第24話

 夜、ゆチューブをまた見た。壱を画面越しに見ていると僕が知っている壱じゃないような気がして今まであまり見なかった。


 ピアニストの壱と僕の知っている壱は別物だった。ピアノを弾いている壱は遠い存在で、芸能人だった。尊い粋で僕が入って行ける場所じゃなかった。


 本人に聞いても、何も無いと言うと思う。

この変わり様は尋常じゃない、和井さんに聞こうかと思った。一緒に住んでいるはずなのが気になるが、仕方がない。

 連絡アプリに文字を打ち込んだ。


(成です、お久しぶりです。

ちょっと聴きたい事があります。

さっき、ゆチューブの壱を見ましたが、何かありましたか?

雰囲気がだいぶ変わった様に見えました)


直ぐに返信がきた。


(久しぶり、うぅ〜ん、壱は少し痩せたかな

それくらいかな)


 軽く流されてしまった。奥まで入りたいが、どの様にもっていけば良いのか、わからない

困った僕は、速球にした。


(今度の土曜日、時間ありますか?和井さんの都合良い時間に合わせます)


(急にどうしたの?壱の事なら壱と連絡取った方が良いよ)


(和井さんと出来れば話がしたいと思います)


(土曜日、東京駅の大丸の地下のAで午後5時。

壱には内緒なのか?)


(ありがとうございます。

言っていません。和井さんから伝えてもかまいません、土曜日待ってます)


 僕は、心の中で「やった」って思ったが、今さら何をどう聞けば良いのか途方に暮れた。土曜日まで、しっかり考えようと思った。

 せっかくの休日が、重い一日になってしまった。早先生が羨ましい圭さんも幸せそうだったなあと改めて思い出した。


 考え過ぎて疲れた。何か食べて寝ようと思いソファから立ち上り、ふとソファを眺めた。

 東京のアパートのソファは捨てたのだろうか?思い出すと感傷的になってしまう。変わった壱を見た事も一因なんだろう。

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