第12話手堅く誘う
前祝いから数日経って___。
宰相の面会に行ったオーマを除く、サンダーラッツ一同は、ジェネリーの様子を見に軍学校に来ていた。
「あー、懐かしいわね。ここに通っていた頃は、ひたむきに夢を追いかけて・・・随分時が過ぎた様に感じるわ」
「いや、副長の場合、夢じゃなくて欲だろ?時が過ぎた様って、実際に過ぎてるだろ。少なくとも俺達より__ギャウッ!」
「あんまデリカシーのないこと言うと殴るわよ?フラン?」
「も、もう、殴ってる・・・」
「副長の言いたいことは分かりますよ。この訓練場で特訓していた頃は、帝国のやり方なんて知らずにいましたし、反乱なんて少しも考えていませんでした」
「そう!そうよ!それが言いたかったの!さすがロジ君♪」
「副長、あまり騒がないで下さい」
「今日はあくまでも下見だしな」
「それで、彼女はどこ?」
「誰かに聞きますか?」
「おっ?聞き込み(ナンパ)かぁ?俺に任せろ!えーと、可愛くて口説きやすい子はー」
「クシナ、聞いてきて」
「了解です」
「おい!副長!なんでだよ!?こういうことは俺の役目だろ!?」
「うっさい。彼女はサンダーラッツのこと尊敬してくれているのよ?その子がいる場所で、悪目立ちできないでしょ?他の貴族だっているし」
「フランの場合、聞き込みの半分はナンパだからな」
「聞き込みと書いてナンパと読む男」
「何言ってんだよ。ちゃんと半分位は任務のためと思っているよ」
「だから半分はナンパなんだろ(汗)」
「もー、すっごいバカ」
「この“すっごいバカ”はいいから、クシナ、お願い」
「はい、行ってきます」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ、“すっごいバカ”に呆れつつ、クシナはその場を離れた。
「確か、今年卒業するから、最上級生ですよね」
軍学校の生徒の学年は、腕に付けている腕章で分かる。
クシナは腕章に注目しながら適当な人を探し、最上級生の生徒に声を掛けた。
「あのー、すいません。ちょっとよろしいですか?」
「え?はい、何でしょう?」
「ジェネリー・イヴ・ミシテイス様を探しているのですが、ご存じでしょうか?ご存じでしたら、今どちらにいらっしゃるか教えていただけませんか?」
「ジェネリー様ですか?どこにいるかは分かりませんが、大抵、裏庭でお一人で、稽古していますよ」
「そうですか、ありがとうございます」
「あの・・・あの方に何かあったのですか?」
「え?いえ、特には・・・どうしてですか?」
「この前も、あの方のことについて聞かれたから・・・」
「そうですか・・・(団長のことかしら?)」
「この辺じゃ見ない顔の二人組で、ジェネリー様のことについて、結構しつこく聞かれたんです」
「(団長じゃない・・・)どんなことを聞かれたんですか?」
「どこに住んでいるかとか、普段何をしているのかとか、少し恐かったから、あまり真剣には答えませんでしたけど・・・あの、あなたもアイツらと何か関係が?」
そう言って、その生徒は後ずさる。クシナはそれに慌ててフォローした。
「いえいえ、違いますよ!その二人組のことは知りませんし、私は遠征軍の者です。ほら」
クシナは、自身のドッグタグを首から出した。
帝国のドッグタグは魔法が付与されており、その魔法によって、どこの所属か判別できるようになっている。
女生徒は、クシナのドックタグを見ると、警戒を止めたが、少し嘲笑の色が入った笑みを見せた。
「あー、“ドブネズミ”の・・・あ、失礼」
「はは・・・とにかく、その連中と私は関係ありませんので、失礼します。ご協力ありがとうございました」
クシナは足早に、皆のところに戻って行った。
「あ、戻ってきた」
サンダーラッツ一同は、目立たぬよう、少し離れたところでクシナの帰りを待っていた。
「どうだった?」
「はい。裏庭で一人稽古をしているそうです。それと、もう一つ」
「何?」
「最近、見知らぬ二人組が彼女について嗅ぎまわっていたそうです」
「・・・シルバーシュの残党か?」
「恐らく」
「デネファーさんの話しと一致するわね」
「はい。それで・・・その、申し訳ありません。その連中の仲間と誤解されそうだったので、身分を明かしてしまいました」
「おいおい、極秘任務の作戦行動中だぞ」
「申し訳ないです」
「でも、帝都の軍学校内なら大丈夫じゃないですか?軍人なら、いくらでも言い訳できますし」
「副長、どうしますか?我々が嗅ぎまわっていることを知られて、彼女に変な誤解をされたら・・・」
イワナミの質問で、皆の視線がヴァリネスに集まる。
