第4話 攻略法は、サッカー?
数多くの生徒達の悲鳴を無視しつつ校庭へと俺が到着すると、すでにサクラちゃんが戦闘を始めていたらしく、地面から立ち上がるところであった。
「ガイア! って! なんだ、あのホシガリー!?」
俺の目がおかしくなければ、サッカーボールだよな?
俺のサクラちゃんを呼ぶ声が聞こえたのか、ゆっくりと振り返るホシガリー。
大きなサッカーボールから手と足が伸びたような姿をしているホシガリーは、突然空を見上げたかと思えばーー。
「サッカー!!」
と、何故か大声をあげるはじめる。
「おうおう。出やがったな! 代弁者!!」
「ゲッ。ワルビー」
また、あのクソガキかよ。
憎たらしいことに、俺を見下ろすようにホシガリーの側へと浮いたワルビーは、何やら腕を組むと、声を抑えるように笑い始める。
「クッククッ……ついているぜ。今日こそ、お前とガイアを倒して、俺があの方に誉められるんだ! そして! このホシガリーこそ、お前らを倒すための
うっわ。
やる気満々じゃん……あいつ。
てか、秘策ってーー。
と、俺がさっそくワルビーから視線を外すと、何やらホシガリーが、手を上へとむける。
「やっちまえ! ホシガリー!!」
「サッカー!!」
と、ワルビーの言葉に答えるように叫ぶと、これまたどういう原理なのかーー空から続々と人と同じくらいの大きさのサッカーボールが降りだす。
そして、それを足で軽やかにトラップしたホシガリーはーー。
「サッ、カー!!」
と、ものすごい勢いでボール蹴ってくる。
まっ!?
「くっ! グラビティ・バインド!」
さすがに、あんな豪速球を食らうわけにはいかない。
と、すぐさま飛んでくるボールへ、右手から重力を発生させた俺は、地面へとボールを落とす。
がーー。
「サッカー! サッカー! サッッカー!!」
と、まさかの両足を交互に振りつつ、短いタイミングで、次々とボールを蹴り出してくるホシガリー。
その為、慌てて飛来してくるボールに重力を纏わせ、落とし続けていくーーが。
やばい!!
「数が多すぎる!! 重力操作が、間に合わねぇ!!」
「走れミケ!」
「ミル~!!」
カスタードの声により、すぐさま重力操作を中断した俺は、とりあえず真横へと走って躱していくがーーいかんせん、一撃の威力が凄まじい。
そのため、風圧によって体制が崩れてしまった俺は、飛来してきた一つのボールをまともに身体へとくらってしまい、大きく後方へと吹き飛んでしまう。
「いっ!?」
てぇ!!
あっーーぶねぇ!!
ヘルメットをつけていなかったら、地面に頭をぶち当てて、今頃血だらけになっていたところだぞ!
「六道! 平気かミケ!?」
「ご主人たま? 大丈夫ミル!?」
いつの間にか俺の両肩からいなくなっていたらしい二匹が、そんな言葉をかけつつ戻ってくきてくれるがーー二人してベシベシと、人の頭を叩いてきやがる。
おい。もっと、他にやり方があるだろうが!
「へっ、平気だわ! いや、平気じゃないけど、平気だわ!!」
「おお! よかったミケ」
「さすが、ご主人たまミル!」
こっ、こいつら!
本当に心配してんのか!?
「お前ら、いつの間に人の肩から消えていやがったんだよ」
と、痛む頭を振りつつ立ち上がると、これまた、示し会わせてもいないのに、タイミングよく両肩へと跳び乗ってくる二匹。
「アース様の眷属であるミケ達は、歴戦をくぐり抜けてきている戦士ミケ。攻撃してくるタイミングも、危険な状況も経験でわかるミケ」
「さぁ、ご主人たま! 今度こそ、ミルと契約を」
「契約よりも前に、あいつをどうにかする方が先だ!」
というより、したくないわ!
などとここで言えば、どうせミルミル叫ぶことは、何となく想像ができるーーので、すぐさま校舎の方へと走った俺は、すぐに物陰へと身を隠す。
「……なぜ、隠れるミケ?」
「なっ、なぜって……それは、あれだ。やはり、状況をきちんと観察してから、奴の弱点を探す必要があるだろう?」
あれだ。
決して、ボールの攻撃が痛くて、もう受けたくないとかいう、弱音からではないぞ?
