第3話 ようこそ。海原中学へ
「
校門の前に書かれている学校名を読みあげつつ、俺が
彼女の名前は、引き摺られている時に教えてもらったのだがーーそんな彼女に連行されてついた場所が、この少し変わった中学校である。
変わったというのは、何というか……全体的に丸みを持っているのだ。
ーーこの校舎全体が。
なんで、ここに連れてこられたんだ? 俺。
「おはようございます! おはようございます! おや? 井上さんと遠藤さんじゃないですか」
「おはよう、
「はい! 遠藤さんもおはようございます!」
「あっ、おはようございます」
ペコリ
と、律儀に頭を下げてきた鳳凰院さんに対して、俺も一応合わせて頭を下げると、ニッコリとその中性的な顔を微笑ませる。
「よかった。元気そうですね遠藤さん。実は、あれから気にしていたんです。そのーー起きてしまったこととしては、遠藤さんだけが悪いのではなく、生徒の代表としての、僕の説明責任もあったと思うので」
「えっ? えっと……」
なっ、何の話だ?
どうにも、ここの世界の人達は、俺のことを知っているらしい。というのは、井上さんの話す内容で、理解できた。
のだが、どうやら俺は、直近で何かしらの問題を起こしているらしい。
しかし、当然俺にそんな記憶は存在しないので、その話をされてしまっても、反応に困ってしまう。
……ここは無難に、苦笑いだけで返答をしておくか。
そう考え、苦笑いしておくと、どんな勘違いをして受け取ったのかーー制服のネクタイを締め直した鳳凰院さんは「任せてください! 僕も、あらゆる対策を練ってきましたから!」と、謎のガッツポーズをしてくる。
「手始めに、僕がきちんと学校内を案内しますね!」
「そっ、そうですか……うん? 学校内?」
学校内ってーー。
まさか!
この世界の俺は、教師でもしていたのか!?
おいおい! それは、さすがに無理だぞ!
勉強なんて、平気点くらいしか取ったことねぇってのに!
「案内なんて、校長先生にでも任せておけばいいんじゃないかしら?」
「いえ。あの人もあれで忙しいみたいですから。それに、『僕の社会人練習にもなる!』て言っていましたから。なので、大丈夫です」
「そう。本当に頑張り屋さんね。それじゃ、また後で会いましょう。遠藤くん」
「えっ!? あっ、はい」
こっ、これから起こる可能性を考えていたら、どうやら井上さんとは、ここで別れるらしい。
そして、先から俺のことを見ている鳳凰院さんに、これからついていく感じなのか?
「それでは、改めまして。
「えっ、遠藤六道です。色々とよろしくお願いします」
「はい! こちらこそ、よろしくお願いします。では、さっそく参りましょうか」
と、その場で綺麗な一礼をしたマコトくんは、すぐさま歩き始めてしまう。
なので、慌ててその背を追いかける。
「この海原中学は、生徒の個性を尊重している学校でして……まぁ、その意思表示みたいなものですね。既存の学校にとらわれない校舎の見た目をしているのは、そのためです」
「あぁ。そのせいで、こんな丸みがあるんですか」
「あははっ。敬語は、よしてください。校長の孫ということが、学校内で知れ渡っていると思いますがーー外に出れば、僕だってそこいらの学生と変わらない子どもです。なので、どうか気をつかわずに」
「そっ、そう? それなら、タメ口でいくけど」
「はい! それでお願いします!」
むむっ。
校長の孫ってことは、いろいろなことに詳しそうだな。
ちょうどいい。ついでに、色々聞き出してみよう。
「正面に見えるのが、生徒達の下駄箱です。と。それは、もう知っていますよね。すいません」
「いや。これを機に、心を改めようと思っているから、むしろ助かるよ。その調子でお願い」
……こういう感じで、あっているか?
「なるほど。それは、良い心がけですね。ですが、先ほども言ったように遠藤さんだけの責任ではありません。なので、僕もその心がけで行きますね」
ふっ~。よしよし。
どうやら、成功したみたいだな。
まぁ、話の内容的に重大事故を起こしたみたいだし。
こんな感じで、罪を償います。的な反応でいけばいいだろう。
「では、遠藤さんの使用する玄関ですがーーこちらですね」
そう言いつつ、正面の下駄箱から大きく迂回し、右側の細道へとむかうマコトくん。
するとそこには、ロック式の施錠にインターホンも備えつけられてあるという、いかにもセキュリティがきっちりしているとわかる頑丈そうな扉が存在していた。
「ここが、先生や遠藤さんのような用務員さんが通る玄関になります。あとは、業者の方とか郵便物もここから入りますね」
用務員?
