第1話 神に会いました。 アホでした。

「あれ? 俺、死んだはずじゃ」




まだぼんやりする頭を上げ、周りを見渡す。

そこは、何処までも続くような白い空間だった。


「ようやく起きましたか」


後ろから声がしたので振り返ると、いかにも神だと言わんばかりの格好をした女性が立っていた。

白い和服みたいな服を着た、綺麗な顔の女性だ。


「もしかして、貴方神様?」


俺がそう聞くと、女性は首を縦にぶんぶん振った。

服装は神っぽいけど、所作が神っぽくない。


「ええ、私が神です」


一気に胡散臭くなった。

現状を見たら神の所業としか思えないんだけど、目の前の人が神とは思えない。


「で、神様がなんで俺の前に?」


けど、取り敢えず神として扱おう。

神っぽくないだけで多分まじで神だし。


「貴方の来世のお話をしに来ました」


来世?

ああ、もしかして輪廻転生か?

だとしたらテンション上がる!


「村瀬翔馬。貴方は、別世界……いわゆる異世界に転生していただきます」


キタコレ!

異世界転生じゃないですか!

最高!

神様最高!


「それで、俺は何に転生するんですか?」


興奮が冷めやらぬまま、俺は早口で聞いた。


「エルフです。貴方の転生する一族は、代々まったりと暮らしていますよ」


勝った。

転生先当たりが確定した。

異種族でしかもまったりと生活。

夢のネクストライフは最高だな!


「しかも、転生者特典付きです。その気になれば、無双もできますよ」


転生者特典。

素晴らしい響きだ。

正直来世で俺TUEEEEする気はないけど。


「貴方はかなりの善行を積んできましたからね。死に際も女性を庇う。かなりいい待遇で転生できますよ」


良かった。

生前の俺の行動全て意味があった。

まじで悪運強くて報われなかったからな。



8歳の頃。


「海斗! 荷物重くないか?」


「これくらいへーき。お前こそ大丈夫か?」


「全然へーき!」


まだまだクソガキだったけど、他人にだけはとにかく優しくしてた。

処世術とかじゃなくて、これが素。

元々そういう性格だからな。


「どっちもへーきだし、これ持ったまま競走でも――」


ドテン!


「え、翔馬!? 大丈夫!?」


俺はバナナの皮に滑って転けた。

後にわかったけど、この時腕折れてたらしい。

過去の俺はただただ痛いとしか思ってなかったけど。



あと12歳の頃。


「おばーさん大丈夫? 荷物持つよ?」


まじで漫画でしか見ないようなバカでかい荷物って訳じゃ無いけど、結構デカ目のカバンを持ったお婆さんがいたから、気になって声をかけた。


「そうかい、助かるねぇ。じゃあ、あそこのコンビニまで頼めるかい?」


「うん!」


コンビニまで大体150メートルくらい。

途中で信号渡って、そこから直進。

なんてことないコースだ。

若いから体力は有り余ってるし、お婆さんから荷物を受け取った俺は、スピードをお婆さんに合わせて歩いた。


「元気だねぇ、僕」


「うん。元気」


多分小学生の頃くらいまでは普通に陽キャしてたと思う。多分。

で、問題はここから。

信号は青で、しっかり左右確認したうえで渡ったんだけど、爆速で走ってきた飲酒運転の車に轢かれた。

しかも俺だけ。

この時の記憶はほとんど飛んでったけど、ひたすらに荷物とお婆さんの心配してた気がする。

全身打撲で全治2ヶ月。

よく生きてたな。



みたいなことがかなりあった。

しかも年々酷くなっていく。

それでも報われると信じて徳を積んできたけど、まさか死後に報われるとは。

報われただけマシか。


「早速転生しますか?」


過去回想を終えた俺に神が聞いてくる。

答えはもちろんYES一択。

いよいよ異世界だ。


「では、転生先でごゆっくり」


神がそう言うと、俺の意識が段々と薄れていく。

なんか死んだ時みたいな感じがする。

これは痛くないし、むしろ心地いいけど。

来世、楽しむか。



……。

ん、転生できたかな。

けど、なんも見えねえ。

まだ生まれたばっかで目が見えないのかな。


「あー、村瀬さん聞こえますか?」


そんなことを考えていると、頭の中に声が響いてきた。

多分神の声。

変に改まってるし、何かあったのかな?


「えー。大変申し上げにくいのですが、私の手違いで貴方、エルフじゃなくて触手に転生しました」


……。

うん、なるほど。

触手に転生ね。

間違えたか。

誰にでもあるよ。

うん。

……。

ふざけんなああああああああああああああああああああ!!!

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