と、何とか自分自身を騙しつつ観察をしている間にも、サクラちゃんは、立ち向かっては吹き飛ばされてしまうという光景を、何度も繰り返している。
ーーくそ。あのボールの連撃のせいで、サクラちゃんも、ガイアインパクトを放てないでいるぞ。
「いや。むしろ、攻撃も出来てないのか? これじゃ、倒すものも倒せないぞ」
「おい。いつまで、こうして隠れているつもりミケ」
「ハッ! ご主人たま、今ですミル! 今こそ契約を」
「今は、契約をしない。それよりも、何とかつけいる隙はないのか?」
なぜミル~! と、少し鳴き声を混ぜつつ叫んだホイップのせいで、ついに、ワルビーが俺らの方向へと顔を向けてきてしまう。
この、おバカ!!
「代弁者!? お前、そんなところに隠れていやがったのか!」
「うっ、うるせー! 隠れていたんじゃない。様子を伺っていたんだよ!!」
「同じことだろうが! ホシガリー! ガイアは、後回しだ。あいつを先に潰しちまえ!!」
なに!?
ふざけんな! 何で、俺からなんだよ!!
「根に持っているな、ミケ。あのチビは、人一倍プライドが高いから、余計にしつこいミケ」
「人一倍って、お前が言うな!! てか、逃げるぞ!」
「なに!? ガイアが戦っているというのに、逃げる!?」
「サッ~カー!!」
ホシガリーの動きに対して、俺が慌てて走り出すと、すぐさまサッカーボールが弾丸のように飛んでくる。
ひぃい!!
「みみみみっ、見てみろ!! 攻撃がきたじゃねぇか!!」
「どこに向かって走っているミケ! 敵は、校庭だぞミケ!!」
「ご主人たま!? そのまま進むと、学舎が、ボロボロになってしまうミル!」
「だー! わかったよ! それなら、倉庫の方に向かえばいいんだろ!!」
お前らは、人の肩に乗っているから冷静に物事を判断できていいよな!
こっちとら、攻撃をいつくらうかわからない恐怖と、走らないといけないせいで、冷静さも何もないんだよ!!
と、ムカつく感情を抑えつつ、Uターンしてから校庭へと向かった俺は、とりあえず100メートル先にある倉庫へと向けて、猛ダッシュをする。
「サッカー! サッカー! サッ!?」
「ひぃー!! おい、何とかして、止まらないのーーか?」
あれ?
何か、突然背中に感じていた風圧がなくなったぞ?
はて? と思いつつ、ホシガリーの方へと視線を向けてみると、何やら苦痛そうな顔つきをしたまま、片足を振り上げた姿勢で止まっていた。
なっ、なんだ? 突然どうした?
「おい! 何していやがるホシガリー! あのバカ、立ち止まっているんだから攻撃しろよ! チャンスだろうが!」
俺と同じくホシガリーがおかしいことに気がついたのか、ワルビーが、ホシガリーへとそう命令するーーが。
「サッ、サッカー……」
と、苦しそうな顔のまま、まるでボールを蹴ろうとしないホシガリー。
「ご主人たま。何かしたんですか? ミル」
「いや。何もしてないーーぞ?」
なにもしていないーーが、攻撃が止まったということは、何かしら意味があるはずだ。
と、原因を探るために周りの状況を見回しつつ、ホイップへと答えるとーー。
いつの間にか、サッカーゴールとホシガリーとの間に、自分が立っていることに気づいた。
……必死すぎて全然気がつかなかったが……サッカーゴール。これが関係あるのか?
それこそ、こんなひらけた校庭じゃ、他に動きを止める要因なんてないしな。
……嫌だけど、一度試してみるか?
と、そう考えた俺は、ホシガリーから視線をはずさずに、おそるおそる足を進ませ、ホシガリーとサッカーゴールの間からから離れてみるとーー。
「サッ!!」
「させません!!」
うぉお!
俺の考えが当たっていたかのように、サッカーゴールから離れた途端、目に力が戻ったホシガリーが、ボールを蹴ってこようとした。
ーーが、そこに、タイミングよくサクラちゃんが横から跳んでくると、ドロップキックーー両足を揃えつつ、真横へと跳び蹴りをする技だーーをホシガリーの側面へと叩きこんで助けてくれる。
「カッ!?」
「うぐぇ!?」
そして、その蹴りによってホシガリーと共にワルビーも巻き込みつつ、二人揃って校庭の端へとふっ飛んでいくという、ラッキー展開へと繋がってくれる。
なっ、ナイスサクラちゃん!!
「大丈夫ですか!? 代弁者さん!!」
「ナイスだよガイア!! よし、そのままこっちにきてくれ!」
急げ急げ!
二人揃って倒れてくれたんだーー立ち上がるまでの時間が、作戦の準備に与えられた時間だ!
