第13話それぞれの思惑

 ___レムザン通りの繁華街。


 日が落ち、太陽の光に照らされていた街は、街そのものが光を灯し始める。

オーマ達が通うレムザン通りは、その中でも一際輝いている。

 そして、灯の回りを飛ぶ蝶の様に、店の前に妖艶な姿をした女性たちが姿を見せ始めると、レムザン通りは魅了の魔法でも使用した様な妖しい魅力を帯びて、通りを歩く者たちを誘惑する。

その誘惑に魅入られた者達は、一時の甘美な時を過ごすため、その女性たちと共に店の中へと消えていく。

夜のレムザン通りは、人の欲望で輝き、脈打つ生き物となる。


 レムザン通りに“昏酔の魔女”という名の、通りで一番大きく、立派な建物の娼館がある。

リデルが働いているので、オーマも何度となく通ったことのある店だ。

店の中に入ると、酒と香水と女性のフェロモンが、むせ返りそうなほど充満しており、居るだけで理性を奪われそうだ。

一階は酒場で、男達がゆったりとしたソファーに座り、女性たちを侍らせ、ピアノでムード作りされる中、酒と会話を楽しんでいる。

暫くすると、その中の何人かが、女生と腕を組んで、二階のベッドのある部屋へと入って行く。


 そんな中、部屋の角で女性を侍らせず、男三人だけでテーブルを囲む者たちが居た。

そのうち二人はフランとイワナミだった。

もう一人は、ボロスという名のこの店のオーナーで、顔は厳つく、体格はイワナミにも負けない。

タキシードを来ているが、どう見ても堅気の人間に見えない。

 この界隈のこういった店のオーナーは、大抵そっち側、あるいはそっち側と係わりのある人間達ゆえ、驚くことではない。

イワナミとフランがこの店に来たのも、この店のオーナーがゴロツキ連中に顔が利く人物と知ってて、聞き込みに来たのだ。


「間違い無いんだな?」

「ええ。全員シルバーシュ出身で、貴族だった者もいます。間違いなく、シルバーシュの強硬派の残党です」


見た目と違い、穏やかで丁寧な口調でオーナーのボロスはそう話す。


「にしても、よく調べたねぇ」

「この界隈をうろつくあの手の連中は顧客になるか、災いになるかの二択と言っていいです。調べるに決まってますよ。まして、我々を無視して武具まで調達しているのですから、死活問題になりかねない」

