第2話 魔法少女との出会い

「……あれ?」



 一瞬の輝きに俺が目を閉じてしまうと、次に飛び込んできたのは、住宅街の路地裏だった。


 ーーなんてことを言ったら、どこぞのアニメの話かと言われかねないが、今現在俺は、その状況に陥ってしまっているのだ。



「えっ? 嘘?」



 あり得ない光景に、冷や汗が背中をつたう中、360度辺りを見渡してみるが。

 先ほどまであった石段も鳥居もーーの気配すらまったくない。



「いやいや……いやいやいや! ないない! ないってこんなこと!!」



 夢だろこれ!

 と、自分の頬を強めに叩いてみるが、風景は、一切変わらない。

 むしろ頬の痛みが、これは、現実である。と、追い討ちをかけてくる始末だ。



「望んでない望んでない! まったく、望んでないぞ!! こんなこと!!」



 認めたくない状況に、そんな大声をあげるーー。

 と、突然鳴り響く地響き。

 それによって、俺は、すぐさま身体を地面へと伏せる。


 ヒッ!? 

 じっ、地震か!?

 いくら何でも、タイミングが悪すぎるぞ……。

 などと思いつつ、よくよく耳をませてみると、何やら表道りから、何かが崩れる音が聞こえてくる。



「……やめてくれよ。まさか、世紀末に飛ばされたとかじゃないよな?」



 どんなに嫌な状況でも、好奇心とは、厄介なものだ。

 その場に居たい気持ちが大きいのに、音の正体が、どうしても気になってしまう。

 その為、我ながら恥ずかしいことだがーー四つん這いになり、表通りへと顔を出してみる。


 とーー。

 そこは、やはり、想像通り見慣れない住宅街だった。

 のだが、俺の目を引いたのは、それだけでなく、何やら黒い塊が地面に大の字で倒れているのだ。

 それが、何であるのか……。

 それを考える前に、俺の耳に届いてくる声。



「ガイア~インパクト!!」



 真っ白なフリルの服を着た女の子が、ピンクの光を纏った拳を振りかざす。

 という、あり得ない現象をおこしつつ、黒い塊へと、その拳を叩き込む。

 そして、揺れる地面。

 ……もう、訳がわからない。



 パァン! 



 という音と共に、黒い塊が輝くようにガラス片となって散ると、その中心で、立ち上がるフリルの少女。


 その現実離れした光景に、意識せず立ち上がった俺は、受け入れられない頭で一つの結論をだす。

 ……あの子、魔法少女じゃん。



「ふぅ……これで、終わりですかね?」



 と、一仕事終えた社会人のように、軽く息をついた少女は、俺の視線に気がついたのか、そのピンクのポニーテールを揺らつつ、振り返ってくる。

 ーーと、驚くように目を見開く少女。


 あっ、あれ? 

 あれか? これって、もしかして、見られたらまずかった的な?



「っ!? 危ない!」

「へぇ~。お前、いい欲望持ってんじゃん」



 俺へと手を伸ばしてくる魔法少女と共に、ゆったりとした少年のような声が、俺の右耳のすぐ横で聞こえてくる。

 なので俺は、当然少年の声の方へと顔を向ける。


 とーー軽く背中を押されたような感触。

 うん?


 今まで、感じたことがないような押され方だった為、俺が疑問に思いつつ視線を前へと戻すとーー。

 胸の中心から、何かが突き出てくる。

 ……えっ?

 なんだ……この、



「助かったぜ。お前が居てくれたおかげで、第二ラウンドを開始できる!」



 心臓を掴むように、黒いハートマークーーまるで、バレンタインデーのチョコレートみたいだーーを握りしめると、俺の胸から引っ込んでいく白い手。



「はっ……はぁ? なんだ……今の」



 腕が引っ込むと同時に、全身から力が抜けた俺は、その場に崩れ落ちてしまう。

 しかも、思うように力が入らない。

 というかーー何がおきた?



「喜べよガイア。連戦の時間だぜ!」



 ベリベリ!



 嬉々とした声で、まるで海苔を切るかのような音と共に、俺の真下にあった影が消えていくと、俺の視界も暗くなっていく。


 さっ……最悪すぎる。

 もう……死ぬのか?

