どこでこちらの思惑に気づくか分からないからだ。

だからザイールだけは入れ代らず、彼に怨み言を言ってもらい、ジェネリーに幻滅してもらいたかったのだ。

 その結果は上々。ザイールの性格も調べ、それなりのことを言ってくれると期待していたが、予想以上のクズっぷりに、ジェネリーは衝撃を受けている。

文句どころか、お礼を言いたいくらいだった。

 ニヤける気持ちを抑え、オーマは更なる一手を打つ。


「お前達はどうなんだ?これが本当の騎士のすることか?」


オーマ達を囲む人影に向かってそう言い放つ。周囲の者達は無言のまま、反応は無い。


「ふん、ここにいる時点で奴と一緒か・・・よく分かった」


周りもザイールと同じだということをジェネリーに印象付けると共に、間違いなく周囲を囲っているのがサンダーラッツの者達だと確認した。


「な、なんだ、それは・・・私は・・・私は貴方たちの事だって心配していたのに!民も国もどうでもいいだと!?結局、お前達も権力に執着しているだけではないか!!騎士でも何でもない!誇りを捨てたのはお前達の方だ!!」


 そしてついに、ジェネリーの怒号が飛んだ。


「な、なんだと貴様!どの立場で言っている!!」

「うるさい!私は騎士として・・・シルバーシュを取り戻すため、お前達と共に戦うことだって考えていたのに!・・・・もういい!私はオーマ団長の下で騎士になり、シルバーシュを取り戻す!!」

「(上出来ぃ♪)よく言ったジェネリー!やろう!俺達で!!」

「はい!!」

「お前達!この二人をなぶり殺してやれ!」


 その言葉を合図に周囲の者達は剣を構えた。


「来るぞ!君は訓練で体力を消耗している。下がっていろ!」

「いえ、大丈夫です!やれます!」


ジェネリーは、力強い返事でオーマを真っ直ぐに見つめてくる。

その気迫だけで、“この連中には負けたくない!認めたくない!”と訴えているのがオーマに伝わった。


「そうか・・・なら、油断するなよ!」

「はい!」


オーマは背中に背負っていたハルバードを手にし、ジェネリーの方は剣を鞘から抜いて魔力を込めて、シルバーシュ残党(サンダーラッツ遊撃隊)を迎え撃った____。



 斥候部隊として隠密行動も得意なサンダーラッツ遊撃隊が、足音を殆ど立てずにオーマとジェネリーの周囲を走り回り、二人を翻弄する。

さらにそこから、回りながら距離を縮めてくる。

 殆ど日が暮れた森の中で、黒装束の人間が音も立てずに同じ様な動きで周囲を走り回れば、距離感を掴むのは難しい。

飛び込んで包囲を破ろうとしていたジェネリーは迂闊に踏み込めなくなった。

 作戦を変更し、ジェネリーは剣を構え、相手の動きをよく見ながら敵が懐に入って来るタイミングを計る。

足音がほとんど聞こえないため、リズムが計りにくいが、集中して相手と自分のリズムを合せ、タイミングを計り、カウンターを狙う。


(次__)


相手の動きをよく見て、タイミングが合っているのを確認し、


(__来る!)


迎え撃とうとした_____瞬間


_____ギギンッ!!


 金属音が鳴り響く。

シルバーシュ残党がタイミングをずらし、ジェネリーが来ると思ったタイミングよりワンテンポ早く切り込んできた。それを防いだ音だった。

だが、当の本人は咄嗟のことで、自分でもどうやって防いだか理解していなかった。


(切り込む瞬間にテンポを上げた!?分からなかった!速い!)


カウンターどころではない相手の技量に、ジェネリーは一歩下がり、距離をとる。

シルバーシュ残党はその様子を無表情でただ見ている。


(クソ・・・)


 相手の余裕の態度に苛立ち、ジェネリーは焦る。明らかに相手の方が強いと感じたのだ。

速さや斬撃は、今日相手したロジやイワナミほどじゃないが、足運びと暗闇を利用した距離の詰め方は実に巧みで、動きを捉えられなかった。


(こんな奴が30人も?・・・クソッ!どうする!?)


