第17話不死身の勇者ろうらく作戦(1)

 「クシナ!フランとウェイフィーに連絡!“歓迎会”をするから合流せよ!ってね♪」

「了解です副長」


 クシナは、通信魔法用の魔道具を耳に付けた。

耳に当てた部分には、音を拾う魔法が付与されていて、そこからノズルが伸びていて、先の部分には声を特殊な音波に変換する魔法が付与されている。

これに本人の風属性の魔法を組み合わせて先端部に声を当てることによって、同じ魔道具を身に付けている者と通信が可能になる。

 通信魔法の魔道具自体は大陸中に普及しているが、性能はやはり帝国の物が一番だ。

コンパクトで、通信距離もあり、盗聴もされにくい。

 だが、そんな帝国の通信魔道具でも、使用するには高い熟練度が必要で、風属性の熟練度をSTAGE5(発生)まで上げる必要があり、通信兵になるのは魔道具を作る職人になるより困難と言われている。

 魔道職人はSTAGE6(付与)まで必要だが、何十年も修行できる。

それに対して通信兵は、現役中にSTAGE5(発生)に上がらなければならないからだ。

そのため、基本的に二属性の信仰魔法の習得を義務付ける帝国兵ではあるが、通信兵だけは例外で風属性だけでも許されている。

指揮官を除く全ての兵種の中で、一番成るのが難しい。

そのことと、魔道具の希少性もあって、帝国に通信兵は一兵団に3~4人しかいない。

他の国に至っては、さらに少ない。

 そんな、専門性の高い風属性の魔術を必要とする通信魔法を、炎属性の砲撃隊長であるクシナが使用していることに、ジェネリーの関心が向いた。


「クシナさんって、通信魔法も使えるのですか?」


通信しているクシナに代わってヴァリネスが答えた。


「ええ、そうよ。クシナは基本属性の炎と風の信仰魔法の使い手よ」

「通信魔法は風属性のSTAGE5。クシナさんは砲撃隊長だから、炎属性もSTAGE4ですよね?」

「いえ、クシナの炎属性はSTAGE5よ」

「はあ!?両方ともSTAGE5ですか!?」


ジェネリーの顔が驚きの表情で固まる。

 常人なら、一つの属性を現役中にSTAGE5まで上げるのも難しい。

それを2属性ともSTAGE5まで上げているのだから、驚くのも無理はない。

 気後れしそうなジェネリーの様子に、ヴァリネスはフォローを入れる。


「といってもあれよ?そのせいで、潜在魔法は殆んど上げてないから、直接戦闘は並みの兵士か、あるいはそれ以下よ」

「それでもですよ。改めて考えると、本当に層が厚い部隊だと思います」


 クシナだけではなく、演習で見たイワナミの指揮能力、集団魔法の手際もすごかった。

そして、ロジの使用したアクアランス・ウェイブもSTAGE4(放出)とSTAGE2(形成)の複合技で、乱戦の中、一瞬で発動させるのは極めて難しい。

思い返して、ジェネリーはみるみる自信を無くしていった・・・。


「私、大丈夫でしょうか・・・」

「だ、大丈夫よ!ウチに入ったら、ちゃんと鍛えてあげるから、イワもそう言ってたじゃない」

「で、でも私、才能無いから・・・」

「ハァ!?」


 今度はヴァリネスの表情が固まった____。

 確かにサンダーラッツの層は厚い。

ロジもイワナミもクシナも、兵としても指揮官としても優秀だ。

この場にいないフランもだし、ウェイフィーに至っては信仰魔法のRANK2(樹)を持っていて、隊長達の中では最強だ。戦う場所と戦い方次第では、オーマやヴァリネスとも渡り合える。

 だが、そのサンダーラッツの面々の強さも、あくまで“常人”を基準にした場合である。

ジェネリーはまだ知らないのだ。

自身が、そのサンダーラッツの幹部達が束になっても敵わないほどの才能を持っていることを・・・。


(この子、本当に気付いてないのね・・・どうしよう?とりあえず、慰めるべきなんだろうけど、“貴方にはすごい才能が在るのよ!”って言うのも・・・)


 ジェネリーに自分の才能を自覚させる____。

これは、彼女に新しい価値観を持たせるということでもある。

そうなった場合、ジェネリーがどういう風な考えを持つようになるのか、ヴァリネスには分からなかった。

いい気になって調子に乗る___といった類なら、今までの新人同様に教育できるかもしれない。

だが、あまりの力に使用を自制すべきと考え、サンダーラッツの入団を止めると言い出したりしないだろうか?