 なんだよ、この展開。

 夢でも……笑え……なっ……い。







『お…………さい』



 真っ暗な中、透き通るような声が聞こえてくる。

 だがーーノイズが入ったかのように聞き取りにくい。



『……き……なさい』



 えっ?

 なんだって?



『おき……なさい。起きなさい』



 起きろ?

 いや、起きているけど?



『急ぎなさい。このままでは、ガイアが危険だ。すぐに、立ちなさい』



 ガイヤ?

 てか、なんで命令形?



『……ふむ。意識は、覚醒しているが、肉体が覚醒できていないらしいね。であるならば、カスタード』



 カスタード?

 いったい、なんの話ーー。

 と、俺が思った瞬間、頬に激痛がはしる。

 具体的には、何かが皮膚を突き破った感触だ。



「いでぇ~!!」



 強烈な痛みにより俺が跳び起きると、白いふわふわの毛に覆われた、手の平サイズの猫が、何故かため息をついて、隣に座っていた。


 しかも、俺の右頬からは、暖かい物が垂れている気がする。

 って! 出血している!?



「やれやれミケ。やっと起きたか」



 はぁ!?



「猫が喋った!? てか、なんだこの毛玉!」

「誰が毛玉だミケ!!」



 フー! 



 と、全身の毛を逆立てつつ目を吊り上げた猫に対して、俺が後退りをすると、今度は、女の子の悲鳴が聞こえる。

 もう、なんなんだよ!!



「かかかっ、勘弁してくれよ! 訳がわからないこと、ばっかりじゃねぇか!!」

「何を震えているミケ。さっさと立てミケ」

「ミケミケうるせぇよ! てか、なんで猫が人間の言葉を喋ってんの!? しかも、さっきの女の子の悲鳴はなに! もう、やめてくれよ!!」


「ハァー。情けないミケこんなやつに、様は、何を期待しているのかわからんミケ。とりあえず、間違ってないか確認するから、名前を教えろミケ」


「なっ、情けなくて悪かったな! てか、可愛くねぇなお前! 命令口調なのも腹立つし。なによりーー俺の顔を傷つけたのお前だろ!?」

「いつまでも寝ている方が悪いミケ。むしろ、起きなければ、お前も危険だったミケ。感謝しろ」



 はぁ!?

 顔を傷つけられて、なんで感謝するんだよ!

 と、俺が再度文句を言おうとした瞬間、獣のような咆哮が周囲に響き渡る。


 これには、さすがの俺も発信源へと目を向ける。

 すると、そこには、またも理解できない奴が存在していた。


 ツルリ。とした黒い光沢のような姿に、成人男性ほど身長の大きさの何かが、天に向かって吠えていたのだ。

 ーーなっ。

 なんだあれ!?



「おい。答えろミケ」

「あっーーはぁ? 答えろって、何をだよ」

「……少し冷静になれたみたいだな。それなら、名乗れミケ」



 冷静になったというか、感情が追いつかないというかーー。

 てか。それよりも。

 


「いや、その前にあれはーー」



 と、俺が黒い人間のような奴へと指を向けると、ちょうど、そいつに向かって魔法少女が、先ほど見た攻撃を、くり出していた。



「ガイアインパクト!」



 ーーが。

 光沢の化け物の咆哮によって、その拳は届くことなく、魔法少女を彼方へと吹っ飛ばしてしまう。


 なっ、なんだよーー。

 ここにいたら、俺も危ないんじゃないか?



「おい! ヤバイだろあれ!!」

ではない。ホシガリーだ」

「ホシ? て、名前なんてそんなのどうでもいいだろ! とにかく、ここにいたら絶対に危険だろうが! どどどっ、どこに逃げれば」

「てぇい!!」



 ザグリ。

 効果音にすれば、そんな音が出たと思う。

 ミケミケうるさいこの猫ーー勢いをつけたかと思えば、急に跳びかかってくるや、額に爪を突き刺しやがった。



「んギャー!! 何すんだテメェ!!」

「混乱が治ったかと思えば、また混乱するなミケ。話が進まないミケ」



 はぁ!?

