第3話
僕は28歳、もう若い部類に入らない年齢なのか?食べさせてもらい、住まわせてもらい、面倒の事全てやってもらっている。
日がな一日ゴロゴロして、筋トレして、浮かべば小説を書いている。退屈な日常を淡々と生きている。
最近、訴えたい事が無い人間の書く小説はつまらないと気づいた。
世の中には、薄い小説が楽で良いと言う人もいるが、心に残らないのを読んで時間の無駄と思う。
考え方は人それぞれなんだろう。
早い話、僕は訴えたい事がない。
なぜ自称小説家になってしまったかと言うと、小学5年の時、新聞社主催の小説コンクールで優秀賞を取った。なんと書籍化され、少し売れた。
あらすじは、雲に乗って冒険する物語で、
主人公が悩みのある子供を見つけその家に住み着き解決させ、世界中を周る物語だ。なんでもありの冒険ものだ。
曖昧な約束だったが書籍化の条件が1年に新作1つ仕上げる事だった。それが今まで続いている。10万字以上の小説は無理なので、短編を小説雑誌のページ合わせの時、載せてくれる。最初の1冊以降書籍化されていない。長編を書けないのであたり前だった。もし、僕が書けなくても、後釜はいくらでもいるので、なんとか書いている。
愛ちゃんが来てくれた事は、自分の生き方を考える丁度良いきっかけだと思う。年に10万にもならない収入でいいわけがない。
淡々とした日常で年を重ねたくないという欲求が、僅かだが心の隅にある。
壱との関係を考えるか、働く事を考えるか、悩んだ。
全く嘆かわしい、どっちを先に考えるか悩む自分を呆れる。全て人にやってもらった人生のつけだ。
何の為に生きているのか、この28年間一度も頭の中をよぎった事がなかった大層な事まで増えた。
2-3日考えた、壱との事は、僕は大好きだが壱が別れようと言えば、別れると思う。
働く事を考える、収入を得る事を考えよう。
働くとは生き甲斐なんだろうか、一人で考える事が出来るのか・・・・考えてたが世間を知らないので無理だと結論を出した。
唯一付き合いのある大学からの知人にアパートに来てもらう為電話をした。
「一井成だけど、久しぶり」
「あぁ、なんだ、どうした」
「ちょっと、聞きたい事がある。僕のアパートに来てくれ、もし無理ならどこかで会ってくれないか?」
「あぁ、急ぎか、急ぎなら明日の夜アパートに行くよ、今岐阜だろう?」
「岐阜だ。明日夜6時な、よろしく」
「あぁ」
彼は、高上令たかうえれい、と言う名前で大学の同級生で今は外科医。大学病院で働いている。
全て壱に付き合いを遮断されていたが、令と僕の付き合いには何故か気づいていない。
僕が、岐阜と東京を行き来している事も令は知っているので、説明する必要ないのが楽だ。
僕が言わないと気付かないと、ずっとたってからわかった。
その以前まではその日の出来事を事細かく報告していたので、あった人物を遠回しにもう会わないように言って来ていた。
人付き合いが面倒な僕なので、どうでも良かったが、今考えると、だいぶ不味い。
令は190cmくらいで壱と顔が似ている。髪は短めだ、すらっとしたイケメンだ。性格も外科医らしくさっぱりしている。
久しぶりに会える事になったので、少しワクワクして嬉しいが、気を引き締めてちゃんと聞こうと思う。
次の日、夜6時ごろ音が切れそうなピンポンが鳴った。あっ、電池交換を忘れていたと思い出した。ドアを開けると、スッーとした令が立っていた。
僕は思わず笑顔になった
ソファを背にして、ローテブルを挟んで座布団にぺたりと胡座を描いて向かい合った。
ローテブルの上には適当にスーパーで購入した惣菜を並べて置いた。
お酒はある程度相談後に出そうと思い、炭酸水で我慢してもらう。
「忙しいのに、ありがとう、来てくれて嬉しいよ」
「いやぁ、おれも久しぶりに会いたかったから良いよ、それより、何か起こったのか」
「急ぎだなんて言ったから、驚くよな、僕さあ小説書いて食っているだろう。
本当は、食べられる収入はないんだ。援助してもらっている。
・・・・28歳にもなってこのままだと不味いってやっと気づいたんだ。
働いた方が良いよな?あと生き甲斐とか・・その辺りの事を聞きたい。
1人で考えても心の区切りが上手くいかない。
漠然とし過ぎて答えようが無いと思うけど、教えて欲しいんだ」