相手の強さと人数でジェネリーはプレッシャーを感じ、どんどん焦り始める。

だがそこに___


_____ズドーーン!!


 ジェネリーの焦りを吹き飛ばし、叱咤する様な爆発音が響き渡った。

ジェネリーが音のする方へ目を向けると、ハルバードを肩に掛け体中に雷をバチバチと走らせたオーマいる。

そしてその足元に、数人のシルバーシュ残党が倒れていた。


「オーマ団長!?」

「焦るな、ジェネリー。暗闇と相手の動きに惑わされるな。足音が聞こえづらくても、こいつらは切れ込んでくる時の踏み込みの音は消せないようだ」

「は、はい!」


この手練れをものともしないオーマの姿に勇気づけられ、気持を持ち直す。

 今度は逆にザイールの方が焦りを見せた。


「クッ・・・。き、貴様、その力・・・雷属性だと?」


 帝国の様に、RANKといった基準は無くとも、他国もそれなりに魔法研究は進めている。

だから当然ザイールも、雷属性を扱えるということの意味を理解している。


「帝国の団長を務めるだけのことはあるのか・・・攻撃をその男に集中しろ!女の方は最低限でいい!」


ザイールの指示で、シルバーシュ残党はジェネリー相手に三人ほど残し、残りはオーマを囲んだ。


「くそっ!」


 ジェネリーは自身の負担が減ったことより、オーマの足を引っ張っている事に苛立つ。

申し訳ない気持ちと、情けない気持ちで顔を歪める。

 そんな様子のジェネリーに、オーマは励ます想いで指示を出す。


「チャンスだ!ジェネリー!」

「え?」

「俺がこいつらを抑えている間に、その三人を突破しろ!そうすれば、挟み撃ちで陣形が崩せる!」

「し、しかし・・・」

「大丈夫だ!君ならちゃんと戦える!炎の魔法を明かりにして相手をよく見ろ!カウンターで仕留めるなんて欲張らず、炎の魔法で牽制して戦いを組み立てろ!」

「は、はい!」


 オーマの指示でジェネリーは炎魔法を発動。

自分を中心に、炎で円を描き周囲を照らす。

立ちはだかった三人のシルバーシュ残党が、それを見て(顔が造り物だとバレるのを恐れて)動きを止める。

そこにジェネリーは、炎魔法を叩き込む。


「フレイムウィンド!」

「!・・・!?」


 シルバーシュ残党の三人は、ジェネリーの放った爆風を風魔法の防壁でガードするも、押し切られる。

三人は、後ろ、左右へと、それぞれバランスを崩しながら散開する。

 すぐさまジェネリーは、そのうちの一人に斬りかかる。

だが、シルバーシュ残党も、バランスを崩しながら防御する。

____ギイィィン!と金属音が鳴り響いたかと思えば、すぐさまゴウッ!っと、炎が舞い上がる。

炎を纏った魔法剣ではなく、普通の剣の斬撃から炎魔法の連続攻撃だ。

 ジェネリーは、オーマのアドバイスを参考に、大きい技は使わず、スキを作らない剣と魔法の連続攻撃へと戦術を変えた。

舞い上がった炎は、ジェネリーがさらに魔力を込めることによって勢いを増し、体勢を立て直して斬りかかろうとしていた他の二人を牽制する。

そして、そのまま二人を炎の魔法で牽制しながら、もう一人に剣を振るって追い込んでいく。


 その戦いぶりに、オーマは感心した。


(ほー。あの炎は追撃だけじゃなく、他二人への牽制も兼ねているのか。とりあえず冷静だな)


 恐らくジェネリーは初めての実戦だろう。

そう考えると、初めてで直ぐに冷静になって、ああいった戦いの組み立てができるのは、大したものである。


(本当に才能あるなー・・・!)


 ジェネリーに関心を寄せるオーマに、一人のシルバーシュ残党が横から素早く斬りかかってくる。

だが、オーマはそれを横目でチラッと確認すると、難なく相手の攻撃をハルバードで受けた。

この状況で歴戦の戦士であるオーマが油断するはずもないが、難なく攻撃を受けられたのは別の理由も有る。

相手が本気ではないからだ。

攻撃をしてきた兵士は無表情の顔を近づけ、オーマ以外には聞こえない様に話しかけてきた。


「団長。あの子強くないですか?」

「その声・・・リッド小隊長か?ああ。俺が思っていた以上に、この短期間で成長していた」

「殺さない様に手加減していたらマズくないですか?」

「む・・。確かに」


 当初の予定では、数人でジェネリーを抑えている間に、オーマがシルバーシュ残党(サンダーラッツ遊撃隊)を倒す(フリ)をする予定だった。

だが、見る限りでは、あの三人でも手加減していたら、逆に殺られそうな勢いだ。

 ザイールに関しても、ジェネリーに襲い掛からないようにオーマが牽制する予定だったが、ジェネリーが想像以上の強さだったのか、ザイールも見ているだけで襲い掛かる気配は無い。


