第5話 朝食 巨大ピザトースト

 1人で鎧の装着するには練習が必要だった。


 魔物から危険な液体を吐かれた時、あるは極寒の川や海に落とされた時……


 素早く鎧を脱ぎ捨てることが生死を分ける要因になり得る。


 まる1日かけて鎧を体に馴染ませていく。


 重い鎧の装着と着脱を淡々と繰り返す。それだけでも、慣れぬそれだけでも重労働。   


 しかし、それが苦にならない。 不思議と楽しいとすら感じられた。


(集中し続ける作業だろうか? 嫌な事を忘れることができる)


 汗を拭う。


 全身に疲労を纏ったまま、ベッドに倒れ込む。 


 目を閉じ、再び開いた時には、外はまだ暗い。しかし、薄っすらと青みがかっている。

 

 そこで気づいた。自分の空腹を――――お腹が不機嫌な音を鳴らし始めた。


「よし! 朝飯を食べに行くか!」と勢いよくユウトはベッドから飛び起きた。


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・


(さて、朝飯は何を食すべきか?)


 まだ夜から朝になろうとしてる時間帯。ありがたい事に既に開いている飲食店は幾つかある。

  

 目がついた店は喫茶店。まだ珍しい飲料である珈琲を楽しむ店でありながら、食事も提供されている。


 何より、朝早く開いているのが嬉しい。


「量が多くて有名な店だな」とユウトはお腹と相談して、「ここにするか」と店に入る。


 中に入ると自分以外にも、意外と客が入っている。


 メニューを一瞥すると――――


朝食モーニングの専用料理もあるのか……でも、ここは」とユウトはメニューを決め、店員を呼んだ。


「たまごのピザトースト。飲み物は珈琲をお願いします」


「大丈夫ですか? 結構、量ありますよ」


「大丈夫、大丈夫」とユウトは笑みを零した。


「かしこまりました。すぐにお持ちいたします」と注文を聞いた店員が下がっていった。 


(わざわざ量を確認するあたり、食べ残す人が多いのだろう。疲労と空腹の身には嬉しい確認だ)


 気がつけば店内に珈琲独特の香りが充満している。きっと、芳醇な香りが鼻をくすぐるなんて表現は、こういう時に使うのだろう。

 

 何気なく店内の様子を見渡す。


 外からはレンガ作りの建物に見えたが、内装は木材がふんだんに使用されている。 

 木々から感じられる安らぎの効果を狙っているのかもしれない。


 不意に他の客が食している物が見えた。


「トーストされたパンは、ずいぶんと分厚いな。バターと……あの黒いのは餡か?」


 あん――――東洋のお菓子で使われる。


 小豆を煮込んで砂糖を加えた物が代表的。さまざまな食材に煮込まれて新しい餡が日々、生まれているとは聞いている。


 この国は、東洋との貿易が盛んな地であるが、それでも食べ物となると中々、入ってこない。

 

 珍しい食べ物だ。


「すいません!」とユウトは、再び店員を呼び止めた。


「追加でトーストを、アレと同じ物を」と追加注文。


 再び、「本当に大丈夫ですか?」と確認される。 


 そうしてテーブルに置かれた完成された料理は――――


「大きい!」と思わす口に出るほどの大きさだった。


「たまごのピザトースト……なるほど、こういうことか」


 2枚の食パンでたまごをサンドされている。


 その上に大量のチーズが敷き詰められ、人参やトマト、玉ねぎといった甘みのある野菜が乗せられている。


 さらに焼かれて、とろけきったチーズは液体のように見えた。


「そりゃ、店員さんも量の確認をしてくるわけだ」とユウトは、その量に苦笑する。


「この熱さ。流石に手で持って食べるのは無理か」


 彼はフォークを持ち、一口かぶりつく。


 カリッ! と焼かれた表面とは裏腹に柔らかなパンの食感。


 アツアツのピザトーストの中から、まずは甘みのある野菜の風味が広がる。


 なにより、溺れるほどに乗せられたチーズは、まろやかな味わいとチーズ独特の甘さを加速させる。


「――――いや、注目すべきは中のたまご。濃厚な半熟たまごの甘みはは言わずもがな。食べるたびに零れ落ちそうになるほどの量が凄い!」


 溢れていく感動を1度落ち着かせるためにユウトは、濃い褐色の珈琲に口づけを交わした。


「よし! これなら――――いくらでも食べれそうだ」


 彼の食欲は爆発的に加速されていく。


 たまごは人間に活力を与え、活力と共に彼の飢餓感は満足感へと変わって行く。


 この頃には、少ない客たちも異常さに気づき始めた。


 席に1人で無心に巨大なピザトーストを頬張る男。


 その姿は、決して優雅とは言えないけれども、不思議な美しさ――――感動を引き起こす。


 なにより、その食べっぷりを見た観客たちは、食欲を感染させられた。


「すまない……おかわりを!」


「お、俺も!」


 そして、彼等は口を揃えて同じ物を注文した。


「「「たまごのピザトースト」」」


 早朝の喫茶店とは思えない活気が店内を包んでいく。


 その最中、彼は――――「ごちそうさま」と1人唱えた。


 しかし、このボリュームを食べ終えても、彼の胃袋は満足していなかった。


「何か追加注文を――――」と考えた時だった。


「お待たせしました。追加のトーストです」とテーブルに運ばれた。


 皿の上には、厚めのトースト。 それとは別に、バターと餡が置かれている。


 どうやら、自分で好みの量を乗せれるらしい。


(すっかり失念していた。これは嬉しい誤算だ)


 ユウトは笑みを浮かべながら、口をリセットするに珈琲を――――今度は砂糖と牛乳を混ぜて――――飲み始めた。

 

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