第11話死亡フラグは立てないように
「おう、オーマ!話は終わったんだってな!酒持ってきたぞ!」
フランから話を聞いたデネファーが、酒を差し入れに来てくれた。
「ありがとうございます、デネファーさん・・・って、それ」
「ああ、特別良い酒を用意したぞ。前にヴァリネスと居た時の様子からして、ただ事じゃないと思ってな」
デネファーの用意した酒は、帝国の平民階級の中で、一番高給取りの軍人の給料一ヵ月分になる酒だった。
「いいんですか?確かに今日の案件は特別ですけど・・・実行前の前祝いですよ?」
「特別な任務だから、前祝いでこの酒なんだよ。今までで、一番危険なんだろ?なら、任務達成祝いができるか分からんだろ?」
「は、はは・・・そうですね(汗)」
オーマの乾いた笑いに、デネファーは笑みを深め、さらにオーマをイジる。
「それとも、本当に任務達成後にするか?それでもいいぞ。オーマがお決まりのセリフを言ってくれるんだろ?“この作戦が終わったら、みんなでうまい酒を飲もう!”ってよ」
「おー、この任務に相応しい決まり文句(死亡フラグ)ね」
「・・・やっぱり頂きます」
死亡フラグを立てたくないオーマは、ありがたく酒を頂戴した。
自分達だけ飲むのは気が引けるので、デネファーも酒の席に誘う。
お酒と杯、簡単なつまみも用意して準備が整う。
そして、デネファーの持ってきた酒が杯になみなみと注がれ、皆に行き渡る。
それを確認したヴァリネスが音頭を取る。
「えー、では、みんなカンパイよ!団長のハーレムを目指して!!」
「いや、だから。そういうつもりじゃ___」
「いいじゃん!いいじゃん!どうせ、やることはそういうことでしょ?」
「そうですね。副長の言い方は身も蓋もないですけど、事実です」
「そうだ。男冥利に尽きるぜ?団長」
「で、ですけど、これも団長が生きるためですし、任務でもあるわけですから」
「悪くはないと?開き直ってほしいわけではないですけど、綺麗事も言ってほしくないですね。我々がこれからやることは間違いなく、ろくでもないことですよ」
「“我々”か・・・自分もそうだと?やる気満々だな。クシナ」
「こんな事で団長に死なれても、後味悪いじゃないですか」
「クシナ素直じゃない」
「も、もういいでしょ。ウェイフィー」
「なあ、オーマ。ハーレムってなんだ?本当にやばい任務なのか?」
「デ、デネファーさん、後でちゃんと説明しますから・・・副長!早く乾杯!」
「あー、はいはい。んじゃ改めて、私達の未来のために乾杯!」
「「乾杯!!」」
皆、各々考えがあり、心中複雑な者も居るが、とりあえずサンダーラッツは一つにまとまり、皆で作戦遂行を決意するのだった___。
「はー・・・なるほど。それで、“ろうらく作戦”ね・・・」
飲み始めてからしばらく。デキ上がりつつある副長達を余所に、オーマから事情を聞いたデネファーは、納得したように呟いた。
「すいません、デネファーさん。このことは・・・」
「分かってるよ。誰かに喋ったりしない。万が一のときだって、見て見ぬふり位はしてやる」
「本当に、色々感謝します」
オーマはそう言って、席を立って、深々と頭を下げた
「よせよせ、酒の席だぞ」
半分照れ隠しでデネファーは手をプラプラと振った。
するとそこに、小さい影がひょっこり出て来て、デネファーに声を掛けてきた。
「デネファーさん」
「何だ、ウェイフィー?」
「団長から事情を聞いたんでしょ?どう思った?宰相の目的についてどう思う?」
宰相の思惑を推測した身として気になっていたのか、ウェイフィーはデネファーの考えを知りたがっているようだ。
デネファーは一回杯に口をつけ、ちびりと飲んでから答えた。
