第27話


 歩く気力もないくらい、精神的にクタクタだった。病院からタクシーに乗り、実家に着くと真っ暗だったが、なぜかホットした。 

 誰もいない家が今日の僕には丁度良かった。


 2階の僕の部屋に入ってビックリした。凄い数の段ボールが積み重なっていた。よく2階まで運んでくれたと感心してしまった。

 

 アパートから引き払ったのは良いが、この段ボールに入っているものをどう処分したらいいんだと頭が痛くなった。

 さすがにベッドの上に段ボールはなかったので、とりあえず横になった。


 今日一日、色々ありすぎて頭の中がまとまらない。

 まずは、和井さんには幸せになってほしい。壱には必要な人だ。

 壱の顔を見れて良かった。和井さんを幸せにしろって。


 今日、東京来て良かった。寂しい気もするけど、ケジメをつけられた。

 

 僕はこれで良かったと思う。壱に未練はないのかと自分に問うと、本音は大有りだが、全て見ない事、考えない事にする。

 壱の愛情を利用しているような自分は嫌だ。


 これからも壱とは友情は続くと思う、対等に並んで未来も笑いあいたい。


 僕も本気を出してパートナーを探そう。この寂しさも埋まるはずだ。


 早先生の圭さん素敵な人だったな、もっと話したかったけど、壱の事で頭の中がパニックになってしまった。

 また機会を作ってもらおう。


 ひとつひとつ箇条書きのように考えていたら、寝てしまったらしく、部屋のドアを叩く音で目が覚めた。


「来ている?開けるよ!」

と、母がドアを開けた。


「今、何時?」

僕は段ボールで顔の見えない母に聞いた。


「10時、何か食べる?」


「えッ、10時、食べる食べる、下に行くよ」


「はあーい」


 下の台所のテーブルの上には2-3品の惣菜とおにぎりがのっていた。


 僕は食べながら母に、

「最近は曾祖父の家に居るの?」


「ここ、ひと月前からあっちの家で暮らしているの、もう一人暮らしは無理そうだしね」


「そうか」


「今日も泊まるの?」


「もう岐阜に帰るよ、明日仕事だし」


「慌ただしいのね、東京では働く気ないの?」


「なんで?」


「曾祖父さんに往診に来てくれている先生がね、もし良かったら成に働いてもらえないかなって」


「ああ、そういえば前から言われてた」


 近所の先生が僕が医学生の時から何度も、卒業後は来てほしいと言われていたのを思い出した。


 もう70歳くらいになるだろうか、穏やかな先生で、独身だった。軽いものならなんでも診てくれる町医者で、後を継いでやってくれる人がいないと地域の人が困ると嘆いていた。


「何て先生に言えばいいのかしら?」


「正月頃まで考えさせて、今すぐは無理だから。まだ半人前だし」


「わかった」


「僕の部屋の段ボール、大変だったでしょ、ありがとう」


「ああ、あれね、宅急便の方が2階に運んでくれたの助かったわ。どうするの?必要なのは岐阜に送るの?」


「うん、…特に必要な物はないんだ。暫くあのままかな、そのうち片付けるか処分か…なんとかするから」


「どうにかしてね、床が抜けないうちにね」


「はい、シャワー浴びて帰るよ」


「曾祖父さんの顔見て行く?」


「寄りながら駅に行くよ」


「じぁあ、あっちの家に戻るね」


「ああ」

 僕も立ち上がり、シャワーを浴びる事にした。


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