そうか。俺は、教師ではなく、用務員枠で入っていたのか。
勉強を教える側でなくてよかった気もするが、用務員は用務員で、なんか残念な気もするな。
……いや。よくよく考えたら、就職できているだけ、この世界の俺は、才能があるのかもしれない。
悲しいことに、重大事故をおこしているらしいけど。
「では、入りましょうか」
「あっ、ちょっと待ってくれ」
「はい?」
「校庭とかも、案内してもらってもいいかな? ほら、立ち入り禁止の所とかも、詳しく知っておきたいしさ」
というのは、もちろん嘘。
本当に知りたいのは、この学校がどんな作りで、どこに何があるのかだ。
そうすれば、突然何かを持ってくるように言われたり、集合場所を教えられたりしても、違和感を持たれなくなるだろうからな。
それに……このチャンスを逃せば、おそらく次に知れる機会は、訪れないだろう。
という考えでの発言だったのだが、マコトくんは、またもや勘違いをしたように「なるほど。それもそうですね」と、特に違和感を持たずに、職員玄関から戻ってくる。
「では、外のことから教えますね」
「ごめんね。生徒の君にここまでしてもらうなんて……そういえば、授業が始まったら君は、どうするの?」
「僕は、今日だけ午前中の授業の参加は、特例で許されています。なので、気にしないでください。あっ! もちろん、放課後に残ってその分の勉強をしますので、そこもお気になさらず」
と、さりげなくスゴいことを言いつつ、スタスタ歩きだしてしまうマコトくん。
とんでもないことを、サラッと言う子だな。
生徒会長ってだけでも、大変そうなのに。
まぁ。そのおかげで俺のような人間が、助かっているのだが。
「はい。これで、全てですかね」
場所は変わり、二階の職員室の前で、そうニッコリ微笑みつつ言うマコトくん。
中庭や体育館。
それだけでなく、各部室の部屋などを、細かく教えてくれたおかげで、学校内のことは、ほとんど理解することができた。
ーーのだが、まさか、本当に午前中いっぱい使って教えてくれるとは、思わなかったな。
しかも、何故か念入りに女子更衣室の説明をしてくるから、体育系の部活の数まで、余計に時間がかかってしまった。
「助かったよ鳳凰院くん。おかけで、学校内のことを復習できたよーーあぁ、あと生徒会長が、女子に人気なのも知れたかな?」
「あははっ。それは、知らなくても良かったですかね?」
と、苦笑いしつつ頬を掻くマコトくん。
いや。本当にすごかったよ。
授業の間の数分程の小さい休み時間でも、色々な女子生徒が話しかけてきてたからな。
まぁ。彼は、爽やかイケメンだし、人当たり良さそうだからモテるのは、わからなくはない。
ちなみに俺は、まったくの真逆で、冷ややかな目をされていた気がする。
本当、何したのよ……この世界の俺。
「では、僕は、ここで失礼しますね。用務員室の場所は、わかりますよね?」
「あぁ。それは、教えてもらったから大丈夫。わざわざありがとうね」
最後にそう言って一礼したマコトくんに対して、自然に返答をかえすと、何故かクスリと笑われてしまう。
「いつも通っている場所ですから、僕が教えなくても大丈夫でしょうに。ですけれど、そう言ってもらえると、僕も嬉しいです。それでは」
なっ、なるほどね……。
用務員しているんだから、それは、そうだよな。
危うくバレかけたぞ。おい。
と、乾いた笑いをしつつ、マコトくんを見送った俺は、そうそうにボロが出そうになっていたことに気づかされ、改めて気を引き締め直しつつ、一階の用務員室へとむかう。
しかし、ここは、本当に個性を尊重している学校だな。
俺の育った環境がそうだったのかわからないが、基本的に生徒は、教室で昼ご飯を取るものだと思っていたんだけどーー。
ここでは、普通に中庭や屋上。それこそ花壇の近くや、校庭の端に生えている木の下で、各々自由に弁当を広げて休んでいる。
「まるで、外国みたいだな……」
まぁ、テレビでしか見たことないけどね。
などと思いつつ、慣れない校舎内を歩いて用務員室へとたどり着いた俺が、扉を開けるとーー。
「あら。おかえりなさい。生徒会長の案内は、無事に終わったのかしら?」
と、弁当を食べつつ俺を出迎えてくれる井上さん。
……えっ?