と、焦る気持ちを何とか抑えつつ、手招きでサクラちゃんを呼ぶと、可愛らしく一度小首を傾げたサクラちゃんは、すぐさまジャンプして近くにきてくれる。
「あいつの攻略法が、わかったかもしれない!」
「本当ですか!? さすがです! 遠藤さん! ……実は、あのサッカーボールの連続攻撃には、苦戦をしていまして」
「わかるよ。俺もグラビティバインドが、防がれていたからね。だから、これから俺が言う通りに動いてくれるかな? そうすれば、必ずあいつに隙ができると思う」
と、俺が伝えると、コクコク素直に頷いてくれるサクラちゃん。
よし。
といっても、とても簡単な方法なんだけどな。
「まず、サクラちゃんのガイアインパクトなんだけどーーどのくらいの距離なら、確実に当てられる?」
「そうですね……動いていない状態なら、五十メートル。動いていたとしても、三十メートル以内なら、確実にあててみせます!」
「三十……それなら、何とかなりそうだな。それじゃ、俺が合図するまで後ろに隠れていてくれる?」
後ろですか?
と不思議そうにしつつも、きちんと俺の背後にまわって、しゃがんでくれるサクラちゃん。
よしよし。
サクラちゃんが、小柄な女の子でよかったーーこれで、俺の背後にきちんと隠れられているだろう。
「おい。一応、お前らも協力しろよ。小さくても、地面にいるだけで少しは壁になるからな」
「いったい何をするつもりミケ?」
「わかりました! ご主人たま!!」
と、兄妹の癖にまったく違う反応をしつつ、しっかり地面へとおりてくれる二匹。
そうして、サクラちゃんを隠すことに成功すると、タイミング良く、悪態をつきながらワルビーがこちらへと向かってくる。
「この! やりやがったな!?」
おいおい。
お前は、呼んでねぇよ。
「違う。お前じゃない」
「はぁ!? 何だと!」
「サッカー!!」
そうそう。そっちよ!
拒否したからかーー空に浮きながら地団駄を踏むという珍しい光景を見せてくるワルビーを無視した俺は、立ち上がったホシガリーへと両手でTの文字を作り、大声をあげる。
さぁ。作戦開始だ!
「ターイム!!」
すると、俺の予想通り、その一言で目をまんまるにしたホシガリーがーー。
「サッ!? サッカ!?」
まるで、停止動画のように動きをピタリと止めてくれた。
ふっーーやっぱりそうだ。
このホシガリー。おそらく、サッカーのルールに忠実だ!
というよりも、おそらく元になった欲望がサッカーと強く結びついているのかーーとにかく、サッカーに関することに強く反応するらしい。
先ほどのゴール前での停止や、今のタイム発言に停止したのが、良い証拠だ。
そうであるなら、やりようはいくらでもある。
サッカーに強く意識を向けているのなら、そっちに意識を集中させてしまえば、他が疎かになるはずだ!
「へい! ホシガリー! 俺と
「サッカー?」
「ルールは、簡単。俺がキーパーになる。球は、いくらでも蹴ってきていいぞ~。しかし! 蹴ってきていいのは、お前だけだ!」
「はぁ? 急に何言ってんだお前? おい、ホシガリー。こんなの無視して、さっさとこいつをぶっ倒しちまーーへっ?」
と、俺の突然の勝負に対して、首を傾げたワルビーが、ホシガリーへと命令をだすーーが。
肝心のホシガリーは、既に炎の如く闘士を燃え上がらせており、俺の立っている直線上へと移動していた。
はっ!
乗ってきたな!
これで、第一段階クリアだ!!
「サッカー!」
「よーし。気合い十分だな! さぁ、こい!!」
「こい!! じゃねぇよ! 勝手に何を始めて「サッカー!!」おい!?」
と、右手を前に突き出しつつ俺が挑発すると、ワルビーの静止もきかずに、すぐさまボールを蹴りだしてくるホシガリー。
先ほど見た豪速球……。
あれをモロにくらえば、きっとゴールネットをぶち破って、校庭の端まで吹き飛ぶことになるだろう。
正直、恐ろしいことこの上ないーーが、作戦の第二段階は、ここで俺が踏ん張ることが必要なのだ。
それに、もし俺が逃げてしまったりしたら、きっとこのホシガリーは、二度と挑戦を受けてくれない気がする。
そうさーー。
サクラちゃんなんて、俺が隠れている間に、何度もあれをくらっていたんだぞ?