「・・・・、いきなりだな。ちょっと意味わからないから、聞くけど、働く自信はあるのか?」
「自信・・・・まぁないけど、自信必要かな?」
「・・・・、必要ないか。小説に未練ないか、書きたい事ないか?小説書く事が生き甲斐じゃないのか?」
「あぁ、たぶん書きたい時は働きながらでも書ける」
「そうか、書きたい時って言う事は、今書いていないんだな。
それなら働いて独り立ちしろよ」
「僕、その一言を言われたかったんだ。独りだと楽な生活から抜けれない。
現実的にどうしたらいいのか教えてほしい」
「2年の研修を終わって、この2年間小説書いていたんだろう」
「まあ、そうだよ」
「おい、まあってなんだよ。小説そんなに書いてないのか。
研修医終了だから一応は、医師だな。求人アプリ見ろよ。新人の医師の募集たくさんあるぞ。何ヵ所か面接して決めたらいいよ。まずは、岐阜か東京どっちにするかだな。
まさか最先端医療やりたいとかあるのか?
そっち希望なら大学病院だな。大学院って言う考えもあるしな。臨床か研究か」
「求人アプリか?、気づかなかった。
うぅん・・・・岐阜かな?ここから通える所探して見ようかなぁ。
臨床だよ。個人病院で先生1人でやっていて教えてくれそうなとこかなぁ」
「だんだん具体的になったなぁ。
そうだなぁ、成に向いていそうだな」
と言いながら、令はアプリを開いてくれた。
何ヵ所か目ぼしいところに、メールをした。
たぶん、明日には返答がくると令が言ってくれた。
僕は、令にビールを出しながら、
「なんか、スッキリした。令ありがとう」
「別に大した事はしていない。この2年あんまり書きていないんだろう?何をしてたんだ?」
「特に何もしていない、でも少しは書いていたよ、何もなさすぎて訴えて書く事がないんだ
とりあえずビールだけど、日本酒、ワイン、バーボン、焼酎あるよ。好きなの飲んで」
「あぁ、ありがとう。ビールでいいよ、あんまりゆっくり出来ないんだ」
「そうか、わかった」
缶と缶を合わせて
「2人の明日に」って言って笑いあった。
「令の仕事は忙しいの?」
「あぁ、まだ2年目で毎日が勉強だよ、雑用も多い」
「僕も社会に出て、言ってみたいよ毎日勉強だよって」
2人で苦笑いをした。
今はコンプライアンスが厳しく昔のような教授を筆頭のカースト制度のような感じではない分働きやすいかというと、そうでもないらしい。
僕も、2年間の研修医時代に朝から夜遅くま大学病院にいたの令の大変さはわかる。
「成は研修医終わっていて良かったな。ダラダラしていそうで、きっちり国試も受かっているし」
「僕さぁ、あんまり自分の信念ないんだ。母さんが泣きながら僕の将来を案じて、資格だけは取っておけって。なんか全て幼いよな」
「そうか、親孝行だな」
「そうでもないよ、この2年間何を言われるのか怖くて実家に帰っても長いしないで帰るんだ」
「でも、たまに顔を見せるだけでも偉いよ。おれなんて2年間実家に帰って無いなぁ」
「そうなんだ、暇な時間あるなら寝たいだろし、仕方ないよ」
「まあなぁ、」
と、令の言葉に被せて僕の携帯連絡アプリの音がピロンとなった。
「あっ、悪い」
と、言いながら連絡アプリを開く。
壱から、
(今日は変わりなく過ごせたか?そのうち、そっちに行く)
と、いつもと同じだった。
(変わりない おー待ってる)と返信した。
「知人だ、」
と聞かれてもいないのに答えた。
「なんか意外だな、成が連絡アプリでやり取りしているの」
「そうだろう、なんか面倒だけど仕方がない」
「彼女でも出来たのか」
「いないよ」
「そうか」
「令は?」
「忙し過ぎて無理だ、自分の事で一杯だ、それでも持て余している。成は、援助してもらっているって、彼女じゃないなら親か?」
「違うよ、・・・・幼馴染」
「えっ!、以外だった」
「そうかも、人が苦手だから友達いないし、令しか大学時代の知り合い居ないし」
「今の連絡もしかしてその幼馴染?」
「そうだよ」
「そうか、いつか機会があれば見たいよ、おれと同年代で、援助出来るくらい心が広くて成功した奴なんだろう、凄いなぁ」
「なんか違うような気がする、美化しすぎだ」
「そうか?」
「壱っていう名前なんだけど、僕の事が好きだったの」
「・・・・、もしかして成を外に出したくないの?