ヴァリネスは腕組みしたまま、今朝から考えていたことを口にした。
「・・・だったら、今から会いに行きましょう」
「へ?」
「実際にコンタクトを取るつもりですか?」
「コソコソするよりはましでしょ」
「勝手に動いて団長は何て言うでしょう?」
「団長が勝手な行動を嫌うのは、命の係っている戦場だからよ。まあ、この作戦も命懸けだけど。でも、団長もその辺のことは任せるって、私に言ってたし」
「そうなんですか?」
「そうよ。一人で口説く自信がないから、私達に協力を求めたってのもあるし。なら、こっちからも仲を取り持つために動かなきゃじゃない?女の子には基本“攻め”よ」
「そうそう、女の子は押して、押して、押しまくるのだよ」
「フラン、うざい」
「フランみたいな下品なやり方じゃなくてね。まあ私に任せないさい!・・って、この人数で押しかけるのなんだから、クシナとロジくんと三人で行ってくるわ」
「えー!?俺、ジェネリーちゃんに会えないのかよー!?」
「団長の話じゃ、彼女真面目らしいじゃない。気心知れるまでアンタには会わせたくない」
「チェッ、信用ねぇなぁ。じゃあ、俺達はどうすんだよ?」
「彼女のことを嗅ぎまわっている奴らがいるのは確認できたし、イワとフランはそいつらについてゴロツキ共に聞き込みして。ウェイフィーは団長の所に報告に行って」
「了解」
「了解」
「りょーかい。はぁ、可愛い子から一転、ゴロツキ共の相手かぁ・・・」
ヴァリネスの指示に従い、サンダーラッツの隊長達は動き出した__。
__裏庭。
ジェネリーは目を閉じて、ブツブツと何かを呟きながら、剣を構えている。
そこから、カッと目を見開き、魔力を開放して剣を振り下ろす。
鋭い斬撃と共に炎が生まれ、ヴォン!という、効果音で炎が舞った。
「違う。こうじゃない。威力は上がった気がするけど。オーマさんに教えてもらった時は、もっと、こう・・・」
オーマとの鍛錬でコツを掴んだのか、見違えるほど立派な技となっている。
だが、本人は納得していない。
成長している自覚が無いのか、まだ伸びしろがあると思っているのか。
再びジェネリーは目を閉じて、オーマとの鍛錬を思い出しながら剣を構え、もう一度渾身の一撃を放つ。
炎を纏った剣は、先程より鋭く、炎は周囲の者を一瞬で焼き尽くすほどの勢いだった。
「ヒュ~、やるぅ♪本当に訓練兵?」
ハッと気付き、声のする方へ振り返ると、三人の女性がこちらに近づいて来る。
一人はバーミリオンのストレートのロングヘアで、明るい雰囲気でニッコリ笑って手を振って来ている。
もう一人は紫色の髪を腰の辺りまで伸ばした女性で、凛々しい瞳でこちらを見ている。
最後の一人は水色の髪が肩に付く位の長さで、可愛らしく、柔らかな物腰の女性だった。
だが、三人に共通しているのは、恐らく戦闘訓練を受けている者達だろうということ。
パッと見た目では分かりにくいが、歩き方や体の重心の位置からジェネリーはそう判断する。
訓練兵のジェネリーでも、それ位は分かる。
そして、同時に敵意が無いことも分かった。
これは貴族としての経験で理解できた。
自分を利用しようとする者、貶めようとする者を貴族社会で見てきたジェネリーは、三人が只者ではないと感じつつも、自分に害をなす輩でもないと感じ、特に警戒はせずに三人に声をかけた。
「どちら様ですか?」
ヴァリネスは自分のドックタグを見せながら自己紹介した。
「初めまして、私達は雷鼠戦士団の者です。私は副長のヴァリネス・イザイアっていうの。団長から話を聞いて会いに来たのだけど、お邪魔だったかしら?」
「ああ!サンダーラッツの方ですか!初めまして、ジェネリー・イヴ・ミシテイスです。お会いできて光栄です!」
サンダーラッツの人間と分かった途端、ジェネリーの表情がパッと明るくなる。
その表情のまま頭を下げ、丁寧な挨拶をヴァリネスに返した。
「・・・なるほど。確かに、他の第二貴族の方達とは違いますね」
「良い子ですね」
「はい?」
「あ、いえ、何でもありません。私は同じく雷鼠戦士団のクシナ・センリと申します」
「同じくロジ・レンデルです。よろしく」
「よろしくお願いします。それで、私に何か御用でしょうか?」
「いやー、特別な用は無いのよ。ただ、団長がうちに入団を希望している将来有望な子が居るって言っていて、ちょっと会ってみたくなったのよ」
「ゆ、有望ですか!?私が!?・・そ、そんな・・・オーマさんは、そんな風に言っておられたのですか?」
「ええ。人格も素質も申し分ない、良い子だって」
「ああ・・・そんな・・・・・」
ジェネリーは顔を真っ赤にして俯いてしまう。
(これは・・・すでに脈あり?)