なら、今現在やる気になっている彼女に、わざわざ新しい価値観を持たせる必要もない気がしてくる。


(なにより、新しい価値観を持たせるのも、自信を持たせるのも、私じゃなくて団長がやるべきよね)


作戦の最終段階に入る前にミスは許されない。

 ヴァリネスは十分考えた上で、ジェネリーを励ます言葉を並べた。


「本当に大丈夫よ。人って、自分一人じゃ中々変われないけど、環境が変われば割と変われるわ。あなたもちゃんと実力を付けて、自信を持てるようになるわ」

「本当ですか?」

「ええ。ちゃんと団長が目を掛けてくれるわ」

「あ・・・」


言われて、ロジやイワナミと話している、オーマを見る。


(私も、この人の下で変われるだろうか?・・・強く高潔な、自分の理想の騎士に成れるのだろうか?)


トクン、トクン、と鼓動が脈打つ度に強くなる。

オーマの横顔を見つめながら、自分でも知らぬ間に頬を赤く染めていた。


(お?これはナイスアシストしたんじゃない?私♪)


ヴァリネスはそんなジェネリーを見て、心の中でニヤけるのだった_____。






 「こちらクシナです。シマズ、応答願います」

「お疲れ様です。クシナ隊長」

「お疲れ様です。こちらは演習が終わりました。そちらの“演習”はどうですか?」

「はい。遊撃隊、工兵隊、共に予定通りです。罠の設置、入れ代わる者達の変装、待ち伏せ、全て準備完了しています」

「分かりました、団長に伝えます。こちらは演習を終え“歓迎会”を開くことになりました。そちらの“演習”が終わり次第“合流”してください。以上」

「了解しました」


 クシナとの通信を終えた通信兵のシマズは、早速フランとウェイフィーに報告する。


「フラン隊長、フィットプット隊長。クシナ隊長から連絡です」

「お?どうだった?」

「反省会?それとも、歓迎会?」

「“歓迎会”をするそうです」

「そう。じゃー、上手くいったんだ」

「これで表向きの任務は、ほぼクリアかな」

「後は、オーマ団長の反乱計画の方ですね」

「ごめんね、シマズ。巻き込んじゃって」

「気にしないで下さい。事情が事情ですし。それに、団長にああまで言われちゃね」



 先日のろうらく作戦会議で、“こちらの計画を誰にどこまで打ち明けるか?”という話し合いも行った。

その中で、引き入れる勇者候補には状況次第で打ち明けると決まった。

そして、兵士達には、宰相の用意したウーグスのサポートという表向きの任務しか伝えず、オーマ達の反乱計画と宰相の籠絡作戦は、どちらもギリギリまで伏せておくことに決まった。

 だが、サンダーラッツの通信兵、シマズ・マズマ、ユイラ・ラシル、ナナリー・ユジュの三人には自分達の反乱計画まで全て明かし、協力を取り付けた。

やはり、通信魔法を使わない情報のやり取りでは、反乱計画はもちろん籠絡作戦すら実行が困難であった為だ。

計画を打ち明けられた時、三人とも最初は戸惑っていたが、最終的にオーマに、


「失敗した場合は、俺に脅迫されてやったと自己保身に走ってかまわない」


とまで言われ、三人共協力することを約束したのだった。



 「シマズ~、ノリがいいなぁ、お前さんは」

「遠征軍で、今日まで生き残ってこれたのは団長や副長のおかげだと思っています。だから、一回くらい団長達のために危ない橋を渡ってもいいかなって・・・お二人もそうでしょ?」