「武具?どこの?」

「・・・我々でも入手困難な軍用のです」

「軍用の武具!?・・・どうやって・・・てか、お前らも手に入れられるのかよ」

「詳しくは聞かないで下さいね」

「この地に馴染んでいる裏社会の人間でも入手が難しい軍用の武具を、最近現れたよそ者が手に入れられる理由・・・」


 帝国の軍用の武具は魔法が付与されている。

魔道具を作るには、信仰魔法をSTAGE6(付与)まで上げる必要がある。

非常に高度な技術で、帝国でも数人しかいない。

そのため、量産されているとはいえ貴重品で、すべての武具が登録されており、管理は厳しい。

戦場でもおいそれと無くすことは許されておらず、無くせば始末書を書かされたりもする。

まして、横流しなどすれば、死刑にだってなりえる重罪だ。

 そう簡単に、世間に出回る物ではないことは、軍人のフランとイワナミはよく理解している。


 なら、この答えは一つしかない。


「わざとだな」

「ああ。間違いなく、第一貴族が泳がせている」

「やっぱりですか・・・こちらとしては、増々やりづらいことです」


 裏社会の人間たちも一部の者は、帝国の“本当の顔”を知っている。

当然、係わりたくないので、表立って言うことは無く、極力係わりを持たないようにしている。

・・・というより、係わった者たちは、皆生きていないというのが事実だ。


「お二方とも、この事は___」

「ああ、大丈夫だ」

「団長に頼んで、害の及ばないようにするよ。面倒に巻き込みはしないって」

「助かります」

「え?団長!?オーマさん来るの!?」


 ボロスが二人に頭を下げているところに、リデルが場違いな明るい声で、三人の会話に入ってきた。


「やあ、リデルちゃん。調子はどう?」

「も~それが最近調子悪くって~。団長さんに相手してほしいなー、って」

「何?相手いないの?じゃーこのフラン様がお相手するよ♪」

「フランさんって、よく女遊びしているのに、二階のサービスルームに入るお金あるんですかぁ?」

「無い。だからお店じゃなく、店の外で___」

「お金にならない人はお断りでーす♪」

「オーナーの私の前で、堂々と店外デートに誘わないで下さいよ・・・」

「ねぇ、団長さん呼んでくれないですかぁ?」

「今日は無理だ」

「じゃー団長さんに会ったら、愛しのリデルが会いたがっているって、伝えてください♪」

「団長って、人気だなー」

「そりゃー、団長さんはお金持ってますし、しかもヘタレ・・じゃない、優しいから乱暴なことしないしー」

「・・・思いっ切り、都合の良い金づるだな」

「悲しき素人童貞だな・・・」

「___まあ、それだけじゃないけど」

「へ?」

「何でも無い♪とにかく、せっかく遠征から帰ってきたんだから、もっと会いに来てくれると思っていたのに、まだ一日しか相手してくれてないんですもん」


ぷくーっと、可愛らしく頬を膨らませ拗ねるリデルに、二人は苦笑いを見せる。


「うむ・・・」

「ちょっと厳しいかな、特にこれからは・・・」

「え~~~~!!何で、ですかぁ!?」

「いや、団長、最近立て込んでいるから」


作戦が順調にいけば、籠絡した者の手前、店には来づらいだろうと考え、フランはやんわりと断ろうとした。

が、逆にリデルに火が点いてしまった。


「遠征軍の人が帰国して何で立て込むの!戦いから帰ってきたんだから、次の遠征まで休むでしょ!?戦って、帰ってきて、また戦いに行って、それを繰り返して恋愛や結婚ができないから、遠征軍の人(特に指揮官)はいい金づる・・・じゃない、都合の良い客・・・じゃない、素敵な人なのに!」

