第14話


 今日の夜は早医院の近くの個室のある焼肉屋で、3人の食事会だ。


 土曜日で僕の仕事は休みなので2人で、ゆっくり昨日の残りのカレーを朝昼兼用で食べていた。


 僕は食べながら夜の食事会を考えていた。

 早先生の僕への労いか、僕の友達に興味を持ったのか、たぶん後者だろうかとか色々頭の中を巡った。


 何年か前の僕なら、照れながら紹介していただろう。あの頃は、ずっと全幅の愛情が続くと思っていた。

 どこかでボタンの掛け違えが……、その時々に治せば良かった。

 東京のアパートで同棲していても、連絡なしに帰ってこない。

 そんな日常もあたり前に最近はなっていた。


 ふっと壱の視線を感じて現実に戻り、夜は焼肉屋だよって壱に言ったら、臭いが付くとか独り言を言い始めたがほっといて、カレーの皿を流し台に持って行った。

 

 その後、別に用事があるわけじゃないのに臭いぐらいと僕は思って、壱を呆れた顔で見たらしく、


「俺の顔になんか付いてる?」って背中越しに聞こえた。


「別に」

 皿を洗いながら答えた。


 僕の思っている事はお見通しだろう。


 缶コーヒーを2本持ってテーブルに戻って、


「臭いがついいても良い服着ていけばいいだろ、換気が良いからあんまり臭いが付かないと思うけどなあ」

 壱にも缶コーヒーを渡しながら言った。


「そうだな」

壱のいつもの答え方だ、全ての方向の返答だ。


「友達って紹介するから」


「ああ」


「昔の僕なら違っていたんだろうな、僕が僕であって僕じゃない時」

 遠くを眺めるような顔付きで言ってしまった。


「難しい事言うな、つまり成が人形みたいだったって事か?何を言いたいんだ?」

 なんとなく壱が突っかかって言ってきた。


「どう説明していいのかわからないけど、簡単に言うと、壱が僕の全てだったと思っていた頃の僕かな」


「昔って…、何年前くらい?半分嬉しいような複雑な気分だ」


「うぅんわからない、はっきりは…、高校卒業あたり頃?かな」


「成、本気でそう思うのか?10年も前だぞ」


「だから、わからないって言っているだろう」


「ごまかすなよ」


「そんなつもりはないよ、…昔の僕は壱が全てで、未来もずっと続くと思っていた」


「成、…悲しい事言うな、なんでこうなった…」


「たぶん、一粒ごと心の中の満杯のダイヤがなくなっていったんだと思う。

 日々の暮らしでは気づかないように…。

 ある時、気づいたら輝いていなかった。かな。

 上手く説明出来ないよ…」


「気づかないふりをして成は我慢してたんだ、その時々言ってくれたら……良かったのに」


「うぅん、そうだね。

 壱…、僕の言う事聞いてくれたかな?

 どうだろう?あまりにくだらなすぎて……、って言われて…おしまい、見たいな…わからない」


「俺もわからない」


 2人とも黙ってしまった。また同じ繰り返しの話し合いになるのを避けた感じだ。


 僕は夕方まで本を読んで、壱は買い物に出かけた。



 夕方、今このアパートの壱の全ての服の中で、壱が一番お気に入りの服に着替えてきた。


「あっ、いいね」って僕が言うと、


「成に恥を欠かせられないだろう」


「へぇ、ありがとう」と、間の抜けた返事をした。


 食事会には一緒に歩いて行く。


 

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