「いや、俺はカワイイ子に入ってほしいからだ」

「私は、とばっちりがゴメンだから」

「はは・・・・・(素直じゃないな、ウチの幹部達は・・・)」


 サンダーラッツの幹部達の仲の良さは、周りから見れば一目瞭然なのだが、彼らは意地でもそれを認めようとはしない。認めるのはロジくらいだ。

シマズは苦笑いを浮かべながら、思わずため息を付く。

 するとそこに、シマズの顔の横に在る通信魔道具が淡く光り、通信が入ったことを知らせる。

シマズはすぐに通信魔道具に右手を当て、術式を展開して応答した。


「はい。こちらシマズ・・はい・・・了解。こちらの準備は完了しています。はい・・・了解」


 通信を終えると、シマズは真剣な表情で二人に報告する。


「シルバーシュ残党を見張っていた部隊からです。連中の暗殺計画も変更無し。人数、人員、服装も予定通りで、こちらに向かっているとのことです」

「お~し。じゃー、お仕事と行きますか」


フランとウェイフィーは気持ちを切り替え、兵士の前に立つ。


「おい!みんな!ぼちぼち標的が現れる!ぬかるんじゃねぇぞ!」


「「了解!」」


「遊撃隊の皆。変装用に作った土魔法の仮面は、ばれない様に精巧に作ったため強度はあまり無いから、割れない様に注意して」

「ジェネリーちゃんとザイールにバレるなよ。じゃあ、ウェイフィーちゃん。俺は狙撃ポイントに行くから、後よろしく」

「了解。うっかり団長を殺さないでね」

「いやぁ、それは団長次第でしょ」

「そっか」

「んじゃ、行ってくる」

「いってら」


そう言うとフランは、ウェイフィー達と離れ、一人、暗くなり始めた森の中へと消えて行った。


「では工兵隊の皆。遊撃隊の皆。配置について」


「「了解」」


ウェイフィーの号令で、その場に居る兵士達が動き出す。


 目的は、ザイールを除くシルバーシュ残党の捕獲と、捕獲した者達との入れ替わりだ。

工兵隊による罠でシルバーシュ残党を捕獲。

その後、遊撃隊がシルバーシュ残党の格好をして、その顔に似せた仮面を付けて入れ替わる、という内容だ。

 ザイールに気付かれぬよう行うのは困難ではあったが、戦闘経験の貧しいシルバーシュ残党と帝国精鋭のサンダーラッツの戦力差は大きく、この作戦は予定通り成功した____。






 太陽が半分沈み、西空だけ焼けた色をしている。

演習場から街へ帰る途中にある森の中は、木々の隙間から赤い光が入るおかげで辛うじて前が見える。

 そんな薄暗い森の中を、オーマとジェネリーは二人だけで、馬に乗ってゆっくり街に向かっていた。

ロジ、クシナ、イワナミは演習の片付け。

ヴァリネスは歓迎会のため、店の予約を取りに先に戻っている。


「いやー、それにしても、この短期間で見違えたな」

「そ、そうでしょうか?」


 あの後、夜の歓迎会にはまだ早いので、砲撃隊の射撃訓練だけではなく、ジェネリーのことを知ってもらうため、イワナミやロジが相手になって稽古もした。

成績こそ全敗で終わったが、明らかに最初に会った時より強くなっており、時折二人が焦る場面もあった。


「本当だって。ロジとイワナミが焦る場面もあったし」

「いえ、自分なんてまだまだですよ。お二人に一回も勝つことができませんでした」

「でも強くなった実感はあるんだろ?」

「それは・・・まあ、多少は」

「多少か(笑)この短期間であんなに強くなれるもんじゃないんだがな・・。そうまで謙遜すると却って嫌味に聞こえちゃうぞ?」

「えっ!?い、いや、本当です!嫌味なんて、そんなつもりじゃ・・・」

「あ、すまん。俺の方が嫌味だった。俺もそんなつもりじゃ無かった。でも、謙遜でも無いなら自分が掲げる目標が高いのか?」


性格的に自信が持てないのだろうが、それだけでは無いと思い、疑問を投げかけてみる。

言われたジェネリーは、一瞬オーマと顔を見合わせ俯いてしまう。


___どうやら当たりらしい。


 オーマは必死にフォローを考える。

作戦の最終段階を前に、できるだけ好感度を上げておきたい。


「ロジもイワナミも君を褒めていたじゃないか。あの二人は、戦のことでウソはつかないぞ?ウソついて変に自信を持たれても戦場で危険になるだけだからな。だから少なくとも、戦場で生き残れるくらいには強くなっているよ。俺もそう判断している」