「今さら、怖がってんな~!!」
と、自分自身を鼓舞しつつ、重力操作をおこなった俺は、飛来してきたボールを、すぐさま地面へと落とす。
「サッカー! サッカー! サッッッカー!!」
ーーが、すぐさま次のボールが飛来してくる。
なので、すぐにそれも重力操作で落とす。
その流れを、何度も続けていき、ゴールを防いでいくーーが。
やはり、数が多すぎる!
まずいぞ!!
このままだと、いずれボールがゴールの中へと入ってしまう!
「くっ!? くそぉぉ!!」
「ご主人たま! 大丈夫ミル!?」
「おい! このままだと、危険だぞミケ!?」
やかましい!
焦るような言葉ばかりかけてくるな!
かけるなら、応援にしろよアホ兄妹!!
必死に迫りくるボールを落としていくが、それでも、着実にボールが俺へと迫りつつある。
落ちつけ……。
こういう時こそ、落ちついて考えるんだ。
一つ一つに対して、全力の重力操作をおこなっているから、出遅れてしまっているのではないか?
それならば、飛来してくるボールとボールの間を最短距離で、尚且つ最小限の重力操作でもって、止めてしまえばいいんだ!
集中しろ……。
重力を付与するのは、ボールが地面に落ちるだけの重さでいいんだ……。
飛来してくるボールを見つめつつ、一度深く深呼吸をした俺は、すぐ近くのボールを地面へと落とす。
そして、それからすぐに他のボールへと重力操作を繋げ、それも落としていく。
落とすーー落とすーー落とす!!
そうして続けていくうちに、だんだんと地面へと落とすだけの重力が感覚でわかってきた俺は、さらに重力操作の速度をあげていく。
すると、まるで俺のその思いに応えてくれるかのように、今までは、古代文字がボールを×印のように包んでは、落として消えていっていたのが、消えずに次のボールへと巻きついていくようになる。
それこそまるで、鎖のようにーー。
「うぉぉおぉ!!」
名づけるならーーグラビティ・チェーンか。
自然と喉からせりあがってきたものを、そのまま口にすると、それの気合いにこたえてくれるかのように、次々とボールを地面へと落としてくれる古代文字。
「サッカー!?」
あまりにも突然なその光景に、今まで表情を変えずに蹴り続けていたホシガリーも、さすがに焦った様子でボールを蹴りだしてくるようになる。
ーーが。それでも、俺の重力操作の方が、確実に速くなってきている。
俺の目の前まで迫っていたボール達が、ホシガリーと俺の中間地点で失速して落ちるようになっている光景からして、
いける! これなら、第二段階ーー俺とホシガリーの拮抗勝負が、確実にできているぞ!
これなら、勝てる!!
「おいおい! 何してやがるホシガリー!!」
と、今まで余裕そうにホシガリーの近くで
よし。今だ!
「ガイア!」
「はい!!」
拮抗した戦いによって、ワルビーの視線が俺達からはずれた瞬間、すぐさま中腰になった俺は、サクラちゃんへとそう合図をおくる。
すると、すぐに反応してくれたサクラちゃんは、俺の身体を跳び箱のように片手でもって軽々と飛び越えると、その右手にピンク色の光を灯す。
「げっ!?」
「サッ!?」
「ガイア、インパクト!!」
三十メートルならば、確実に当てられるーー。
そう言いきったサクラちゃんは、その言葉を証明するように、一条の光へとなると、飛来するボールを吹き飛ばしつつ、まっすぐホシガリーへと向かっていく。
「ばばば、バカ野郎! 何とかしろホシガリー!!」
「サッ、サササッ!」
と、突然のサクラちゃんからの攻撃に対して、面白いように二人して慌てるホシガリーとワルビー。
そんなことをしているから、サクラちゃんの拳は、見事にホシガリーの中心を捉え、いつものように綺麗な粒子を振り撒きつつ、ホシガリーの身体を消滅させいく。
たっ、倒せた……。
今回は、結構キツかったな。
「ご主人たま!」
「よくやったミケ。お前にしては、上出来というやつミケ」
と、俺が地面に尻もちをつくと、暑苦しい二匹が俺の両肩へと近づくや、ペシペシと叩いてくる。
褒めるなら、せめて頬擦りとかにしてくれないかな?
なんなの、この二匹。
「おっ、おぉおぉお!」
うん?