 また混乱するなって、なんだ!

 元々、混乱しかしてねぇんだよ!!



「くっ、口で言えや!! この毛玉が!!」

「やれやれ。遠藤六道。で、間違いないミケ?」

「こっんの! あぁ、そうだよ!! だったらなんだ!!」

「よし。では、あのホシガリーを止めろミケ」



 ……はぁ?

 この毛玉ーー今、何て言ったんだ?

 あのよくわからない化け物を、止めろだと?



 チラリ。



 額を抑えつつ、視界の端にいるホシガリーというらしい化け物を見てみると、何やらまた吠え始める。

 かと思いきや、奴の直線上の建物が、一瞬にして見えない壁に押し流されるように、潰されていく。


 ……有効範囲に入っていなかったからよかったものの、あの瓦礫に押し潰されたらたまったものではないぞ。



「無理に決まっているだろ? バカかお前」

「無理なことを頼むわけないミケ。バカかお前?」

「どう見ても無理だろうが! あんな、災害みたいなことを平然とおこす奴だぞ!? 俺は、一般人なんだよ!! 頼むなら、今も戦っているあの魔法少女みたいな子に頼めよ!」



 そうだよ! 

 頼む相手を間違えてんだよ! この毛玉!

 と、不可能なことを頼んできた猫に対して、睨んでやると、とたんに両耳を下げる。



「?」

「ガイアには、既に頼んでいるミケ。だがーー。数日前に戦闘を覚え始めたガイアでは、被害を抑えるのが精一杯ミケ」



 そっ、そうなのか。

 て、そうじゃねぇよ!



「だっーーだとしても、俺には、無理だ。見てわかるだろ? 俺には、彼女のような戦う力なんてないんだよ」

「いや。お前だからこそ、できることがあるミケ」



 俺だから?



「止めたいという意思。それさえあれば、あのホシガリーを止めることは可能ミケ。だから、こうして頼んでいるミケ」

「止めたい意思って……」



 そんなの、あるに決まっているだろ。

 でも、あんな化け物をどうやって……。

 などと、猫と話している間にも、魔法少女が立ち向かっては、吹き飛ばされる。


 ということを、繰り返し続けており、ついには、俺の近くへと彼女が飛んできてしまう。



「うっ! うっう」

「っ!?」



 初めて見た時は、とてもきれいだったフリルの服も、すでに何度も吹き飛ばされて地面を転がった影響なのかーー所々切れており、その内の素肌からは、出血すらしている。


 しかも、見たところ腕にすら力が入っていない様子だ。

 なのに……。

 それなのに、彼女は、また立ち上がろうとしていた。


 近くで見たからこそ、わかったことだがーー彼女は、思ったよりも幼い。

 俺よりも一回りくらい幼いだろうか?

 そんな彼女は、身体中が痛むはずだというのに、その瞳には、一切の諦めがなかった。


 ……俺は、今だに尻もちをついたまま、ここで猫と話し込んでいるのに。

 彼女は、あんな奴に、立ち向かおうとしているのかーー。


 くそ……。

 なんだよこれ。

 これでは、まるで、俺が卑怯者みたいじゃないか!



「ガイア! 大丈夫ミケ!?」

「かっ、カスタード。うん。まだ大丈夫です。ぜんっぜん! 大丈夫です!!」



 と、額に汗の粒を浮かべつつ立ち上がった彼女に、カスタードと呼ばれた猫が、慌てたように足元をうろつく。

 あー!! くそったれ!!



「おい! 毛玉!!」

「毛玉じゃないミケ!」

「止める方法があるんだろ!? だったら、教えろ! やってやるよ!!」



 くそ! 

 本当にくそったれだ!

 訳のわからない世界にとばされるし、死にそうになるし、猫はひっかいてくるし。 


 最悪なこと、ばっかりだけどーー。

 こんな小さな女の子が、目の前で頑張っているのに、大人の俺が、いつまでも黙っていられるかよ!