「・・・思いっ切り、都合の良い金づるだな」

「え~、納得いかな~い!」

「そりゃーぶっちゃけ、俺達もだよ。でも、上からの命令じゃ、しょうがない」

「おい!フラン!」

「大丈夫だろ?中身さえ言わなきゃ」

「・・・ったく」

「団長さん、お仕事なんですか?お二人も?」

「いや、それは・・・」

「リデル、ちょうどいい。この前来た、北方出身の客の話をお二人に話して差し上げろ」

「おい、オーナー」

「大丈夫です。リデルもこの界隈と帝国貴族の流儀は分かっています。そうだろ、リデル?」

「あー、そういう・・・もちろん♪私も長生きしたいし、団長さんは“お得意様”だから、変なことしないし、言わないよ♪」


 フランとイワナミは互いに目を合わせ頷き、リデルから話を聞くことにした。


「といっても、暗くてノリ悪かったから、あまり印象に残ってないんですよねぇ。ただ、冗談じゃない雰囲気で不穏なこと言ってたよ」

「不穏なこと?」

「“今さら騎士の真似事なんて反吐が出る。必ず消してやる”って」

「!?」

「今さら騎士の真似・・・」

「シルバーシュ出身の者が言う“今さら”って、帝国に下った後のことだよな?帝国に下ってから騎士になろうとしている元シルバーシュの人物って・・・」

「ああ、“あの子”だろう」

「へ?へ?どの子?」

「ってことは、奴らの目的って」

「どうねじ曲がったかは分からんが、“あの子”だな」

「ねぇ、ねぇ!どの子なのぉ!?」

「すまないリデルちゃん。そればっかりは言えないんだ。貴重な証言ありがとね、愛してるよ♪おい、イワ」

「ああ。オーナー、今日はこれで失礼する」

「そうですか。今度またゆっくり遊びに来てください」

「待ってまーす!団長さんによろしくねぇ♪」


 二人は聞き込みを終えて、帰って行った。


 リデルとボロスは、二人の居たテーブルを片付けている。


「ボロス、なんだったの?」


そう問いかけるリデルの声と雰囲気は、フラン達と話していた時とはまるで違う、鋭い口調で高圧的な雰囲気があった。


「申し訳ありません、リデル様。サンダーラッツに、第一貴族から特別な任務が下りたようですが、内容までは・・・」


上司のはずのボロスの態度は、フラン達と居た時と同じ口調だが、心底申し訳ないといった感情がこもっている。

二人の態度から分かる二人の関係は、店のオーナーと娼婦とは全く逆の関係性に見える。


「あの二人が言ってた、シルバーシュ残党の目的の“あの子”って、ミシテイス家の令嬢よね?」

「はい、恐らくは・・・リデル様が、素質があると見込んでいた、ジェネリー・イヴ・ミシテイスでしょう」

「なら、オーマに下りた命令は勇者絡みかしら?」

「調べますか?」

「そうね。貴族連中の方も探ってみて、深入りはしなくていいわ、まだ目を付けられたくないから。私はオーマに探りを入れてみるわ」

「かしこまりました。リデル様」


二人の会話は店の賑わいに紛れて、誰の耳にも入らなかった___。






 ___ドミネクレイム城、政務室。


 クラースとの面会が叶ったオーマは、帝都内に潜むシルバーシュ残党と思わしき連中について尋ねていた。


「確かに、その連中のことは報告が上がってきたから、把握している」


 ___やはり、か。

第一貴族の性格を考えれば当然だろう。

そう思って尋ねたオーマだが、反乱を考えている身からすると、少しくらいは隙を見せてほしいと思ってしまう。

気持ちが沈みかけたが、前回と同じ過ちを犯すわけにはいかないと、自分を奮い立たせる。


「その者達の詳細について教えて頂けないでしょうか?我々のターゲットについても嗅ぎまわっている以上、把握しておきたく思います」

「作戦を遂行する上で邪魔になると?」

「はい、それだけではなく、場合によっては利用できるとも考えています」

「ほう・・・」


 クラースはオーマの顔を覗き込む、自身がオーマに下した作戦だというのにクラースは慎重だ。

オーマの心まで覗き込むような視線と、些細な情報の提供にすら慎重に考える態度に、オーマはイラつきつつも、表情は崩さない。

 しばらく考えた後、クラースの口から出たのは、オーマの予想と反するものだった。


「ずいぶん任務に対して前向きだな。もう少し躊躇って、行動に移すのは、もう数日先だと思っていたよ」


(___そっちを疑うのか!?)


 内心でオーマは苛立つ。

これはつまり、オーマがシルバーシュの残党について聞きに来たことに驚きはないということだ。

オーマが聞きに来ることを、予想していたということだ。

その上で、聞きに来るのはもう少し先だと思っていたというのだ。

確かに、ジェネリーについて調べていれば、シルバーシュの残党について知り、クラースのところに聞きに来ることは予想できることではある。

 では何故、予め言わなかったのか?シルバーシュの残党について知ったのは昨日今日じゃないはず。

間違いなく、オーマに籠絡作戦を命じた日には知っていたはずなのに、


(俺を試したかったのか?・・・腹立つ!)


また、腹の底から火の手が上がる。

 これを即座に、下腹に力を入れて鎮火し、オーマは答える。


「帝国の為、また、人類の為でもある重大な作戦です。魔王の誕生が迫っている以上、躊躇っているときではありません」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・そうか、分かった。立派な心掛けだな。愚かにも貴君を侮っていたようだ、許せ」

「とんでもございません。慎重さを要される、宰相閣下のお立場であれば当然のことかと」

「理解があって助かる。では改めて、連中のことについて教えよう。とはいっても、今現在、そう多くの情報は無いのだが」

「どんな些細な情報でも助かります」


 ようやく情報を聞けるようになってホッとする。

“そう多くない情報”を下ろしてもらうだけだというのに、オーマのHPはすでにレッドゾーンになり、前回と同じ様に、一刻も早く帰りたくなっていた。


「君の推測通り、そいつらはシルバーシュの強硬派だ。リーダーは元シルバーシュ貴族のザイール・グレンデス・ヒューロスで、他に貴族数人と軍人で組織されている。規模は約50人ほどだ。奴らの目的は、シルバーシュ出身の帝国第二貴族の暗殺と思われる」