「俺も、聞いた限りでは、ウェイフィーの推測はいい線いっていると思うぞ。第一貴族が、魔王に匹敵する勇者なんて存在を他の者に委ねたりはしないだろう。どこかで必ず、自分達の駒とする楔を打つだろう。どんな方法かは分からないが、その時、オーマは奴らにとって邪魔だろう」
「何をしてくるんだか・・・」
「対策が必要」
「対策ってもなぁ、クラースの考えは分からんし、帝国そのものが敵になったときの対策なんて、現状立てようがない」
「確かに・・・帝国に対抗するには勇者や勇者候補の子たちの力が必要だし、それも、どんなものかは分かっていない」
「おー、そういえば、どんな子たちなんだ?勇者候補の子たちって?リストあるんだろ?」
「はい。一応、常に持ち歩いてます」
「見せて団長」
「あ!私も見たい!」
「俺も俺も!」
他のメンバーも、リストに興味を持っていたのか、会話に入ってきた。
「ふ~ん、どれどれ・・・ほーーこの子カワイイ」
「フラン、勇者候補のリストで最初に見るのが顔ですか?」
「顔は大事だぜ、クシナ。ん~、みんな可愛いな。やっぱ俺やろうか?」
「はぁー、もう、ろくでもない作戦とはいえ、生き残りをかけた大事な任務ですよ?ねぇ?副長?」
「え?顔は大事よ?」
「副長に聞いた私が馬鹿でした・・・」
「うお!?」
「ひゃ!?」
「びっくり・・・」
リストを見ていたフランが、突然大きな声出した。
皆、何事かとフランを見ると、フランはある一枚のリストを持って、ワナワナと震えている。
「突然どうしたんですか?フラン?」
「ロ、ロジ・・・コイツ」
「え?・・・あ!?この人って、バークランドの!?団長!?」
「あーそうだ・・・そいつも勇者候補で、俺達のターゲットだ」
オーマは、観念したように呟いた。
「え?え?誰!?誰なのフラン!?」
ロジの反応とオーマの態度が気になったヴァリネスが、急かす様にフランに問いかける。
フランは引きつった顔で、自分達に立った死亡フラグを皆に伝えた。
「フ、フレイス・フリューゲル・ゴリアンテ・・・」
「ハァ!?」
「うそ・・・・・」
「最悪」
「・・・・・・」
フランの口から出た名前で、ヴァリネス、クシナ、ウェイフィー、イワナミも驚きの表情を見せた。
「あーー!!アイツと戦った時の記憶(トラウマ)がーーーー!!」
「副長!?大丈夫ですか!?」
「大丈夫じゃない!!鬼の形相で襲い掛かってきたアイツの顔ぉ!!・・・・・・思い出したくもない」
「彼女、強かったですもんねぇ・・・」
「このメンバー、全員生き残れたのは奇跡」
「あの頃、すでにバークランドで、“凍結の勇者”何て呼ばれていたし、勇者候補に挙がるのは納得だな」
「俺・・・口説き役じゃなくてよかった・・・・」
「あら?でも、彼女可愛かったじゃないですか。今はきっと美人ですよ?」
「いや、さすがに命は惜しい」
「そーよ、この子も口説かなきゃいけないんでしょ!?無理じゃん!!絶対、私達のこと恨んでるじゃん!!どーすんの団長!?」
「どうもこうも、恨んでいるだろうから、彼女が勇者だったらやばいだろ?だから籠絡してこっちに付いてもらうんだ・・・・・って、言われた」
「いや、その前に我々が危ないのでは?」
「皆、危険は承知だろ?」
「いや・・・そうだけど・・・」
「あーー!もう!!腹立つはねぇ!こんな奴を口説かなきゃいけないなんて!デネファーさん!もう一本空けるわ!!」
「“開ける”じゃなくて、“空ける”なんだな」
「もちろんよ!飲まなきゃやってらんないわ!やけ酒よ!!」
「副長が酒に逃げた」
「気持ちはわかります」
「どうしたらいいのかしら?」
「最悪、計画を打ち明けて一緒に帝国と戦おう、と提案しますか?」
「うーん、恨みの対象が俺達じゃなく帝国なら、それでいけるか?」
