選考委員の憂鬱

あまたろう

本編


「ほう、AIがプロットを考えて、それを基に人間が作品を完成させていくスタイルね。……でもそれであれば問題ないのでは?」


 腕組みをして考えているのはコンクール小説選考係の一人である田之倉だ。

 昨今のAI技術の向上によって、AIの作品と人間が作った作品を見比べたり、AIの作品を審査から弾くためにはどうすればよいかという議題についての打ち合わせの最中である。


「そもそもプロットがAIであるとか、人間によるものであるとか以前に、完成した小説がAIの作品であるのか人間の作品であるのかの区別がつかないのであれば、AIの作品を審査から弾く必要はないのではないですか?」


 半ば諦めた表情を見せているのは、同じく選考係の一人で、新進気鋭の女性小説家として花開きつつある河合である。


「たとえ完全にAIの作品であったとしても、試行錯誤をした結果出てきたものを良しとして提出している以上、応募者の感覚に合った作品であるということになるわけですから」

「だがね、AIに質問をした結果その応募作が簡単に生成されてしまうような事態があってはコンクールの沽券に関わるのではないかね」

「では、どうやって作品がAIによるものかどうかを見分けるというのですか?」


 河合の正論に田之倉が黙り込む。調べられなくはないかもしれないが、そのために多大な労力がかかってしまうことを懸念しているのだ。


「……いっそのこと、第一選考代わりにAIの作品であるかどうかをAIに判断してもらいます?」

「なるほど、毒をもって毒を制すか。確かにまだまだAIと言えども人間の作る文章には追いついていなかったり、全体の文意を捉えて関連を持たせる、いわゆる伏線についてはまだまだな部分はあるものな」

「それでも時間の問題かもしれないですけどね」


 昨今のAIの進歩は目覚ましい。つい先日まで箸にも棒にもかからなかったAIソフトが、みるみるうちにトップ商品として君臨することもあるのだ。


「将棋ソフトなどもまだまだと言われていたところから一気に進歩したからな」

「その結果、プロ棋士たちがソフトを使って研究したりと共存していく道が開かれましたね」

「そういう意味では、AIによる小説作成ソフトがこの業界の発展を助長するかもしれない、とは言えるな」

「であれば、AIによる選考というのも話題性があって案外いいかもしれませんね」


 ……とは言っても、一抹の不安はある。


「だが、それで人間の作品が弾かれてしまったり、AIの作品を弾き漏れてしまったりしたらどうするかね?」

「それはそれで良いのではないですか? AIの作品であってもある意味AIっぽくないと判断された、あるいは人間の作品でもAIによって次の選考に進む価値がないと判断されたのであれば致し方ないかと」

「まだ見ぬ名作がAIによって弾かれてしまっては目も当てられないな」

「それなら、AIを選考員の一人として採用し、他の選考者でそのまだ見ぬ名作とやらをフォローすれば良いのではないですか?」


 他の選考員も、概ねこの意見には同意し、選考員のフォロー的立場としてAI選考員が導入されることとなった。

 このニュースは業界の知るところとなり、ちょっとした話題にもなった。

 その結果、良くも悪くも小説業界でAIによる作品がトレンドとなり、業界内でのAI技術発展がいい意味でも悪い意味でも助長されることになってしまった。

 そしてあろうことか、このコンクールの田之倉による審査員賞に選ばれた作品が実はAIによる作品であったことが明かされることとなる。


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「……という作品が生成されたのですが、どう思われますか?」


 喫煙所で、河合が田之倉にその作品が生成されたスマホ画面を見せながら微笑を浮かべている。


「……すまん、俺が悪かった」


(おわり)

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