82:交渉

 そういえば特別緊急依頼には竜に「うまいこと」話せと書いていたな。これはきっとなんとかうまい具合に上手に交渉しろという意味で間違いないと思う。決して「旨いもの」「美味いもの」という意味の美味しい食べ物について話せと言う事ではないよね。だけど目の前の竜は「うまいうまい」と言って干し柿を食べている・・・頭の大きさがアリオンごと自分をパクリといけそうなくらい大きいから干し柿なんて米粒くらいの大きさなんだけど、それでも咀嚼して味わっている。明らかに量は足りてないだろうなぁ・・・


「これ、なんていう食べ物なのぉ?」

「これは干し柿といって柿(に似た果物)を干した食べ物だよ」

「ふぅーん、僕たちには作れない食べ物だねぇ~、でもとっても美味しかったよありがとぉ~」


 思いのほかドラゴンは喜んでいるようだし、これは交渉の余地ありか?と思い冴内は切り出した。


「りゅう君、君は氷の中に閉じ込められてる少女を知らないかい?」

「え~氷の中ぁ?う~ん知らないなぁ・・・」

「800年ぐらい前に酷いいたずらをして、とても怒られて反省しろって閉じ込められたらしいんだけど」

「800ねん~?う~ん・・・いたずらぁ?はんせい~い?・・・あ~それってもしかしてぇ~・・・」



「あの扉の奥にあるはんせいしつのことかもぉ~」



「反省室!?中には誰かいるのかい!?」

「分からないけどいるかもしれないよ~」

「あ・・・開けてみてくれないか!!」

「う~ん・・・ボクじゃ開けられないよ~」


 くっ、これはいよいよチョップの出番か?


「あれオジサンじゃないと開けられないんだぁ~」

「お・・・おじさん?」

「うん、ボクのオジサン、だいぶ前にてんきんしちゃったの~ボクはそのオジサンのかわりにここにきたんだぁ~」


 ドラゴンのオジサンは転勤して代わりにりゅう君が引き継いできたらしい・・・


「ちょっとオジサンに頼んでみるねぇ~」といってりゅう君は最初に見た機械のようなモノのところにいった。またしてもグワァオォォーという怪獣の鳴き声がしたかと思うと、しばらくたってから機械が光りだして空間に別の竜が表示された。


「おおー甥よ、久しぶりじゃなぁ~!」

「あぁ~オジサン久しぶりぃ~げんきぃ~?」

「あぁ元気じゃとも、ところでどうした甥よ突然呼び出して。話し相手がいなくて退屈で寂しかったのか?」

「うぅう~んちがうよぉ~この人がオジサンにはんせいしつの扉を開けて欲しいっていってるのぉ~」

「反省室?・・・あーーーーあったあった、そういえばそんなことあったなぁ、いや~あれからだいぶたったのう~・・・うん?おおなるほど、甥っこの横にいる人間がそう言ったんじゃな?」

「うん、そうだよぉ~、このヒトとってもおいしいホシガキっていう食べ物をボクにくれたんだぁ~、それとボクにりゅうっていう名前をくれたのぉ~、すごく嬉しかったからこのヒトのお願い聞いて欲しいんだぁ~」

「なに!美味しいホシガキとな!それは良かったなぁ!ワシも食べてみたか・・・って、名前!?名前じゃと?オヌシ名前をもらったのか!」

「うんそうだよぉ~、【りゅう】って名前だよ~」

「そりゃぁ実にいいものをもらったのうオヌシ。こうなるとお礼をしないといかんなぁ」


「そこのヒトよ、扉を開けて欲しいと言ったか」

「はい、扉を開けて欲しいんです!そして中にいる少女を助けたいんです!彼女は涙ながらにもう十分反省したと言っていました。星々の悲しみも、小さき者の悲しみも、草花の悲しみも今では分かると言っていました。寂しくて悲しくて泣きたくて辛くてかなわないと泣いていました」


「あ・・・あ~・・・そうなの?いかん・・・すっかりその・・・忘れておったわい・・・こりゃ実に悪いことしたのう・・・」


 わ、忘れてたんだ・・・800年も・・・


「しかし、ヒトよ、オヌシが今こうして現れたということは、まさにオヌシの存在こそがカギじゃったのかもしれんな。今ならばアヤツも正しい存在としてこの世界に受け入れられることじゃろう。よし分かった、今からオヌシの望み通り扉を開けよう、そしてアヤツをオヌシの力で解放してやってくれ。アヤツが真っ当な人生を送れるように見届け見守ってやってくれ」


「分かりました!必ずや自分が彼女を更生させて見せます!」と、800年以上年上の神の中の神をどこかの不良家出少女でも更生させるかのように言った。


「ウム、よろしく頼むぞそこのヒトよ。それでは扉よ開け・・・【グワガーグワワァーグォウ】」


 そうして後ろにある大きな扉は開き始めたのであった。

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