第16話演習見学(後半)

 演習が開始されると同時に、イワナミが兵士に号令をかける。


「防御陣形!続けて魔法術式展開!集団魔法で壁を作る!」


「「おう!!」」


 重歩兵隊の兵士達は、一糸乱れぬ動きで、盾を構えて二列横隊になり魔法を発動する。

陣形の組換えから、集団での魔法の発動までピッタリ息が合っており、兵士達の体から発せられた魔法の光はすぐに炎となり、同属性の連鎖反応で、人2・3人分の高さの炎の防壁が出来上がる。


「すごい!!」


思わずジェネリーは唸る。


 集団魔法とは、STAGE3連結の技術を用いる魔法で、他人の魔法と自身の魔法を複数人で連結させる。

同属性で、魔力、発動タイミングが重ならなければ連鎖反応は起きず、威力と規模は上がらない。

数百人でこれを合せるのはかなり難しい。

軍学校で集団魔法の難しさを知るジェネリーは驚きを隠せず、目が釘付けになる。


「防御陣形に集団魔法のファイヤーウォール・・・イワナミの隊で一番防御力のある戦法ね」

「あの炎の防壁は打ち破れないですね!!」


今まで、あれほど息の合った高威力の集団魔法を見たことが無かったためか、ジェネリーはさらに興奮している。

 そのジェネリーに対して、二人は冷静に解説を始めた。


「確かに堅い。並みの部隊では、一小隊潰すのにも苦労するだろう。今までも、何度もアレで俺達を守ってくれたよ・・・だが」

「突撃隊相手じゃ判断ミスでしょ。前面に炎の壁を作るファイヤーウォールじゃなくて、炎を身に纏うフレイムアーマーの方が良いと思うけど、集団魔法も部隊全体じゃなく、小隊ごとにして」

「何故ですか?ファイヤーウォールの方が防御力は高いし、集団魔法も人数が多い方が良いですよね?」

「その分、小回りが利かない」

「アレじゃー、一度壁を破られたら、そこで終わりよ。大規模な戦闘で、決められた役割ならいいけど、部隊同士だったら突撃を受けた後も、動きやすい方が良いと思うわ」

「そ、そうでしょうか?でも___」


先の集団魔法に感動したからか、自分が配属される部隊だからか、突撃隊がキモいからか、あるいは全部なのか、どれかは分からないが、ジェネリーの気持ちは重歩兵隊に偏っているようだった。