 今すぐにでも、逃げ出したい気持ちを抑えつつ、急いで立ち上がった俺の声が聞こえたのかーーホシガリーという奴が顔を向けてくる。

 ……口も目もないので、本当に顔かどうかわからないけどな。



「早く教えろ! やめちまうぞ!!」

「なっ! 勝手な奴ミケ! えぇい! どちらでもいいから、手の平を奴に向けろミケ! あとは、ミケが何とかしてやる!!」

「こうか!」



 バッ! 



 と、俺が右手の平をホシガリーに向けると、何故か吠え始めたホシガリーが、俺へと向かってくる。

 うおぉお!?



「恐れるな! ミケが手助けしてやる!」

「おおぉお、恐れてねぇよ!」

「戻れと言え! それで、終わりミケ!」



 戻れ?

 たったそれだけ!?

 まさかの指示に、俺がホシガリーから視線をはずしてカスタードの方を見ると、身軽に俺の肩へと跳びっ乗ってくる。



「急げ!」



 という少し焦った声につられた俺が、視線を戻してみれば、いつの間にか接近してきているホシガリー。

 距離にしてみれば、おそらく五十メートルくらいだろう。


 なのに、それ以上の近さがあると錯覚するほどの迫力がある。



「うっ、うおぉぉお! 戻れー!!」



 今だかつて、ここまで大声を出したことがあっただろうか?

 そう自分で思えるほどの大声をあげると同時に、まるで吸い込まれるかのように頭上が天へと引き伸ばされるホシガリー。



「アースの眷属が一人。カスタードの名において命じる! 主のもとへと戻れ! 影の主人よ!!」



 ズォォオ!



 大声をホシガリーがあげると、俺の手の平の中へと頭上から吸い込まれていき、やがて全てが俺の中へと吸収された。


 …………。

 やったのか?

 てか、俺が、あの化け物を取り込んだ?

 ……やばくないか? 見た目的に、身体には、絶対に良くないよな?



「ふぅう。成功ミケ」

「せっ、成功したのか? 何ともないぞ?」

「当たり前ミケ。元々お前の中にあったモノが、お前の中に戻っただけだからな。その証拠に、ほれ」



 ぺちり。

 と、尻尾で頬を叩かれたので、カスタードへと視線を向けると、俺の背後の地面を爪で指している。


 そこには、いつもの通りの俺の影が伸びているだけ。

 ……?



「覚えているかは、わからないがーーお前は、一度影を取られたミケ。それが戻っているということは、ホシガリー。つまりは、お前の欲望もきちんと戻っている証拠だミケ」

「おっ、俺の欲望?」



 どういうことだ?



「だぁー! やりやがったな、このくそ猫が!!」



 カスタードの言葉に、俺が首を傾げていると、何やら頭上で声変わり前のような、甲高い少年の声が響き渡る。


 ので、見上げてみるとーー小学生くらいの男の子が、悪魔のような翼を羽ばたかせつつ空に浮いており、何やら両拳を激しく上下させていた。 

 なんだあの子? 魔法少女の次は、悪魔か?



「だーくそ! あんな強力なホシガリーは、初めてだったのによぉ! 何邪魔してくれてんだよ。くそ猫にオッサン!!」



 おっ、オッサン!?



「ワルビー……お前から欲望を奪って、ホシガリーを作った奴ミケ。口だけ達者のクソガキだミケ」



 などと、俺の疑問に答えるかのように教えてくれたカスタード。

 なのだが、オッサンって。

 まさか、俺のことじゃないよな?



「なんだと!? ていうか、欲望を抜き取ってやったのに、動けるだなんて聞いてねぇぞ! どういう身体構造してんだよオッサン!」



 あっ、やっぱり俺のことだったのか。

 てか、誰がオッサンだクソガキ!



「誰が教えてやるかミケ。それより、ワルビー。お前、もう時間だろ? さっさと帰れミケ」

「なっ!? ぐぎぎぎ!! くそー! 覚えていやがれ!! ガイアにくそ猫!!」



 カスタードの言葉が図星だったのか、とてつもなく悔しそうに顔を真っ赤にしたワルビーが、何やら空中に手をかざす。


 すると、黒い渦のようなモノが現れ、その中へと入りつつーーアニメなどならまず弱そうな奴が言う捨てセリフを言い残して、消えていくのだった。

 そして、瓦礫だらけの世界に残された俺と魔法少女。


 と、話せる猫一匹。

 てか、これからどうなるんだ?



