第3話 大海原イルマという子
「へい! パス!!」
ポーンと、
「話す……と言ってもな~」
が、そのボールは、すぐさま相手チームによって、取られてしまう。
「ドンマイドンマイ! 次、いってみよう!!」
と、ボールを取られた子の肩を叩きつつ、すぐさまボールを奪った相手に追いつくと、そのボールを華麗に取り戻すイルマちゃん。
そして、すぐさま他の人へとパスをすると、走り出す。
なるほど……たしかに、明るくて元気な子だ。
昨日の様子は、もしかしたら一時のものだったのかもしれない。
だが。話しかけようにも、こっちは、被疑者であり、向こうは被害者だ。
その壁は、想像よりも高い。
「ほら。点数入ったわよ」
「えっ? て、井上さん」
突然話しかけれた為、すっとんきょうな声をあげてしまった。
そして、その反応に対してため息をついた井上さんは、無言で隣へと並び立ってくる。
「5時限目だから、疲れたのかしら? 生徒達も見ているのだから、ボーとしてない」
「すっ、すいません」
怒られちまった。
だけど、井上さんの言う通りだ。
子ども達の前で、疲れた顔なんてしていたら、せっかくの楽しい行事が楽しくなくなってしまうだろう。
だからーーうん。今は、忘れよう。
それがいい。
と、気分を入れ替えて集中していると、何やら井上さんが「珍しいわね」と、声をもらした為、すぐに集中が途切れてしまった。
「何がですか?」
「えっ? あぁ、彼女よ。ほら、あの小さい茶髪のーーて、あなたには、説明しなくても……いいわよね?」
まさかの、大海原イルマさんですか。
「はい。説明不要ですね」
「ちょっと、その顔は何? 自分が犯した罪でしょう? 逆ギレもいいところじゃない」
「逆ギレなんて、してないですよ。ただーー絶賛、彼女に関する問題で、頭がパンクしそうなんです」
と、点数表をめくりつつ乾いた笑い声をあげると、井上さんが、哀れみのこもったような視線を向けてくる。
「あっーーそう。それは、大変ね」
「えぇ。それで、何が珍しいんですか?」
「あぁ。それは、彼女が全然前に出ていないことよ。あなたは、知らないでしょうけど……一年前は、彼女すごかったのよ。クラスの点数を、ほとんど一人で取っていたくらいに、ゴールネットを揺らしていたのよ」
へー。
てことは、滅茶苦茶うまいってことか。
まぁ、先から相手のボールを奪っているし、キープしている間は、全然取られていないから、うまいのかな~。とは、思ってはいたけれど。
「でも、今年は、全然前に出ていないじゃない? ほら。今もすぐに味方にパスをした」
「そうですね……
そういうタイプなら、珍しいけどな。
と、思いつつ質問をしてみると、首を横に振る井上さん。
「独断専行ーーていうほどではないけれど、前に出て、点数を取るのは、好きそうに見えたわ。実際、すごい喜んでいたし」
「へー……そしたら、あれじゃないですか? 今年は、みんなに譲ろう。とか、そういう考えだったり」
と、俺が点数表をめくりつつ言うと「そう……だといいけど」と、井上さんにしては、何やら心配そうな顔つきで呟く。
これはーー。
「もしかして、何か心当たりでもーー」
と、俺が井上さんにきこうとした時、何やらボールが高く舞い上がるとーー。
「あっ!? いったよ香林さん!!」
というイルマちゃん言葉が聴こえた為、そちらへと視線を向けた瞬間。
「あわわわ!!」
という声と同時に、見事に顔面でボールをキャッチしたサクラちゃんがいた。
しかも、そのまま地面へとぶっ倒れてしまう始末。
「えっ!?」
「ちょっ! ターイム!!」
と、まさかの展開に、驚きの声を俺があげてしまうと、すぐさま井上さんが笛を吹きつつサクラちゃんの元へと向かった為、俺も慌ててその後を追う。
「香林さん? 香林さん!」
