第10話 家族の愛



「親子~!」

「おいおい……なんだよあれ」



 マコトくん達を置きざりにした俺が、いざ庭へと出てみればーー。

 U形のしめ縄から、手足が生えているというホシガリーが、怒鳴り声をあげつつ花を踏み潰しているところだった。


 しかも、親子? とか声を出しつつだ。



「勘弁してくれよ。ホウキの次は、しめ縄ってーー関連性なさすぎだろ。ホシガリーってのは、何でもありか?」

「何でもありだ!」



 と、ただの独り言だったのに、律儀にそう返答をしてくれた声が聞こえたため、周囲を見渡してみるーーが。

 あれ? 誰もいないぞ。



「どこ見てんだ!! 上だ上!!」

「へっ? ゲェ!? ワルビー」



 またこいつかよ!

 地団駄を踏むように、空中で暴れている悪魔少年ーーワルビーは、何やら顔を真っ赤にしつつ拳を震わせ始める。



「なんだその嫌そうな顔は!! お前のせいで、どれだけ地面から出てくるのに時間がかかったと思ってんだ!! 絶対に、許さないからな!」


「おいおい。言いがかりはやめろよ。お前が、勝手に沈んでったんだろうが」

「重力操作したのは、お前だろ!!」



 ギャーギャーと、うるさく騒ぐワルビー。

 ーーとりあえずあいつは無視して、まずは、あのホシガリーを止めないとな。

 このまま暴れられると、マコトくんの家がなくなってしまう可能性がある。


 早速そう判断した俺が、ポッケから手袋を取り出し装着をすると、何やら立っている地面が急に暗くなる。

 ……うん?



「無視するじゃ、ねぇー!!」

「うおぉおう!?」



 バカン!

 石が砕かれる音と共に、俺の立っていた地面が、その言葉と同時に一瞬にして砕け散る。


 ギリギリで真横に跳んで避けることができたがーーあの真っ黒い拳。たしか、ダークブロウとかいう技だったか!?



「あぶねぇだろうが! なに考えてんだクソガキ!!」

「だっ、誰がクソガキだ!! 星の力を貰ったからって、威張ってんじゃねぇぞ!」


「威張ってねぇよ! てか、邪魔をするな!」

「はぁ? 邪魔するに決まってんだろうが!! お前とガイアは、俺が倒すと決めてるんだよ!!」



 なんだと?

 俺は、ただ自己防衛をしているだけだぞ?

 しかも、倒すって……勝手に決めないでもらいたい。



「いいから、お前はアメ玉でも舐めてろよ。ここでホシガリーに暴れられると、困るんだ!」

「アメ? なっ、なんだかわからんが、美味しそうな食べ物で釣ろうとしても無駄だぜ! これ以上失敗したら、ババアにバカにされるからな!!」

「親子~」



 ババア?

 よくわからんがーーそれなら、失敗して怒られろよ。

 お前のプライドのことなんて、知るか。

 

 などと、ワルビーとくだらない会話をしていたのが、悪かった。

 バキバキという何かを壊す音に、俺とワルビーが、揃ってホシガリーの方へと顔を向けると、塀を壊しつつ、まさかの外へと出ていこうとしている最中であった。



「あぁ~!!」

「はぁあ!?」



 予想外の展開に、俺とワルビーが仲良く絶叫をあげると、ホシガリーは「親子ー!」と一度大声をあげるや、道路へと出て走り出してしまう。

 

 その為、俺らも慌てて追いかけるはめになっしまった。



「おいぃぃ!! お前の産み出した奴だろうが! なんで、置いていかれてんだよ!!」

「うっ、うるせぇな! お前が話しかけてくるからだろうが!! 欲望の強いホシガリーは、操るのに集中力が必要なんだよ!!」



 はぁ!?

 そんな高度な方法だったんかい!!



「人のせいにするんじゃねぇよ! まともに操作が出来ねぇなら、今すぐやめちまえ!!」

「なっ!? なななっ!! 言いやがったなこの野郎!! 絶対に許さねぇ!!」



 などと、並走しながら言い合いを続けていると、涙目のままフワリと身体を浮かしたワルビーは、一気に上昇して行ってしまう。



「あっ! ずるいぞお前!!」

「ベー、だ!! 飛べないお前が悪いんだよ!! たく。それにしても、なんなんだこの家の広さはよ! 外に出るにも一苦労じゃねぇか!」



 こいつ!

 先程の悔し泣きは、何処へいったのやらーーといった具合で、あっかんべーをしてきたワルビーが、悪態をつきつつそのままホシガリーの元へと行こうとする。


 その為俺は、すぐさま重力操作をおこない、ワルビーへと狙いを定める。


 ふざけやがって。あんな挑発されて、黙っていかせるかっての!!