 それを察したヴァリネスが、アイコンタクトでオーマにフォローを命じる。


「ま、まあ、どっちも一長一短ある。それに、この戦法がロジの部隊相手だと裏目なのは、普段からよく演習しているイワナミには分かっているはずだ」

「分かっていて、あえてイワナミ隊長はあの戦法をとっているのですか?何故?」

「真正面から受けたいんじゃない?演習だし。勝利より大事なことがあるわ」

「なるほど、演習なら学修することが大切ですもんね」

「突撃隊の突撃を受けるのは、いい経験になるからな」

「そんなにすごいのですか?あ、いえ、疑うわけではないのですが・・・」

「ああ、その答えがようやく見れるぞ。ロジが仕掛ける」

「え?」


 そう言われ、ジェネリーが戦場の方に顔を戻す。

それと、ほぼ同時に____


「ビギャアレリィイィヤヤァアアーーーー!!!」

「!!?」


 野獣の咆哮?死神に魂を奪われた者の悲鳴?悪魔に魂を売った者の高笑い?そんな、この世の物とは思えないノイズがジェネリーの耳に届いた。

何を言い表しているのか分からない、表現できない奇声に、ジェネリーの体は肌触りの悪い縄で縛られた様に硬直し、視線を突撃隊から逸らせなくなった。

 動かせない視線に飛び込んで来る突撃隊の兵士達の姿は、先の頼りなさそうな雰囲気から一転、理性を奪われた狂戦士の様に荒ぶっていた。

目が血走り、よだれを垂れ流し、気色悪い笑みを浮かべて重歩兵隊に向かって突進している。

常人なら突撃どころか、触れることさえ躊躇うであろう巨大な炎の防壁をまるで恐れず、嬉々として向かう様は異常だ。

 その異常な事態で異質な存在を、ジェネリーは、開いた口を塞ぐことすら忘れて見ているだけだった。


「リクイッドベール展開!」

「ババリビャジジャーーー!!(分かりましたーーー!!)」


 ロジの号令で、突撃隊が小隊ごとに集団魔法を発動する。水色の光が灯り、突撃隊の兵士達は水の羽衣をその身に纏う。

決して強固な防御魔法ではないが、小隊単位で発動すれば、並みの魔法や物理攻撃なら、その身に傷を負うことは無いだろう。

だが、彼らの目の前にある重歩兵隊の防護魔法に対しては、素人目にも、気休めにしかならないと分かる。


「む、無茶だ・・・」


ジェネリーの呟きは、当然彼らに届くわけもなく、むしろその突進は勢いを増す。



 「毎度のことながらイカれている・・・」


イワナミはうんざりといった表情でため息を漏らすも、自身に喝を入れ、兵士達を鼓舞する。


「来るぞ!!今日こそ耐え抜くぞ!!」


「「おーー!!」」


狂信的に荒ぶる突撃隊を前に、重歩兵隊も覚悟を決めて迎え撃つ。


 そして、狂化された荒波が炎の防波堤に突っ込んだ____。


 ボジュウゥゥ・・・と、水が蒸発する音がジェネリーの所まで届く。

炎の壁は、やや弱まるも消えてはいない。

これは、当然の結果だ。

 重歩兵隊は、最も強固な防護魔法を部隊全体で使った。

対して、突撃隊は小隊規模でしか防護魔法を使っていない。

いや、小隊規模でしか使えなかった。

 いくら熟練された兵士とはいえ、部隊全体で集団魔法を発動しながらの突撃は困難である。

部隊単位での集団魔法は、たとえ帝国軍の兵士達であっても、立ち止まって使うのが普通だ。

動きながらでは、普通はどう頑張っても30人くらいが限界だろう。

300人以上での集団魔法の炎の壁を、十数人ほどでの小隊ごとの集団魔法がかき消せるわけがなかった。

 だが____


「ヴァッリリリィイィィイヤヤァァァアーーーーー!!」


 先程の奇声が、再びジェネリー達の所まで届けられた。

水が蒸発して霧が立ち込めていて、よく見えないが、声の感じからまるで怯んだ様子は無く、改めて霧に目を凝らせば、霧の中で人影が活発に動いている____。

 霧が晴れた後、ジェネリーの視界に飛び込んできたのは、炎に焼かれ、武器をその身に受けながらも、まるで意に介さず、自身の体ごと壁にぶつかる様に重歩兵隊と戦う突撃隊の姿だった。