井上さんが肩を譲って呼びかけるーーが、サクラちゃんは、見事に目を回しつつ鼻血を垂らしていた。
あっちゃー。
試合中、何度かサクラちゃんを見ていたのだがーーガイアの時とは、うって変わって、どうにも運動神経がいまいちらしい。
それが、悪い形で出てしまったな。
「井上さん。俺が、保健室まで運びますから、ここを任せてもいいですか?」
「えっ? いや、それなら私がーー」
「俺が残るよりも、井上さんが残った方がいいですよ。ほら。俺には、あの件がありますから」
うん。
実際問題、試合が始まる前に、こそこそ言われまくっていたからな。
よりによって、女子のサッカー試合の手助けなんて、居心地が悪いにもほどがあったんだ。
……まぁ。俺ーー正確には、こっちの世界の俺だがーーがおこした事件だから、居心地なんて言う権利ないけどな。
ということを、それとなく含みつつ言えば、井上さんが、困ったように俺とサクラちゃんを交互に見つつーー。
「でも、あれじゃないかしら? 余計にーー」
あぁ、そうか。
怪我した女子生徒を連れていけば、余計に変な扱いを受けるんじゃないかってことか。
ふむ……。
「毒を食らわば皿までって、やつですよ。それに、井上さんより、俺の方が力がありますから。もしもの時は、担いでいけますしね」
と言っては、みるもののーーまだ少し迷いがあるらしい井上さんは、なかなか縦に首を振ってくれなかったのでーー少し強引ではあるが、サクラちゃんの膝下へと片手を入れ、もう片方を首元近くへと入れて、一気に持ち上げる。
いわゆる、お姫様抱っこというやつだ。
「ちょっと! 遠藤くーー」
「このまま待っていても、何も始まりませんしーーせめて、鼻だけでも拭いてあげたいじゃないですか。てことで、お任せします」
ザワッ。
とした雰囲気が、周囲に集まっていた生徒達からしたが、そんなこと気にしている余裕もないし、何よりーーサクラちゃんの今の状態をさらし続けるのも、少し嫌だったので「ごめんねー」と口にしつつ、保健室まで向かう。
「ちょっ、ちょっと待って!」
と、後ろからまさかのイルマちゃんが、慌てたように声をあげて走ってくる。
うわっ。マジかよ。
もしかして、俺のことが信用できないとか、そんなこと言うつもりか?
「なっ、何かな?」
「私も行くわ。そのーー私のパスが原因でもあるから」
最悪な想像をしつつ、おそるおそるきいてみると、なんとも立派な理由によるものだった。
うぐっ!
くそ……変なことを一瞬でも考えた自分が、バカみたいだな。
「そうか。それなら、一緒に行こうか」
と、あまりの自分のアホさ加減に、頭をかきむしりたい衝動にかられたが、ここは、頑張って笑顔でそう取り繕うのだった。
「はい。これで、鼻血は止まると思うわよ」
「ふぁい。ありがとうございます」
と、少し上を見上げつつ、保健室の先生へと答えるサクラちゃん。
あれから、途中で自らの状況を理解したらしいサクラちゃんがーーおそらく、俺に抱えられていたことが、恥ずかしかったのだろうーー暴れたことで、余計に鼻血が多く出てしまったが、それでも何とかイルマちゃんと二人して保健室まで連れていくことはできた。
「眼鏡が割れていなかったのは、不幸中の幸いね。レンズの破片なんかが目に入ってしまったら、大惨事だったわ」
「そっ、そうでした。すいません」
「これから体育の授業を受ける時は、なるべく眼鏡を使用しない方法を考えた方がいいわね。ご家族に相談してみたらどうかしら?」
と、少しゆったりした声で言う保健の先生に、ペコペコ頭を下げるサクラちゃん。
今回は、鼻血で済んだがーー下手をしたら、もっと酷いことになっていたかもしれないからな。
さすが、保健の先生だ。
というか、サクラちゃんの視力ってどれくらいあるんだ?
