第28話

 曾祖父の家に寄ったら、両親と曾祖父が居た。

 頭の中では、まだ若かった曾祖父が、最近はベッドの上の生活だと聞いてなんだか寂しくなった。

 また来るよと言ったら、曾祖父はベッドに座りながら寂しそうな顔をした。

 ベッドの横の引き出しから、1枚の写真を取って僕に寄越した。


「成、ついこの前まで小さかったな」


「幼稚園の時の写真か、懐かしいな、僕にくれるの」


「ああ」


「良いの、曾祖父の大事な物でしょう」


「たくさんあるから1枚やる」


「ありがとう」

 写真をもらった、顔も見れたし良かった、このまま帰ると後ろ髪を引かれそうだが仕方がない。

 両親に任せよう。


 駅に歩いて行く途中、僕に働いて欲しいという医院の前を通ったら、偶然にも先生が、医院の入口の木の剪定をやっていた。


 僕は先生に気付いて、

「先生、こんにちは、久しぶりです」

と、先生の背中に挨拶をした。


 先生は振り向いて、笑顔で、

「おお、働いてくれる気になったのか?」

と、言ってきたので、


「もう少し考えさせて下さい。今は先生に会いに来たのではないですよ、駅に行く途中です」


「そうか。残念だよ。一瞬喜んでしまった」

と、言って笑っていた。


「母さんには正月ぐらいまで考えて、どうするか決めると言ってあります」


「そうか、いい返事待っている」


「確認しておきますが、僕、半人前ですが大丈夫ですか?」


「その辺は心配ない。私が元気なうちに、教えれる事は伝授したい」

 

「そうですか、その辺も踏まえてお正月過ぎにはお返事します」


「わかった、待っている」


「じぁあ、失礼します」


「気をつけてな」


 僕は会釈をして別れた。


 

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