「ガイア。まさかの連戦お疲れ様ミケ。そろそろ、学校に向かう時間ミケ」

「えっ? あっ、うん」



 ピョン。



 と、俺の肩から魔法少女の手の平へと跳び乗ったカスタードは、俺に一瞥をくれると、鼻息を一度つく。



「えっと……大丈夫ですか?」

「へっ? あぁ、うん。何がなんだかわからないけど……とりあえず大丈夫かな? 身体も異常ないし」



 今のところは。

 という言葉は、のみこみつつ俺が返すと、何やらチラチラと見上げてくる魔法少女。



「なっ、何か?」

「いっ、いえ。そのーー印象が、大分違うと言いますか。何と言いますか」

「はっ? 印象?」



 印象って……。

 俺とこの子は、初めて会ったというのに、印象も何もないだろうに。


 という感情が顔に出てしまったのか、慌てて頭を下げた少女は「すいません! 変なこと言いました!」と、早口で言うと、その場から跳び去ってしまう。

 えっ!?



「ちょっ! ちょっと待ってくれ!」



 という俺の言葉が聞こえなかったのか、軽やかに屋根の上を渡っていってしまう魔法少女。

 ヤバイ!!

 今のところ俺には、彼女以外に話せる相手がいないのだ。


 それは、つまるところ、ここで彼女を見失えば、知らない世界で、一人っきりで過ごすはめになるということだ。

 そんなのは、いくらなんでも絶対に嫌なので、急いで彼女を追いかける。

 

 ーーのだが、さすが魔法少女。

 既に、豆粒並みに小さくなっている。

 くっ! こんなところで、運動不足が仇に!!



「ちょっ! 本当に待ってくれっ」

「キャ!」



 と、上を見ながら走っていたせいか、角を曲がったところで、まさかの女性と衝突してしまった。



「すっ、すいません!」

「ちょっと。あなたどこ見てーーて。なんだ、遠藤くんじゃない」



 へっ?

 遠藤くん?

 尻もちをついた為か、ズボンを叩きつつ立ち上がったのは、スラリとした体型に、黒髪ショートヘアーで、切れ長の目が少し冷たい印象のする美人さん。

 

 当然、俺にそんな知り合いなどいるわけがない。

 なので、一見怪我もないようだし、魔法少女を再度追いかけようかと顔を上げると。



「ちょっと」



 と、冷えた声色によって、その視線を強制的に引き戻されてしまう。



「昨日のことを恐れずに、出勤したその根性は認めるけれど……いくらなんでも、周囲を見なさすぎよ」

「えっ? あの、すいません。今急いでいるので」

「待ちない。出勤には、まだ全然間に合う時間よ。それより、これからの対策を考えたらどうかしら?」



 だぁー! 

 魔法少女を見失っちまうよ!!

 なんだよ、この人!



「いっ、今魔法少女を追っているんですよ! すいませんけど、後にしてくれますか!?」

「あと? あなたね……というより、何を追っているですって? 私をバカにしているのかしら?」


「してませんよ! 今さっきまで戦っていた魔法少女ですよ! ほら! あそこら辺で戦っていたーーじゃ? あっ、あれ?」



 と、なかなか逃がしてくれない女性に、しびれを切らした俺が、先ほどの戦闘箇所を指しつつ説得する。

 ーーが。そこには、

 ……はぁあ!?



「? 何もないじゃない。あなた、夢でも見ていたんじゃないのかしら?」



 いや、夢ならこの状況事態が夢であってくれよ!!

 何回俺は、驚かされないといけないわけ!

 いい加減、頭がバグっちまうよ!!



「よくわからないけど、いつまで口をパクパクさせているよ。そんなことをしているから、誤解されるのよ?」

「いっ、いや! さっきまで、ボコボコに壊れて」

「ふざけてないで、行くわよ。あなたの処遇もわからないから……もしかしたら、今日で、お別れになるかもしれないけれどね」



 と、俺が事態に追いつけていないのをいいことに、女性は、俺の襟首を掴むや、スタスタと歩き出してしまう。

 なっ、何がどうなってんだよ!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る