第40話
壱が、僕のアパートに来て二週間が過ぎた。
毎日、壱は掃除、洗濯、朝と夜の食事、なんとお弁当まで作ってくれる。
職場のスタッフはみんな弁当持参なので僕の弁当持参に、一井先生はまめですねって言われた。
たぶん、僕が自分で弁当を作っいると思われている。
僕も曖昧に誤魔化して否定も肯定もしていない。
早先生は、お昼には自宅に行ってしまうので気付かれいない。
そのうち壱も帰ると思うので、いる間はまぁ良いかって思っている。
手作り弁当って、それなりに意味があるのか?たぶんあるんだろうな。
壱に世話をやかれて、だいぶ助かっているが、心の距離は来た当初と全く変わっていない。
2人で話す時間が、あまりに少ない。
朝は早く出て、夜帰って来て夕飯を一緒に食べた後は、僕は勉強をする。
今までは、薬も早先生の指示で出し、自分で調べようとしなかったり頼ってばかりだったが、次の職場に行くまでは、症例や薬等覚える事ばかりだった。
壱にも、凄く勉強するんだな、前に来た時はしてなかったよなって言われた。
前とは状況が違う、前は働き出したばかりで、甘えていた。
今は、あまりにも無知だと、早先生にも申し訳ないし次の職場でも呆れられると思うと、勉強せざるを得ない。
壱とは、寝る時間帯の違いがあるし寝る時もダブルベットの端と端で寝ている。
週明けの月曜日に、早先生に今度の日曜日にピアノ聴きに来ないか?って誘われた。
「今、幼馴染の会川壱が家に来ているんですが、一緒に行ってもいいですか?」
「ピアニストにピアノを聴かせるのは、…まあ良いか、会川くんにも会いたいし」
「ありがとうございます、何時頃いいですか」
「圭が、お昼ご馳走したいって言ってるから11時頃待っているよ、」
「わかりました。楽しみです」
久しぶりに圭さんとも会えると思うと楽しみだ、ワクワクした。
仕事終えてアパートに帰ると、
「おかえり、今日はチャーハンだ時短レシピ見ながら作った」
壱が楽しいそうに言ってきた。
壱は、主夫を楽しんでいる。
前に嫌じゃないのかって聞いたら、成の側に居るだけで幸せだと言われた。
このままでいいのか?壱も近々東京に帰るのだろうから、とりあえず良いとしよう。
「今度の日曜日に早先生の家に一緒に行こう、誘われた」
「俺も良いの?」
「最初はピアノ聴きに来ないかって言われたんだ、壱が来ている事を言ったら一緒にって」
「ピアノか」
「嫌だった?」
「別に良い」
「11時頃に来てだって」
「ああ、昼用に弁当でも買って行くか?」
「圭さんが、何か作ってくれるらしい」
「じゃあ俺も1品何か作っていくよ」
「あっそう、何を作る」
「ううん、考える…何にしようかな」
「お菓子系はどう?壱、この前作ってくれたクッキー美味かった」
「ああ初挑戦のやつな、クッキーだと前の日ゆっくり作れるな、クッキー作って持っていくか。
成功したらの話だけどな」
と、言いつつ嬉しいそうに見える。
僕以外の誰かに作るって、張り合いになるのだろ。
「だとさぁ、後一週間は居るのか?、もう2月になるけど、壱は大丈夫なの」
僕が、今後の事を言った。
「ああ、俺の事かあ…、成は俺が来て初めて聞いてきたな、たくさん話さなきゃならない事あるけど、やけに成は忙しいだろう。
こんなに勉強してたんだ、土曜、日曜なんか一日中だろう。
俺が入るスキないよな…。
せっかく聞いてくれてたから言うけど、まだ居たい。
金はある、心配するな。
だいぶ和井さんに迷惑料で渡したけど、後10年は遊んで暮らせる。
俺、成の側じゃないと心がもたない。重い話になるから、言わないけど…迷惑かけないから、いさせて。
成の時間が空いた時に、ぼちぼち話そう。
徐々にで良いから俺を見て欲しい。
以上です」
「色々やってもらって、…ありがとう。
僕、こんなに勉強しているの初めてだよ。国試の時だって、ただ覚えれば良かった。
小説家もどきの時は拙い文章で満足して、国語なんて全然わからないままだった。
今思えば恥ずかしい…。
今の勉強は教科書プラスαなんだ。現実の患者さん相手だから、わかりませんじゃダメだからね、今まで楽してきたツケかなあー、
でも楽できたのは壱のおかげだよ、ありがとう。
頭の中がお花畑で、小説も書けない、言葉も知らないで、芥川賞を貰えたらなんて夢見てね、…笑える。
壱が良いなら、居ていい…」
「俺が言うのも変だが、…成、大人になった」
「まだだ、半人前から抜けたらかな」
2人で、そうかもなって言って笑った。
僕は、いつもの通り勉強を始めた、壱は明日の弁当の下ごしらえを始めた。
勉強をしながら、壱に6月から東京で働く事を言っていない事を思い出した。
今、言うか迷ったが、話しが長くなりそうなので今日は辞めた。調べたい事があった。
今日見た患者さんの症例が曖昧の判断になってしまった。早先生もわからないので、紹介状を出したが、どうしても気になって調べたかった。
狭いアパートで僕がテーブルの上で勉強していると、壱の居場所がない。
壱は台所仕事を終えると、シャワーを浴びてベットの上で本を読んだり、タブレットで映画を見たりしている。
僕は平気だが、壱は大丈夫かなと時々思うが、嫌なら帰ればいいよなって、勝手に自己完結している。
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