「あ、あの女・・・訓練兵ではなかったのか?」


ザイールは少し焦った様子で、そう呟く・・・ここまでの苦戦を想定していなかったのだ。


「落ち目の団長と、訓練兵の二人だけだぞ?30人も居れば余裕だと思っていたが・・・」


 二人とも、ザイールが考えていた以上の力を発揮していた。

オーマの方はまだ分かる。腐ってもドネレイム帝国の一兵団を担っているのだ、腕は衰えていなかったと考えれば理解できる。

 だが、ジェネリーの強さは完全に予想外だった。

兵を一人二人あてがえば、簡単に生け捕りにできると思っていた。

そうしてから、ザイール自身の手で慰み者にしながら、なぶり殺すつもりだった。


(そんなことも言ってられないのではないか?)


 ザイールの中で、焦りの色がさらに濃くなる。

今のところ、三対一でジェネリー側は拮抗しているが、オーマの方がその間に他の兵士達を片付けてしまうのではないか?先の雷魔法を見るに、その可能性も有るように思えた。


(これは・・・あの女に攻撃を集中して、あの女だけでも仕留めて離脱した方が良いか?この暗闇なら兵士達を囮にすればドブネズミも振り切れよう。そのまま国境を超えれば問題無いはずだ)


 ザイールが頭の中で作戦を変更している中、オーマもリッド小隊長と打ち合いを演じながら、作戦を変更しようとしていた。


「よし。まだ人数も多く、予定より早いが決めに行こう」

「どうするのです?この状態で団長が“決め技”を使うために魔力を溜めるのを、27人が傍観していたら不自然ですよね?」

「リッド小隊長、ザイールのところに行って、作戦変更を進言してくれ」

「何と?」

「“ドブネズミは手を焼くから、先に女の方を集中攻撃で仕留めるべき”、と」

「了解です」


 リッドはザイールのところに行くため、オーマから離れようとする。

その時、ザイールの方から思いがけない指示が飛んできた。


「お前達!先に女の方を仕留めろ!攻撃を女の方に集中するんだ!男の方は数人で足止めだけしてればいい!」


「「!?」」


 驚いたことに、自分達がして欲しかった指示が飛んできた。

二人は互いに目を見合わせ(リッド小隊長は仮面で表情が無いが)思わずニヤける。


(あの野郎、思ったより苦戦しているから焦ったか?チャンス!)


「だ、そうだ、リッド。奴の指示に従え、後は部下たちに合図を送っておけよ!タイミングを逃すな!」

「了解です!」


 お互いに強めの斬撃を打ち合い、わざと弾かれると距離を取った。

続けざま、リッドは無言で剣を振り上げ合図を出す。

オーマもそれに合わせ、魔力を込めて術式を展開する。

二人の合図で、全てを理解したサンダーラッツ遊撃隊は、リッドを含む五人でオーマを囲み、他はジェネリーの周囲を囲んだ。


「クッ!」


ジェネリーは、自分に攻撃が集中することに恐怖も焦りもしなかったが、突破口を見出せず顔を歪める。


「ジェネリー!俺が助けに行くまで魔法で牽制して時間を稼げ!君の魔力量ならできるはずだ!」

「はい!」


 気合の入った声で返事すると、ジェネリーは術式を展開し、敵を迎え撃つ体勢を整える。

その表情からは迷いが消えている。

戦闘中、直ぐに気持ちを立て直したのを見て、オーマは再び感心する。

 そして、そうなる理由が、ジェネリーが自分に絶対の信頼を寄せているからだと分かり、後ろめたい気持もあるが、正直うれしかった。

そのジェネリーの信頼から、一人の男として照れる気持ち、部下から信頼される嬉しさ、作戦が順調に進んでいる安堵感、様々な気持ちが湧いてくる。

 だが、そう思うのは一瞬。ビュン!という風切り音と共に、一筋の光がオーマに襲い掛かってきた。

オーマはこの斬撃を先程と同じ様に、難なく受ける。

鋭くても、殺気の無い偽りの斬撃なのだから当然である。


(まだ作戦中だった。何を呑気に感心しているんだ俺は。ジェネリーを見ていたのは、そういう理由じゃないだろう?)