「な!?あの人達は、痛みや恐怖というものを感じていないのですか!?な、何かそういう魔法でも!?」

「使ってないわよ。てか、そんな魔法あるのかしら・・・」

「聞いたことないな。だが、作れそうだし、使われてそうだ」


見慣れた光景なのだろう、まったく驚いた様子もなく質問に答える二人に、ジェネリーは絶句する。

 そして再び戦場に目を向けると、ついに重歩兵隊側で一か所、陣形が崩れてしまっていた。

そこへ突撃隊が容赦なく、なだれ込んで行く。


「しまった!!」


イワナミがそう叫んだ時にはもう遅く、崩れた所から次々と他の隊も陣形を崩され、打ち取られていく。

だが、突撃隊側も闘志こそ些かも衰えていないが、やはりダメージは大きく、動きが鈍っている。


 このまま、互いに決め手を欠いた、ジリ貧の展開になる___。


 そう思ったイワナミの目の前に、ロジが勢い良く飛び出てきた____


「イワナミさん、覚悟!」

「な!?」


 イワナミは、躍り出てきたロジに意表を突かれる。

さらに、先程兵士と共に集団魔法を発動していたせいで、魔法の発動も出遅れてしまう。

ロジはそのスキを逃すことなく、自身の得意の攻撃魔法を発動した。


「アクアランス・ウェイブ!」


無数の水の槍が混ざった小規模の津波が、イワナミを貫きながら、他の兵士も一緒に押し流していく。

陣形と共に集団魔法を崩され、指揮官が打ち取られては立て直せるはずもなく、重歩兵隊は崩壊していった。


 今回の演習は、突撃隊が勝利を収めるのだった____。






 演習が終わり、休憩している両隊の所に来たオーマ達は、イワナミに労いの言葉をかけた。


「イワ、お疲れ」

「お疲れー」

「お疲れ様です」

「お疲れ様です、イワナミ隊長」

「皆さん、お疲れ様です。どうも、お恥ずかしいところをお見せしました」

「いえ!とんでもない!すごかったです!」

「突撃隊相手に、あの手は悪手だと分かっていただろう。これで何勝何敗だ?」

「さあ?サンダーラッツの設立以来からやっているので、もう覚えていません。だた、この戦法で突撃隊に勝ったことは無いです」

「やっぱり、あえてあの戦法を選んだのね」

「はい。サンダーラッツで最も硬い、我が隊最硬の戦法なので、どんな相手にも通用する様になりたかったのですが・・・完敗です」

「それで相性が悪くてもあの戦法で戦ったのね」

「あ、相性の問題なのですか?あの突撃隊の方々の戦い方は、そういう次元の話じゃない気がしましたけど・・・結局、あれは何だったのですか?」


 ジェネリーの質問に全員が顔を見合わせる。

オーマが代表して、コホンとわざとらしく咳をした後、指をさして答えた。


「あれな・・・あの突撃隊の狂信的な戦いぶりの秘密は、アレだ」

「アレ?」


 オーマの指さす方を見ると、正座しているロジの前に、突撃隊の兵士達が行列を作っていた。


「ハイ♪じゃー、次の人~」

「ハイ!失礼します!!」


順番が来て、呼ばれた兵士が元気よく返事すると、興奮を抑えられない様子でロジの前にでる。

そこからコロンと横になり、白く透き通ったロジのふとももに頭を乗せた。

ロジのスベスベのフワフワなふとももの感触に、兵士はデレデレと鼻の下を伸ばし始める。


「よく頑張りましたねー。ヒール♪」


 ロジは兵士の頭を優しく撫でながら回復魔法を掛け、兵士を労う。

回復魔法で傷が癒える感覚と、ロジのふとももの感覚に癒され、兵士は至福の表情を浮かべた。

膝枕されながら、下心まる見えのだらしない表情で回復魔法を掛けてもらうその姿に、ジェネリーは顔を引きつらせた。


「ナ・・・ナンデスカ・・・・アレ」

「突撃隊名物、“ロジの膝枕ヒール”」

「・・・ハ?」


なんてことない、といった風に答えたオーマに、ジェネリーは気の抜けた返事しかできない。

 理解が及んでいないと判断したオーマは、説明を始めた。


「ロジの部隊は元々、回復をメインにした後方支援部隊だったんだ。だが、ある戦場で敵に背後を取られた時、ロジの隊に前衛が戻るまで時間を稼ぐように指示したんだ。そしたら・・・」