ガイアの時は、眼鏡なんてしていないしーーそこまで悪くは、ないのかな?
などと、サクラちゃんの後ろで考えていると、隣に黙って立っていたイルマちゃんが、何やらそわそわと落ち着きなくし始める。
トイレーーでは、ないよな。
おそらく、先生の言葉で自分がしてしまったことを、重く捉えてしまっているって感じかな?
「それじゃ、倒れたということだから、一応身体の方も見ておこうかしら。他に傷があるかもしれないからね。申し訳ないけど、付き添いの二人とも、外で待っていてもらえるかしら?」
「はっ、はい!」
「わかりました」
と、俺とイルマちゃんがそれぞれ答えつつ、黙って廊下へと移動。
そしてーーそこからの、無言の時間が始まってしまう。
……正直、気まずすぎる。
いや。きっと気まずい感じなのは、俺だけなのだろう。
イルマちゃんは、先程からずっと、顔色良くないし。
話す……か。
「……あの~。イルマちゃん?」
「へっ? なっ、何よ?」
「その。だっ、大丈夫だよ! そこまで気にしなくてさ。ほら。特に重大な怪我をしていなかったみたいだし」
と、つきなみの言葉しか出てこなかったが、何とかそう伝えてみると、何やら目を丸くするイルマちゃん。
うん?
と思いきや、すぐさまムスッとした顔へと変わると「わかってるわよ!」と、そっぽを向いてしまう。
「でもーーあたしがパスを無理に出したのが悪かった。それは、事実でしょ? だから、ちょっと申し訳ないと思っていただけよ!」
「あははっ。そうかそうか。優しいねイルマちゃん。しかし、イルマちゃんは、とてもサッカー上手だよね? もしかして、小さい頃からしていたりしたのかい?」
「……」
「井上さんーーて言っても、わからないか。さっきいたお姉さん何だけどさ。言っていたよ。去年、ほとんどイルマちゃんが点数をとったんだって? すごいな~。俺なんて、昔からあまり運動がーー」
「……別に、うまくないわよ」
ボソリと。しかしながら、しっかりと伝わる重い口調で、イルマちゃんが俺の言葉を遮ってくる。
……えっ?
「あたしなんて、たいした実力ないわよ。サッカーだって、別に小さい頃から遊んでいただけだし、好きでも何でもない。たまたま、クラスの子がやりたがらなかっただけの、人数合わせよ」
「そうーーなんだ。でも、とても楽しそうに」
「うっるさいわね!!」
うぉ!?
バッと、俺の方へと顔を向けてきたイルマちゃんは、ものすごく顔を真っ赤にしつつ、俺の目の前へと来るとーー。
「あんたに何がわかるってのよ!! てか、先からイルマちゃんイルマちゃん、勝手に人の名前をちゃん付けしてんじゃないわよ!!」
と、まるで噛みつかれるのではないか? と思うほどの勢いで、一気に捲し立ててくる。
ひっ、ひぃー!!
「ごっ、ごごごっ、ごめん! 嫌だったとはーー」
「気持ち悪いったらないのよ!! このロリコン変態男!!」
いっだ!!
おっ、おいおいおい!
いくらなんでも、人の足をそんなに力強く踏まなくてもよくないか!?
と、あまりの痛さに、俺が踏まれた足をさすっていると、まだ怒りが収まらないのか、俺に視線を合わせるようにしゃがみこんでくるイルマちゃん。
「なんなのよあんた! まるで興味ないみたいな顔していたくせに、急にヘラヘラ、ベラベラと! わけわかんないのよ!!」
という言葉と共に、思いっきり押されてしまった俺は、悲しいことに、その場へと仰向けに倒れてしまう。
ちっ、力強っ!?