 すると、すぐさま重力に引かれたワルビーは、地面へおカエルのようにはりついてしまう。



「ぶぎゃ!?」

「あははは! ザマーミロクソガっ!? へぶっ!!」



 ……人間。悪いことは、するもんじゃないな。

 笑いながらワルビーを追い越した俺は、後ろを向いて走っていたこともあってーー何かに足が引っ掛かるという突然の状況に対処ができず、無様にそのまま前へと倒れ込んでしまった。

 


「いっーーてぇ~。なんだよ、くそ」




 と、鼻を打ったこともあって、痛みをとばすために、擦りつつ足元を確認するとーー。

 そこには、まるで寝ているかのように、その場に倒れているマイさんの姿があった。

 なっ!?



「まっ、マイさん!?」



 なんでここに!?



「ザマー! お前だって、転けているじゃねえか!」



 そんな事を言い返してきたワルビーにすら、何も感じないほど混乱した俺は、とりあえずマイさんの肩を揺すって、起きてもらおうと試みる。

 がーー。



「マイさん! マイさん!!」



 一向に、その目を開けてはくれない。

 おいおい! 

 やめてくれよ!!

 不幸になるのは、異世界転移した俺だけでいいだろう!? 

 マイさんに何かあったら、サクラちゃんはーー。


 などと、どんどん嫌な考えが頭に浮かんできてしまう俺の元へと、不思議そうに首を傾げつつ寄ってくるワルビー。



「……何してんだお前?」

「あぁ!? 関係ないだろう! マイさん! しっかりしてください!!」


「無駄だっての。欲望を抜き取られた人間は、まず、起きねぇよ」

「マイさ!? ーーなんだって?」



 欲望を抜き取られた?

 まさかーーさっきのホシガリーは。


 と、揺すっていた手を止めた俺が、ワルビーを見上げると、小馬鹿にしたように、口角をあげて空へと浮き上がるワルビー。



「そこで、永遠に呼び掛け続けてろよ。じゃあな!!」

「おっ、お前!」



 あのクソガキ!

 よりにもよって、マイさんを狙いやがったのか!!

 許さねぇ!


 と、怒りがこみ上げてくるが、乱暴にマイさんを離す訳にもいかなかった為、そっと手を退かした俺は、申し訳ないと思いつつも、すぐにワルビーの後を追いかける。


 あのホシガリーが、マイさんから取られた物であるのなら、急いで戻さないと!



「カスタード! あいつが必要だ」



 俺の時みたいに、あいつが何とかしてマイさんを目覚めさせればーー。


 と、解決策を考えつつ走っていると、何やら上空を飛んでいたはずのワルビーが、突然飛来してきたピンクの光によって、叩き落とされていく。

 ーーあれは!?



「ミケー!」

「なっ!? うわっぶ!!」



 なっ、なんだ!?

 空から、何かが降ってきたぞ!

 と、慌てて顔に張りついた物を掴んで見るーーと。



「ふぅ~。危なかったミケ」



 何故か、一仕事終えたみたいな顔をして、顔を前足で拭くカスタード。

 何かと思ったら、お前かい!!



「危なかったじゃねぇよ! 何してんだお前!!」

「なに!? せっかく、助けにきてやったというのに、なんだその言葉は! ミケ!!」



 助けにきた!?

 どちらかといえば、落下してきたお前を俺の顔面で助けたんだが!?


 などと目と鼻の先で言い合いをしていると、俺の真横へとサクラちゃんーー魔法少女として変身してきたらしいーーが、困った顔で着地してくる。



「ごめんなさい遠藤さん。カスタードが、遠藤さんを見つけたと教えてくれたと思ったら、飛び降りてしまいまして」

「サクラちゃーーいや、ガイア。助かったよ。実は、ホシガリーが現れて、助けを求めにいこうとしていたんだ」


「そんなこと、既に知っているミケ」

「……知っているだと? 嘘をつくなよ」



 何を、平然と嘘ついてんだこのクソ猫。

 ホシガリーの位置が、お前にわかるわけないだろうに。

 と、俺が睨みつつ言ってやると、鼻を鳴らしてそっぽを向くカスタード。



「バカが。ミケは、臭いでホシガリーの発現と、位置を察知できるミケ。それより星の力を貰ったからといって、バカな考えをしていた訳ではないだろうな? ミケ」

「はぁ? バカな考えってなんだよ」



 と、俺が聞き返すと、何やら真剣な目で俺を見てくるカスタード。



「いいか? よく覚えておけミケ。確かに、お前は、アース様から力を貰った。だが、それは、ガイアのようにホシガリーを浄化する力がないミケ。つまり、ホシガリーとお前は、本当の意味で戦うことが出来ないということだミケ」

「なっ!? どっ、どうして!?」



 嘘だろ!?