「そ、そしたら?」

「前衛が戻る間もなく、敵部隊を壊滅させていたんだ。驚いたよ。ロジの隊に入れた兵には、強い印象は無かったから」

「新人で実力のある兵は、重歩兵隊か遊撃隊に入れてたしね」

「それで、ロジの隊の強さの秘密を調べたんだ。そしたら、どうやら兵士達は、負傷した後のアレが目当てだったらしくてなー」

「ケ、ケガをすれば、ロジ隊長に膝枕してもらえるから?」

「そうだ」

「う・・・」

「強いはずよねー。だって、ケガを恐れず戦っているんじゃなくて、ケガしたくて戦ってるんだもん」

「そ、そんな、無茶苦茶な・・・」

「確かにな。だが、指揮官として、それを知った以上は活かすべきと考えてな、彼らに、突撃隊が一番ケガできるぞ、と薦めたんだ」

「そしたら、全員、突撃隊になるって言ってね。今じゃサンダーラッツ最強部隊よ」

「と、特性を活かす・・・さ、最強部隊・・・」

「納得いかないか?」

「え!?え、えっと・・・」


正直納得いかないが、オーマの言い分も理解できるし、実際にその特性を活かして戦果を上げているのだから否定できない。

だがそれでも、ジェネリーの目に入ってくる突撃隊の光景は異様で、ロジの膝の上でだらしない表情を見せる兵士達を見ると、気分が逆立ってしまう。


「そ、その大丈夫なのですか?えっと・・・その、風紀の乱れといいますか」

「キモイか?」

「ヴェ!?い、いえ!そういうわけではなく、な、なんといいますか___」

「まあ、言いたいことは分かる。でも死んだら元も子もない。あの光景だって、彼らが死体になった光景を見るより、ずっとマシだ・・・・・・多分」

「な、なるほど・・・」


嫌悪感は残るものの、命を預かる立場のオーマの考えは、納得できるところがある。


「他の皆さんは、どう思っていらっしゃるのですか?」

「慣れました。あの光景のおかげで、勝利して生き残れていると思えば、見慣れます」

「正直、あんな理由で戦っている相手に負けるのは悔しいが、結果としてウチの部隊も強くなった。あの狂信的な突撃に慣れれば、大抵の相手にはビビらなくなる」


慣れたと言う二人の意見を聞いて、そういうものなのかも、と思い始める。


「良くないわ」

「副長は反対なのですか?」

「もちろん」


意外・・・と言ってはなんだが、ジェネリーは少し驚いた。

ヴァリネスが一番割り切って考えてそうな気がしていたので、反対意見を口にするとは思っていなかった。


「だって、不公平でしょ?」

「は?ふ、不公平?」

「何でロジくんから膝枕ヒールしてもらえるのが突撃隊だけなの?ずるくない?ねぇ?そう思わない?」

「は、はあ?」


 どんどん熱を帯びてくるヴァリネスの声と表情に、ジェネリーは思わず後退る。

そんな、ドン引きしているジェネリーを他所に、ヴァリネスはさらにヒートアップしていく。


「あのキュートな顔、優しい声、癒しの雰囲気、スベスベして柔らかい肌!老若男女誰だって堪能したいじゃない!私が堪能したいじゃない!何で?何で私はロジくんに膝枕してもらえないの!?」

「また、その話か・・・団員全員の回復をロジにさせる気か?重労働なんてもんじゃないだろ?」

「じゃあ!私だけでも!」

「職権乱用だ。てか、副長は潜在魔法で自己回復できるだろ?重症じゃない限りダメだ」

「~~~!!」


ほっぺを膨らませ、駄々をこねた子供の様にヴァリネスはオーマに訴えている。

 その様子と内容に困惑しているジェネリーに、クシナが近づいて声を掛けた。


「副長は、ロジが好きなんですよ」

「え?」

「見ての通り、溺愛してます。異常とも思えるほどにね」

「異常ではないんですか?」


言い切るジェネリーにクシナは思わず吹き出した。


「プッ、あなたも、なかなか言いますね」

「あ・・・す、すいません」

「いいえ、馴染んできているのなら嬉しい限りですよ。サンダーラッツでは、今の副長の様に、欲望に正直過ぎる発言が飛ぶこともありますから、そういうノリに対してジェネリーがどう思うか心配していました。あなたは、私やイワナミと同じく、真面目な人だと思っていたので」

「クシナさんとイワナミさんは嫌ではないのですか?」

「軍を統率するためには規律が必要だ。そのため、我慢も必要だ。だが、我慢させるだけでは、いつ死ぬか分からない極限の状況では精神的に持たないのが人間だ」

「なるほど」

「私は正直、最初は抵抗ありました。けど、遠征軍は遠征先でいつ戦なるか分かりません。つまり、いつ死ぬかわかりません。いつ死ぬか分からない中で生きるなら、自分を押さえ過ぎるのもね・・・私も死にかけた時、ああしておけば良かった、こう言っておけば良かったと、思いました」

「死ぬ時、後悔しないように、ですか?」

「そうです。後は、少し羨ましいです」

「羨ましい?」

「ああも素直に、自分の気持ちを言えることが、です」

「相手がド天然で、全く届いてないがな」

「へぇ・・・クシナさん、どなたか思いを寄せている方がいらっしゃるのですか?」

「え?え~!?」


 ジェネリーの言葉は想定外だったらしく、クシナは顔を真っ赤にして手をバタバタと振って、取り乱した。


「あ、いや、そういうわけでは・・・あの、なんというかですね・・・」

「死ぬ時、後悔しないようにな、クシナ」

「うるさいですよッ!イワッ!・・・こほん・・・えっと、その、先程の発言と矛盾してしまうのですが、いつ死ぬか分からないからこそ、打ち明けるのを躊躇う想いというのもあるのです」

