第6話 異常な魔物の出現? 『トレント』
新調した重装備。 それを身に纏い、いきなりダンジョンに挑戦して、魔物と戦う事をしない。
まずはトレーニング――――酷く地味なトレーニングだ。
比較的、魔物が出現しないとされている山。整理された登山道。
そこを歩いて登ることから始まり、徐々に速度を速めていく。
最初は散歩のようにゆっくり歩き。息が乱れる速度を維持して心肺機能を向上させていく。
そんな時だった。
「待て、若いの」と呼び止められる。
老人。 甲冑で武装しているところを見ると元冒険者か、元軍属だろう。
ユウトは――――
(まさか、その歳で流石に山賊ではないだろう。わざわざ、武装をした人間を狙って襲ってくる山賊なら、相当な愚か者だ)
そう思いながらも、隙を見せないように警戒する。
それでも「どうかしましたか、御老人?」と敬意は見せる。
「うむ、お主は冒険者か?」
「はい……あっ、何か依頼を受けてきたわけでありません」
勘違いからのトラブルを避けるためユウトは付け加えた。
案の定、老人は、
「何? 奴の討伐依頼を受けた冒険者ではないのか?」
「残念ながら違いますよ」と首を振るユウト。
「討伐依頼……この山に危険な魔物が出没しているのですか?」
「うむ……この山には100年に1度だけ、凶悪なトレントが出現すると言われている」
「トレント……ですか? あの木の魔物の?」
「そうじゃ、木の魔物であるトレントじゃよ」
トレント――――動く樹木の魔物。
樹木の肉体は、剣の攻撃で深い傷を付けれる事はできない。
一見、弱点だと思われる火炎系の魔法であっても、容易に着火するわけではない。
ただし――――
(厄介な相手ではあるが……だからと言って苦戦する相手ではないな)
ユウトはA級冒険者である。仮に1人でトレントと戦っても、簡単に勝てるだろう。
「わかりました。それじゃトレントに会わないように気をつけて帰ります」
簡単に勝てる。だからと言うって、簡単に戦うわけにはいかない。
既に冒険者ギルドを通して依頼を出しているなら、
「なら、俺が今から倒しますね!」と言う訳にはいかない。
依頼を横取りしてしまう事になる。
精々、許されるのは討伐対象の魔物に襲われて、戦う場合だ。
しかし――――
「待て、若者よ。お主、トレントを甘くみておるじゃろ?」
老人はユウトを引き留めた。
「ワシの名前は、ハリスじゃ。この麓で住んでいる元冒険者じゃ……ワシが子供の頃から言い伝えられているトレントを教えて進ぜよう」
老人―――――元冒険者のハリスの話は長かった。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「やれやれ、ようやく解放されたか。……もう、帰るか」
ユウトは山を下ろうとしたが――――
ざわわ…… ざわわ……
ざわわ…… ざわわ……
木々が風でざわめく音、葉擦れが聞こえてくる。
だが、その音に何かが混じっている。
何かが動いている。ユウトの耳は聞き分けることができた。
「おいおい、本物のトレントが混じっているのか?」
木々に混じって擬態しているであろうトレント。 それを見破ってやろうと凝視をするユウトだったが――――
「……何だこりゃ?」と驚きの声を漏らした。
それは彼の知る
巨大ワニの形をした樹木の魔物――――A級冒険者であるユウト・フィッシャーにとっても未知の魔物だった。
(まるで木属性のドラゴンのようだ。 本物の巨大ワニに特殊な植物が根付いて鎧のようになっているの? しかし――――)
違和感がある。 だが、それ以上の思考を巨大ワニは許してくれなかった。
ユウトを認識すると、周囲の木々をなぎ倒しながら突進してきた。
「――――っ この!」と抜刀するかのように杖を抜くユウト。
「詠唱 我が手に宿る炎の力よ 今こそ力を見せて焼き払え――――『
彼が振る杖に合わせて、炎が斬撃のように飛んで行く。
直撃
「やったか?」と効果を期待するも――――巨大ワニの突進は止まらなかった。
巨大ワニの噛み付き。 その顎から見える鋭利な牙がユウトを襲う。
地面を転がるように回避。 すれ違いざまに、もう一度――――
『
しかし、詠唱を破棄した無詠唱魔法は威力は落ちる。
先ほど以上に効果は望めなかった。
「……(おそらく、全身を覆う植物は水生植物。土も植物も水分を十分に含んでいる)」
すれ違った巨大ワニは旋回する。その勢いで尻尾を振るって攻撃。
「――――っ!? 危ない!」と今度は尻尾の上を飛び越えて回避。
しかし、巨大ワニは高い知能を有していたようだ。
咄嗟の回避ですぐさま、次の行動ができなくなったユウトの胴体を――――
今度こそ、巨大な牙が突き刺さった。
「ぐっあああああぁっ!」と痛みが襲う。
鉄の鎧をもってしても、完全には防げない凶悪な牙。
このまま嚙み砕いて、捕食するつもりなのだろう。
身に纏う木々に隠れて見えない巨大ワニの目だが、ユウトには笑っているように見えた。
だから――――
今度は、その目に狙いを定めて――――
「詠唱 我が手に宿る炎の力よ 今こそ力を見せて焼き払え――――『
――――炎の魔法を放出させた。
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