「え?暗殺?それも、帝国の主要人物ではなく、かつての仲間を、ですか?」

「現段階の状況からの判断にすぎんがな。奴らの報告が上がってきた後、目的を探るためしばらく泳がせた」

「その場ですぐに捕縛なさらなかったのですか?」

「ハハ、ここは帝都だよ、オーマ団長。今が戦時中で、ここが戦場なら、そうするだろうが、現在の彼らの立場は民間人だ、何の証拠も無く捕まえることはできんよ」

「そ、そうでした。失礼しました」

「かまわん。そうしたい気持ちは私にもあるからね。まあ、それができないから泳がせたわけだ。こちらでわざと武具を密輸できるルートを用意した。そこから彼らが購入した物は、軍用の武具でも暗殺や工作用の道具や、隠密用の軽装鎧だ。戦向きの重装や武器じゃない。彼らの情報収集も、我々第一貴族や軍事ではなく、第二貴族が中心だ。残党達の個人の特定ができた後、人間関係も洗ったが、軍を旗揚げするために必要な人や資金を援助しそうな人物はいない。以上のことから、彼らは軍を旗揚げして我らと戦う気はなく、自分達を裏切った元シルバーシュ貴族への暗殺による意趣返しの可能性が一番高い」

「・・・それは私怨では?」

「そうだな、只の八つ当たりといえる。正義も大儀も無い。こうはなりたくないな」


そうなった一番の原因は自分達なのだが、クラースは悪びれることなくそう答える。

そのことに少し憤るオーマだが、今回ばかりは概ね同意だった。


「ターゲットは誰なのでしょう?」

「断定はできんが、一番可能性が高いのは、ギュンド・イヴ・ミシテイスだな」

「ジェネリーの!?あ、いえ、ターゲットの父親ですか?」

「ああ、彼は穏健派の筆頭だから一番恨まれている。後、娘のジェネリー嬢もだ。報告では、彼女のことも嗅ぎまわっている」

「彼女もですか。なるほど。それで、その、閣下はその者達にどのように対処なさるおつもりですか?」

「検討中だ。武具の横流しをして、それを受け取った時点で“証拠”はできた。住処も割り出しているから、もう、どうにでもできる」

(故意の横流しは、探るためだけじゃなくて、証拠づくりも兼ねているのか。やっぱコイツが一番、質が悪い)


 心の中で毒づき、再び帰りたくなりながらも、これから行う交渉のため腹を括る。


「まだ対応が決まっていないというのでしたら、私の方から提案があります」

「・・・・言ってみたまえ」

「ありがとうございます。そのシルバーシュの残党狩りを、我ら雷鼠戦士団にお任せいただけないでしょうか?今回の籠絡作戦に利用したいと思います」

「ふむ・・・ジェネリー・イヴ・ミシテイスに恩を売れるか?」

「はい、可能だと思います」


クラースはすぐにオーマの意図を理解した。


「・・・確かに、奴らは彼女を引き入れるのに利用するのが、一番の活用法かもしれん」

「はい。付け加えるなら、彼女にシルバーシュに対する思いを断ち切らせるには、彼らが一番です」

「彼女と、すでに接触していたのか?」

「はい、彼女は父親の決断に納得していない様子でした。降伏などせず最後まで抵抗するべきだったと」

「強硬派と同じ意見というわけだな」

「はい。シルバーシュの残党が彼女を仲間に引き入れるつもりなら、接触する前に対処すべきですが、暗殺なら、彼女をこちら側に引き込むのに利用するべきです。彼女は帝国に対しても、まだ完全に敵対心が無くなったわけではありません。彼女は騎士道を重んじております。暗殺の類には拒否反応を示すでしょう」

「強硬派に対して、ジェネリーを暗殺しやすくなる状況をわざと作り、暗殺を実行させる。彼女は自分が狙われたことと、強硬派が暗殺に手を染め、騎士としての誇りを無くしたことでシルバーシュに幻滅する。そして君は暗殺から彼女を助け出し、好感を得る・・・古典的ではあるが___」