「どういうことでしょう?」

「気持ちを打ち明けて、それで死んでしまったら、打ち明けられた方も苦しむことになるでしょう?両想いになれたのなら尚更です」

「死に分かれてしまうくらいなら、伝えない方が良いと?」

「そういう場合も有るのではないでしょうか?」

「クシナの場合は無いと思うが?」

「うっさい!イワ!」

「難しいものですね、人の生き方と、想いというのは」

「ちなみに、ジェネリーはいないのですか?」

「へ?」

「そういう相手。好きな人ですよ」

「え!?わ、私ですか!?」


 今度はジェネリーが顔を真っ赤にして、手をバタバタと振って取り乱した。


「想い人を残して、戦場に行くことになったりしない?」

「もしそうなら、遠征軍の加入自体、考え直す必要があるかもな」


 作戦の事を考えれば、居ない方が良いし、居たとしても加入してほしい立場ではある。

だが、二人はあくまで、“理解ある年長者”として振る舞う。

これは会議で決まった方針ではあるが、二人共本当に親身な気持ちになっての発言だった。


「い、いえ、そういう人は居ません。ただ・・・」

「ただ?」

「気になる人というか、認めてほしいと思う人は、います・・・」


 そう言ってジェネリーは、一度オーマの方を見ると、顔を赤くして俯いてしまった。


「「ほーう」」


 クシナとイワナミはそれを見逃さなかった。


「団長は戦には敏感に反応するが、恋愛には鈍感だから、はっきり言った方が良いぞ」

「ぶっ!?べ、別にオーマさんとは言ってない!あ、いや、別に、オーマさんに魅力が無いというわけではなくて、ですね」

「まあまあ、そんなに取り乱さないで下さい。誰にも言いませんから」

「~~~!」


ジェネリーは、さらに顔を赤くして、すっかり顔を伏せてしまった。

その姿に、クシナは本気で微笑ましい気持ちになった。


「・・・叶うと良いですね」

「複雑だな。クシナ」

「うっさイワ!!」

「すまん。俺が悪かった。その略し方は止めてくれ」

「お?なんだ?イワナミが謝るなんて珍しいな」


 駄々をこねた副長をようやくなだめ終え、オーマ達が会話に入ってきた。


「恋愛話をしていて、クシナを少しからかい過ぎました」

「ほー、恋愛話ね」


只の雑談でそうなったのか、それとも作戦遂行のために探っていたのか分からず、曖昧な返事になる。

 その心中を察したクシナは、すぐに気を利かせた。


「想い人はおらず、サンダーラッツに入団して遠征するのに、思い残すことはないそうですよ」

「我々も喜んで迎えられますね。団長」


 二人の言い回しで、ジェネリーの周りに作戦の邪魔になる存在はいないと分かり、オーマは会話に乗った。


「そうか。遠征に出たら、中々帰ってくる機会はないからな。失礼かもしれないが少し安心した。それで__そういう話をしていたということは、俺達の人となりを知った上で、入団してくれるってことかな?」

「はい!少し驚くことはありましたが、皆さんの仲間になりたい気持ちは変わっていません!是非、雷鼠戦士団に入れて下さい!」

「もちろんだ。ジェネリー・イヴ・ミシテイス。雷鼠戦士団は貴方を歓迎する」

「ようこそ!サンダーラッツへ♪」

「よろしく、ジェネリー」

「ウチの隊に入ったら、死なない様に厳しくするからな」

「はい!よろしくお願いします!」

「よーし!じゃー、入団祝いに今夜は飲みに行きましょう♪いいわね?ジェネリー?」

「え?いいのですか?まだ、正式に入団したわけじゃないのに」

「いいの、いいの。こっちの目的は半分達成したわけだし」

「え、目的?」

「あ、いや、うん。だから、あなたをサンダーラッツに入団させるって目的よ」

「はは、そうですか」


そんなにまで、自分を加えようとしてくれていたと知り、ジェネリーは嬉しくなる。

 だが、ヴァリネスの言った“目的”は、違う意味だ。

憂いもなく本人が入団を希望したのなら表向きの作戦(宰相に命じられた作戦)は成功したことになる。

 そして、オーマ達の真の目的はその先にある。

日が傾き始め、もうすぐ陽が沈む。

そうすれば、いよいよシルバーシュ残党の暗殺計画が実行される。

それはつまり、ろうらく作戦も仕上げに入るということだった___。

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