あれ? この人、ここで何してんだ?
まさか……教師ではなく、俺と同じ用務員さんだったのか!?
「えっ、えぇ。驚くほど丁寧に案内してくれましたよ」
「そう。それは、よかったわね。ちなみに、私達は一応男女なのだから、ノックをして入るのは、常識のはずよ?」
「すっ、すいません。まさか、いるとは思わなかったもので」
いや、本当に思わなかったよ。
だって、井上さん。用務員というよりは、教員の方がしっくりくるもん。
出会った時も、ピシリとしたスーツ姿だったし……。
なんてことは、もちろん口が裂けても言えない。
なので、そのまま作り笑いをしつつ、適当な椅子へと腰を下ろすことにする。
「昼休みなんだから、いるに決まっているでしょ? まぁ、それはいいわ。午後からは、いつもの通りに働いてもらうから」
「わっ、わかりました!」
ヤバイ……。
どんな仕事をすればいいのか、一切わからんぞ。
「? あなた、昼ごはんは?」
「えっ? あーそう! だっ、ダイエットです! いやー最近動いていないせいで、ちょっと体重が。あははっ」
もちろん。買う時間がなかったし、なんならこの世界で俺の持っている金が使えるのかもわからない。
なので、当然食事なんて持ち歩いているわけがない。
「そう……そんなに、見た目が変わった気がしないけれど。あなたがそれでいいなら、いいわ。ただ、突然倒れたりしないでよ。迷惑だから」
「あっ、あっはは……はい」
などと、少し居づらい空気の中座っていると、何やら窓から体育館の入り口に向かっていく、一人の女子生徒の姿が見える。
はて? あの奥は、草が生い茂っていて、食事するには、あまり居心地が悪そうだった気がするけれど。
と、俺が首を傾げていると、ちょうど井上さんが見てきたタイミングだったこともあり、俺の視線の先を見て振り返った井上さんは「あぁ。また、あの子一人なの」と、ため息混じりに呟く。
「また?」
「そうよ。たしか、一週間前に転入してきた子で、いつもあそこで食事をしているのよ。なかなかクラスに馴染めてないみたいね」
「へー。まぁ、中学生なんて、思春期まっしぐらですからね。何が引き金になるか、わかったものじゃないですよ」
「……あなた。よく、そんな言葉が出てくるわね。ある意味尊敬するわ」
「えっ?」
「いえ、なんでもないわ。一応言っておくけれど、彼女には、関わらないようにね。中学生なんて、噂が一番好きな年頃なんだから」
「あははっ、肝に命じておきます……ちょっと、出歩いてきますね」
と、少し睨みつつ言ってきた井上さんへと答えた俺は、そうそうに退室する。
けして、居心地が悪くて逃げたわけではない。
断じて違う。
と、自分に言い聞かせつつ俺は、さっそく体育館へとむかう。
関わるなということだけれど……どうしても気には、なってしまう。
いや。気になるというのは、嘘だな。
はっきり言うと、見て見ぬふりができなかった。
俺にも少しだけ、そういう経験があるからわかるが、周りに溶け込めない時の昼休みほど、孤独なことはない。
なので、少しでも話し相手になってあげれるのならーー。
と、そんなことを考えつつ体育館裏へと向かったのだが、目的の彼女を見つけた瞬間に、呼吸すらも忘れるほどの驚愕をうけてしまう。
きれいな黒髪を風にのせつつ、モソモソ食べている彼女は、全然問題ない。
そう。問題なのはーー。
彼女の足元で、気持ち良さそうにうたた寝している毛玉だ!
「こっーーこのくそ猫!!」
「ひぃ!?」
「ミケっ!?」
彼女の話し相手になってあげよう。とか、近くに座っているだけでも、孤独が紛れるかな? とか。
そんな考えを一気に吹き飛ばした俺は、トップスピードで彼女の元へとむかうと、すぐさま足元にいる毛玉を捕まえてやる。
こここっ、この野郎!!