あんな小さい身体の、どこにこんな力がーー。
「ちょっと、何事ですか!?」
と、大声での怒鳴りだったこともあってか、慌てたように保健室から先生が出てくる。
ーーが。イルマちゃんは、すでにその場から走り去って行ってしまった為、俺が廊下に倒れているだけという、絵面しか残っていない。
なので、祖の状況に困惑しつつも「大丈夫ですか?」と、優しく助けおこしてくれる保健の先生。
「えっ、えぇ。ちょっと、彼女を怒らせてしまったみたいで。だっ、大丈夫です」
「怒らせたって……用務員さんに手をあげるだなんて。一応先生に報告をーー」
「あぁあ!! いや、それはしなくて平気です! 悪いのは、自分なので!!」
ひぃー!
先生になんか報告されたら、また大事になっちまうよ!!
それにーー中学二年生なんて、受験とかに響く学年だろ?
そんなことをしたら、彼女の将来を潰しかねない。
「ですがーー」
「いや、本当に大丈夫です。たいした事じゃないですから! それに、こんなことで彼女の進路を潰したくないですし」
と、苦笑い混じりに慌てて言えば、しぶしぶ納得したというような顔で、引き下がってくれる保健の先生。
すると、俺らのやり取りを保健室からそっと見ていたのかーーサクラちゃんが、青白い顔で俺のことを見つめてくる。
「遠藤さん。大丈夫ですか?」
あぁ。心配してくれたのか。
「うん。サクラちゃん。よかった、何事もなかったみたいだね。俺は、平気だよ。このくらい、なんて事ないさ!」
と、心配そうにしているサクラちゃんへと、何事もなかったことを笑顔で返せば、ほっとしたような様子になる。
はぁ~。
せっかくの機会だったのにーーまた、失敗しちまったな……。
イルマちゃんとのケンカから、意外と時間が立つのは早くーー生徒達の邪魔になるような枝やら葉っぱやらを掃除した後、帰宅の準備をしていた俺は、ふっと、サッカーの試合中のことを思い出し、早速井上さんへと質問してみた。
「別に、心当たりがあった訳ではないわよ。ただ、もしかしたら? と思っただけ」
「で、なんですか? そのもしかしたら? の中身」
「……ずいぶんと、くいついてくるわね。まさかと思うけれど、また余計なことをするつもりじゃないでしょうね?」
うぐっ。
ばっ、バレかけている。
でもーーあの怒りようからして、絶対に何かあるじゃん?
端から見えいた俺がわかるくらいに、楽しそうにサッカーをしていたのに、好きでもないなんてーーあり得ないだろう。
「はぁ~。まぁ、どうせ教えなくたって、勝手に動くんでしょうけどね。遠藤くんのことだし」
「いや、そんなことしないですよ」
「どの口が言っているのよ。香林さんの時だって、関わるなって忠告したのに、勝手に関わっていたでしょう?」
……そういえば、そうだったな。
それは、信用も失うか。
「ほら。あなたも知っていると思うけど、大海原さんの家族って、全員スポーツマンじゃない?」
「えっ? そうなんですか?」
初耳だわ。
と、鞄を持ちつつ言うと、驚いたように目をパチパチさせる井上さん。
「嘘でしょう? あなた、テレビを見ない人なの?」
「えっ? いや、そのーーあまり好みではないと言いますか。なんと言いますか~」
あははっ。
と、作り笑いをしつつ答えると、呆れたようにため息をついた井上さんは、仕方ないとばかりに一から説明してくれる。
「大海原さんのお父さんは、元オリンピックの陸上選手。お母さんの方は、元フィギュアスケートのオリンピック選手っていう感じで、ガチガチのスポーツマンの家系なのよ」
「元陸上選手とフュギュアスケートの選手ですか……すごいサラブレッドですね」
「それだけではなくて、お姉さんの方も、有名な女子サッカー選手なのよ。高校生なんだけど、日本の強化選手に選ばれてるくらいのね」
はへぇー。
居るところには、いるんだな……そんな、豪華な家庭。
と、二人して校門に向かいつつ歩いていると「でも……」と、突然小声になる井上さん。
「お姉さんが、つい最近事故にあったらしくてね。もしかしたら、それが関係あるのかな~と、思っただけ」
事故?
