第15話
僕は壱と並んで歩いて食事に行くのは何年ぶりだろうかと考えていたら、
「成と歩いて食べに行くの久しぶりだな」
と、壱が言ってきた。
「僕も同じ事思ってたよ」
僕の返事の後、無言になった壱を暖かい空気か冷たい空気か読めなくなったが、程なくして目的の焼肉屋だった。
お店に着くと早先生が待っていてくれて、なぜか顔を見たらホッとした。
早先生は笑顔で、
「初めまして、早椋太です。一井先生にはお世話になり、せっかく友達が滞在していても遅くまで働いてもらい感謝してます。
お詫びと一井先生への日頃の御礼を兼ねてこの場を設けさせて頂きました。
ここは、松坂牛とかありますのです是非堪能して下さい」
と、言ってくれた。
「先生、お気遣いありがとうございます。友人の会川壱です。幼馴染です」
と、僕が早先生に壱を紹介した。
「今日はお招き頂きありがとうございます。
会川壱です。ピアニストです。主にゆチューブで、最近はコンサートにも徐々に力を入れいます」
と、壱が挨拶をした。
「凄く素敵な友人だからビックリしたよ。ピアノを弾いた姿はもっと素敵なんだろうね」
と、早先生は壱を盛り上げてくれた。
「いや、普通です」
壱も笑顔で、謙遜していた。
最初は、早先生と僕が昨日の夕方隣の家のおばあさんが、手作り大福を大量に持ってきてくれた話しで盛り上った。早先生のお父さんの姉で、早先生が小さい時から、食べていると笑って教えてくれた。
私の幼馴染みたいな大福だなって揶揄って壱に言って、
「いつまでも、ホットするような、色々思い出して苦笑いするような感じですかね」
と、壱が言うと、
「そんな感じだね」
と早先生は笑って言った。
早先生は、壱のピアノコンサートに興味を持ったらしく、クラッシックを弾くのか、オリジナルなのかとか聞いてきた。
「どちらもです」
「私もピアノを20年くらい習っていたんだ。
うぅん…4歳くらいから大学卒業するまで、同じ先生に教わってたよ」
「えっ、凄い」
と、僕と壱は同時に言った。
「凄くないよ、趣味だよ、今でも一人で弾いているよ」
「今度、聴かせてください」
僕が言うと、
「俺のピアノは1回も聴きに来た事ないのにな」
「えっ、ゆチューブで見たよ」
「出だしの1分くらいで他のに変えてるだろう、……それに見たじゃないだろう、聴くだろう」
「そんな事ないよ」
と、僕が言うと、
「まあ、その辺は置いといて私のピアノを聴きたいなんて光栄だよ」
「成、先生の家に聴きに行くのか?」
と、いきなり壱が言い出した。
「先生が呼んでくれたらだよ」
「迷惑かけるなよ、俺が弾いて聴かせてやるよ」
と、壱がムキになっていた。
早先生は、苦笑いしながら、
「会川さんは、一井先生の保護者のようですね」
「あっ、そんなつもりはないですが、なんか世話を焼きたくなって」
と、壱は嫉妬丸出しを誤魔化した。
「壱、早先生の前でおかしな事言うなよ」
「ああ、…成、ピアノに興味あったのか?」
「えっ、…たしかに練習は2年で挫折したけど、早先生が弾くなら興味あるよ」
「はっ、成、何言ってんだ。挫折って言うのは努力して練習していた人が使うんだ。成は、ピアノ教室に行っていただけだろう」
「まあね、僕は全く練習しないで2年も行ってたんです。幼稚園に通っていた時ですから自分からと言うより母の意向です」
「小さくても、好きじゃないと練習しないよね」
と、早先生が収めてくれた。
「はい、そうですよね」
と、僕が言うと、
「そのピアノ教室で俺と成が初めて会ったんです」
と、壱が早先生に言った。
「へぇ、そうなんだ、ピアノが縁なんだ」
「俺は今もこれからもピアノやりますので、機会があればコンサートに是非聴きに来てください」
「ありがとう、なかなか時間が取れないから、ゆチューブを拝見させてもらうよ」
その後は他愛の無い話で時間が過ぎて行った。
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