明らかに、ただ褒められて嬉しいだけじゃない、別の感情がある。
ヴァリネスは、オーマのファーストコンタクトは上出来だったのだと理解した。
そのジェネリーの反応に、クシナだけ複雑な表情を浮かべ、苦笑いの様なやや引きつった笑顔でジェネリーに話しかける。
「でも、その、よろしいのでしょうか?ミシテイス様は貴族の方でいらっしゃいます。ですので、その・・・」
「おっしゃりたいことは分かります。ですが、身分は関係ありません。所詮第二貴族ですし。それよりも、自分が尊敬できる皆さんの仲間になりたいのです。それと、その・・・そんなに畏まっていただかなくても大丈夫です。気軽に接していただけると嬉しいです」
「はぁ・・・本当に良い子ですね」
ロジは感心して、ため息が出た。
「で、でも、遠征軍は一番危険な配属先です。そ、それにジェネリー様が思うほど、うちは良いところではないですよ?騎士道とか高潔さとかは欠片もありません」
やや早口になって、否定的なことを口走るクシナに、ヴァリネスは怪訝な顔を見せる。
「こらこら、せっかくやる気になってくれている子に何言ってんのよ」
「うっ・・・・で、でも入ってから幻滅されるよりはいいじゃないですか」
「ふむ。そうね・・・ならこうしましょう。ねえ、ジェネリー・・・ジェネリーでいいのよね?」
「はい、もちろんです!敬称は要りません。何でしょうか?」
「今度、時間があるとき、うちに見学に来ない?」
「え?」
「正式に入団する前に、どんなところか知りたいでしょ?一度見にいらっしゃいよ」
「ああ、それは良いですね、副長」
「よろしいのでしょか?」
「もちろん!私達が演習する日に招待するわ」
「はい!ぜひ見学させてください!」
「よろしい。案内は団長にさせるから、日時は改めて決めましょう」
「オーマさんが、ですか?よ、よろしいのでしょうか?団長自らというのは・・・お忙しいのでは・・・」
「大丈夫よ、雷鼠戦士団の為にもなることだもの。それに、案内するなら団長が一番の“適役”よ、ね?」
「ええ、いいアイディアです、副長!」
「・・・そうですね」
“適役”の意味を理解して、ロジは素直に笑顔を、クシナは苦笑いを見せる。
ジェネリーはその様子に、全く気付かず、頬を赤らめていた。
「じゃー、積もる話はその時に、訓練の邪魔になるから今日はもう帰るわね」
「さようなら、また会いましょう」
「し、失礼します」
「はい!ありがとうございました!見学楽しみにしています!」
嬉しさが弾けた様な返事のジェネリーに手を振って、三人はその場を後にした。
「もう!クシナ!これは任務なのよ!しっかりしなさい!」
「も、申し訳ないです。割り切っているつもりだったのですが・・・」
「でも、ジェネリーさんと約束ができたわけですし、上出来じゃないですか。副長は最初からこれが目的だったんですね?スゴイです!」
「は~ん♪ありがとう、ロジくん♪まあね、見学ってのは色気には欠けるけど、真面目な子だったし、最初はこんなもんでしょ」
「後は、見学の内容ですね。普通の見学で済ます気はないんですよね?」
「そうね。最初だから普通でもいいと思っていたんだけど、あの様子ならもう少し踏み込んでもよさそうね」
「・・・もうすでに気があるようでした」
「クシナ」
「分かっています」
「ま、見学の内容については明日、他の連中の報告を聞いてから詰めましょう」
「そうですね」
「了解。この後はどうします?」
「うーん、イワナミ達のゴロツキへの聞き込みは夜遅くまで掛かるだろうし、団長もクラースと会った後じゃ気力無いだろうし・・・」
「今日のところは解散ですね」
「そうね。じゃ!ロジくん♪この後、私と飲みに行きましょう♪」
「あ、すいません副長。部隊の方にも顔を出さなくてはならないので、今日は遠慮します」
「・・・・・」
そう言って、ロジはスタスタと去っていく。
ヴァリネスは、生気を無くして真っ白になっていた。
「では副長、私も失礼します」
いつものパターンだと、この後、八つ当たりをする展開が有るのをクシナは知っている。
なので、そそくさと退散して行った。
「くっっっそーーーーーーーーーー!!!!」
ヴァリネスの魂の叫びが響き渡った___。
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