75:一流のシーカー
竜発見の報が富士山麓ゲート村にもたらされるや即座に情報部員達は映像データを「物理的に」ゲートの外にある研修センターへと持ち運んだ。
研修センター内システム部署のシステム管理者達は例の「特別緊急依頼」の件で全システムのチェック中で大わらわだったところに竜発見の情報データが持ち込まれてきたので大混乱になった。
そのため全世界ゲート機関局長会議の最中、ウィーチューブに動画配信することにして、局長達はそれで見ることになるという有様だった。
それを見た局長達の中で、やはり大きく反応したのはまたしても英国のストーンヘンジ・ゲート局長だったが、今回はペルーにあるナスカのゲート局長も反応した。二人に一致した見解はそれぞれの地域のゲート内に非常に良く似た山があるというものだった。
さらに英国では例の英雄剣の素材になった「竜の涙」がある。そしてその「竜の涙」が発見されたと思われる方角の先にはまさしく映像に映し出された山とそっくりの山があるのだ。
これは単なる偶然の一致であろうか?いや、そうではあるまいとサー・アーサー・ウィリアム3世は強く語った。
もしも映像に映し出された山が同一の山だとしたら、いよいよこれは世紀の大発見となる。ゲート内の世界が繋がっていることの証明になるのだ。
ナスカのゲート局長はこの映像を見るまでは正直これまでの冴内に端を発する件については懐疑的だったが、さすがに今回の映像ではそうもいかなくなった。積極的に編成チームを招集して、映像に出てきた山に良く似た自国ゲート内の山に調査隊を送り込むことを最優先で実行すると他の国に宣言した。もちろんストーンヘンジ・ゲート局長も同様にすることを宣言した。他の国々も同じような山が自国のゲート内にあるか今一度調査することを宣言し、全世界ゲート機関局長会議は閉会した。
一方、食堂内で周りにいる全てのシーカー達からの強烈に熱い視線を一身に浴びている冴内は、その熱い視線で溶けそうなくらい恐縮しまくっていた。確かに手がかりは伝わったけどもう少し控え目な伝え方をして欲しかった・・・
さらに一方の力堂達は現在の世界の実情、いや、もはや冴内の実情については一切知らずにいる。その理由は通信可能距離を超えているからで、力堂は冴内が研修を終えて自宅に帰った数日後に第7次長期遠征隊として出発しており、最初の10日間こそは通信可能エリア内にいたが、その後は通信可能圏外になり一切の情報を知ることが出来ないでいた。冴内がまだ正式ゲートシーカーになる前に既に通信圏外だったのである。
そのため壁画の件も水の精霊の件もペガサスの件も海割りチョップで神の称号がついた件も神の中の神のことなども一切まったく知らなかった。
そんな中このゲート内の80年に及ぶ歴史記録の中でも発見されたことのない超大型生物、それもドラゴンの存在を確認した今現在、力堂の頭の中はそれで一杯で、とても冴内の件について考える余地などなかったのである。
今目の前で起きている事態は、力堂チームだけでなんとかなる範囲を超えているので、力堂は素早く柔軟に思考し、今、ここにいるわずかなメンバーで取るべき最善策の最適解を導き出した。
それは先行させた情報伝達メンバーと連絡可能な中間位置に追加でさらにメンバーを配置して、最前線からゲート村までのバケツリレー式の簡易通信回線を確保することだった。
(イメージとしては以下の状態)
力堂⇔今から送り出す中継役⇔先行させた情報伝達メンバー⇔ゲート村本部
そしてこれから送りだすメンバーには、富士山麓ゲート機関に対してさらに増援要請を行うよう指示し、さらに最も優先すべきこととして中継アンテナの設置を依頼することを強く指示した。タイムラグなしにシームレスな通信が可能な情報連携環境の構築こそ今自分がとるべき最も重要なことと判断したのだ。
これでチームの半数が最前線から離れたことになるので、残った人数で山に登るなどという無謀なことは考えず、ベースキャンプにとどまって撮影したドラゴンの解析分析を進め、回収したドローンを再充電し、いつでも飛ばせるようにし、状況変化を常に監視し続けられるようじっくり腰を落ち着かせることに考えを切り替えた。
この辺りの冷静な切り替えの早さ、そしてそれをしっかり実行できることこそが生き残り続けることが出来る一流のシーカーである。
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