好きだったって、嫌われて援助が無くなったって事か?」
「外に出したくないは、そんな感じ。嫌われたかはわからないけど、隠し事はされた。もしかしたら嫌われているのかな、まぁ援助無くなった時も考えたり、もろもろ考え働く事にした、今の僕には生き甲斐も無いし」
「そうか、隠し事ってなんだ?」
2人ともビールを2缶3缶と、水のように進み、僕の口も軽くなった。
「なんか新しい所に引っ越したみたい、壱の姉がわざわざ僕に教えてくれた。その姉曰く僕はヒモだって」
『働かなくても生活出来るからな、」
「生き方変えるよ」
「簡単に生き方変えれるのか?」
「うん、このままじゃ、楽過ぎて、そろそろ飽きた、生き甲斐も探さないと」
「3流ドラマだと、この辺りで壱って奴がこのアパートに来て(おまえ他の男呼んで何してるんだ)って、一悶着あるけど、今日は来ないのか」
「まず、岐阜に来ないよ、」
「そうか。壱って奴の事どのくらい好きなんだ」
「うっん、わからない、今ひと月くらい会ってないけど寂しくない」
「フーン、話し変わるけど夜の9時くらいでも、外のボールの音響くな」
「あ、朝もだよ、早い時は6時くらいからバスケやってる、いい迷惑だよ」
「音の公害だな」
「そうだよ、そろそろ引っ越し考えようかな」
「金あるのか?」
「無い。働いて貯めてからだな」
「ここの家賃はどうしている?」
「全て壱だよ」
「成は、恵まれているが、明日がわからないのが不安だ」
「そう、だから働く」
「いつ壱って奴に言うつもりだ?」
「うん、未定」
「じゃあ面接終わって職場決めたらおれには教えろよ、そろそろ帰るよ」
「今日はありがとう、また連絡するよ」
令が帰ってた後、僕の中で何かが動き出す予感がしたが、テーブルの上を片付けて、まずは今は寝ようと思った。
明日が楽しみだ、生きてきて明日が楽しみだなんて思ったのは初めてだった。
次の日、面接に来いと3件の開業医から連絡がきた。
3件ともまずまず近くて、歩いてこのアパートから30分以内だった。
1件目2件目とも高齢の先生で、働き出しても直ぐ閉めそうで直ぐに来て欲しいと言われたが、保留にして明日返事を連絡する事にした。
3件目は、40代の2代目の先生で先代が引退したので手伝って欲しいとの事だ。
ここも直ぐ来て欲しいと言われて、ここで良いかと思い(お世話になりたいと思います。宜しくお願い致します。)と、言った。
細かい説明を受け今日は金曜日なので来週から月曜日から金曜日まで9時から14時まで午前中の勤務時間に決めた。
おいおい慣れたら1日勤務して欲しいと言われた。
早速、アパートに帰ってソファにゴロゴロしながら今日の結果を令にメールをした。
(良かったな)と返信が来た。
土、日ゆっくりしたら仕事だ。
だいぶ楽しみだ。
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