 確かに、サクラちゃんのように浄化ーーというか、あの綺麗な現象をおこすことは、出来ないだろうとは、思ってはいた。


 だけど、戦えないってーー。

 と、俺がサクラちゃんへと確認するように視線を向けると、申し訳なさそうに俯くサクラちゃん。



「すいません。どうやら、そうみたいです」

「まっ、マジかよ。じゃ、使い物にならないってこと?」



 まさかの現実に打ちのめされかけていると、突然目の前に肉球がぶつかってくる。



「いって!」

「アホ。戦えないからといって、使い物にならない訳ではないミケ。お前の力で動きを止めれば、その分ガイアが楽に戦える。この前のように、ワルビーが邪魔をしてくれば、お前が止めることができる。使い物にならないわけがないミケ」



 ……こいつ……。



「もしかして、慰めてくれたのか?」

「……戦いの時に、うじうじされていたら、迷惑だからに決まっているだろミケ。もっとも、ガイアが間に合ったのだから、既に用済みだけどな。ミケケ!」



 ……こいつに重力操作したら、どうなるのかな?

 と、割りと本気で試そうとしていると、隣にいたサクラちゃんが、ホシガリーのことを聞いてきた為、なくなく中断してやる。



「今回の奴は、しめ縄のホシガリーだったよ。親子~。てのが、口癖みたい」

「しめ縄ですか……それは、どちらの方向に行きましたか?」

「このまま、まっすぐ走っていったはずだよ」



 と、俺がホシガリーが走っていった方向を指せば、何かに気がついたのか、慌てたように走り出すサクラちゃん。



「ちょっ! ガイア?」

「まずい……この先は、海原自然公園がある場所ミケ」



 何事かと、俺が首を傾げていると、俺の肩へと跳び乗ってきたカスタードが、真剣な声でそう呟く。

 自然公園?



「それの、どこがまずいんだよ」

「自然公園は、よく家族連れがいる場所ミケ。今日のように、学舎まなびやが休みの日は、余計に多くの家族連れが集まっているはずミケ」

「なんだって?」



 てことは、赤ちゃんとか小さい子どもとか、逃げれない人達が多いってことか!


 くそ! それは、確かにまずいな!

 て、そうだ!!


 と、あることを思い出した俺は、走り出した足を、急いで止めると、サクラちゃんとは、真逆の方へと向きを変える。



「おい、カスタード! 俺らは、一回マコトくんの屋敷に戻るぞ!」


「? 何故ミケ?」

「何故って、あの場では言わなかったけど、今回のホシガリーは、マイさんから産まれたんだ! だから、マイさんを起こしに行くぞ!」



 時間が関係するかわからないが、急ぐに越した事はないだろう!


 と、走りながら説明してやれば、急に尻尾が俺の両目を叩いてくる。



「いって! おい! 何すんだよ!!」

「……ガイアを追うミケ」



 はぁ?

 何言ってんだよ。

 さては、話を聞いていなかったな?



「いや、だからマイさんを起こしてーー」

「無理ミケ」



 と、俺が再度説明してやろうとすると、まさかのバッサリと台詞を切ってくるカスタード。

 無理って……。



「何でだよ。俺の時みたいに、お前が引っ掻いてくれれば、起こせるだろうが!」

「……だから、それが無理ミケ。お前の時は、特殊な条件下だったから可能だったんだミケ。わかったら、早くガイアを追うミケ」


「いや、わからねぇよ! きちんと説明しろ!!」

「……お前の場合は、こちらの世界の人間ではなかったから、可能だったんだミケ。だが、元々こちらの世界の住人が、欲望を抜き取れた場合ーーガイアの浄化の力がなければ、決して目覚めることはないミケ」



 ……えっ?



「どっ、どうしーー」

「理解したか? だから、早くガイアを追うミケ」



 と、まるで感情がないように、一定の声色で話したカスタードは、ペチペチと、俺の頬を尻尾で叩いて早く動くようにいってくる。

 だがーー。



「っ! わかったよ!」



 それでもと、抗議したかった俺だが、肩へと乗っているカスタードを見た途端、すぐにサクラちゃんを追う為に、足を動かすことにした。


 ……あのムカつくカスタードが、まるで悔しいとばかりに、顔を歪ませていやがる。


 たくーー本当にサクラちゃんには、甘い奴だよな。



「しかし、あの場でそのことを言わなかったのは、お前にしては、良い判断だったミケ。もし、ガイアがその事を知ってしまったなら、まともに戦えなかったかもしれないからな。ミケ」

「そいつは、どうも! 本当に、一言余計だよなお前!」



 猫の癖に、態度もデカイしよ!

  

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