……もしかして、それで昨日サクラサクに、花を買いに来たのか?
「それって、命に関わる感じですか?」
「まさか! ニュースでは、病院に運ばれて命には、問題はないって話よ。でも……家族としては、気にはなるでしょう?」
……まぁ、そうか。
でも、それだけでサッカーを嫌いになるとはーー。
と、井上さんの情報から一人で思考をしていると、何やら校門の前でピョンピョン誰かが跳ねていることに気がつく。
「あっ! 遠藤さーん!」
サッ!?
「さっ、サクラちゃん!?」
えっ!? なんで!?
と、慌ててサクラちゃんの元へと行くと、近くには、カスタードとーー何故か半泣きで、そのカスタードに踏みつけられているホイップもいた。
「さっ、サクラちゃん。どうしてここに? とっくに、下校しているもんだと」
「えへへ。実は、カスタードとホイップと一緒に、遠藤さんを待っていました」
待っていました。て、可愛く言われてもーー。
こっちには、鬼の井上さんがいるだぞ!?
「……遠藤くん?」
「えっ!? あっ、いやこれはですね! 自分も何が何やらで!」
と、案の定お怒りの井上さんへと、慌てて弁解していると、突然ホイップが俺の肩へと飛び乗ってくる。
「ちょっ! お前、邪魔ーー」
「ご主人たま! 助けてくださいミル! お兄たまが、すごく怒っていて」
と、耳元で何やらボソボソ言ってくる為、すぐさま肩から引き剥がした俺は、
「そうそう! 実は、こいつをサクラちゃんに任せていたんですよ! いやー、俺の言うことをきかずに、学校までついてきちゃうんだから。困ってしまって! あははっ!!」
と、ホイップへと罪を擦りつけつつ、身振り手振りで説明する。
うっ、嘘じゃないぞ?
本当に、こいつはついてきたんだ。
だから、これは、決して嘘ではない!
と、不思議そうに首を傾げるホイップを抱き締めつつ、必死にじゃれていると、疑い深い目をしつつ井上さんが、ため息をつく。
「そう。なら、次からは、注意しなさい。まさか、生徒と登下校が普通にできるなんて、バカな考えがあるわけじゃないでしょうしね」
ははっ……見逃されたか? これは。
やれやれと、ホイップを地面に下ろしつつ、ため息をつくと、サクラちゃんと二言三言会話した井上さんは、俺らに別れを告げ、その場から去って行く。
「……やれやれ、見逃されたかミケ。だらしない男だ」
「うるせぇよ。何を、普通に話しかけてきてんだお前。まだ、猫を被ってろや」
わざわざ俺の近くへと来て声をかけてきたカスタードへと、睨みつけてそう言えば、すぐさまホイップへと跳びかかるカスタード。
「ミル!?」
「このアホ! アース様の眷属が、なんたる失態だミケ! 学舎には、必要以外近づかないのは、常識ミケ!!」
「ミルルー! ご主人たま!」
……うん。お前が悪い。
ということで、助けを求めるホイップを無視した俺は、サクラちゃんへと視線を戻し、早速今回のことを注意させてもらうことにする。
だって、二度目が怖いからね!