なんだ。ワルビーが、突然雄叫びをーー。
「お前ら! ぜっったいに、許さないからな!! バカ、アホ、鼻くそ! わーん!!」
…………。
どうやら、言いたいことを言い切ったのかーー泣きながら飛び去っていくワルビーを、無言で見つめていた俺とサクラちゃんは、特に示し会わせた訳ではないのに、お互いの顔を一度見ると、共に苦笑いをうかべてしまう。
なんかーーいつもは、クソ生意気なガキって感じだったけど、あんな鼻水出しながら泣かれると、申し訳なく思えてくるな。
「無事ですか? 遠藤さん」
「うん。サクラちゃんも、お疲れ様」
変身を解きつつ駆け寄ってきたサクラちゃんへと、立ち上がってそう応えると、安心したように一息つく。
「よかった……あのボールの数に、潰されちゃうんじゃないかと、ヒヤヒヤしましたよ」
「あははっ。俺も、少しヤバイ! と思ったけどーー何とかなるもんだね」
「さすがですご主人たま! まさか、変身もせずに倒してしまうなんて、感激ミル!」
「お前も、よく逃げずに立ってたな。やるじゃんか、ホイップ」
恥ずかしいくらい褒めてくれたホイップへと、そう伝えてやると、恥ずかしそうに首を左右に振ったホイップは、肩へと跳びのってくるや、俺の頬に頬をグリグリ擦りつけてくる。
うわぁ!?
毛が頬にあたって、かゆいわ!
「ばっ、痒いからやめろ!」
「ふふっ。それにしても……今回のホシガリーは、一体誰から生まれたんでしょうか?」
むっ。
確かにーーそれは気になるところではある。
あれ程のサッカーに対する執着ーーいったい、どこの誰だったのか……。
と、ホイップを引き離しつつ思考の海に潜っていると、倉庫の方から歩いてきた生徒が、俺らへと話しかけてくる。
「あのーーゲッ!」
「ゲッ? あっ! イルマちゃーーじゃなくて、大海原さん」
誰かと思えば、イルマちゃんか。
てか、ゲッ! て……。
俺の顔を見て、あきらかに嫌な顔をしたよな?
それ、普通に傷つくぞ。俺が色々と失礼なことをしたとしても、さすがにそんな顔しなくても良くないか?
と、ちょっと心にダメージを負った俺の肩へと、急に跳び乗ってくるカスタード。
「六道、こいつミケ。この子の欲望から、さっきのホシガリーが生まれたミケ」
と、耳元で、まさかの事実を教えてくれる。
そんなまさか……いや。
あのホシガリーのコントロールからして、おかしくはない……か。
それに、サッカー繋がりというのも、頷けるしな。
しかしーーこいつどうやってわかったんだ?
また、こいつらにしかわからないセンサーとかか?
と、またも俺が思考の海に潜ってしまうと、一度大きくため息をついたイルマちゃんは、俺よりも聞きやすいのであろうーーサクラちゃんへと視線を向ける。
が、残念なことに、ここでサクラちゃんの人見知りが発動。
すぐさま、俺の背中へと隠れてしまう。
「あっ……はぁ~。まぁ、あんたでいいか」
「おっ、俺で悪かったね。で、どうしたんだい?」
まぁ、何があったのか聞きたいのかな?
と、あらかじめ予想をしていると、何やら短い髪の毛を掻きつつーー。
「あたし、いつから寝てた?」
と、まさかの質問をしてくる。
いつから寝てた?
ーーあぁ。影を抜かれて気を失っていたことを、寝ていたと思っているのかな?
「いや、それほどたってないよ。十分か二十分くらいかな?」
「あっ、そう。たく、何してんだか」
はぁーあ!
と、まるで苛立ちを外に出すようなため息をついたイルマちゃんは「一応、ありがとうさん」と、片手を上げると、その場から去っていってしまう。
……選択……か。
「あのさ!」
と、去っていくイルマちゃんへと、あることを決めた俺が、呼び止めると、不思議そうに振り返るイルマちゃん。
もしかしたら、これは、余計なお世話かもしれない。
でもーーやっぱり伝えておいた方がいい気がする。
「……サッカー。自分の思い描くように、楽しくやったらいいんじゃないかな? その方が、きっとみんな楽しいと思うよ」
と、俺が思ったことをそのまま伝えてみると、驚いたように目を見開くイルマちゃん。
今回のホシガリー……。
とても強くて、倒すのが大変だったけれどーーその分、サッカーに対する執着は強かった。
何より最後のPK戦は、とっても楽しんでいるように見えたーー気がする。
だからこそイルマちゃんは、本当は、あのホシガリーのように、ゴールネットを揺らしたいのではないか? と思い、そう声をかけたのだがーー。
俺の言葉に、短く鼻を鳴らしたイルマちゃんは、そっぽを向きつつ。
「余計なお世話よ」
と、言い放つと、そのまま去って行ってしまうのだった……。
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