「有効だと思います。まして、狙うのが同郷の人間なら尚更です」

「・・・奴らの暗殺の対処、間違いなくできるのか?彼女が真の勇者だった場合、その力に目覚めることなく、死なれるわけにはいかないぞ?」

「おっしゃる通りです。ですので、帝都内での雷鼠戦士団の出撃許可をいただきたく思います。帝都内で私の部隊を使えるならば、確実に成功させます」

「ふむ・・・・・・」


 クラースは口に手を当てて考え始める。

帝都内で雷鼠戦士団を展開させることに抵抗があるのか、はたまた別のことか・・・。


(頼む・・・)


 オーマにとって、この提案は必要な賭だった。

もし、この帝都でサンダーラッツを使えるのなら、他の場面でも使えるということ、どんな時でも使えるということになるからだ。

そう、“どんな時でも”、だ。

つまり、ここで許可が下りるかどうかで、反乱を起こす際、またはクラースに切り捨てられる際、手元にサンダーラッツを置けるかどうかが決まる。

 だからこそ、ジェネリーには口止めしておいた、彼女の帝国に対する不信感を言ってでもこの提案をしたのだ。

クラースがその気になれば、彼女の帝国に対する不信感は、すぐに調べ上げるだろう。

いや、そもそもクラースは彼女が不信感を持っていないなどと思っていないかもしれない。

ならば、その不信感を払拭するための作戦を名目に、サンダーラッツの隊長達だけでなく、軍隊も使えるようにしたかった。

これは、この先のことを考えると必須事項だ。

 そのことを知ってか知らずか、クラースはすぐには答えを言わなかった。が、しばらくして___


「いいだろう。サンダーラッツの使用を認める。許可証はカスミ経由で渡す」

「ありがとうございます!」


オーマは、クラースに対して初めて本気で感謝した。


「その代わり、失敗は許されないぞ。勇者の件でもそうだが、平民出の部隊であっても、帝国領土内で帝国軍が敗北するなど、絶対にゆるさん」

「心得ております!必ずや成功させ、シルバーシュ残党を一掃するとともに、ジェネリー・イヴ・ミシテイスを完全に帝国側に引き入れて見せます!」


 駆け引きが成功し、自身の要望が通ったことを喜び、オーマは部屋を出た。

貴族相手にこんな気分になれたのは、いつ以来だろう。

オルド師団長を除けば、帝国の実態を知って、初かもしれなかった__。




 「上機嫌で部屋を出たな」


オーマが退室した後、クラースは一人、政務を再開するでもなく、先のオーマの態度を振り返っていた。


「部屋を出た後の足音からしても、私の前だけの演技ではないな。前回の部屋を出た後の足音は、一刻も早くこの場から去りたいといった、足早な音だったんだが・・・」


クラースは、前回と今回の部屋を出た後のオーマの足音の違いから、オーマの心理を探り、推測していく。


「今回は、奴の思った通りの展開になったんだろう・・・。作戦許可が下りたこと?シルバーシュ残党の情報が得られたこと?いや、前回の態度からして、そんな任務に対して前向きな理由ではないな。前向きといえば、今回は頭からやる気を見せていたな。帝国の為、人類の為などと、ほざいていたが・・・」


オーマのその言葉を鵜呑みにする気は、クラースにはもちろん無い。


「だが、部屋を出る時と、出た後の足音は、やる気のある者のそれだ。やる気になる理由ができた?その為の要望が通った?・・・サンダーラッツの使用許可か?作戦とは別で、サンダーラッツを使いたいのか?」


 疑い始めたらクラースは止まらない。

もちろん、今のところクラースの勝手な推測でしかない。

それでもクラースはあらゆる可能性を考え、そして最悪の展開を想定する。

そうやって、帝国を束ねてきたのだ。


「奴がこっちの意図に気付いた可能性もある。処分する時は、勇者候補とサンダーラッツが奴の周囲を固めている場合も想定しておかねば・・・」


 反乱にサンダーラッツを使えるようになった代償に、オーマはクラースに反乱の意思を読まれてしまった。

この二人の駆け引きは今後も続く___。

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