「会って話してみないことには、それも分からん」
「不安・・・・」
「後回し。後回しにしましょ」
「ああ、そうするつもりだ。気持ちの問題もそうだが、実際、リストで一番敵対する可能性が高い。万が一に備えて、リストの子を複数人引き入れてからにしたい」
「そうですね、それが賢明です」
全員がうんうんと頷き、話しが決まったところで、ウェイフィーが新たな議題を提示した。
「団長。なら、最初は誰にするの?」
「実は、このうちの一人とすでに会っているんだ。その子にしようと思う」
「なに?もう、始めてたのかよ、団長」
「ただの下見だ。それで、少し話をしたんだ。その子との会話が切っ掛けで、自分の身が危ないって気付いたんだ」
「へぇー、このリストの誰なんです?」
「ジェネリー・イヴ・ミシテイスって子だ、赤い髪の子だ」
「ジェネリー・・・この子ね」
「どれどれ・・・」
「私も見たい」
皆で顔を寄せ合い、一枚のリストに目を通す。
「へぇ、第二貴族の方なんですね」
「第二貴族ぅ?性格悪いんじゃないか?目つきも悪いし」
「そんなことなかったぞ。以外と言ってはなんだが、話してみると素直でいい子だった。サンダーラッツの事も知っていて、良い印象を持ってくれていた」
「そうなの?“ドブネズミ”じゃなくて?」
「シルバーシュ出身で、バークランドとの戦の武勇伝を耳にしていたそうだ」
「へぇ」
「シルバーシュ?・・・どこだっけ?」
「北西にあった国ですよ。帝国とバークランドに挟まれた」
「戦ったっけ?」
「いや、帝国の併合に同意したんだ。その当時、シルバーシュはかなり混乱していたらしい」
「なんで?」
「バークランド帝国とドネレイム帝国が共闘してシルバーシュを攻めるって、噂が広まってたらしい」
「そんな話あったっけ?」
「無い。こちらの工作員が流した噂だ。その噂に信憑性を持たせる工作もしていたらしい。シルバーシュ領を二か国でどう分けるを、取り決めた書簡を偽装して、シルバーシュに流したりしてな」
「それで併合に同意したんだ・・・まあ、仕方ないわね。当時、大陸でも1・2を争う軍事大国に共闘されるって言われたらねぇ」
「だが、ジェネリーは、その決断に納得していなかった。戦わずして降伏した父親とシルバーシュ貴族に怒りを持っていた。んで、その逆に、俺達は降伏させた相手の軍人でも、国のために戦った人間として尊敬できるそうだ」
「はー、騎士道精神ってやつね」
「・・・・・」
デネファーは話を聞いて、何かを考えている様子だ。
「どうしたんです?デネファーさん」
「いや、今のオーマの話で思い出したんだが、シルバーシュの残党らしき連中が、このドネステレイヤで、妙な動きをしてるって話だ」
「シルバーシュの残党?」
「この界隈のゴロツキ共から聞いた話だと、北方出身の奴らが、この国の貴族について嗅ぎまわっているそうだ」
「シルバーシュの人間に間違いないんですか?」
「確認したわけじゃないが、この界隈のゴロツキ共は、『ビルゲイン』と係わりがあって、そういうのに詳しいんだよ」
ビルゲイン__。この帝都を中心に活動している闇組織で、その存在は50年以上前から確認されている。
犯罪組織としては長く存在しているため、組織の根は深く、第一貴族達でもその全貌を把握しきれてはいないという。
最も、第一貴族達が本気でビルゲインを潰さないのは、自分達には手を出してこないことと、他の犯罪組織を刈り取ってくれているからだ。
貴族に喧嘩を売ってこないということは、分をわきまえているということ。
だから、多少被害が出ても、他の過激な犯罪組織を狩る必要悪として許容しているのだ。
