第33話
金曜日仕事終わりの帰り際、早先生に明後日お昼ごろ伺う旨を言った。
「あの日曜日お昼、伺って大丈夫でしょうか?」
「ああ、もちろんそのつもりだったよ、何かあったのかな」
机の上の郵便物を確認していた早先生は、手を止めて僕に笑顔で聞いてきた。
「いえ、早先生に急用が出来てないかと思いましたので、確認です」
「大丈夫だよ」
「あの僕、食べてみたい弁当があるので、3つ持っていきますので、何も準備しないでください。デパ地下のなんですが、ずっと気になっていたのがあるんで」
「わかった、ありがとう、待っているよ」
と、笑って言ってくれた。
助かった、気を使うなとか言われたら困るところをあっさり了承してくれた。
日曜日、天気は快晴だった。駅に向かってか歩いていると、相談事よりどの弁当にするか頭の中で迷った
9月に令の家に行く前にデパ地下でお惣菜を買った時、気になる弁当が何個かあった、飲みながら弁当でもないだろうと思い中華惣菜にしたが、今度絶対に買おうと思っていた。
迷ったが、洋風和風中華風3段アラカルト弁当にした。好き嫌いがあってもどれかは食べられる。
ついでにデザートのコーヒーゼリーと、一口ケーキ12個セットを買った。
飲み物をどうしょうかと迷い、荷物になるので買わない事にした。
買わないで正解だった。弁当とケーキで両手が塞がっていた。
12時少し前に早先生の家に着いた。
ピンポンを押すと圭さんが出迎えてくれた。
「凄い荷物だな、入って」
早先生も出てきて、
「待っていたよ」
と、僕の顔を見て笑顔で言ってくれた。
3人でテーブルに座り弁当とケーキを広げた。
弁当を開けると3人とも、凄いなと見惚れて言った。一人づつ目の前に3段を広げ3つの弁当豪華だった。
「僕、ずっと食べて見たかったんです。1人で食べてもつまらないので、、嬉しいです」
コーヒーとお茶、好きなの飲んでと、大きなペットボトルとコップがある。
圭さんが3人分とりあえずお茶を入れてくれた。
早先生が食べながら話そうと言ってくれた。
3人で頂きますと言い食べ始めた。
「どうですか?」
と、僕が言うと、
「凄いよ、こんな弁当食べた事ない、おせち料理のようだ、
…いていいの?」
と、圭さんが僕に聞いてきた。
「色々な意見あった方がありがたいです」
「わかった」
ホッとしたように圭さんが言った。
「この肉、美味い」って早先生が弁当の肉を食べながら圭さんに言った。
「一井先生ありがとう、どれも美味い、
昨日の夜、肉を焼いて椋ちゃんに出したら焼き過ぎだって文句言うんだ、じゃあ自分で焼けって言ったんだ」って笑って圭さんが教えてくれた。
「僕も念願叶って嬉しいです、
……東京に95歳の曾祖父がいます、最近まで一人暮らしだったんですが、足腰が弱くなってベッドの上の生活です。
今は僕の両親が曾祖父の家で一緒に生活しています。
近所の内科の先生が往診に来てくれてます。 その内科の開業医の先生は独身で跡継ぎがいません。
僕が医学生の時から、ゆくゆくは来て欲しいと言われて、9月に実家に行った時もそろそろと言われました。即答は出来ず、正月まで考えると返答しました。
迷ってます…」
「そうか、悩むよな、一井先生に辞められたら困る。困るけど、引き留める魅力もない」
と、早先生は真剣な顔で言ってくれた。
「特に、どの辺りが迷っているのかな?」
と、圭さんが聞いてきた。
僕は、箸を休めてお茶を飲んでから、
「まだ、実家に戻るのは早いかなって思っています」
「お祖父さんお祖母さんは元気なの」
圭さんが聞いてきた。
「実家の近くの曾祖父は父親のお祖父さんで、
父親の両親は、父親の妹夫婦と暮らして埼玉にいます。
母親の両親はまだ2人とも働いて横浜にいます。母親の方の祖母はギリシャ人で、ギリシャの家庭料理の店を夫婦で週3日やっています」
「一井先生、クォーターなんだ、納得」
圭が、頷きながら言った。
「望まれいたんだー。働き出してて良かったってな」
少しため息のような会話を早先生がしてくれた。
「働き出してて良かったと、僕も思います。早先生には感謝しています。何にも出来ない僕を雇ってくれた」
「誰もが、通る道だ、その辺は全く気にする必要はない、なぁ、圭、研究続けながらでもおれのところで働かないか」
「えっ、一井先生が来てくれる前も、しつこく誘われたけど、運良く一井先生が面接に来て、なおかつ働く事になってホッとしてた、…急で無理だ」
「あっ、すいません。まだ帰るかどうかは未定です…」
僕が言うと、
「帰らないで後悔しないか?あの時って残るぞ、おれに気を使わないでいいし、人手はまた募集する、…圭には根詰めてほしくないんだ、最近ずっと朝に帰ってくるだろう」
早先生は、最初僕を見て次に圭さんを見て言ってくれた。
「椋ちゃん、ありがとうな、研究バカなんだ。
夜中は人が少ないからいいんだよ、昼間はポスドクとか留学生が教えろってうるさいから、あいつら全部盗んで自分の国に持って帰るからな」
苦笑いしながら圭さんが早先生に言っていた。
「無理すんなよ、
一井先生、お正月には一人暮らしの先生に良い返答してあげてください」
また圭さんと僕に言ってくれた。
「はいはい」
圭が笑って言う。
「2か月くらい悩んでましたけど、東京に帰って見ます、なんかスッキリしました」
「出来れば春、うーん5月の連休までは、うちで働かないて欲しい。求人出して直ぐ見つかるか、見つかったとしても続くかわからないからな、どうかな」
「はい、宜しくお願い致します」
「東京の先生羨ましいな、後を託せる若い先生と出会って、おれも近い将来、見つけて託すのかな」
早先生が言うと、
「地方は医者不足だからどうだろう、きっぱりと閉めて、老人ホームに入ろうよ」
と圭さんが早先生に言った。
「あっと言う間に年取るんだろうな」
早先生も、考え深く言った。
「僕が言うのも何ですが、最近あっという間に年取ったって思ってました」
「誰しも思うよ、人生長いようで短い、なるべく後悔ないように生きたいな」
圭さんがしみじみ言う。
今までだいぶ苦労してきたのだろうか、いつかゆっくり聞いてみたいと思った。
苦笑いしながら早先生は聞いていた。
圭さんが、ケーキを食べ出したので、僕もケーキを食べた。
早先生が、1曲ピアノを弾いてくれると言う。僕に何か聴きたいのはあるかって聞いたので、運命って言った。
圭さんも、最近ベートーヴェン聴いてない、運命聴きたいって早先生に言っていた。
凄いの一言だった。凄い生ピアノいいなって改めて思った。
壱を思い出したが、壱の生ピアノは小学生の時以来、聴いた事がない。
なぜこんな素晴らしい楽器を弾ける人が目の前にいた時は全く興味を示さなかったのか、…今考えると不思議だった。
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