 オーマがジェネリーを見ていたのは、見惚れていたからでも心配していたからでもない。

ジェネリーの魔法発動タイミングを計るためだ。

 これから、作戦の仕上げの舞台を整えるため、オーマは大技を繰り出してシルバーシュ残党を一掃する手筈になっている。

その技にジェネリーを巻き込まないためだ。

 オーマの得意とする雷属性は、高火力、広範囲、光速の攻撃魔法が繰り出せるのが長所だが、味方を巻き込みやすいという短所もある。

戦場によっては、剣などの金属を伝って味方に想像以上の被害が出てしまう場合がある。

それゆえ、大技を使うときは、防護魔法などで雷の効力を抑えるサポートをしてもらうか、オーマの魔法を相殺できるように味方部隊の魔法発動に合せて使用している。

 つまり、今オーマはジェネリーがオーマの魔法の被害にあわないよう、ジェネリーの魔法発動タイミングに合せて、雷撃魔法を撃とうとしている。

中々に高難度だが、雷属性の使い手として経験を積んできたオーマはそれを可能にする。

先程ジェネリーに、“魔法で牽制して時間を稼げ!”と指示した理由も半分はこのためだ。

ジェネリーの魔法発動タイミングに合せるのは初めてゆえ、ジェネリーが魔法を発動するところを何回か観察する必要があった。

 ジェネリーは、敵への対応でその視線に気づいていない。

周囲に気を払い、一人が踏み込んで来ると剣で受け、これを返す。

冷静に時間稼ぎにのみ集中し、追撃はしない。

そして、周囲の敵が動いた気配を感じると、魔法を発動させ自分の周りに爆発を起こして敵から身を守る。

もっとも、遊撃隊もオーマのやることを理解しており、ジェネリーから魔法を誘発する様に動いていのだが。


「いいぞ!ジェネリー!それでいい!その調子で時間を稼げ!」

「はい!」


タイミングを計れるよう、励ましながら魔法を続けるよう指示を出す。


 ズガァァアン!ズガァァアン!ズガァァアン!___。


 二度三度と、オーマの期待に答えるように、ジェネリーは魔法を繰り出す。

かなりの魔力を消費しているはずだが、勇者候補のジェネリーのポテンシャルは凄まじく、魔力も体力も尽きることなく魔法を連発してくれた。

 ザイールにバレないように戦いを演じながらだったので、タイミングを掴めるようになるまで何度も魔法を使わせてしまったが、その甲斐あってオーマはジェネリーの魔法発動タイミングを完璧に覚えた。


「頃合い良しだ!リッド!仕上げに入る!」

「了解です!」


 小声でリッドに話しかけた後、オーマはハルバードをやや大げさに横から払う。

リッドは、派手だが威力の無いそれを受けて、やや大げさに弾かれ自ら体勢を崩す。

 オーマは周囲と距離ができたのを確認し、一気に術式を展開する。

その高まった魔力に、その場の全員の視線が集中する。


「ジェネリー!俺に気を取られるな!敵に集中しろ!」

「クソ、お前達!早くその女を仕留めろ!!」


 オーマとザイールの怒号がほぼ同時に飛び、ジェネリーは我に返る。

そして前を見ると、数人のシルバーシュ残党が自分に斬りかかろうとしていた。

剣では防げないと判断し、ジェネリーは術式を展開して魔法を発動した___。


 ズガガガァァアアン!!


 先程より一際大きな爆発音が響く____。

 爆発の煙の中、ジェネリーが何事かと疑問を抱く。

少しして、その疑問の答えを見せる様に視界が明けると、目の前の景色にジェネリーは目を丸くした。

 ジェネリーの視界に入った景色は、目の前にいたシルバーシュ残党のみならず、他の残党も全員倒れている景色と、ザイールだけが暗い中でも分かるほど青ざめて、足を震わせて立っている景色だった。

束の間、その景色を眺めていたジェネリーはふと我に返り、何が起きたかを悟ってオーマの方に顔を向けた。

そこに居たのは、悠然とした姿でジェネリーのところに歩み寄って来るオーマだった。


「す、すごい・・・」


ジェネリーは頬を赤く染めたまま、オーマの勇姿から視線を外せなかった__。

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