「帝国は、いろんな国を取り込んで急速に大きくなった国だ。そんな国を統治する上で、一部の宗教活動や、文化、風習を禁止しているだろ?だが、自分達の文化を捨てられないって奴は多い。だから、禁止されている宗教活動や祭り、儀式といったものが、裏で非合法に行われている。ビルゲインはそういった連中に物資や場所を斡旋するビジネスもしている。だから、帝国に取り込まれた国について、奴らはよく調べているんだよ」
「なら、それが本当だとして、シルバーシュの残党は何をする気なんでしょう?」
「シルバーシュは、最後まで戦い抵抗を呼びかける強硬派と、併合を呼びかける穏健派に割れていた。何かすんなら__」
「強硬派に連中か?」
「えー、まさか。もう7・8年経つのに、今更意趣返し?」
「7・8年経ったから、準備が整ったと見るべきか・・・団長はどう思います?」
「ジェネリーと話した後、シルバーシュについて少しだけ調べたが、穏健派がかなり強引に併合を決めたらしい。なら多分、そのことに納得していない強硬派は多いだろう」
「たとえ敗北して死んだとて、誇りがどうのと言いそうな連中なら、戦わずに敗北を受け入れるなんて、しないだろーよ・・・めんどくせぇ」
「敗北してるじゃん。自国を脅かす連中がいるのに、そいつらに対抗する備えをしていない時点で敗けよ!」
「それにしても違和感がある。強硬派は、その立場からして誇りを重んじているだろ?何故、帝国内でこそこそ嗅ぎまわる?そんな連中なら、先に旗揚げしそうなものだが」
「先に情報収集では?」
「いや、だったら自国を取り戻すために、先に旧シルバーシュ領を探るだろ?」
「・・・暗殺とか?」
「いや、誇りはどうした」
「ジェネリーさんが巻き込まれる可能性があるなら、調べておく必要があるのでは?」
「おっ!俺の出番かぁ?探っとくかい団長?」
「いや、必要無い」
「へ?」
「ゴロツキ共が把握しているのなら、間違いなく第一貴族も把握しているはずだ、探るのはそこで確認してからだ。基本、この作戦は隠密作戦だからな、できるだけ目立つ動きはしたくない」
ただのゴロツキがしていた噂でも、第一貴族達は調べている。権力者にありがちな驕りといったものは彼らにはない。
この大陸で一番ともいえる力を持ちながら、どんな些細な事でも徹底的に調べ上げる勤勉さも、第一貴族には備わっている。
そんな連中をこれから相手にすると思うと、覚悟を決めた今でも、気が滅入ってくるオーマだった。
「まじめでいらっしゃいますね~、第一貴族様は。でも、団長?いくら些細な情報でも、俺達に情報下ろしてくれるのか?」
「多分、大丈夫だ。この作戦を遂行する上で、宰相からかなりの権限を貰えることになっている」
「「へぇ~」」
感心とも以外ともとれる、隊長達の反応が少しだけ可笑しく、笑みを浮かべる。それからオーマは立ち上がり、改めて皆に向き合った。
「ジェネリーのことにしろ、シルバーシュのことにしろ、今ここで話しても埒が明かない。具体的な作戦内容は日を改めよう。今日は、すでに酒も入っているし。その時までに、シルバーシュの件は宰相に掛け合っておく。皆も、ターゲットの下見位はしておいてくれ」
「「了解」」
「じゃあ、そろそろ開店の時間だ、お開きにしよう」
「んじゃ、デネファーさんの店で飲みなおしますかぁ!」
「いや、うちの店は静かなのが売りなんだ。貸し切りにしないなら、他所でやってくれ」
「ああ、そうだった。じゃ、違う店行きましょー!二次会行く人~♪」
「「は~い!」」
全員が手を上げ、サンダーラッツ一同は、夜の街へと消えていった。
そして全員が二日酔いになって、各々が動き出すのは、また数日後だった。
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