「ありがとうございます・・・」

「・・・それ位じゃ自信は持てないと?」

「・・・・」

「そこまで自信持てないもんかな・・・」

「・・・・」

「・・・・」

「・・・・シュを・・・・・・は・・・・・すか?」

「?」

「シルバーシュを守れる強さとは、どれ位ですか?」

「シルバーシュ?」

「はい。オーマ団長がおっしゃる様に、強くなっている自覚はあります。でも・・いえ、むしろ、そう実感すればするほど考えてしますのです。どこまで強くなれば祖国を守れたのだろうか?と・・・」

「・・・・・」

「今の自分でも父には及びません。その父が逃げたくらいですから、今の自分に何ができるのだろう、と・・・」


 確かに、ジェネリーが求める強さがそこなら、素直には喜べないだろう。

シルバーシュを守れる強さとは、具体的に言えば帝国と渡り合える強さだ。

いくらジェネリーが尊敬するサンダーラッツの隊長とはいえ、帝国軍人の一人。

それにすら勝てないのでは、話しにならないだろう。

そして間接的とはいえ、戦わずに国を明け渡したことに対する後ろめたさもあるのだろう。

 オーマは、その気持ちを理解すると同時に、ジェネリーの中でまだシルバーシュに対する想いが強いことも理解した。


(まずいな。ジェネリーのシルバーシュに対する気持ちは思ったより強い。今回、ザイールは彼女を標的にしたが、仲間に誘う可能性だってあった。シルバーシュの残党は他にも居るかもしれない。もし、そいつらに誘われたら・・・ジェネリーの中で今、俺達とシルバーシュどちらが大事だ?)


「祖国を取り戻したいか?」

「え?・・・で、でも、無理ですよね?」

「仮の話だよ。もし君に力が有って、シルバーシュの人達が祖国を取り戻そうと誘ってきたら」

「・・・正直に答えていいですか?」

「正直な答えが聞きたいな。もちろん、他言はしない」

「戦うと思います。それが私の騎士の誇りですし、もし、国を捨てた私を民が再び迎えてくれるなら・・・」

「そうか」

「ダメですか?」

「まさか。ただ、以前にも言ったが、君とは戦いたくないなと思っただけだ」

「私も、できればオーマ団長達とは戦いたくないです」


(できれば・・か。この調子じゃ戦わざるを得なくなったら戦うだろう)


 副長の見立てでは、ジェネリーはオーマに恋心を抱きつつあるはずだ。

だが、それでも天秤はシルバーシュに傾くのだろう。

真面目な彼女なら、騎士として国を救う使命と自身の恋心を天秤にかければ、恐らく自分の気持ちを押し殺し、騎士としての使命を全うするだろう。

ここに来て彼女の真面目な性格がネックとなる。


(どうする?真面目な彼女がここまで決意しているのなら、覆すのは容易じゃない。作戦が上手くいっても、断ち切れないかもしれない。だが、無理に諦めさせ様とすれば距離を置かれてしまいそうだ・・・)


どうすれば、彼女のシルバーシュに対する気持ちを、不仲にならず断ち切れるだろうか?

オーマは考えに考えるが答えが出せない。

 頭の中が沸騰し、一旦考えるのを辞めた_____瞬間、閃いた。


(いや、待て。わざわざ断ち切らなくても__)


 シルバーシュに対する想いを断ち切らせることばかり考えていたが、とっさに別の方法を思いついた。


「取り返したら良い」

「え?」

「祖国も自身の誇りも、全部取り返したら良いさ」

「でも今、私とは戦いたくないって・・・」

「戦わないよ。俺も手伝う」

「て、手伝うって?」

「帝国で出世して、シルバーシュの領主になったらどう?ってことだよ」

「て、帝国で!?」

「ああ。もし、君に立場や地位にこだわりが無いのなら、それもアリだろ?君が求めるのは、国を守れる騎士になることだろ?立派な騎士になって出世して、旧シルバーシュ領の領主に成る。そして今度こそ、民を守ると約束すればいい」

「そ、そんな突拍子も無いこと・・・」

「君は第二貴族だ。遠征軍でちゃんと戦果を上げれば、それに見合った褒美が貰える。第二貴族は領地を持つことを許させているから、平民の俺達と違い、旧シルバーシュの領主に成ることは決して夢じゃない」