「なっ! なんミケ!?」
「このくそ毛玉! 偉そうに人に指図しておきやがら、何トンズラしてくれとんじゃワレ! お前のせいで、こっちとら、つねに本物ですか? クイズ大会に参加させられとんのじゃ!! 責任もって最後まで教えやがれ!!」
「みっ、ミケケケ!?」
ブンブンと、前後に振りつつ今までの恨みを込めてカスタードを握りしめるとーー。
「ミケー!」
「いっだ!? こ、この! また引っ掻きやがったな!!」
「いきなり何するミケ! わけのわからないことばかり言うなミケ!」
「なんだとこの野郎! あのホシガリーとかいう化け物との戦いに、俺を巻き込んだのは、お前だろうが!! それなら、最後まで面倒みるのが、常識だろ!!」
「知るかミケ! だいたいあれは、アース様の指示で、動いただけミケ! だから、文句を言われても困るミケ!!」
「はぁ!? それなら、そのアースとかいうやつ呼んでこいや!!」
「アース様ミケ! 様をつけろ無礼者!!」
「無礼者は、お前だろうが!!」
「やめてくださーい!!」
ギャアギャアと、カスタードと言い合いをしていると、いつの間にか俺らの中間に立っていたらしい女子生徒が、大声をあげて止めに入ってくる。
これには、俺とカスタードも言い合いを中断してしまい、女子生徒へと揃って視線を向けてしまう。
しっ、静かな子だと思っていたけれど、意外とそうでもないのか?
と、俺がそんなことを思っていると、大声をあげなれてないのか、肩で息を整えた女子生徒は、わざとらしい咳き込みを一度すると、カスタードを抱き上げる。
「おっ、落ち着かれましたか?」
「あ……あぁ。ごめん。ついつい」
注目されたことでの恥じらいかーーほんのりと、頬を紅く染めつつ言ってくる彼女に、俺も頭に登っていた血を落ち着かせる。
女子中学生に注意されるとか……なにしているんだ俺は。
「えっと……君。もしかして、あの時の魔法少女だったりする? だとしたら、色々と聞きたいことがあるんだけど」
「えっ? ……」
まぁ。カスタードと普通に一緒に居て、俺と言い合いをしていたことに何も驚いていない時点で、魔法少女説が濃厚だけどな。
……この世界で、猫が喋ることが常識でなければ、だが。
「そっ、そうです。私が、ガイアの正体の、
「そうか……それなら、聞きたいことが『質問なら、アース様が直々に教えてくれるミケ』はぁ?」
こいつ……さっきは、アース様の指示がうんたらかんたら言っておきながら、いきなり、いない奴が答えるだと?
「ふざけるな。今すぐ知りたいんだよ」
「だから、今すぐ答えるとのことミケ」
「えっ? アース様が?」
「あのさ。アース様アース様いうけど、そんな人どこにいるのっ!?」
と、話している最中に、サクラちゃんの腕から跳んできたカスタードが、俺の額に突然肉球を押しつけてくる。
突然の攻撃だった為、反射的に目を閉じてしまった。
「こんのっ! お前さ! 話している時に何しやがる!!」
「あぁ……カスタードの悪いところが、出てしまいましたか? だとしたら、申し訳ありません。彼は、真面目で信仰心の厚い子なんですがーー時々、自分勝手といいますか。相手の感情を無視する時がありまして」
奇襲に文句を言いつつ俺が目を開けると、目の前には、何故か腰まで届くほどの青い髪に、錫杖のようなモノを持っている成人男性が立っていた。
しかも、見た目が……なんていうか、まるで聖人のようなのだ。
教科書とかで見た古代ギリシャ人みたいな服を着ているし、穏やかな雰囲気だけでなく、逆らってはいけないような、威厳も感じられる。
その雰囲気にのまれ、突然現れた人間にも関わらず、俺の背筋が自然と伸びてしまう。
てか、誰だよこの人!?
「突然、申し訳ありませんでした。本来であれば、すぐにこうして出会うべきだったのでしょうがーーなにぶん、力が弱まっていまして。少し、遅れてしまいました」
「……」
にこりと、柔らかい微笑みによって、謎の緊張感を解かれた俺は、冷静になったことで、やっと気がついたのだが……いつの間にか体育館裏から、見渡す限り青い色の世界にきていたらしい。
この突然の風景変化……まさか。
嫌な予想が一瞬頭をよぎってしまったが、目の前にいる青髪の青年が、まるで俺の心を見透かしたかのように、静かに首を横に振ってくる。
「安心してください。異世界転移は、していませんよ。ここは、地球の裏側です」
「へっ? 地球の裏側?」
「正確には、地球本来の姿といいましょうかーーともかく、まずは、自己紹介からですね」
シャン!
錫杖から軽やかな音を響かせた青髪の青年は、一度咳払いをするとーー。
「初めまして、遠藤六道さん。
と、俺の頭を混乱させる一言を言ってくるのだった。
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