第4話 建築学科は貧困層に厳しい(1)

 唐突だが、ぼくは金欠学生である。

 だというのに、働く気が絶無なのでコスパの良い短期バイトぐらいしかやらず、基本的には食費等を限界まで削って支出を減らすアプローチで家計をどうにかしている。


 今回のタイトルは、「建築学科は貧困層に厳しい」だ。

 他の学科の人たちから「俺らの学科だって厳しい」とお叱りを受けるかもしれないので、いかに厳しいかを説明せねばなるまい。

 ざっと思いついた範囲でも以下の9点が挙げられる。


1、長期バイトを入れにくい

2、性能の良いPCがないとキツい

3、模型作成にお金が掛かる

4、建築系の書籍は高い

5、Adobeのソフトを使うことが当然のように思われている

6、卒業制作をするならデカい出費の覚悟を

7、建築を見に行くのはお金が掛かる

8、資格予備校

9、オープンデスクという闇の制度


 ここに、一般的な大学生の出費要素(免許とか)が加算されるので予備知識ゼロで建築学科に入ってしまったぼくなんかは「聞いてねぇ……」と呻くことになった。

 上に挙げた項目を個別に解説していこう。多分5番以降は次回になるかと思われる。



1、長期バイトを入れにくい


 一般的な学生であれば、期末試験の時期だけシフトをどうにかできれば長期バイトを続けていくことは難しくないだろう。

 しかし、建築学科の場合、設計課題というデカい課題の締切のたびにシフト調整に追われることになる可能性が高い。

 設計課題の締切近くになると徹夜で作業する学生も多く、バイトどころではない。

 これは基本的に学生側の怠慢が原因なのだが、設計課題を徹夜なしで乗り切れる学生は稀である。

 夏休みの宿題を爆速で終わらせる子どもだったぼくも設計課題はギリギリだった。

 これは、どれだけ早めにスタートを切っても、結局、締切の前の週のエスキス(演習の授業ぐらいに思って欲しい)でどうせ先生から何かしら指摘が入るため、早め早めに行動するモチベが削がれるからである。

 これがレポートとかであれば、締切の何週間前に提出しても内容が十分なら特に文句を言われないので安心して爆速で終わらせる気になるのだが……。

 ともかく、数日間を費やさなければならない重い課題が学期に数回あり、他の講義でも普通に課題や試験があるため、ぼくのような体力のない人間はバイトを入れる気にもならないわけである。



2、性能の良いPCがないとキツい


 一般的な大学生だと、インターネットが出来てOffice系のソフトが動くPCがあれば卒業できる。

 しかしながら、建築学科では設計課題のために性能の高いPCが必要となる。

 CADは線を引いているだけなのでそんなに性能を求められないが、パースをデジタルで作成するならイラスト系のソフトが動くような性能を求められるし、3Dのレンダリングなどもするならそこそこのスペックが求められる。

 3Dの美麗なやつになるとゲームエンジンを弄るのが手っ取り早いのだが、一番性能を求められる分野でもある。グラフィックボードの強いやつを積もうとしたらかなりの価格となる。

 BIMソフトにどれぐらいのスペックが必要なのかは分からないが、アレも一応3Dなので性能が高いに越したことはない。BIMを動かすだけならそんなにスペック要らなさそうだけど、どうせ最後はレンダリングするから高スペックじゃないとキツいところに変わりないのだ。

 自宅だけで作業するならちょっと安くできるものの、性能の高いノートPCは割高だ。しかしながら、学校でもPCを使えた方が便利なためデスクトップPCを買う選択は勇気が要る。

 いずれにしても他の学科よりは高い性能と価格を要求されるわけである。


 パソコンの話ばかり書いたけど、スケッチや手書きパースなども多く行うならタブレットもあると便利だ。性能の良いスマホやタブレットなら3Dスキャンなどもできて手法の幅に広がりが出たり省力化できたりする。