夢どころか、もしジェネリーが本物の勇者なら簡単だろう。

いや、勇者じゃなかったとしても、ジェネリーの才能なら十分実現可能な話しだし、勇者なら帝国と敵対しても、協力してもシルバーシュを手に入れられるだろう。


「帝国で出世して、シルバーシュを取り戻す・・・できるでしょうか?」

「これが無理なら、帝国と戦うのはもっと無理だよ」

「確かに・・・」

「これでも俺は、本気で君の力になりたいと思っている。この方法なら君と戦わずに済む・・・というより、君と一緒に戦えるから喜んで力を貸せる」

「オーマ団長・・・」

「こういうこと言うのなら、帝国を裏切って君と一緒に戦う、と言った方がカッコイイかな?」

「クスッ。いえ、さすがにそれは・・・私も帝国を敵に回すのは無謀だと思います。さっきの話は、あくまで帝国と戦う力が有る、という場合ですよね?」

「あ、ああ、そうだな。そうだった。・・・帝国を敵に回すのは無謀だよな・・・ハハ」

「でも、そうか・・・ありがとうございます」

「ん?」

「シルバーシュを取り戻すのは、正直無理だと思っていたので、可能性が有ると分かっただけでも嬉しいです」

「礼には及ばないよ。まだ正式ではないが、君はもうウチの一員だと思っている。だから、俺にできることなら力になるよ」

「・・・・・」

「それに、見込みがあるって言ったろ?」

「・・・どうして」

「え?」

「どうして、そこまでしてくださるのですか?」

「・・・・」

「初めて会った時もそうですし、それに今も・・・・本当に、見込みがあるってだけですか?」

「・・・・」

「・・・すいません。言いづらい事でしたら無理には・・・」

「俺の理想でもあったからさ、君の理想が」

「オーマ団長の・・・理想?」

「俺は戦災孤児だった。だから、子供の頃は戦争を憎み、嫌っていた」

「・・・それで、何で軍人になったんですか?」

「知りたかったからだ。何故戦争が起こるのか、だれが何のために起こしているのか・・・どうして父さんと母さんは、死ななければならなかったのか」

「オーマ団長・・・」

「戦争について学んでいく内に、帝国の理念に共感して軍人になった・・・今となっては惨めなもんだが」

「え?」

「あ、いや、とにかく、もう自分みたいな想いをする人が出ないよう、人々を守れる騎士になりたいと思っていたんだ、だから君のことを応援したくなったんだ」

「そうでしたか・・・」

「自分の理想と重ねて見てると言ったら、重荷になるんじゃないかと思って、言うべきではないと思っていた」

「そんな事ないです!私、オーマ団長が自分と同じ理想を抱いていると知れて嬉しいです!」


 薄暗い森でも分かる明るい表情、瞳を輝かせて自分を見るジェネリーに、オーマは戸惑う。

任務の上では順調と言えるが、オーマの心に針がチクリと刺さる。


(クソッ!滑稽だ!理想を重ねていると言っておきながら、その人物をだます事になるなんて!)


 オーマがジェネリーに語ったことは殆ど本音だ。

オーマは確かにジェネリーの騎士道に共感している。

だからこそ、罪悪感を覚えていた。


(バカ野郎・・・もう決めたろ?生き残るために、仲間たちまで巻き込んだんだ。もう引き下がれないだろ!)


 もう一度心に喝を入れて、自分を奮い立たせる。


「そう言ってくれると、俺も救われる。改めて、同じ理想を持つ者として応援するよ」

「ありがとうございます!私、決めました!必ずいつか立派な騎士に成って、シルバーシュを取り戻します!」


 ジェネリーがやる気に満ちた顔で、オーマにそう宣言した。

その姿は凛々しく、神々しさを放っていた。

オーマは神話に出てくる女神でも見る様に、ジェネリーに心を奪われた。だが____


「今更そんなこと言っても遅いんだよ!!」


 暗闇の中から知らない男の怒号が飛び、オーマは一瞬で我に返る。


(____来たな!)


 ジェネリーに見惚れていたことも、罪悪感を抱いていたことも心に押し込め、作戦を遂行する軍人へと気持ちを切り替え、作戦最終段階を迎えるのだった____。

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