「えっとね。サクラちゃん。さすがに、登校はあれとしてーー下校を俺と共にするのは、世間というよりも、一般常識としてまずいんだよ」
「えっ? どうしてですか? 友達と下校するだけなのに……」
うっ。
そうかーーサクラちゃんからしたら、俺は、友人だもんな。
でも、常識的に生徒となんら関係ない成人男性が共に下校するのは、ヤバすぎる。
「そうだね。確かに俺たちは、友達同士だ。でも、他の人からは、そんなことわからないからさ。もしかしたら、俺がサクラちゃんを拐うつもりなのかと、疑われる可能性があるんだよ」
「そんな! 遠藤さんは、そんな悪い人では、ありません!!」
うん。ありがとう。
でも、少し声が大きいかな?
「もう少し、声を小さくね? でもーーありがとう。サクラちゃんがそう思ってくれているのなら、なおさら下校は、共にしない方がいいよ。せめて、登校している時にも話したと思うけどーー離れて歩くくらいにしておこう」
誰かが、悪い訳ではない。
たが。何かが起きてから、彼女が傷ついたりしては、遅いのだ。
だからこそと、ここは退かずに俺がそう伝えると、不服そうに顔を俯かせてしまうサクラちゃん。
「私ーーそんなに、遠藤さんと仲良くするのに、気を使わないといけないんですか? 友達に年齢や性別なんて、関係ないじゃないですか……」
……サクラちゃん。
やはり、この子は優しい子だな。
そして、とても愛情深い。
きっと、彼女と一度でも友人になれた人は、幸せに違いないだろう。
だからこそ、俺だけではなく同年代の子と、早く友人になってもらわないといけない。
たとえ、そのことでーー俺の存在が、彼女の中で薄くなってしまったとしても……ね。
と、そんなことを考えつつ、せめてもの償いをこめて、彼女の肩に手を置こうと伸ばすーー。
が、その手がカスタードとホイップの声によって、途中で止まってしまう。
「サクラ! ホシガリーミケ!」
「ごっ、ご主人たま!」
「えっ!?」
「たく。空気のよめない奴だ」
メンタルケアは、また後でだな。
すぐさま俺の両肩に飛び乗ってくるカスタードとホイップに、詳しい場所を尋ねると、何やら二人揃って校舎へと視線をむける。
「まさか!? もしかして、学校ですか!?」
「最悪だな。まだ、部活動をしている生徒が多くいるんだぞ?」
「おそらく、校庭だミケ。急ぐミケ!」
「わかりました」
と、驚きつつも、その場で片手を開いたサクラちゃんは、そこへと淡いピンク色の光を集めると、必殺技を放つときに使用する筆を、その手の中へと出現させた。
あれって、そうやって取り出していたのか。
「ガイア。スタンバイ!」
と言いつつ、筆を自身の目の前に振り下ろすと、一気にピンクの光へと包まれるサクラちゃん。
まっ、眩しい!!
そういえば、初めて変身する姿を見るけどーーあまりにも眩しすぎて、目を開けていられないぞ!
何とか手で光を遮りつつ収まるのを待っていると、割りとすぐにガイアへと変身したらしいサクラちゃんは、ピンクの光を片手でもって振り払う。
「先行します! 遠藤さんは、カスタードとホイップをお願いしますね」
「わかった。俺も、すぐに追うよ」
と、サクラちゃんの指示に対して、背負っていたバックを地面へと下ろし答えると、一度大きく頷いた彼女は、すぐさまその場から風のように走り出してしまう。
……本当に体育の時の女の子と、同一人物か疑わしいほど速いな。
「何をしているミケ! 早くガイアを追うミケ!」
「ご主人たま! やっと、ミルの出番ミル! さぁ。ミルの力で、アクアへと変身するミル!!」
「だー! 耳元で騒ぐなお前ら! というより、俺の肩は、お前らの定位置じゃねぇぞ!!」
てか、何の出番だよ!
誰が、コスプレ男になるかっての!
ガヤガヤと両耳から聞こえる声を無視しつつ、鞄からいつぞやのフルフェイスヘルメットを取り出した俺は、すぐさまそれを被る。
よし! これで、準備完了!
「お前ら、あまり騒ぐなよ。さぁ、いくぞ!!」
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