 富める者はますます豊かな学びができるというわけだ。



3、模型作成にお金が掛かる

 これも初見殺しに近く、模型をつくることを知らずに入学してしまったぼくみたいな学生は泡を吹いて倒れることになる。

 ともあれ建築学科では、設計課題などで模型をつくることを奨励されている。

 しかし、模型をつくると言っても、ガンプラなどのようにキットを買って組み立てるというものではなく、壁や床のようなパーツをつくるところから始まるので大変面倒です。

 しかも、最終的に提出する綺麗な模型を作る前に、案の検討をするためにスタディ模型というものを大量に作ることが奨励されている。


 ぼくの場合はコロナ直撃世代だったため、対面での指導が少なく、主要な設計課題でも模型をつくらなくていい場合があったのでこの辺の出費を抑えられたわけだが、対面授業の復権とともに再び模型作成の手間が増えていくのだろう。

 ぼくは模型がマジで苦手だったのでスチレンボードという白い板を切って組み立てて終わり、ぐらいのことしかしていないのだが、厚みの異なるスチレンボードを幾つか用意しなければならないため、最低限にケチりまくったぼくでも半期の教科書代と大体同じぐらい掛かったように思われる。

 意識高い人たちになると色付けのための塗料なども買うことになるため、更に出費が増える。模型に添える芝みたいなやつとか土とか水辺の模型のための何かよくわからん材料とかまで凝り始めると青天井だ。

 材料だけでなく、カッターマットなどの道具代まで考慮に入れると更に出費は増える。カッターも「2、3回切ったら刃を折れ」というアドバイスをいただくので真面目に従うと多分すごいことになる。

 現代では3Dプリンタを使うという選択肢も入ってくるが、学校によっては利用料を払わなければならない場合も多いだろう。


 逆に言えば、金さえあれば家でも快適に模型作成が出来るわけだ。

 お金がある人は自室の設備を豪華にしよう。

 あると便利な設備は多いので、数多くのマシンや検討用の模型などを置くためのスペースも必要となり、つまりデカい部屋に住む財力まで問われている(まあそこまでやっている学生はほぼ見たことがなく、学校の設備や製図室でどうにかするのが通例である)。


 模型ではないが、最初の手書きの製図のためだけに無駄にデカい定規などを買わされて他学科より教材費が高くなる傾向があるというのも付け加えておきたい。

 しかもそこで買わされる定規等が卒業後の資格試験では持ち込めないサイズのやつというのもあるあるなのではなかろうか。

 あと、製図のインキング用のペンもクソ高いのに不具合起こしがち。一番細いやつが60cmぐらい線を引いただけで故障した時には流石のぼくもキレた。

 二度と手書きで仕上げまではしないと心に誓った瞬間だった。



4、建築系の書籍は高い


 ぼくは小説投稿サイトに時々投稿しているような人間なので平均的な学生よりは本に興味がある方だと思っている。

 そういうわけで、昨今では原材料の紙の高騰などで本をつくるコストが上がっていることや、読書人口の減少によって損益分岐点が変化して本が全体的に値上げされていることなども前提として理解はしている。

 専門書が高いというのも基本的な話だ。

 しかしそれにしても高い。

 教科書として指定されている本も高いし、建築関連の出版社が出しているやや一般向けっぽい本も高い。


 まあ、高いだけならともかく、電子書籍があまりないのが一番困る。

 ぼくは引っ越しなどに備えて電子書籍をメインにしているのだが、建築関係の出版社は電子書籍にあまり積極的ではないのかマジで電子書籍になっているものが少ない。

 電子書籍のセールで毎回まあまあ本を買う生活をしているのでセールの度に建築関係の本も探してはいるのだが、あまり増えていないのが現状である。

 少しずつ増えているようには思うが、もうちょっとどうにかして欲しい。


 とはいえ、もう少しマクロな視点から見ると、(日本語で読める)本が出ているだけでありがたいという見方もできる。

 今後、日本語ユーザーが減れば部数が減って価格が上昇するだけでなく、小規模な分野では日本語で書かれた書籍が出なくなる可能性も普通にありえるからだ。

 ぼくが生きている間はギリギリ大丈夫そうだなと悠長に構えているものの、これからの世代は大変そうだ(電子書籍も翻訳は出来るっぽいけど、そもそも買うべき本を探すのが難しそうなんだよなぁ……)。


 まあ、建築学科の学生は概して課題に追われていてあまり本を読まない(偏見)ので、一般的には教科書代が高いよ~、ぐらいに流される問題なのかもしれない。



 長くなってしまったので5番以後は次回。

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意識低い系建築学生ぼく、建築学科を語る 富士之縁 @fujinoyukari

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