81:りゅうくん
実際には日本語ではなく人間やそれ以外の生物とも意思疎通できる多重言語なのだが、冴内とそれをテント内で一言も発せず見守っている力堂達には日本語として聞こえている。
「君と話しがしたいんだ!お願いだ!話しをさせて欲しい!」
「えぇ~・・・話しぃ~・・・?う~ん・・・う~ん・・・んんんっ?クンクン、クンクン・・・君、なにかい~い匂いのするもの持ってるねぇ~」
「えっ?・・・あっ!この肉!この干し肉かい!?これが欲しいならあげるよ!」
「いや~・・・ボクはお肉は食べないよ~それじゃなくて、そっちの何か甘~い匂いのするやつがいいなぁ~」
「えっ?干し柿かい?もちろんあげるよ!だから話しをしたいんだ!」
「わぁくれるのぉ~いいよ~お話ししてもいいよ~ぼくんちにおいでよ~」
竜はスイスイと高度を下げて進んでいった。その進路の先にある氷の岩肌には大きな穴が空いており恐らくそれが住処なのだろう。
「さっき、ボクのことりゅうくんって言ってたけどりゅうくんってなぁにぃ~?」
「君のような生き物のことを自分達人間はりゅうって呼んでいるんだよ」
「へぇ~でもボクたちはボクたちのことをりゅうって言わないよ~」
「ボクたちは【グワァーオーゥゥ】人だよ~」
この【グワァーオーゥゥ】のところだけは固有名詞に相当するので翻訳されず、そのまんま怪獣の鳴き声だった。冴内にはこの【グワァーオーゥゥ】がうまく発音できなかったので「申し訳ないけど君のことはりゅう君って呼んでいいかい」と聞くと
「それってボクのなまえってことぉ?」
「えーと・・・うん、名前でいいなら名前でいいよ君は今日からりゅう君、えーと君っていうのは名前じゃないよ」
「うんわかるよ、ボクの名前がりゅうで、ボクを呼ぶ時がりゅう君なんだね」
「そう、多分人によってはりゅうさんとか竜様とか言う人もいると思う」
「そうかぁ~ボクの名前はりゅうかぁ~なんだかうれしいなぁ~」
名前を付けられた竜はアリオンのときと同じように光輝いた。あれ、これってひょっとしてまずかったかな?と一瞬思ったが、それよりもやらなければならない大事な使命があるので、名前を付けてしまったことはすぐに忘却の彼方へ追いやった。あぁやっちまったな冴内・・・
穴の中はかなり広い空間になっており、床や壁などが水平垂直で平面状になっていて、いかにも人工的に作られた居住空間という感じだった。何かの大きな果物と思われる実が置いてあったり、草をたくさん敷いた場所があったりしたが、この手のファンタジーものに良くある金銀財宝宝の山などはまったくなかった。ただ機械装置といっていいのかよく分からない見た目の明らかに自然に造られた物体物質とは異なるモノ、何かによって作られた「モノ」が置かれていた。
そしてその空間の一番奥、とても硬そうに見える氷の岩盤の壁には扉がついていた。
その扉は幅10メートル高さ15メートルはありそうな大きさで銀色に輝く鉱石で作られており、扉にはビッシリと精工な彫刻が彫られていた。明らかにこのドラゴン以外の何者かが作ったと思われる扉だ。そしてその扉のすぐ横には、D15洞窟で発見された壁画と同じ壁画が描かれていた。
冴内はすぐに直観が閃いた。間違いない!この奥にあの少女がいる!
でもどうすれば・・・とてもじゃないが、こんな巨大な扉など自分で開けられそうにもない。いや、チョップならワンチャン・・・ってダメだ!竜を怒らせるような真似は何一つやっちゃダメだ。
まぁ・・・最悪の場合は・・・別だけど・・・
極力友好的に解決したい冴内であったが、どうしてもという状況になった場合は武力解決も選択肢にいれるという、この時ばかりはなかなかに物騒な冴内なのであった。
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