第5話
「成、どうした?俺と別れたいの?」
「そんなつもりはない…、たぶん」
僕は俯いて自分の手を見ながら言った。
「たぶんって…どうやって生活していくんだ」
「働くよ、壱どうして援助いらないからいきなり別れる話に繋がるの?」
顔を上げ少し振り向いて壱の瞳を見ながら聞いた。
「俺にとってはイコールなんだ。収入を得る為に仕事をやっている、成の為だよ」
壱も僕の瞳を見ている。
「いいよ、僕の為じゃあなくて…壱、自分の為に働いて」
「成…、俺の生きがいなんだ。何があった?こっちに来てひと月の間に」
「うぅん特にはないけど、小説書けないんだ、
訴えたい事ないっていうか、どう説明して良いかわからない」
「書けないなら、読めば良いだろ」
「時間があるから読んでいるよ、この前ノンフィクションを読んだんだ。
未來を予知出来て普段は悩み相談をしている人が、テロに気づいて対象者に手紙を送ったが相手にされなかった、結果的に対象者は亡くなったと言う小説だった。
僕の感想は、これノンフィクション?って感じだよ、ただの自慢話か自分の薄さのアピールかってガッカリした」
「俺には良くわからない、どこが最悪の印象のポイントなんだ?」
「テロリストになるまで追い詰められた人間を救えてないだろう。」
「あっ、そっちからの見方か…普段世のため人のためって金取って相談受けて、テロに気づきましたってね…ふぅうん有りがちだな」
「僕のような感想狙いかもね」
「色々な本読めよ、旅行とかしろよ、働く必要ない」
僕は立ち上がって3-4歩の冷蔵庫から缶コーヒーを2本とった。またソファに座ってテーブルの上に缶コーヒーを置いた。
暫く二人とも沈黙した。
「僕、28なんだ。そろそろ社会に出る。さっき言ったノンフィクションの本、未來が変わるかもって期待して買ったんだ。帯にあなたの未来見えますってあったからね」
「残念だったなぁ」
壱に向きあって壱の手を触りながら、
「そうだよ、だったら僕の方が見えるかもしれない、色でわかる時があるから」
「あぁ、成は神になる時あるんだよな」
「そう言う言い方辞めて欲しい。無宗教の僕が神様なんて恐れ多い」
「悪かった」
「僕が仕事しないって言うまで、この話し合い続けるの」
「そのつもりだ」
「辞めないよ」
壱の2つの手をぎゅっと握りながら言った。
「お腹空いた」
いきなり壱が言ったので、
「食べに行こう。今日泊まって行く?」
「最終の新幹線で帰る、明日仕事だ」
「えっ、もう19時だよ、そろそろ出ないと名古屋からの新幹線に間に合わなくなる」
「そうだな、時間がないから帰る」
「じゃまた」
って僕が軽く言ったら頭を軽く叩かれた。
「成、俺が帰るって言ったらイキイキした顔をした」と言っていきなり抱きついて来た。
壱の匂いがした、1-2分抱き合っていたが時間がないので、離れた。
「ごめん、心配してわざわざ来てくれたんだろう。僕は元気だよ、仕事はもう少し続けるつもり」
「ー、……その話またゆっくりな、今日は帰る、顔見れただけでもく良かった」
と言って靴を履いた。
「名古屋まで送っていきたいけど、パジャマジャージで良い」
「今日はいい、またなぁ」
と言って壱が帰った。
壱の後ろ姿を先程の話を考えながら僕は見送った。
角を曲がって姿が見えなくなると、近所バスケットボールの音と犬の鳴き声が急に耳に飛び込んだ、今日はいつもより大きく聞こえた。
急に現れた壱にびっくりしたけど仕事を始めた事を言えて良かったと思う。
僕達どうなるだろう。僕は初めて自分を出した。たぶん壱は戸惑い困惑しているのだろうか?
僕は一人で歩けるのだろうか?自分に聞いてもわからない。収入を得る事が出来れば生きて行ける…たぶん。
たぶんの理由は壱だ。別れたいのかと聞いてきた。
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