第46話

 僕は、シャワーを浴びながら、高橋宝を思い出した160cmくらいの華奢で可愛いと言う表現がピッタリの男だ。いつもニコニコ笑顔で受付に座っているイメージだ。

 隣に座っている最近の壱は笑顔が少ないような気がするが、僕がずっと2人を見ているわけじゃないので、上手く2人で回しているのだろう…たぶん。


 ふと和井さんを小さくしたら宝か…なんて考えた。

 僕はこの5年の間、和井さんに会っていないが、壱はたまに連絡アプリで連絡しあっているらし、細かい事は教えてくれないし、聞いてもいない。


 今、宝がやっている事はちょっと前の言葉で言うとナンパ?か

本郷先生が知ったら怒るかな?怒るよな…絶対、噂が噂を呼んで大変になる前にかぁ

頭が痛くなりそうだ。

 手早く髪を洗って、体を適当に擦って短時間で終わらせた。


 台所で片付けをやっていた壱がリビングにきて、

「風呂早いなぁ…成、風呂貯めないでシャワーだけか、俺もそうしようかな」

 僕がソファで髪をタオルで拭いていたら、壱が言いながら服を脱ぎ始めた。


「風呂場で脱げよ」

僕が言うと


「はい、はい」

と、壱は笑いながら風呂場に行った。


 だいぶくたびれたソファだがお気に入りで、岐阜のアパートで使っていたのをまだ使っている。2人で暮らしていた東京のアパートにあった同じソファは壱が処分してくれた。

 壱には、この家に住み始めた頃には新しいの買おうぜと何度も言われたが、最近は全く言われなくなった。

 なぜだろう?と、思ったがどうでもいいやと思い直した。


 テーブルの上の壱の携帯がピロロとなってた。

 ロックがかかっているから中は見えないが表示に圭さんからの連絡アプリが現れた。

 圭さんは、岐阜で僕がお世話になった早先生のパートナーだ。

 壱と圭さんは、とても仲が良い。最近は早先生が壱をライバルと勘違いしだしたと、壱が笑いながら教えてくれが、…本当に大丈夫か…。

 僕は、簡単に身を引くタイプだと思う。良い人を演じる訳じゃないが、ゴタゴタが面倒だ。生きる死ぬっていうくらい壱は僕の事が好きだと言うが、その感情が僕には欠如していると思う。


 圭さんは別荘にテニスコート付きで所有している。研究のドクターで何かで特許を持っていると言っていたが専門用語が多すぎてよくわからなかった。

 僕は法事で行かなかったが、壱が圭さんの別荘に1人で遊びに行った。燻製の作り方を教わる目的だったらしい。

 早先生も用事があるとかで、2人だったと言っていた。


 シャワーから戻って来た壱は連絡アプリに気付いて、通話の電話をするようだ。


「圭さん、この前ありがとう。楽しかったよ」

(こっちこそ、

あっそうだ、車買うって教えただろう。選ぶの付き合ってくれないか)


「OK良いよ、めぼしいの何台か見つけておいてよ」

(ああ、そうする)


僕は隣に座りながら電話をしている壱に電話を変わってと言った。

「圭さん、壱が変わるって」

(ああ)


「圭さん、成です。僕にもお土産ありがとうございました。美味しく頂きました」

(あのチョコ美味しいだろ、成くんは高級チョコ興味なさそうだけど、大量に入っているから気長に食べて)


「?ありがとうございます、高級チョコうーん少しは興味ありますよ。壱に変わりますね」

(ああ)


 暫く壱と圭さんは、おしゃべりをして電話が終わった。


「壱、僕に圭さんからだってお土産小さいチョコ1個だよね、」


「ああ、1個渡したなあ」


「圭さん、大量とか言ってたけど?」


「たしかに20個くらい箱に入っていた、

悪かった、帰りの車の中で、食べてしまった」


「別に良いよ、でも言ってくれよ、後々話が合わなくなる」


「ごめん、バレると思ってなかった」


 あの時、確かに小さいチョコ1個をお土産って変だと思ったが、…こういう事か納得した。


 

 次の日は土曜日で午前中だけ仕事だ。午後から、壱と散歩がてら車屋巡りの予定だ。

 見るだけで充分楽しめる、僕は車を持っていないが壱は10年くらいたった高級外車を持っている。

 

 岐阜の時も、圭さんの別荘に行く時の為に車を持って行った。冬の期間2-3か月だけだったが、別荘に行く為に冬タイヤに交換が必要で、ひと騒動あったのを覚えている。 

 合う冬用タイヤがなく、岐阜の同じメーカーのディラーはうちで購入した車じゃないとか言って、真剣に相手にしてくれないので、購入元の東京のディラーが探してくれて北海道のディラーが1組持っているとかで、取り寄せたりで、大変だった。

 やっぱりどこも独立採算制なんだって思った。


 家で昼食べて出掛けようと思っていたが、壱が帰り際に更衣室で、

「成、悪い、昼さぁ宝と食べながら話し聞く事にした。来るか?」


 宝が、頭を下げて、

「成先生、すいません。宜しくお願いします」


 壱が透かさず、

「おい、何がすいませんだ。いい加減にしろ」

若干怒っていた。


「高橋くん、僕は関係ないから行かない。

壱に相談しないで一人で後始末出来ないの」

僕が呆れて言うと、


「すいません。何人かが、本当に怒っていて…」

宝が、申し訳なさそうに言う。


「前ので懲りていないの?僕は恐怖だった。今回も壱に後始末押し付けて、また繰り返すでしょう?

悪いけど、庇えない。警察沙汰になったら本郷医院存続の危機だよ。

 事の重大さ気づいてよ、壱じゃなく本郷先生に相談した方がいい」

僕は、思っていた事を言った。


「それが良いなあー。俺が聞いても解決出来そうにない」

壱も、改めて考えたらしく同意見だった。


「仕事辞める事になるんじゃないですか?」

宝が、食い下がってきた。


「何人もに個人的に僕を出汁に連絡したらアウトだ…2度目だ」

僕が言う。


「宝、自分で後始末無理なのか?」

壱が言う。


「はい、相当怒っている人がいます」

宝が、項垂れて言った。


「まだ本郷先生いるから、先生の空いている時間を聞いて来い」

壱が、宝を睨んで言った。


 下を向いたままの宝は、観念したように、

「わかりました」

と、言いながら更衣室を出て行った。


「あー、面倒だー」

壱が、ため息を吐きながら言った。


「僕達の手には負えないよ」

僕が言うと、


「そうだな」

壱も納得した。


「帰ろう、外で昼食べよう、そのまま散歩しよう」

僕は、家での昼飯の準備等の壱への負担を減らしたかった。宝と話をして何だか疲れてしまった。


「おお」

壱が、言うと同時に宝が戻って来た。


「午後2時に先生の家に行きます。話しを聞いてくれるそうです」

と、宝が言ったら


「嘘つかないで正直に言えよ。嘘つくと後々もっと面倒いなるからな」

と、壱が宝に釘をさした。


 僕は昨日のお土産のチョコの件とか昔の様々な件を思い出したが、黙っていた。


「えっ、2人とも一緒に来てくれないんですか?」

宝が驚いたように言う。


「はぁ、俺らの事じゃないだろう」

壱が呆れて言った。


「…そうです」

宝が、また下を向いた。


「じゃぁなぁ」

僕と壱が偶然にも同時に言い2人で苦笑いした。










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